ヴィランスレイヤー   作:ジャギィ

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◆◆◆◆前回の あらすじな◆◆◆◆

雄英のヒーローに捕獲されたフジキドことヴィランスレイヤーは、八木俊典との話し合いの際に己以外のニンジャ存在に気づく!ナラクが全抹殺を試みるニンジャという存在とは一体!?そしてヴィランスレイヤーはヴィランへの復讐のために息を潜め、脱出の機会を図る


エスケイプ・フロム・ザ・フェスティバル#2

快晴という言葉以上に晴れ上がった空の下で、熱狂的アトモスフィアが爆発したかの如きドームが存在していた。雄英高校が領地内である。これから行われるのは雄英生同士が“個性”を駆使して勝ち上がる、現代のオリンピックに変わる祭り、“雄英体育祭”であった!!

 

今ドームの中心に多くの雄英の生徒たちが、一般的ハイスクールのタイイクの時間に着込むような上下ジャージを身に包んで入場してきた。もちろん1番注目を浴びているのはUSJ(ウソの災害や事故の意)の授業でヴィラン連合の襲撃を受けながらも無事に戦い抜いたヒーロー科のA組であった。他のクラスや学科は金魚のフンめいた説明である

 

やがてミッドナイトが壇上に上がると、宙で鞭を鳴らす!裸めいた彼女のバストは豊満である。「選手宣誓!!」ミッドナイトの姿を確認し、観戦に来たヒーローたちが反応する。『おお!今年の1年主審は18禁ヒーロー「ミッドナイト」か!』『校長は?』『校長は例年3年ステージだよ』

 

「18禁なのに高校にいてもいいものか」「いい」カラスめいた頭の常闇が古めかしい言葉遣いで指摘する。実際彼の頭部は誰が見てもあからさまに鳥であるが、超常社会においてこの程度の非人間的メタモルはチャメシ・インシデントなのだ。ちなみに疑問に対してイエスと答えたのは、周囲とは半分近くの身長である峰田(卑猥は一切考えてない)であった。「静かにしなさい!選手代表!!」ピシャン!と再び鞭がしなる

 

前に出て、壇上に上がった人間を見て声が上がる。「爆破頭」「クソを下水で煮詰めたような」「実際不良めいた」、気怠げなアトモスフィアで爆豪は壇上に上がり、ズボンポッケに手を突っ込んでマイク前で言い放つ。「せんせー」

 

「俺が一位になる」「やると思った!!」BOOOO!!ナムサン!爆豪のおかげで生徒たちはブーイングの嵐だ!中には飯田も交ざって怒りを表す。「調子のんなよA組オラァ!」「何故、品位を貶めるようなことをするんだ!!」「ヘドロヤロー!」だが爆豪は気にした様子もなく、「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」見下し視線で首切りサイン!彼は本当にヒーロー志望なのか!?

 

しかしこの中で唯一彼の心情を察している者がいた。幼馴染の緑谷であった。(((かっちゃんは相手を見下す時、だいたい笑っている)))壇上から降りた爆豪の顔つきは優越感による笑みではなく、猟銃を手に殺人ライオンに挑むが如き真剣さ

 

緑谷は確信した。自身を追い詰めているのだと、何があっても宣言通り一位をもぎ取る気なのだと…。そこに奥ゆかしさは一切ない。だが侮蔑されても構わないわけでは決してなく、今日という日に己の全てをぶつける、何が来ても上から捩じ伏せるという彼らしい覚悟であった

 

すれ違った爆豪と肩がぶつかり、だが緑谷は思った。(((A組(僕ら)を巻き込んでるのがかっちゃんぽいけど……)))A組全体に向けられる敵意をひしひしと感じながら、緑谷は思った

 

 

 

 

 

 

 

セメントスの“個性”により改築された校舎内の檻で、フジキドはチャドー呼吸と同時に遠くのオールマイトのソウル感知を行なっていた。(((またソウルが微弱ながら変わった……これで3度)))

 

