ヴィランスレイヤー   作:ジャギィ

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イクサ・イン・ザ・ミニチュアガーデン・オブ・ヒーロー#2

ドーム上空のぽっかり開けられた穴から太陽の日差しが照りつけ、青空を浮かばせる。このUSJの本日この時間帯には、本来ならば厳しい救助訓練が緑谷たちを待ち受けているはずだった。その訓練で失敗し、傷を負い、でも自分のすべきことを全力でこなして、笑って人を救けられる最高のヒーローの一歩を今日も進めるはずだったのだ

 

しかしヒーロー科と教員たちに待ち受けていたのは、悪意の権化であるヴィランの連合。彼らの思惑を崩し、切り札である脳無もオールマイトが倒した……そして2体目の“脳無”、突如乱入し現れた地獄のニンジャ“ヴィランスレイヤー”

 

USJ入り口前の広場で、日陰に追いやられたヴィランと日陰に敢えて進んだヴィランの血に濡れた死闘が始まった

 

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」迫る脳無との距離を取りながらヴィランスレイヤーはスリケンを5連続で投げつける!最初のアンブッシュで打撃が効かぬと判断したからだ。ムチのように腕をしならせ投げたスリケンは正確無比に改人の両手足、頭部に飛来する!

 

「ウ…ッオ…」「ヌウ!」だが直撃したスリケンは腕と足を少し斬りつけた程度で肉に呑み込まれてから再生し、頭部に至っては金属音を震わせて弾き返す始末。なんたるバイオ耐久力であろうか!実際ニンジャ耐久力に迫りかねないタフさにヴィランスレイヤーは考え込む

 

悩む姿と捉えた死柄木がヴィランスレイヤーを無謀な愚者と嘲笑する。「バカが。“対オールマイト用”に調整したのと全く同じ脳無だぞ?勝つことはおろか、致命打すら与えられねえよ…」「そういう君たちも、こっちに何もしてこないじゃないか」警戒態勢を取ったまま、オールマイトは死柄木に問う

 

「俺と黒霧だけじゃパンチ1発で終わりだが、ヴィランスレイヤーって奴が脳無に殺られんのも時間の問題だ。3人揃ってから確実に殺せばいい」「そういうことです、ハイ。あなたこそ我々を倒して彼の加勢に入ったほうが良いのでは?」(((痛いところをついてきたなぁ。黒霧とやらのワープがある以上、迂闊に攻めても反撃にあって制限時間を減らすだけ。そうなれば加勢どころの話じゃなくなる)))オールマイトはあくまで攻撃警戒だ

 

今度は脳無の右腕に集中してスリケンを一斉投擲!連なるスリケンはまるで黒い流星の如く宙を滑り、右腕の根元からズタズタに引き裂く。だが脳無は痛みを感じない。それどころか脳無が右腕に力を込めると、今にも千切れ落ちそうだった腕の肉が内側から再生してゆく!

 

なんたるとか!この改人は「ショック吸収」だけではなく「超再生」という“個性”も所持していたのである!素でオールマイト並の怪力とスタミナも持ち合わせたこの化け物に打撃でダメージを与えようなど、モータルが素手でニンジャに挑もうとする蛮行に等しい

 

「なるほど、“対オールマイト”というだけ頑丈ではある。しかしそれだけだ。製作者を恨むことだな、オヌシを木偶の坊に作り上げたことを」死柄木の言葉をイクサしながらも耳に通していたヴィランスレイヤーは脳無をドクゼツによって精神的揺さぶりをかける

 

しかし興味がないといった風に挑発を無視し、風を切り裂くようにパンチを打ち込んでくる!製作の過程で感情が希薄になり消滅した脳無が怒りの気持ちをこみ上げるはずがないヴィランスレイヤーはただその腕に手を添え、最小限の動きで回避する

 

「イヤーッ!」バイオ筋力の加速を利用して横回転で脳無を投げつける!脳無の半分は細いその腕のどこにそれほどのバリキとパワーがあるのか!?「スゴイ!」「あの化け物を投げやがった」緑谷と轟がそれぞれコメントする。傍観者にならざるをえない事実に爆豪は内心憤り、切島は心配そうに見やる

 

低空飛行しながら1体目と同じく空中遊泳を味わうが、背後にうまい具合にあったコンクリート壁を蹴り踏み砕きながら態勢を直す!ワザマエ!巨体からは想像もつかない俊敏さと器用さである!そして壊れたコンクリートの巨大な塊を片手を持ち上げると、それを勢いよく放り投げる!

