ヴィランスレイヤー   作:ジャギィ

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◆◆◆◆前回の あらすじな◆◆◆◆

ある街に滞在していたヴィランコンビ「スコーピオン」と「オキシゲン」の前にエントリーしたヴィランスレイヤー。棘のある尻尾から毒を霧状に噴出、注入するスコーピオンと二酸化炭素で酸素を生成するオキシゲンの有毒エリアに誘い込まれ追い詰められるが、機転を利かせたアンブッシュでヴィランスレイヤーはオキシゲンを殺す。酸素が止まったことでエリア外に逃げたところを近づかれたスコーピオンは尾で刺し殺すべくイクサに挑むが、ヴィランスレイヤーの暗黒カラテにあえなく惨殺された。そんな中、ヴィランスレイヤーは降り注ぐ重金属酸性雨に気づく……


コンビクション・オブ・キリング・ヴィラン

梅雨時の真っ最中の1つの街中の一角である裏路地に重金属酸性雨が降り注ぐ。光り輝く雨粒が音を立てて、金属や皮膚を溶かし尽くす。しかし待っていただきたい。比較的穏やかな環境とも言える日本列島で、金属の毒素が入り混じった酸性雨が果たして降り得るのだろうか?当然降らないのが自然の摂理というもの

 

これは1人の男の“個性”による現象であった。ドーム状で半径5メートル以内ならばあらゆる水分(生物除く)に己が手に握られた物質成分を混ぜ込むことができるのだ!ちなみに手の上の物体は微粒子レベルまで即分解される。彼は窒素酸化物と王水を土砂降りの雨と混ぜ合わせることにより、超濃度の酸性雨を生み出していたのである!ベトナム戦争でも使用されたマシンガンが如き激しい超酸性雨を生身で浴び続ければ、1分と経たない内に骨も残さず溶かし尽くされてしまうのだ!コワイ!

 

「アイエーエエエ!!なぜだ!?なぜ体が動かない!?」ナムアミダブツ!おお、だが見よ!1人の人間が超酸性の水たまりの中で倒れ伏しているではないか!恐怖の悲鳴をあげるのは個性を使っていた男であり、その周辺には溶けたバッグの中からビーカーを覗かせ、飛び出した大量の札束には雨粒で風穴を開けられていた!そう!この惨状を作り出した男はヴィランである!

 

ならば一体、何故そのヴィランが倒れもがいているのか?「毒性…及び酸性の含んだ水を広範囲に操作…ハァ……そして自分は耐酸性の服を着て無差別攻撃。強力な“個性”を持ったやつの典型か」「アイエエエ!イタイ!アイエエエ!」対策服でカバーしきれない顔面がひどく焼け爛れ、ケロイド状に変化してゆく

 

彼の“個性”は5分の継続と1分のインターバルが絶対であり、それは大きな弱点であった。フードを被っているため雨を直接受けることはなかったが、徐々に溶けゆく地面に溜まる酸が彼の顔を溶かし酸溜まりに沈めゆく!アルカリ性水溶液が入ったビーカーもヴィランが動けなければ毒雨を中和することができない!自分の“個性”で死ぬ、まさしくインガオホーを体現したような光景であった

 

そしてそんな哀れなヴィランを遠目に見ている男がいた。顔を覆う血のように紅いボロ布と体中に備えた数々の刃、靴の側面についている棘を見れば…全身から発する殺戮アトモスフィアを感じ取れば、その者がどれほどの強者なのかを推し量ることができるであろう

 

名はステイン。数多くのヒーローを殺害、あるいは再起不能にしてきた「ヒーロー殺し」と呼ばれるヴィランであった。雨を数滴受けたのか1つ2つと穴を確認できるが、彼は実質ノーダメージである。そして通り雨だったらしく土砂降りは唐突に止み、その場にいるのは酸の痛みにより悶えるヴィランと得物を持って(にじ)り寄るステインのみだ

 

「タスケテ!もう悪さはしません!真面目にスシバーで働きます!お願い!」ヴィランの男はブザマにも命乞いをする!命乞いは精神的にドゲザしたも同然であり、ドゲザは母親とのファックを強いられ記憶素子に保存されるのと同程度の、凄まじい屈辱である。彼の精神がこの地上のあらゆる生物のランクを下回った瞬間であった!