雄英のプロヒーローたちに捕獲され1週間、フジキドはチャドー呼吸と睡眠のみを行うことにより十分過ぎる休息を得た。いかにヴィランを知り尽くしているヒーローといえど、ヴィランスレイヤーがニンジャゆえに常にカラテと情報のイクサをしていることはUNIXをLAN直結していようと予測不可であったのだ

 

フジキド、もといヴィランスレイヤーの目的は脱出。そのための1番の障害はオールマイトと言えるだろう。だからこそ最後にサプライズでオールマイトが“個性”を使い続けながら衆目に晒される、雄英体育祭までに己の英気を養うことに集中したのであった!ニンジャ聴力をもってすれば、情報収集など容易いのだ

 

脱出ルートを模索しながらフジキドは思案する。(((この部屋には監視カメラが一台、おそらく何かしらの異常、身じろぎ1つですぐにプロヒーローが駆けつけるはず。交戦を避ける必要がある以上僅かなタイムロスが命取り!)))「スゥーッ、ハァーッ…スゥーッ、ハァーッ…」フジキドは知っているのだ。ヴィラン連合の襲撃の警戒により、教師陣営のヒーローが全てドームに集まっていることを

 

フジキドに憑依した“ナラク”というニンジャソウルにはニンジャソウルの本質を読み取る特異な能力がある。フジキドの内に秘めるニンジャソウルは5年の歳月の中、ナラクニンジャという存在の復活のために幾度とフジキドを乗っ取り、ヴィラン…ひいてはニンジャを殺そうとした

 

その中には罪のないヒーローやモータルも含まれており、その度にフジキドは自分の心を保つために「ヴィラン殺すべし」とヴィランを殺して来た。己を苦しめてきたナラクの力によって今まで殺すことができたヴィランもいるのだ。今回の脱出にも一役買っている。フジキド・ケンジの心情を鑑みれば、これほど皮肉な話はない

 

その皮肉な能力は周辺にいるヒーローたちのソウルがニュービークラスなのをフジキドは気づいているが、だからと言って決して警戒を怠っているわけではない

 

いかに強力なカラテを有していようと、イクサは変幻自在のオバケである。ミヤモト・マサシのコトワザで「注意は一秒、後遺症は死ぬまで」とあるように、決定づけられた勝利が、“カラテ”と“ジツ(個性)”と“フーリンカザン”で1秒後に全て覆され爆発四散する。ヒーロー、ヴィラン、そしてニンジャが合わさったイクサとは、そういうものなのである

 

ならば、油断せずに出し抜き、雄英から脱する今がチャンス。フジキドは後ろで縛り手にされた掌に集中させ、大気中の成分と自身の鉛めいた血を混ぜ合わせる!ニンジャ特有の武器、スリケンを生成したのだ!スムーズに逃げるためには力づくで鎖を引き千切るよりは良いと考えたからであった

 

スリケンは手首の鎖を容易に切り裂き、拘束が緩んだことでフジキドの体が物理法則に従って落下してゆき、「イヤーッ!」着地の直後に地面を蹴る!そのままショージ戸めいて鉄格子を突き破り、前方の壁に激烈な踏み込みによって肩から背中にかけて叩きつける!

 

ナムアミダブツ!これは暗黒カラテ技が1つ、「ボディチェック」だ!そして牢屋から出たフジキドは、いつの間にか赤黒のニンジャ装束を身に纏っていた。フシギ!

 

出てすぐ目の前には雄英校舎のコンクリート壁。走るスピードを緩めぬように速度を維持し、再度「ボディチェック」で壁を粉砕する!「イヤーッ!」CRAAASH!!さながら木々を踏み砕きジャングルをかけるメキシコ像めいた光景!

 

白い欠片と粉塵を散らしながら外に逃げるためヴィランスレイヤーは走る。目の前には長い道が広がっており、道の端にはオーボン・フェスティバルのように様々な屋台が、生徒たちによって活気良く賑わっていた。そしてその道の先には、トリイ・ゲートめいたサイバネティックな巨大校門が!

 

(((あれか!)))フジキドに迷いはない。人混みでの最短ルートを抜けるべく地を踏み抜く!「Mt(マウント).レディ、参上!!」だが直後、拡声器を使用したかの声がヴィランスレイヤーの耳に届く。そしてその横には、古事記の旅伝承で記されるグリーンジャイアントめいて巨大な2つの手が!