 

「イヤーッ!」だが岩と同程度の質量を持つ高速飛来物など、ニンジャにとっては石飛礫(いしつぶて)に等しい!前に突き出されたカラテパンチにより中央から入る亀裂と破壊!コンクリート岩はコナゴナに砕けた

 

「藤木戸少年、前だ!」オールマイトの声で気づく。落下する白い破片の隙間から見える光景が、ダブルラリアットで広範囲攻撃を仕掛けてくる敵だということを!「何!?」迫り来る脳無を撃退するため再度カラテを打ち込む中腰姿勢をとる

 

しかし!「グワーッ!」「あれは…手!?しまった!」見ればヴィランスレイヤーの足がモヤから出てきた手に掴まれており、そこがボロボロと崩壊していく!ナムサン!これは死柄木の手だ!「崩壊」の“個性”による援護!

 

ウカツ! 忠告のために目を離した一瞬の隙を突かれ、2人のコンビネーションによる援護を許してしまったのだ!身体に纏わりついた黒霧のモヤに直接手を突っ込む死柄木が言う。「忠告のために俺たちを無視するなんて…ひどいじゃないか平和の象徴(オールマイト)。おかげでアイツはもっとひどい怪我を負うハメになったぞ」

 

事実何も出来ないオールマイトを嘲笑う、そのための援護であった。「ハハハハハ」「クッ!」邪悪度が高くなければ出来ない知能と所業!手を振り払うも赤黒の布は無惨に崩れ、足の筋肉細胞は皮が剥がれ落ちている!常人ならば激痛で泣き叫ぶレベルである!ヴィランスレイヤーは痛みに呻く

 

だが例え四肢がもげていようと脳無が情けをかけることなどありえない。「グワーッ!」ダブルラリアットの左側が炸裂!ヴィランスレイヤーはしめやかに吹き飛ばされ、壁面にめり込み磔となる!「トドメだ」最後の指令に反応し、脳無は再び加速し、ショルダータックルを行う!いかにニンジャといえど、あれほどの質量と速さの乗ったタックルを食らえば決して無事では済まない!ヴィランスレイヤーは動かず、わずかに呼吸音が聞こえるのみ、もはやこれまでか!?

 

……いや、良く耳をすませていただきたい!「……スゥーッ、ハァーッ…スゥーッ、ハァーッ…」おお、この独特の呼吸音!江戸時代に使用を禁じられ、歴史の闇に秘匿された太古の暗殺術、チャドーである!己の呼吸を、地水火風の精霊、そしてエテルの流れとコネクトさせるチャドー呼吸を、ヴィランスレイヤーは行っていたのだ!!精神集中を助け、ニンジャ回復力やカラテの練成を促進させる!「スゥーッ、ハァーッ………スゥーッ!ハァーッ!」呼吸に、活力が漲る!

 

CRAASH!!!「藤木戸少年!」「死んだな」実際地を揺るがしかねない突進はキリストめいた磔刑者の岩に突き刺さった。あれは死なない方がおかしい、そう考えた死柄木は脳無にオールマイト殺害の指令を飛ばす。「よし、次はオールマイトを殺せ」「…………」

 

「………?」だが、いつまで経ってもその黒い巨体は動こうとしない。イラつくように首を掻く。「戻りませんね」「おい、早く来い!」…その場の全員が気づいていないのだ。巨体の小さな震えを。「やられたか」「クソ、結局俺らもやるしかねえのか!」「ブッ殺す!!」轟は“個性”を使い身体の半分から地面を凍てつかせながら、切島は全身を鉄に硬化させながらそう言う。爆豪も掌の上を爆破させながらヴィランめいた発言をする