 

だがステインのカタナはヴィランの頸動脈を両断する。「アバッ?!」「(いたずら)に力を振りまく輩…言うまでもなく、粛清対象だ」酸性雨を降らした男は血しぶきを散らしながらそのまま命を沈める。彼は最期まで自分を殺した相手が凶悪なヒーロー殺しだということも知らぬまま生首を残し爆発四散。「サヨナラ!」

 

男を中心とした半透明の球体エリアが消えると、血に染まった水たまりや周囲の酸で腐食を繰り返していた地面からも酸性が消失する。小汚い裏路地は誰もが目を覆うほどの悪夢めいた風景に変容していた。手のカタナを軽く振ると大量に付着した血が水と地面と生首にかかる。「この街を正すための犠牲はあと少しと言ったところ………ムッ!」

 

突如、何もないそこからステインが抜刀しつつ離れる。彼の研ぎ澄まされた聴覚と感覚が風を切って迫る何かを察したからである!圧倒的速度で飛来する鉄塊が5つ、先ほどまでステインがいた場所と逃走経路の1つである3カ所に1つずつ突き刺さる。残る1つの落下地点はステインの回避先!

 

「フッ!」しかしステインは右手のカタナを振るい、火花を散らしながら高速飛来するそれを弾いた!“個性”に頼りきりでは決して出来ぬ、確かな技量とワザマエだ!そしてコンクリートの壁をトーフに切り入れた包丁めいて突き刺さったそれは、日本に生まれ育った者ならば誰もが知っている投擲武器…スリケンであった!

 

敵意持って投げられたものがスリケンと認識したと同時に建物の袋小路先の上にそびえ立つ影が、赤い布をたなびかせ手を合わせる。そう…彼が、ヴィランスレイヤーがこの場に現れたのだ!ヴィランスレイヤーの足元にはここに来る前にスレイした無残な生首が2つ転がっている

 

「ドーモ、ステイン=サン。ヴィランスレイヤーです」ヴィランスレイヤーがアイサツを終わらせると、前回転しながら建物の高所から飛び降りる。「イヤーッ!」着地から大体2秒後、ヒーロー殺しを見据えながらヴィランスレイヤーは地を蹴り、身体をひねりながら籠手を利用した裏拳!!身体中や手に握られた刃物、棘の数から生身での衝突は危険と判断した上での行動だった。なんたるニンジャ洞察力であろうか!

 

だがステイン、アフリカ象の突進よりもはるかに重い裏拳の一撃をカタナ1本で制する!ステインからもドス黒い殺気が放たれ、ヴィランスレイヤーの殺気とぶつかり合う!モータルならば間に入り込んだだけで心不全を起こしかねないほどのサツバツアトモスフィアである!「ヌゥーッ!」「「ヴィラン殺し」のヴィランスレイヤー。俺を殺すために現れたか…身の程知らずが」金属音と共にヴィランスレイヤーが弾かれる!

 

バック転で距離を取り、体勢を整えながらジュー・ジツの構えを取る。アンブッシュの失敗、刹那に交えたカラテによって、ステインの身体能力は常人の4倍、カラテの技量に至っては20倍近い凄さがあることをヴィランスレイヤーは理解する!それはすなわち目の前のヴィランが、今までヴィランスレイヤーが戦ってきたどの敵よりも格上であることを示していたのだ!

 

「……なるほど、今までのヴィランとは違うということか。だがどのようなヴィランであろうと私には関係のないこと!家族の無念、そして憎悪を晴らすため、ヴィラン……殺すべし」しかし、ステインはヴィランスレイヤーの殺意をぶつけられても涼しい顔だ。否、目だけは汚物でも見るかのような侮蔑しきったものになっている

 

「…復讐のつもりか…ハァ…ガキの癇癪だ」「なんだと?」「ただ憎しみを晴らすためにヴィランを殺すなど、信念なき殺意と同様。敵討ちという名目のもと4年ほど前からヴィランを殺し続ける…まさしくガキの癇癪と同じだ。ハ、ハァ……どれほどの相違がある?」

 