 

校門近くの広場で待機していた「Mt(マウント).レディ」が緊急アラートによりヴィランスレイヤーを捕獲しにきたのだ!「巨大化」の“個性”で彼女の身長は実際13倍近い高さになり、身体能力も飛躍的に上昇。小悪魔めいたツノがついたマスクと煽情的なヒーロースーツを身につけており、そして彼女のヒップは豊満である

 

ヴィランスレイヤーを捕まえる掌が近づく!「キャーッチ!!」「イヤーッ!」これをジャンプにより回避!躱されたことでバランスを崩しかけるニュービーヒーローに対して、ヴィランスレイヤーはオジギをする。「ドーモ。Mt(マウント).レディ=サン、ヴィランスレイヤーです」

 

アイサツから0秒コンマ06後、オジギ姿勢のままバックステップで即座にMt(マウント).レディから距離を取り、「イヤーッ!」反転して逃走を再開する。「あ、コラ!待ちなさーい!」数瞬遅れてMt(マウント).レディもヴィランスレイヤーを追う!

 

「おい、あれ最近デビューしたMt(マウント).レディじゃねえ?」「本当だ。誰か追いかけてる」屋台を見ていたモータルたちがその巨体に気がつく。「誰を追いかけてるんだ?」「赤黒の……ニンジャ?」「ニンジャナンデ?」

 

このやり取りを見ている皆さんは強烈な違和感を感じるだろう。ニンジャ、それも赤黒の殺戮者であるヴィランスレイヤーを見てなお、NRSに誰も陥っていないのである!いや、正確には力無き“無個性”の者たちだけはNRSで失禁、失神、嘔吐と、反応は様々である

 

だが市民が混乱しないのにも訳があった。数多のヴィランたちに向けてきたニンジャソウルと殺気アトモスフィアを、ヴィランスレイヤーが意識的に抑え込んでいたからだ。加えて元々ニンジャという存在が完全に抹消された超常社会において、ニンジャが半神的存在ではない、TVやコミックなどの空想上の存在だと意識的に刷り込まれているのも理由であった

 

そもそもヴィランスレイヤーにとってヒーローたちは復讐対象ではない。ヒーローをあしらうために大幅に手加減すれば、殺気も自然と収まるものなのだ。「つーか早いな。あのニンジャ」「Mt(マウント).レディってメチャクチャデケーのに、実際同じくらいの早さだぞ」「あぁ、もう俺たちの目の前まで………」

 

そこで市民たちは気づく!「「「って、こっちに来たあああーッ!!!」」」己が現状に気づいた市民と生徒たちはパニックに陥る!ナムサン!生徒たちは屋台を捨てて、市民たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出す!

 

屋台地帯まで逃げ込んだヴィランスレイヤーに痺れを切らして、Mt(マウント).レディは飛びかかる!「そーれ!!」「イヤーッ!」寄せ来る巨体を横ローリングで決断的に回避!ヴィランスレイヤーがいなくなった先にある2つの屋台を粉砕!「安い」「イカ焼きとタコ焼き」「実際安い」の赤ノボリが宙を舞う。「アイエエエ!俺たちの店が!?」被害損額は10万円である!

 

着地したヴィランスレイヤーは走り続けるが、起き上がったMt(マウント).レディが再度飛びかかる!「そーら!!」「イヤーッ!」寄せ来る巨体を横ローリングで決断的に回避!ヴィランスレイヤーがいなくなった先にある2つの屋台を粉砕!「カラーひよこ」「カワイイ!」「とっても」の虹ノボリと虹ひよこが宙を舞う。「いやあああーッ!私のひよこたちーッ!?」被害損額は15万円である!

 

着地したヴィランスレイヤーは走り続けるが、起き上がったMt(マウント).レディが再度飛びかかる!「おーりゃあ!!」「イヤーッ!」寄せ来る巨体をバック転で決断的に回避!ヴィランスレイヤーがいなくなった先にある3つの屋台を粉砕!「当たりやすい射的」「ゲームが景品」「実際当たりやすい」の欺瞞ノボリが宙を舞う。「アバーッ!?僕のコレクションーッ!?」被害損額は30万円である!

