ヴィランスレイヤー   作:ジャギィ

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◆◆◆◆前回の あらすじな◆◆◆◆

ヴィランを殺すべく雄英高校に侵入したヴィランスレイヤーは、改人“脳無”をカラテで殺し、図らずともヒーローの卵たちの危機を救った。しかし教員のプロヒーローに囲まれ、抵抗するもフーリンカザンの不利によって捕縛されてしまった。どうなるヴィランスレイヤー!?


エスケイプ・フロム・ザ・フェスティバル#1

「スゥーッ、ハァーッ…スゥーッ、ハァーッ」闇の中で、チャドーの呼吸音が広がり渡る。水面に水滴が落ちたような響きを持って、暗く狭い、鉄格子の嵌った部屋…正しくは牢屋に音が響く。呼吸主であるヴィランスレイヤーが回復を図るためにチャドー呼吸を行なっているのである。脳無との戦いで大きく負傷した肉体が、空気を吐き、取り込むごとに少しずつ治癒されてゆく

 

今のフジキドは両手両足を拘束され、血のようなニンジャ装束、スリケン、フックロープなどが取り上げられ、地に足がつかぬようヨーヨーめいて宙を彷徨っていた。ニンジャにとってゴム布の拘束などワ・シで手足を巻かれたのと同程度の認識である。当然ヴィランスレイヤーもその例に当てはまった。(((だがダメージと疲労がある。今は動く時ではない)))チャドーをしながら状況を把握する

 

カツン、カツン。構造上前しか確認できない牢屋に足音が入り込む。さらにヴィランスレイヤーのニンジャとしてのニンジャ感覚が2人分の音と感知し、チャドーを一旦止めた。「やあ、藤木戸少年」目の前に現れたのは2人の男だ

 

ドクロめいて痩せこけた男が骨と皮ばかりの手を上げてこちらに語りかけ、斜め後ろについてきた長めな黒髪の男もミイラめいたように顔面全体や身体に包帯を巻いていた。彼らの名誉のために言っておくが、彼らは決してゾンビーではない

 

「ドーモ。オールマイト=サン、イレイザーヘッド=サン。ヴィランスレイヤーです」軽くエシャクしながら、ヴィランスレイヤーは揺れる。だが今彼はなんと言ったのか?彼の前にあの筋骨隆々のNo. 1ヒーローはいないはず。「ああ、どうも。後ろの彼については既に知っていたのか。流石ヴィランスレイヤー…と呼ばれるだけのところなのかな?」「この子供が、ヴィラン殺しの死神……」イレイザーヘッドこと相澤消太は意外そうに呟く。実際、フジキドの年齢は今年雄英に入学してきた生徒たちと同世代なのである。ハイスクールを卒業したかのような成長的肉体であるが、ニンジャとなって以降の年を含めても未だ15の少年であるのだ

 

痩せドクロの男が訂正を求める。「それと藤木戸少年。今の私は八木俊典だ、そっちの名前(ヒーロー名)で呼ぶのはやめてくれないか?」「…ドーモ、八木俊典=サン」皆さんはこの訂正がなくとも既に理解しているであろうが、この実際ガリガリに痩せこけた八木という男こそかの“オールマイト”なのである!ヒーロー活動中の姿と似ている点は髪色しか見当たらない

 

「藤木戸少年…いやヴィランスレイヤー。君にある話をしに来たがその前に聞いておきたいことがある」「なんだ」八木は意を決して3度目となる問答を問いかける。「復讐をやめて、ヒーローになってくれないか?」

 

それはオールマイト(No. 1ヒーロー)としても、八木俊典(1人の人間)としてもの本音であった。彼の目に映るのは復讐に燃えたヴィランスレイヤーの憎悪の瞳。憎しみがドロドロに溶けたコールタールめいて身体に絡みつく錯覚を覚える。(((家族を、奪われたのだな)))

 