ステインがもう1本のカタナを抜刀し二刀流の構えを取る。「表では噂程度のお前も裏の世界やヒーロー、ヴィランの間では有名だ。これまでヴィランとヴィランに与する者を殺してきた数は、確認できた死体だけでも893人…そこに転がってるやつも含めれば895か」ちなみにヴィランスレイヤーがヴィランをスレイしてきた数は今ステインが述べた人数の2倍を凌駕している!ヴィランの死因のほぼ6割をヴィランスレイヤーの殺戮が占めているのだ

 

ヴィランスレイヤーの存在はモータルたちの間では様々な憶測が飛び交う程度の存在である。しかしヒーローやヴィランたちはその存在を確かに知っており、一部の権力者とヒーローはヴィランスレイヤーの真実にも迫りつつあった。しかしその姿を目撃した者はほんのごくごく一握りのみ。彼と出会った者はヒーローとモータルを除いて皆亡き者と化すからである

 

「ヴィランスレイヤーを知る贋物(ヒーロー)どもの多くは勘違いをするばかり。お前の存在を理由にヴィランを殺すことに正当性をあげる者が現れ、祭り上げるものまで出る始末。この街のヒーローにもそういうやつがいた。ヒーローどもが正しい社会を歪める()()ならば、貴様はその()()を生み出す存在」

 

「オヌシの弁論など知ったことではない」ステインのセリフにヴィランスレイヤーが割り込む。「重要なのはオヌシも私と同じく殺戮を繰り返すヴィランだということ。ならばすべきことなど決まっている」「己の欲を満たすために社会を乱す貴様を…ハァ…あるべき社会の供物にすべく」ステインはカタナを振るい、ヴィランスレイヤーはジュージツの構え

 

「「殺す」」互いの言葉を皮切りにイクサが始まる!ステインは全速でヴィランスレイヤーに接近し、反対にヴィランスレイヤーはバックステップで距離を取る。しかしヴィランスレイヤーのすぐ背後はコンクリートジャングルの壁で阻まれている!どうするヴィランスレイヤー!?

 

「イヤーッ!」高く壁にジャンプし、空調のパイプに足をかける!再び何もない壁に跳び上がりコンクリート壁を蹴り高く飛翔!「イヤーッ!」三角跳びだ!そのままコマのように回転し、スリケンを無差別に連続発射!ゴウランガ!!これは暗黒カラテが1つ、「ヘルタツマキ」である!!

 

「イヤーッ!!」ヘルタツマキによる無差別スリケンがそれぞれのスリケンを弾き合い、ヒーロー殺しめがけて直行する!タツジン!ヘルタツマキは囲まれた時に使用される対多数のワザといえよう。敵味方の区別をつけて狙うことはヴィランスレイヤーの技量ならばまず可能だが、彼はぶつかるスリケンの回転、力加減、方向、タイミングを調整し、1対1のイクサでも効果覿面(てきめん)なワザへと昇華させたのだ!!ヴィランスレイヤーのカラテなしではまず不可能な、圧倒的ワザマエである!

 

残りのスリケンが壁に刺さる中、壁を使っての三角跳びをした際にステインが投げ放った2本のナイフがスリケンにより相殺される!回転しながら浮遊するナイフを横切って、スリケンが3つの線を描く!その時ヴィランスレイヤーは地に着地した瞬間でもあった。(((刀で手裏剣を1度に弾いて反撃しようがあのスピードでは一撃はまずもらう。ジャンプ以外の回避が難解な手裏剣の位置取り、ジャンプで躱せばその間の隙を狙われる……ならば)))

 

ステインの戦闘経験、そしてニューロンの高速回転が詰みと思われる状況の解を生み出した!カタナを落として地に突き刺すとナイフをヴィランスレイヤーに投げつけ、投げた動作の腕をムチのようにしならせ、手で落としたカタナの柄を握りスリケンを全て叩き落としたのだ!!しかし普通のナイフ投擲ではヴィランスレイヤーを捉えることなど不可能。身体を前斜めに傾ける形でナイフを避け、一気にステインとの距離を詰める!