 

(((どうする!?行動と制限時間からしてオールマイトは当てに出来ない!僕、切島くん、かっちゃんで脳無を足止めして轟くんの氷結で全身を封じるのが現状1番の手だけど博打が過ぎるし妨害もある!火力、機動性の高いかっちゃんを2人にぶつけるか!?でもそれだと脳無の足止めをする僕らも2人同時に相手するかっちゃんも危なくなる!プロのヒーローがくるまで逃げるにしてもモヤのワープが邪魔になる……)))緑谷も動けないであろうオールマイトをどう援護すべきか、どうみんなと合わせた戦いをすべきか、ニューロン思考をUNIXにLIN直結したコンピュータが如くASAPに回転させる

 

だが「スゥーッ!ハァーッ!」「!?」「そんなバカな!」ヴィラン2人が驚愕する!生きてるはずがない、ゴア死体めいた惨状になっているはずの存在が声を発していたのだから!だが見よ!ヴィランスレイヤーは生きている!それも風前の灯火とは違う、憎しみの燃料で燃え上がった黒い炎に!!

 

「ヴィラン…殺すべし……!!」脳無の突っ込んだ右肩を抱きかかえたままハイキックを顎に放つ!「イヤーッ!」「……ッ…」「イヤーッ!」蹴りの衝撃、そして反動によってガッチリとホールドされた脳無の右肩が胴体と別れる!根元から腕が生えてくるものの、脳無の意識は別のところに向いていた

 

滴るバイオ血液を踏みしめながら、凄まじい殺気アトモスフィアを全方位に撒き散らし……赤黒のニンジャは宣告する。「ヴィラン、殺すべしッ!!」「「「ッ!!!」」」ヴィランスレイヤーを除いた、広場すべての生物が戦慄する

 

強者であるオールマイトや死柄木、黒霧ですら、ヴィランスレイヤーに並々ならない恐怖心を抱く。緑谷に至ってはその場で座り込み情けなく声を漏らすばかりだ。「アイェェェ……」そしてその反応は脳無にすら当てはまった

 

「グ、ォ……グウオーッ!!!」今まで聞いたことのないような咆哮をあげヴィランスレイヤーに襲い掛かる!その攻撃には先ほどの無感情さには感じられない…恐怖が含まれていた。感情の不安定な攻撃ほど容易いものはないと言わんばかりにヴィランスレイヤーは振るわれた左腕を横移動で避け、高められたカラテのチョップを腕に振り下ろす!「イヤーッ!」「グォーッ!」

 

「ショック吸収」をはるかに上回る斬撃の衝撃により半ばから腕が切り落ちる!痛みなど感じないはずの脳無が悲痛な声をあげる!「グオオゥ!」右の拳で殴りつけてくるがあまりに稚拙なヤバレカバレの一撃。対抗するように左拳のポン・パンチ!「イヤーッ!」「グォーッ!」カラテ・シャウトと共に放たれた一撃が脳無の拳を砕く!

 

「ありえない…ありえないだろ!脳無がこんな!なんだあいつは!?脳無!!オールマイトを殺せ!!脳無!!!」喉から血を吐き出さんばかりに死柄木が吠えるが、脳無はただひたすら目の前のニンジャに再生した拳を振るわんばかりだ。「まさか、脳無が恐怖をしているとでも…?」黒霧の呟きは実際のところ当たっていた

 

ヴィランスレイヤーが放った殺気はニンジャとしての殺気……つまり非ニンジャである全員は、生命の根源たるソウルの記憶を刺激され恐怖したのだ。どれほどの強者であろうと非ニンジャである以上ニンジャの呪縛から逃れることはできない。そしてその恐怖は、科学によるバイオ改造を施された脳無の沈んだソウルをも呼び起こした!平安時代よりニンジャに虐げられたモータルの根源的恐怖の記憶、どのような手段を用いようと取り除くことは不可能!!