彼がもし本当に、5年前のあの事件の被害者である藤木戸健二であるのならば…。(((私も未熟なままと言うことか。あの時奴に気を取られていたばかりに、彼を救けてやれなかった)))だからフジキド少年は救いを捨てたのだ。ヴィランになってまで仇を取ろうとした。優しいゆえに、家族と日常を奪ったヴィランを憎み、殺す。「まだやり直せる」

 

だからこそ、今度こそ救いたいのだと八木俊典は言葉を吐いた。殺して来たのがヴィランとはいえ、殺人は重罪。しかも彼は稀代の殺人鬼と言える立場だ。しかしその狂人が如き殺戮は、オールマイトと同じようにヴィランの抑制として大きく作用していたのだ!モータルは誰も知らぬ事実だが平和の象徴(オールマイト)赤黒の殺戮者(ヴィランスレイヤー)の2人こそが、正しく現代の平和の柱とも言える存在である。なんたる皮肉!

 

もしフジキドがヴィランスレイヤーでなくなればどれほどのヴィランが暴れることになるか、そして蝋燭めいて消えゆくオールマイトの“個性”も考えれば、おお、ナムアミダブツ!早かれ遅かれ待つのはヴィラン蔓延るマッポーの世の一側面である!!

 

八木は、そして控えて待つ相澤はヴィランスレイヤーの返答を待ち……、「断る」一言で切って捨てた。前回、前々回と同じように

 

「どうしても…か?」八木はモンドーを繰り返す。しかしこれは決して彼の諦めが悪さが故の繰り返しではない。彼は薄々とだが分かっていたのだ。藤木戸健二が復讐を止めるはずがないと。「今の私はニンジャだ。後戻りなどせぬ」「ニンジャ…君は事あるごとにニンジャだと忠告してきた。藤木戸少年の言うニンジャとは一体何なんだい」投げかけられた質問に、己を侮蔑するようにフジキドは答える。「他者を殺して省みず、自らを絶対強者として疑わぬ邪悪存在、それがニンジャだ。本来ならば私はニンジャを殺すニンジャとなるはずだった」

 

フジキドのニューロンにチラつく、兄の血が流れ、家族が焼けてゆく光景が、フジキドの冷酷さを鋭利にさせる。「しかし私は、ニンジャなどどうでもよかった。兄を撃ち殺し、親を焼き、全てを奪ったヴィラン…!あの夜、マルノウチ・スゴイタカイビルを焼いたヴィランを私は許しはせぬ!」「やはり、『マルノウチ崩壊』の被害者だったのか」「そうだ」ヴィランスレイヤーは肯定する

 

『マルノウチ崩壊』とは5年前のクリスマスの夜、マルノウチ・スゴイタカイビルで突如の爆発とともに行われた破壊により多くの犠牲者を出した謎の未解決事件である。報道ではヴィランによるテロ活動と囁かれたが、犯人の痕跡は見つからず、行方は知れてない。現在復興されたマルノウチ・スゴイタカイビルの屋上にはフジキド自身と家族、そして多くの犠牲者の名が刻まれた慰霊碑が置かれている

 

「だからこそ私は全てのヴィランを殺すべく存在するのだ…ヴィランスレイヤーとして」八木の目に火が灯る。決意の火だ。「……君は未来がある若者だ。5年前に君を、あの事件の犠牲になった人たちを誰1人救えなかったからこそ、もう簡単に諦めるわけにはならない」フジキドが、八木を見つめる。「これ以上君の未来を血に染めさせないためにも」

 

オブツダンを前にしたボンズ・メンツが如き不気味な静けさの中、ヴィランスレイヤーはこれ以上答えはしなかった

 

静寂をショウジ戸を貫くように破ったのは八木についてきた相澤であった。「お前が藤木戸健二だと主張するならばどうやって証明する」「何?」「もし本当に藤木戸健二だとするなら、お前はすでにここから逃げられるからだ」その理由はフジキド()()()“個性”が関係していた

 

「藤木戸健二…3月22日生まれ、藤木戸家の次男であり5つ上の兄がいた。家庭状況は至って普通、2歳の時に“個性”登録が提出されており……“個性”の名前は「解錠」。南京錠だろうと高性能金庫だろうと“鍵”がついていればそれを開けることができる“個性”……」