 

「イヤーッ!…ヌ!」目の前のヴィランのガラ空きの首を狙うべくチョップを振るいかけたその直前、後ろから2つの音が鳴り響く!「イヤーッ!」咄嗟のジャンプ回避!足を掠めながら通り抜けたのは先ほど躱したはずのナイフだ。鈍い銀の刃には赤黒の血液が付着している。ステインはあのセツナとも言える瞬間に壁に刺さったスリケンを利用したナイフ反射を行ったのである!音の元凶ともいえる2枚のスリケンはナナメに傾いていた

 

この死角からの攻撃を警戒したヴィランスレイヤーは大きくあとずさる…しかし、これがいけなかった!!ステインの“個性”を相手にこの行動は致命的かつ決定的であった!帰ってきたナイフをステインがキャッチし、そのままカメレオンめいた長い舌でナイフを舐める。「グワーッ!?」ナムサン!ヴィランスレイヤーは背筋が凍る感覚と同時にそのままうつ伏せに倒れこんだ!辛うじて顔が動くことを除けば、全身が凍りついたかのように動けない!なんたるウカツか!

 

読者諸氏のみなさんはご存知であろう!ヒーロー殺しの“個性”は相手の血を経口摂取することによりその相手の身体の自由を一定時間奪うという「凝血」である。相手の血を必要とする性質上、実際には使いづらい“個性”と言えるだろう。彼よりも強力な“個性”は多く存在する。だがステインはヴィランスレイヤーに匹敵する己のカラテと併用することにより、己の“個性”を十全以上に引き出していたのだ!

 

ヴィランスレイヤーが先ほど弾いた、空から落下してくる2本のナイフを掴むステイン。それを虫ケラでも踏み潰すかのように躊躇いなくヴィランスレイヤーの両手の甲に突き立てる!「グワーッ!」ヴィランスレイヤーは何もできない!殺人マグロといえど陸に打ち上げられれば何もできないのと同じ。今の彼は、ヒーロー殺しの独壇場という陸で哀れに跳ねる殺人マグロと同じ境遇であったのだ!!ショッギョ・ムッジョ!

 

刃は根元まで深く突き刺さり手を貫通する!しかしそれでもステインは油断せずさらにナイフで右膝裏、右手のカタナで左の膝裏を容赦なく破壊する!「グワーッ!」時間をかけヴィランスレイヤーの血と体力を奪う!もはやニューロンや肉体を動かすなど困難な状態である!

 

ナムアミダブツ!手足を破壊され地面に磔にされた男は、四肢をもがれたイナゴめいて無力であった。血を流し過ぎたがためにもはや意識を保つこともアブナイ状態だったが、最後の気力を振り絞り憎しみの言葉を吐き出す。「ヴィラン…!ヴィラン、殺す、べしっ……!!」「それが遺言か?」一閃。ヴィランスレイヤーの首筋から、おびただしい血液がロケット噴射めいて噴き出された。「グワーッ!」途切れる意識の中、最後にヴィランスレイヤーの頭に思い浮かんだのは、ソーマト・リコールで鮮明に思い出された父と母と兄の笑顔であった

 

 

 

 

 

 

 

ニューロンの奥深くの深層心理、そこでフジキドは力なく倒れている。近くに存在するは悪夢という言葉すらも生ぬるい邪悪ニンジャのソウル、ナラク・ニンジャであった。『ググググ…哀れよのォフジキド、あのようなカラテだけが取り柄のサンシタ風情にしてやられるとは……だが、嘆くことはない』大きく体力と精神を消耗したヴィランスレイヤーにナラク・ニンジャは歩み寄る。死神よりもずっと恐ろしい悪魔的アトモスフィアがオーラとなり空間を歪める

 

「や……や、めろ………ナラク……」『オヌシはそこで見ておれ。ワシのカラテと“個性(ちから)”を持ってすれば、あやつ程度の有象無象を惨殺するなど容易いことよ』フジキドの摩耗した精神体がナラクに包み込まれる。身体の所有権を奪われる感覚を感じながらフジキドの意識はフェードアウトした

 

 

 

 

 

 

 

死に体のヴィランスレイヤーを冷たく見下ろしながらステインはカタナを振るう。頸動脈から飛び散る赤い血潮は次第に勢いがなくなり、呼吸も絶え絶えの状態だ。だが突如ヴィランスレイヤーの全身から黒い炎が纏われるように噴き出す!

 

すると足の擦り傷はおろか明らかに致命傷であった首の切れた肉も塞がっているではないか!!ヴィランスレイヤーはサンズ・リバーを渡りきる直前であった。それを持ちこたえるどころか完全に傷が癒え再びステインの前に立ち上がるとは、何と恐るべきニンジャ回復力!フジキドのニンジャ耐久力とナラクのチカラが合わされば、身体のどこかが欠けぬ限り無限大のニンジャ耐久と化すのだ!!