 

ニンジャの蹂躙は続く。「イヤーッ!」「グォーッ!…グオオゥ!」再生した腕の両方を合わせてハンマーめいて振り下ろす!だがヴィランスレイヤーは真っ向から対抗!「イヤーッ!」右!「イヤーッ!」左!「イヤーッ!」右!「イヤーッ!」左!脳無の腕が完全に上部に移動する!「イヤーッ!」「グォーッ!」5回目のパンチが頭部に突き刺さる!

 

「グオオゥ!」頭を仰け反らせながらも掌を広げヴィランスレイヤーを拘束する!「グオオゥ!」そのまま万力の如き力で捕らえたニンジャを締め付ける!モータルならばすぐさまネギトロめいた死体に変える恐ろしい力だ!しかし掌で収まっているヴィランスレイヤーはより恐ろしい!「イヤーッ!」「グォーッ!」残された足で脇腹を蹴る!恐怖を取り戻したことにより痛みを思い出し、ダメージで拘束が緩む。「イヤーッ!」「グォーッ!」隙を突き、パンチが岩を砕く勢いで脳無の頭部に突き刺さる!

 

何度も重い攻撃を頭部に食らい改人は脳震盪を起こす。「イヤーッ!」「グォーッ!」だが情け容赦ないカラテでヴィランスレイヤーは右膝を砕く!「イヤーッ!」「グォーッ!」ぐらついた姿勢により倒れ込んだ脳無に、中腰姿勢のパンチが頭部に突き刺さる!

 

「グオオゥ!」「イヤーッ!」「グォーッ!」これ以上の追撃を防ぐために脳無は腕で防御の構えを取るが、ヴィランスレイヤーの攻撃は筋肉の塊をトーフめいて突き砕き頭部に突き刺さる!

 

「イヤーッ!」「グォーッ!」ヴィランスレイヤーの拳が、脳無の頭部に突き刺さる!

 

「イヤーッ!」「グォーッ!」「イヤーッ!」「グォーッ!」「イヤーッ!」「グォーッ!」「イヤーッ!」「グォーッ!」「イヤーッ!」「グォーッ!」「イヤーッ!」「グォーッ!」「イヤーッ!」「グォーッ!」「イヤーッ!」「グォーッ!」「イヤーッ!」「グォーッ!」「イヤーッ!」「グォーッ!」

 

拳が嵐の如く解き放たれる!ゴウランガ!おお…ゴウランガ!もはやヒーローが恐れる改人は抵抗することもできずサンドバッグとなるのみ!周囲の人間は、ただその信じ難い光景を唖然と見ていた

 

「スゥーッ!ハァーッ!」そして最後のトドメのためのチャドーの一呼吸を行い…ジェット機が如き加速で脳無の頭部を殴り砕く!!「イィィヤァァーーーッ!!!」「グァ、アバーッ!!」明確な断末魔を脳無が叫ぶ!

 

「ショック吸収」の許容量を超えたことにより、硬化加工を施された露出した脳はムザンに抉り潰され、脳漿(のうしょう)とバイオ血液を吹き散らしながら倒れ伏す!長い時間抑え付けられたソウルが体内で暴れ狂い、肉体を巻き込んで爆発四散!「サヨナラ!」2体目の脳無は鮮烈な死を遂げた

 

ヴィランスレイヤーはザンシンをとり、小さく息を吐く。「フゥーッ」そして次の獲物に狙いをつけるハイエナめいて、死柄木と黒霧との距離をゆっくり詰めてゆく。「バカな…!あの脳無が」

 

「“対オールマイト”の脳無をなんで殴り殺せるんだよ……どんな“個性”使ったんだよ、化け物が…!!」2人は完全に実力を見誤っていたヴィランの存在を、悪魔でも見るかのように言う。相対するオールマイトは勝利を喜びつつも、哀しい目でヴィランスレイヤーを見つめている