 

相澤の冷たい眼光がフジキドを貫く。確かにその“解錠”があれば、ヴィランスレイヤーを拘束するチェーンを解除することができるからである。「…………」「なぜ“個性”を使わない……そもそもその“個性”を持っているのか?」「…………」終始無言を押し通すフジキドに変わって口を開いたのは八木だ。「相澤くん。彼の“個性”はかなりの変質を遂げている」

 

「変質?」「詳しいことは私も、おそらく藤木戸少年も分かっていない。……分かることはそれ(“個性”)を使えば彼が凶悪なヴィランと化すことくらいだ」邪悪とは言い得て妙だ、と内心こぼす。「…“個性”の暴走か」「そんなところかな」実際はかなり違うが、現状詳しく説明できない以上、黙り通すしかない

 

「彼の血液は検査の途中だ。藤木戸少年であるかどうかはDNAで分かることさ」ヴィランスレイヤーの危険性を理解しているからこそ正体を早く知る必要が教師である相澤にはあった。重金属酸性雨の海の底で流されるワカメめいて、八木の前髪が揺れる。「さて……話といこうか。君は自分をニンジャと言ったが」

 

「確かだ」「これを聞いてほしい」懐から取り出したのは黒いボイスレコーダー、最大音量で流し始めた。ガガガ、ガッ、ピガッー!不快なノイズが響く。「これはとある大企業で唯一残っていた最重要証拠品だ。その企業は表向きはただの薬品会社だが、裏でかなりのヴィランと取引していたことが明らかになっている…聞いてくれ」

 

ガ!ピガッー、ガガガガガッ!……そうして聞こえてきたのは喧騒であった……『ーーーソォ!早く警備で雇ったヒーローを要請しろ!この際クローンヤクザでもいい!』『今実際急いでます!』『おい、下が静かになったが、やったのか?』『つ、繋がりました!』『早く!倒したかもしれんが急げ!早く!』CRAAASH!!ガラスが砕ける音!『アイエッ!?』警備兵が繋げた通信機から聞こえたのは、『…アー、ガガッ、アー……ハッキング成功?ドーモ。有象無象の虫ケラたち』そして、『ドーモ』

 

ナムアミダブツ!レコーダーから流れてきたのは2人分のアイサツ!ヴィランスレイヤーが行う、ニンジャの礼節!『ア、アイエエエエエ!?』『ニンジャ!?ニンジャナンデ!?』『アイエエエ!?』NRSの悲鳴が上がる!当然この後に上がるのは殺戮の悲鳴!

 

『イヤーッ!』BLAM!!『『『アババババーッ!?』』』狙撃銃めいた重厚な銃撃音の後に蜂の巣兵たちの悲鳴!一体何があったの言うのか!?ウィーン。『『『ザッケンナコラー!!』』』扉の開閉音と共に働き蜂めいた統率力でヤクザスラングを発する謎の男たち!一体何者なのか!?

 

『イヤーッ!』BLAM!BLAM!BLAM!『『『グワーッ!!』』』拳銃めいた軽快な3連発泡音の後に謎の男たちの統率悲鳴!ナムサン!おそらくニンジャの周囲は血の海だ!『オイ、ヘ、ガガガガガーッ!ト=サン…ノイズが酷えぜ。その辺のサイバー通、ガガ!機を片っ端から潰せ、ピガッ!ックしたのは潰すなよ?』『……了解』

 

ガッーーーザザザ、ザッザーッ……。篭った了承のサインを最後にレコーダーからは砂嵐めいた電子音だけが鳴る。スイッチを切る八木。「…資料だけで見たが、凄惨な現場だった。この日企業のビルにいた人間は例外なく皆殺しにされ、ビルは破壊……表向きには事故死だがね」なんたることか。情報規制で隠された真実はあまりに凄惨で、フジキドにとって衝撃的であった!