 

おお、しかし見よ!ヴィランスレイヤーの瞳孔は萎縮し血に染まったかのような赤に爛々と輝いている!今のヴィランスレイヤーはフジキドではなくナラク・ニンジャが突き動かしているのだ!「傷が塞がっただと?それに炎を…複合型の“個性”か?」ステインはヴィランスレイヤーが立ち上がったことは特に不思議がることなく“個性”の内容を特定すべく記憶の海からサルベージを開始する。しかし、ここまで性質も方向性も違う“個性”同時の複合はステインも初めて見た。「ハァ……まるで不死鳥だな」

 

瀕死から完全復活する回復力、身体を包み覆う炎、フェニクスめいた要素が揃ったヴィランスレイヤーをそう例えた。ポエット!しかし忘れてはいけない!ステインの目の前で仁王立ちするのは神々しさなど欠片もなき邪悪なニンジャなのだ!!『ドーモ、ステイン=サン。ナラク・ニンジャです。あの程度で殺したつもりとは片腹痛いわ!』

 

「…おまけに性格…いや、この雰囲気は人格が変わったのか」(((あるいは今まで隠していただけで、こっちが本性か?)))ヴィランスレイヤーのアトモスフィアの変化にいち早く察し、ステインは素早く距離を取る。拘束のためのナイフ3本は黒き不浄の炎でドロドロに溶けており、もはや武器として機能しない状態であった!塞がれた傷跡の血は全て地の下に消え、刃物は炎で溶かされる。これではステインが攻勢に出ることなどできはしないではないか!

 

だがステインの思考は至って冷静だ。彼とて己と不利な“個性”と戦ってこなかったわけではないのだ。この手の“個性”は使用時間、または使用量に限界のある、時間をかけて“個性”の炎が尽きればいい。ステインはそう考えたのだ。鞘にカタナ1本を納刀し、回避・防御の間に合わない部位にステインはナイフを投げつける!“個性”を使わせるための凶器が棒立ちのナラクに次々と迫る!炎で燃やすか!?

 

否!『イヤーッ!』カラテ!スリケン!そしてカラテ!殴突斬組み合わさったブレイクダンスめいた乱舞を繰り出しナラクは全てのナイフを弾き、飛ばし、叩き落とす!!さらに弾いたナイフのうち1本がステインめがけて飛来する!だがステインは何事もなかったかのように顔を傾け、弾丸が如く直進するナイフの柄を握る

 

「フン」そして無感情に一瞥した銀の刃の先端に染められた赤、血をすかさずステインは舐めとり摂取する。ナムアミダブツ!血を舐められてしまった!いかにナラク・ニンジャといえど、“個性”による理不尽には抗うことができない……

 

『イヤーッ!』が、すでにナラクは強靭的脚力によりステインの目の前で攻撃の予備動作に入っていた!「何…!?」今日初めての動揺がカタナを持った手を硬直させる!遅れて防御の構えを取るが、ワン・インチ距離のナラクのカラテの速さにはまず間に合わない!

 

足払いをかけるナラク!『イヤーッ!』「ッ…!」転倒して宙を浮いたステイン!『イヤーッ!』「グア…ッ!」その一瞬にナラクの回し蹴りがシャウトと共に炸裂!ゴウランガ!!くぐもった声をあげステインは壁面に叩きつけられる!骨の砕ける音が響き渡る

 

だが「凝血」の術中にハマったはずのナラクが何故何事もなく動けたのか?それはナラクは迎撃乱舞の中ナイフの1つを掴んで、戦闘前にステインがスレイしたヴィランの血を付着させたからである!そう、ステインが摂取したのはナラクではなく死んだヴィランの血!術中にハメられたのはナラクではなくステインであったのだ!