 

「スゲェ……」切島がポツリと呟く。眼前で繰り広げられた凄惨な殺し合い、敵とはいえ人が死んだことに何も思わなかったわけではない。だが、本能が理解したのだ。これがヴィランスレイヤーの…真の強者の戦いというものなのだと。爆豪と轟は思うところがあるのか、赤黒の殺戮者に強い視線を向ける

 

しかし切島の声掛けで意識をそっちに寄せる。「よし!俺たちの出来ることをやるぞ!俺たちは他の連中を助けに…」すると轟が気づく。緑谷だけ切島の声に反応せず、対立するヒーローとヴィランを見ていることを。「緑谷」その声にも反応しない

 

緑谷は知っているのだ…今のオールマイトが、人知れず危機に陥っていることを。(((僕だけが…知ってるんだ…。危険度で考えればモヤの方だ…オールマイトは恐らく限界を超えてしまっている…!モヤに翻弄されればきっと…)))

 

「クソが…!黒霧!オールマイトだけでも今殺す!目の前にラスボスがいんだ…絶対だ!急げ!」「せめて冷静になってください……ハァ。ハイ、分かりました」なんたる無謀なことか!死柄木はヴィランスレイヤーを無視してオールマイトを仕留めるつもりなのだ!

 

(((マジでか!来るんかい!!!)))しかし「ワン・フォー・オール」によるマッスル・フォームの維持はもはや限界であり、駆けるヴィランスレイヤーの位置もオールマイトとの距離が離れ過ぎているのだ!ナムアミダブツ!もはやこれまでなのか!?(((ったく、ホーリーシットだ!早く…!!!皆…)))

 

風が空を切る。オールマイトを殺すべく接近する黒霧たちに立ち向かったのは、なんと緑谷出久であったのだ!(((僕だけが知ってる秘密(ピンチ)ーーーーーーーーーー!!!)))ヴィランスレイヤーの俊足よりも圧倒的に速い、“個性”を使った脚力で死柄木たちへの距離を詰める!「な…緑谷!!?」既に3人たちの近くから離れている!

 

(((速い…!)))驚いたのは死柄木弔。倒せるかは賭けとはいえ、ヴィランスレイヤーですら間に合わないと確信していた状況で、たった1人の子供が自分たちの前にやってきたのだから!「……!!」緑谷の顔は苦痛を堪える表情だ。「ワン・フォー・オール」を使用した反動で彼の足が折れたのが原因だ!

 

(((折れた!!さっきはうまくいったのに…!!でも!!届いた!!)))空中で拳を構える。狙う対象は黒霧の露出した胴体部分!(((隠してる体部分!!そこを狙えば!!とばせる!!)))「オールマイトから、離れろ」

 

ズルッ。黒いモヤの中から爪の欠けた手が伸びる。黒霧のモヤに突っ込んだことによりワープさせた死柄木の手だ!死柄木に触れられてしまえば、緑谷に待つのは崩壊のみ!アブナイ!

 

「!!!!」しかし触れる直前の死柄木の手に、大きめの銃弾がめり込む!ヴィランスレイヤーにも銃弾は撃ち込まれる!「イヤーッ!」スリケン迎撃!独特の金属音と共に弾と十字鉄塊が地に落ちる

 

「来たか!!」「ごめんよ皆、遅くなったね」オールマイトが向けた視線の先はUSJの入り口。「飯田くん…!」ヒーロー科所属の女子生徒、麗日お茶子(うららか ちゃこ)がその顔に安心を浮かべる。彼女が声をかけた飯田天哉(いいだてんや)は、ヴィランの襲撃を学校側に伝えるために皆が囮になって逃した唯一の生徒であった

 

「すぐ動ける者をかき集めて来た」……そう!つまり、その彼がここに戻ってきたということは!!「1ーA、クラス委員長、飯田天哉!!ただいま戻りました!!!」ヒーロー(救け)が来たということであった!!合計10名のヒーローが彼の後ろで立ち並ぶ!

