プロジェクト・クローネのプロデューサー   作:変なおっさん

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第31話

北条加蓮の新しいレッスン内容は翌日には考えられ実行された。

 

「どうだ、やってみた感想は?」

 

マスタートレーナーに言われ、新しく考えられたダンスなどを試したばかりの加蓮は息を整える。

 

「――頑張ります」

 

できるかどうかではなく。簡単か難しいかでもなく。加蓮は、やる事だけを告げる。

 

「……わかった。但し、こちらに決定権があることを忘れるな。後は任せます」

 

マストレは、それだけ言うと武内に任せてレッスン場から出て行く。

 

「元々、北条さんの言われた通り質の高い物を用意していました。今回は、それよりも上の物になります。当然、これ以外にもやらなくてはいけない物もあります」

 

「――わかってる。でも、これでいい」

 

意地を張る加蓮に手を貸し、用意されていたパイプ椅子に座らせる。単純な体力的な物に関しては、今までのレッスンの内容を見れば心配はしていない。ただ段階が上がれば、動きの一つ一つにより意識を集中する必要がある。精神的な疲れが負担となり加蓮の体力をいつも以上に奪っている。

 

「自信、あったんだけどな……」

 

加蓮は、疲れた身体を休めながら渡された飲み物を口に含む。

 

「まだまだ上があるんだね。もっと上が」

 

言葉に、目に、力は残っている。

 

「はい。上は、まだ遠くまであります」

 

「そっか。なら、こんな所にいる訳にはいかないよね、プロデューサー? ちゃんと最後までアタシを上まで連れて行ってね?」

 

「もちろんです。時間もないので、厳しくいきたいと思います」

 

「それでお願い。手を抜いたら許さないからね?」

 

北条加蓮は、上を目指す。今の彼女ならあと僅かな時間でも物にするだろう。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

「ねぇ、ここはどうかな?」

 

レッスンを終え、休憩を兼ねて346プロダクション内にあるカフェに行く事になった。加蓮は、レッスン中に撮っておいた映像を見ながらフライドポテトをつまんでいる。

 

「まだ大きくする必要がありますね。以前に比べて、大きく動けるようにはなりました。北条さんの丁寧な動きも残ったままで。ただ、今回はよりパフォーマンスを意識したものになります。会場の広さを意識した物に。多くの人に見てもらえるように」

 

「今度皆で、会場でリハするんだよね?」

 

「はい。実際に現場で行います。機材などはまだありませんが全体の動きを把握するのに必要ですから。できればそれまでに最低限の動きは欲しいですね」

 

加蓮は、ポテトを手に取り弄ぶ。

 

「……間に合うと思う?」

 

不安がないわけじゃない。実際、初めてではあるが上手く行ったわけではない。

 

「私は、北条さんならできると思います。それともやめたいと思いますか?」

 

「ヤダ! 絶対にやる! だから協力して? プロデューサーとならできると思うから」

 

「なら、前に進むだけです。私は、北条さんが前を向いて進む限りその道を進むお手伝いをします。それが私の役割ですから」

 

「頼りにしてるよ、プロデューサー。ここまでアタシを歩かせたんだから、最後まで責任とってもらわないとね。これ、お礼にあげる!」

 

加蓮は、手に持っていたポテトを武内に差し出す。

 

「あーん」

 

「……頂いておきます」

 

武内は、ポテトを手に取ると飲んでいたコーヒーの載る皿の上に置く。

 

「もう、女の子に対して失礼だよ? そこは、ちゃんと食べないと」

 

「……すみません」

 

加蓮は、楽しそうにもう一度同じことをする。結果は言うまでもないだろう。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

レッスンで撮った物を加蓮に渡し家まで送る。本人は、まだ居ようとしたが無理をしそうなので家に帰した。今日は、イメージトレーニングだけで後は休んでもらう。

 

(どうしますか……)

 

オフィスに戻り、加蓮のスケジュールなどを確認する。できる限り疲労を残さずに本番に臨めるように。

 

「どうなのかしら加蓮は?」

 

「私も気になるかな?」

 

オフィスには、プロジェクト・クローネのアイドル達が居る。その中でも速水奏と渋谷凛は加蓮の事を気にしているようだ。

 