 

ステインはニューロンの海に溺れかけていた。最初にヴィランスレイヤーのカラテを受け止めた時と今食らったカラテの強さがあまりにも違いすぎたからだ!そしてそれは、ナラクが目覚め、“個性”を使い始めてからの変化だ!ゆえにステインは、あからさまな力の増強も“個性”によるものだと判断したのだが、より頭の中は混乱する一方だ

 

「炎と、傷の修復と、力の増強だと…なんだ、この異常な“個性”は……」『キサマの下らん話を聞いてはおったが、随分と脆く、貧弱な信念よのう。社会などという無意味な枠組みに囚われた小童(こわっぱ)ごときにワシのカラテを破れる道理などないわ!』右胸を押さえているステインをナラクは嘲笑する

 

『キサマを殺した後、この街の人間、ヒーロー共々、ヴィランを皆殺しにしてくれる!』結論を出す間もなく、ナラクの恐るべき宣告の直後に全てを両断するチョップがステインの首を刎ねるべく迫り……途中でナラクの右腕が静止した!何が起こったのか!?見ればナラク…ヴィランスレイヤーは手で顔の左側を覆い、苦しみながら震えている。ナラクに乗っ取られたはずのフジキドの精神が、顔の半分に現れでているではないか!

 

地獄めいた声が響く。『何をするフジキド!何故邪魔を!』「オヌシに身体を好きにさせれば、ヴィランに限らず多くの人間が犠牲となる…!そのようなことなど私は望んでいない!」『失望させるな!全てのヴィランを殺せ!ムシケラがいくら死のうと問題ではないわ!』なんたる邪悪な思想か!ナラクの全てを滅ぼす憎しみがフジキドの精神を侵食するが、その言葉をフジキドは強く返す

 

「黙れ!オヌシは思い違いをしている。私はオヌシの都合のいい道具ではない!あの日に誓ったのだ!ただ生きている存在を不幸に陥れるヴィランを全て殺すのだと、私の意志で!それを誓った私があの時のヴィランと同じことをするなど、断じてあってはならん!」フジキドの脳裏に浮かぶはニンジャとなりヴィランの道を進むことを覚悟した赤い雪景色であった。あの時起きた出来事こそが、フジキドという少年を狂気の血の海を綱渡りするヴィランスレイヤーへと変貌させたのだ!

 

『愚かなりフジキド!オヌシはヴィランを殺せばよい!』「そうだ…!私は、私がヴィランを殺す!ヴィラン、殺すべし……!」身体の主導権を半分奪われながらも己の手でステインを殺すべく左手にスリケンを握る。しかし痛みを堪えながらステインはカタナで斬りつける!アブナイ!

 

紙一重でヴィランスレイヤーはカタナを回避。ニンジャ装束を掠めたものの、振るわれた凶器には一滴の血もついてないことから「凝血」の拘束を防ぐことは成功した。だがステインの闘争的アトモスフィアは増す一方だ!先ほどのイクサでナラクが行った対応が自分の“個性”の解明に繋がりかねないと考えたからだ!だが今のステインの怪我では自分から攻撃を仕掛けることはできず、追撃も不可能。ゆえに守りを固め、ヴィランスレイヤーを見据える

 

「ハァ………!」「グゥ…!」セツナの沈黙。ヴィランスレイヤーは主導権の奪取とナラクの対抗に精神が摩耗し、ニンジャ血液の不足で身体能力は低下。ステインは骨が砕けて自分から攻勢に出れないが、それによるカジバ・フォースで気迫は最高潮。これ以上の戦闘は危険であった。「……イヤーッ!」ヴィランスレイヤーは撤退を選んだ。ステインへの警戒を怠らないようバックジャンプで建物の頂上まで跳躍し、敵が動けないことを確信するとマフラーを翻して街の上を駆け抜けた

 

「逃げる戦士は追う戦士より遠ざかるので致命傷は受けにくい」…平安時代の剣豪にして詩人であるミヤモト・マサシのコトワザがヴィランスレイヤーのニューロンを掠めるが、それで納得する気などないと決断するかのように呟いた。「私の未熟が招いた結果…だが次は殺す」




タイトルの意味は「ヴィラン殺しの信念」

今回の話は前話の半年前の時系列となっております。一応「ヒロアカ」の原作に沿って話を進める気でいますが、ちょくちょくヴィランスレイヤーのスレイストーリーが展開されます。これからどう有卵精ヒーローたちと絡めていくか考えていく次第です。ガンバルゾー!

……でも当分はやるべきことがあるので「ヴィランスレイヤー」は更新できません。どれだけの時が経とうと読者皆さんのニューロンにこの作品が刻まれてることを願っています。祈ろう

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