 

ヴィラン連合の目的は教員であるヒーローたちに気付かれる前にオールマイトを抹殺すること…つまりヴィランたちの計画は、これで完全に崩れ去ったということである!「プロヒーローども…このタイミングでやって来やがった…!!結局オールマイトも殺せずに……!!」「死柄木弔、落ち着くのです。イレギュラーに加えて援軍も来た…潮時というものです」

 

怒りを抑え撤退するよう黒霧は促すが、死柄木は不気味に黙るだけだ。「………ゲームオーバーだ。帰って出直すか、黒霧…」やがて普段の様子に戻ると、ワープで逃げようと黒霧のモヤに包まれようとする「させぬ!」ヴィランを逃す気など毛頭ないヴィランスレイヤーはスリケンを用意しながら死柄木たちへと走り出す!

 

しかし、スリケンがヴィランたちに投げられることはなかった。BLAM!BLAM!BLAM!「ぐっ!!!」「イヤーッ!」ガスマスクのようなものを付けた西部のガンマンめいた出で立ちのヒーロー、スナイプが手に持った巨大経口の銃をヴィランである死柄木、黒霧、そしてヴィランスレイヤーに撃ちつける!

 

死柄木は両腕両足と撃ち抜かれるが、黒霧は“個性”で物理を無効にし、ヴィランスレイヤーはスリケン投擲で対抗する!「この距離で捕獲可能な“個性(やつ)”はーーーーー…」なお撃ちつけられる弾丸。迎撃と回避を繰り返す中、黒霧はモヤを広げ死柄木への攻撃も防ぐと同時に脱出を図ろうとする。しかし、唐突に暗黒のようなモヤが一定方向に吸い込まれ始める!

 

(((!?引っ張られる…!!)))「これは…」「僕だ…!!!」黒霧の“個性”の元を吸い取っていたのは救助を専門とする“スペースヒーロー”、13号の“個性”「ブラックホール」であった!黒霧との戦いで負傷した彼であったが、2人のヴィランを捕獲するため痛みを耐えて“個性”を使用しているのだ。だが彼の健闘も虚しく、黒霧のモヤは徐々に縮小されてゆく

 

小さくなるモヤの中で、上半身だけの死柄木が最後の言葉を吐き捨てる。「今回は失敗だったけど………」“個性”の反動とダメージで血を吐くオールマイト。「今度は殺すぞ。平和の象徴、オールマイト」血走った目で、次の行動を匂わせる殺害予告を残し、モヤの中に消えた。ヴィラン連合の襲撃は、主犯格の逃走で終わりを迎えた

 

しかし、プロヒーローたちは未だ残っているヴィランスレイヤーの存在により気を引き締める。戦う理由はヴィランスレイヤーにはもはやない!だがオジギはする。「ドーモ、初めまして。ヴィランスレイヤーです」

 

「!!」「何だと!」「なるほど…彼が」一緒についてきた人間めいた立ち振る舞いをするネズミが考察する以外の全員が驚愕する。その動揺を突き、ヴィランスレイヤーが懐から取り出した鉤爪付きの縄を取り出して勢いよく回す。ニンジャのイクサにも耐え得る、ドウグ社製フックロープである!

 

「イヤーッ!」オールマイトが戦った脳無が吹き飛んだ際に空いたドームの天井の穴に引っ掛ける!垂れ下がったロープの部分には地面ギリギリでコンクリートが重りとして縛られており、ピンと張られた線を足場に、ニンジャ脚力を駆使して垂直で駆け上がる!「何アレ!?メチャクチャ!」プロヒーローたちも驚く脱出法!「逃がさん!!」スナイプは銃でヴィランスレイヤーの位置より上のロープ…ではなく、岩を吊り下げている下のロープを撃ち抜く!

 

BLAM!「ぐぅっ!!」するとピンと張られたロープはヴィランスレイヤーが駆け上るほどの張力を失い、咄嗟にロープを掴む。「今だ!」BLAM!「何!?」その一瞬を狙われ、今度こそ上部の位置のロープを撃たれる!