 

「警察の皆は揃って頭を抱えていたよ。ヴィランとして捜査をしているものの手がかりが0……さらに追い討ちをかけるようにヴィラン連合による雄英への襲撃。そして藤木戸少年…ニンジャを自称する君が現れた。実際1つ2つは共通点もある」

 

それはニンジャのイクサにとって絶対のルール、イクサ前のアイサツとニンジャシャウトであった。脳無をも殴り殺すヴィランスレイヤーの拳も、シャウトを伴わなければ、攻撃力を著しく軽減させるのだ。「この事件の犯人に関して、詳しいことを知っていたら教えて欲しい。…だけどこれは尋問で君は子供だ、黙秘権はある」優しみ溢れた声音で八木はそう言う

 

フジキドは無言の後、数瞬だけニューロンの海に身を任せた。泥のように粘り着く感覚がへばりつき、ナラクが邪悪に笑いながら語りかけてくる。『グググッ。フジキドよ、この無駄な会話など続ける価値無し、ワシに体を預ければここから出してやる。仇もとってやるぞ』(((オヌシの力は借りぬ!引っ込んでいろ!)))フジキドの精神は摩耗し切っていたが、一晩かけたチャドー呼吸によりかろうじて意識は保っていた

 

フジキドは再度先ほどのレコーダーの音声を脳内リピートし………結論が出たフジキドは、小さくかぶりを振った。「そうか…」言えないのか、覚えがないのか、どちらにせよ自分が望んだ答えではなかったことに落胆を隠せなかった

 

「今は一時的にここ(雄英)に拘置しておくことになっている。行き先が決まり次第、君をここから出そう」離れていく八木は最後に伝える。「……君は優しい。だからこそ、その優しさを今を生きてる人たちにも向けてくれ」

 

ヴィランスレイヤーが捕まった噂がヴィランの間に流れれば、今まで以上に市民を蹂躙することだろう。だがこれまでずっと平和の柱を彼は、意図せずだろうとなんだろうと半分支えてくれたのだ!子供たちも頑張っているのに私が頑張らなくてどうする!?(((なんたって私は、オールマイト(平和の象徴)なのだからな!!)))

 

八木俊典は笑みを浮かべ、回復行為を再開するヴィランスレイヤーを後にした

 

 

 

 

 

 

 

ガガーガピッ!ピガガッーーッ!!暗黒街の裏路地で、狙撃銃を背負ったニンジャがスマホに手を伸ばす。「……ドーモ……」『ドーモ。仕事は手筈通り済んだか?』「ハイ、滞りなく」事務的にそう返すニンジャの足元には全身に穴を開けたネギトロ死体が横たわっているのだ!コワイ!

 

『ムッハハハ!!いつもながら手際が良いな』「アリガトウゴザイマス、ボス」『さて次のミッションだ。今から指定した場所に向かい、そこにいるであろうニンジャをスカウトしてくるのだ。“先生”がリークした情報だから間違いはない、分かったな?』“ボス”と呼ばれた男の声に恐怖が宿る!その声を聞いただけでモータルは例外なく意識不明の昏倒状態に陥るであろう!!「ハイ、ヨコロンデー」

 

軽甲冑ニンジャの返事に愉快そうに笑う。『ムハハハハハ!すぐにガイドがそちらに向かう。ワシはビジネスに向かうとしよう!ムッハハハハハ!』通話が切れると、通路の奥で煙めいたもやが広がり、そのもやに包まれたスーツ姿の男がオジギする

 

「どうも、私の名前は黒霧。“先生”からあなたの仕事を手伝うよう仰られ、現れた次第です」「…ドーモ」アイサツは大事だ。「死柄木を待たせるわけにもいきません、行きましょう」黒霧と軽甲冑ニンジャにもやが纏い、黒いもやが消えた時にはヴィランとニンジャの姿はどこにもいなかった




タイトルの意は「祭りからの脱出」

……ちゃうねん、どうしても雄英に隔離し続ける正当な理由が思いつかんかってん。原作者=サン並みのニンジャ狂気を有していれば思いついたかもしれませんが私はしがないスゴイ級ハッカーで、狂気度は実際安定ですのでごあんしんください

でもセンセイのインストラクションは忘れていません!イベント突っ込むべし、慈悲はない

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