「本番までには間に合わせます。場合によっては、今までの物を行う事も考えてはいますが、本人の意思は固いです」

 

「だろうね。加蓮は、最後まで諦めないと思うよ」

 

「そうね。私は話だけしか聞かないけど、必死な感じは伝わってくるわ」

 

「ちゃんと見てあげてね? 無理させて何かあったら許さないから」

 

凛に念を押される。

 

「わかっています。必ずステージに立たせて見せます。北条さんが望む状態で必ず」

 

「なら、いいけど。それと、こっちも忘れないでよね?」

 

「私も今はダメだけど、終わったらお願いね? これでも期待して待っているのよ?」

 

奏に関しては、ライブが終われば正式に担当になる。詳しくはその時に改めて行う事になるので今は他を見る。ライブに参加する他のアイドル達は、今までと内容が特別変わる事はない。このまま最後までできる事をしていくだけだ。今は、できれば加蓮の事に時間を割きたいのが本音だ。ただ、他にもやっておく事がある。

 

「速水さんは、ライブが終わりましたら改めて話しましょう。他の方に関しては、今まで通り何かありましたらお願いします」

 

今までもそうだが相談はされている。だから問題はないと思う。

 

「はいはーい! シューコちゃん、おなか空いたーん。なにか食べさせてー」

 

塩見周子が手を上げる。

 

「そういえば、少し空いたかな? 私もなにか食べたいかも」

 

神谷奈緒も周子に続く。

 

「ありすちゃんは、大丈夫ですか?」

 

「わ、私は大丈夫です! 文香さんこそ大丈夫ですか?」

 

「そうですね。私は、大丈夫です」

 

こっちでは、鷺沢文香と橘ありすがお互いに確認している。

 

「申し訳ありません。今日は、用事がありますので。それと、アナスタシアさん」

 

「私ですか?」

 

突然名前を呼ばれ、アナスタシアはきょとんとした表情になる。

 

「何時でもかまいませんので少しだけ話をさせて下さい」

 

「わかりました」

 

「もし邪魔なら出てくけど?」

 

「いえ、急ぎではありませんので」

 

凛からの申し出は断っておく。内容は、ライブ後の事だ。他のアイドルにも話す事にはなるが、アナスタシアは一人で既にやっている為話がしやすい。それだけの理由なので急ぎはしない。むしろ、アナスタシアの都合の良い時の方がいいだろう。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

アイドル達は、下のカフェに食事に行った。その後に、アナスタシアだけがオフィスに顔を出す。

 

「話の内容は、簡単な物です。今度のライブの結果次第ではありますが、アナスタシアさんに新曲が提供されるかもしれません」

 

「新曲ですか? 本当なら、Я счастлив。とても嬉しいです」

 

「正確には他の方々にもある話です。もちろん、結果次第ではありますが。ただ、アナスタシアさんの場合は選ぶ必要があります」

 

「選ぶ、ですか?」

 

「新田さんとラブライカで曲を出すかです。ラブライカの方でもそろそろ新曲をと考えていました。それで、相談なのですがどうされますか? ソロで出すか? ラブライカで出すか?」

 

アナスタシアは、少し考えるが答えはすぐに出る。

 

「美波と、Хотите Sing。一緒に歌いたいです。共に同じ場所で」

 

両手を胸にあて、目を閉じる。そこには、新田美波とのステージの光景が浮かんでいる事だろう。

 

「では、そのように動きます。ただ、この話は結果次第になりますので秘密にしておいてください。新田さんはもちろんですが、プロジェクト・クローネの方達にも。本当ならアナスタシアさんにも言いたくはありませんでした。プレッシャーになりますから。ただ、新田さんとやる場合は調整が必要ですので事前にやっておく必要があります。そのため、こうしてお話の方をさせて頂きました」

 

「Спасибо。ありがとうございます、プロデューサー。私、頑張ります!」

 

アナスタシアに関しては、このまま問題なく結果を残してくれると信じている。彼女は、既に大きな冒険を経験している人間だ。

 

「頑張ってください。アナスタシアさん」

 

美波とのライブを考えているのかアナスタシアの表情はとても華やかで綺麗だ。この後、美波に隠し事がバレたのは予想外ではあったが。

 


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