 

ブッダが垂れ下げた蜘蛛の糸めいた脱出ロープは断ち切られてしまい、不安定態勢のまま垂直落下。「グワーッ!」冷静な判断力により、ヴィランスレイヤーは精神的ショーギ盤面で一手遅れてしまった!

 

そして落下して間もなく、起き上がろうとするヴィランスレイヤーの肉体を紙粘土めいて自在に動く地面のコンクリートによって地に這わせるように四肢と胴体を拘束する!「ヌゥーッ!」セメントスの「セメント」による拘束である!「スゥーッ!ハァーッ!」

 

後手に回り続けている状況を打開するため、チャドーの呼吸を始める!ヴィランスレイヤーの高まったカラテならば、ノーモーションでコンクリートを砕くなど容易なのである!だが、既にヴィランスレイヤーには王手がかかっていた!「スゥーッ…グ!これは……」数回のチャドー呼吸を行って気づく。己の周りに奇妙な色の粉が舞っていることを

 

「少し眠っててもらうわよ」王手をかけたのはミッドナイトというヒーロー名の女性で、“18禁ヒーロー”などという実際青少年のなんかが危ないヒーローであった。彼女の「眠り香」の“個性”によって周囲には睡眠成分の含まれた匂いで充満している!

 

いかにチャドーの呼吸によって解毒作用を促進出来ようと、その呼吸で眠り香を吸い込んでは意味がない!「ウ…カ…ツ…………」強い睡眠作用に逆らうことができず、ヴィランスレイヤーはそのまま眠りに落ちた

 

ミッドナイトは未だ拘束されているヴィランスレイヤーに近づき、様子を伺う。彼女の耳には非常に健康的な寝息が聞こえてくる。深い眠りについていることが分かると、ミッドナイトはオールマイトの痩せこけた姿…トゥルーフォーム状態を隠しているセメントスに拘束を解くように言った

 

「大丈夫よーセメントス!!完っ壁に寝てるわ!だからーー」「待った待った!“個性”を解くのはまだ待ってくれ!」拘束を解こうとするセメントスを制止したのは意外にもオールマイトだった

 

「ミッドナイト、念のためもう1回確認してくれ。藤木戸少年、じゃなくて…ヴィランスレイヤーの体から、その、黒い炎が上がったりしてないか?重要なことだから頼む」「黒い炎?」オールマイトに言われて、ミッドナイトは改めてヴィランスレイヤーの状態を確認する。だが、ミッドナイトが見た限りやはり完全に寝ており、黒色の炎とやらも1つも浮かび上がっていない

 

2度目の確認が終了する。「やっぱり完璧に寝てるわよ。黒い炎とかも全然ないけれど?」「俺も見ましたけど、特に異常はありませんよ」2人のその言葉を聞いて、ホッと息を吐く。「そうか。今あんなことが起こったら今の私では止めることなど出来ないからな…よかった」

 

「「?」」言葉の真意を理解出来ず疑問符を浮かべる2人のヒーローをよそ目に、セメントスの作り上げた壁に手をつけながら…八木俊典(やぎとしのり)は藤木戸健二を見つめた

 

多くのヴィランを殺戮したヴィラン。その少年の顔は、そうは思えないほど安らかなものだと八木は感じた




読者の皆さんから感想という名のインストラクションを受けた結果、一時的にヴィランスレイヤーを雄英に隔離…というか監視するという案が決定しました!

センセイごめんなさい!でもセンセイのインストラクションのおかげでヴィランスレイヤーを雄英組から途中離脱させるという案が浮かんだのは本当です!フーリンカザン!チャドー!そしてフーリンカザン!

とりあえず、こちらの小説はいわばサブ小説なのでゆっくりとですが投稿させていただきます!連続で新しい閃きが降りてくることを、祈ろう

それではオタッシャデー!カラダニキヲツケテネ!

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