 

着地したヴィランスレイヤーは走り続けるが、起き上がったMt(マウント).レディが文句を言い放つ。「いい加減捕まんなさいよアンタ!ちょこまか動き回って鬱陶しいわね!!」余裕がなくなり荒くなった口調で見当違いなバトウを言い放つ。ヴィランスレイヤーは一旦止まると、流れる動きで後ろを指差した。「?何よ…アッ」

 

Mt(マウント).レディが気づく。ヴィランスレイヤーを捕まえるがために駆け抜けた道の屋台が、ムザンに破壊され吹き飛ばされていることを。そして周囲から突き刺さる視線に、苦笑いしながら言う。「もしかして、私?」しかし、気づくのが遅すぎた!

 

BOOOO!BOOOO!非難混じりのブーイングが周囲から飛び交う!彼女はあのヴィランが悪いのだと答えたかったが、自分の“個性”を顧みず周囲を見なかった結果、せっかくの祭りを台無しにしたのが自分なのだと思うと、ヴィランのせいにするのは違うと彼女は思いとどまった

 

必死に謝っている彼女の姿を見て、ヴィランスレイヤーは改めて校門に向かって走る。あまり時間をかければ他のヒーローがやってくる恐れがある以上、彼が足を止める理由など僅かにもないのだ

 

門を通り越すまであとタタミ6枚分となった…その時!注意勧告のアラームが響き渡ると同時にトリイめいた門の下から壁がせり上がってくるではないか!これは雄英高校へのマスコミやヴィランの侵入を防ぐために取り付けられた機能、その名も「雄英バリアー」!…あからさまにナンセンスなネーミングである!

 

「ヌゥーッ!」ヴィランスレイヤーは呻く。いかにニンジャ身体能力があれど、これほどに厚く硬い壁であれば、ヴィランスレイヤーでも破壊に20秒の時間を要する必要がある。ナラクならば一撃で破壊できる…という考えをフジキドは一蹴する。(((バカなことを考えるな)))このような場所でナラクが表に出れば、自分は取り返しのつかないことをしてしまうだろうという感覚が、フジキドのニューロンを駆け巡ったのだ

 

雄英バリアーの破壊には時間がかかる。(((ならば!)))「イヤーッ!」ヴィランスレイヤーが出した答えは雄英バリアーの上を飛び越えることであった!空からの侵入は雄英陣の教師に即座に見つかるため得策とはとても言えない策であった。しかしこれは侵入ではなく脱出!咄嗟の判断はこの状況で最善の一手であった……だが!

 

「何!」門の中腹辺りでヴィランスレイヤーに迫る包帯めいた灰色の布!「ヌゥーッ!イヤーッ!」捕縛すべく伸びゆく布を門を蹴り上げることで姿勢制御し、チョップでこれを切り裂く!(((切断したこの粘りある感覚、炭素繊維に銅線を練り込んだものか!)))ALAS!なんたるニンジャ洞察力による武器素材看過か!

 

アンブッシュの凌ぎながら、赤黒の影は腕組み直立不動で着地!「Wasshoi!!」臨戦態勢に入るヴィランスレイヤーの目に映ったのは1週間前に見たミイラめいた男……否。「監視カメラからお前が消えたと聞いて急いできた。元々、お前が脱出を試みるとしたらこのタイミングが1番早く、最善だからな。雄英バリアーが出てからの行動も早く合理的だ」ゴーグルで視線を隠しながら間合いを取り

 

「…もっとも、ヴィランを逃がす気がこっちにはないがな」“抹消ヒーロー”イレイザーヘッドはそう言った




前回の感想で言われたことだが、ニンジャが出てもあなたの好きなニンジャスレイヤーのキャラクターが出てくるとは限りません。読者は絶賛ニンジャスレイヤーを勉強中であり、雰囲気が大好きだから勢い重点で書き進めていく予定です

ユメミル・ジツ(注釈:妄想のことです)で思い浮かべたキャラクターが動くだけでも実際満足です。でも他の人にも妄想してもらいたいから書く。ようはこれからもお楽しみください

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