ヴィランスレイヤー   作:ジャギィ

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◆◆◆◆前回の あらすじな◆◆◆◆

ヒーローに憧れる“無個性”の少年 緑谷出久(みどりやいずく)は沼のヴィランに襲われたところをトップヒーロー オールマイトに助けられた。しかし最強のヒーローが実は衰弱しきっている事実、“無個性”ではヒーローになることは難しいと言われた現実に彼は絶望してしまった。そんな中、オールマイトに捕らえられたはずのヴィランが逃げ出していて、1人の人間に取り付いていた


ザ・ビギニング・オブ・ザ・ヒーロー

「ハァ………」

 

ため息が空に溶け消える。緑掛かった癖毛とそばかすが特徴の少年…緑谷出久(みどりやいずく)は暗い気持ちでいっぱいだった

 

背負った学校鞄の帯を持つ手が、強く握り締められて震える。手の中の己の努力の証…ヒーローの“個性”や特徴を細部まで書き記したヒーロー分析のノートはボロボロに焼き焦げている

 

『相応に現実を見なくてはな』

 

『中三になっても、まだ彼は現実が見えていないのです』

 

『本格的に将来を考えてく時期だ!!』

 

“無個性”でありながらヒーローを目指した少年に降りかかったのは、嘲笑と非難の声だった

 

『「個性(ちから)がなくとも成り立つ」とはとてもじゃないがあ…口に出来ないね』

 

心の底から尊敬していたNo.1ヒーロー「オールマイト」、彼の言葉が色んなもの()を締め上げる。己に対する失望か、現実に対する絶望か、彼の心は抜け出せぬ沼に沈みかけていた

 

(((プロの…トップまで言うんだ…泣くな!わかってたろ!?現実さ………。わかってたから…必死こいてたんじゃないか……!!)))

 

見ないように、見ないように……って

 

涙ぐみながらも緑谷はトボトボ歩き…そして商店街の近くまで来ていた。遠目に火と煙が上がり、入り口の前には大勢の野次馬が集まっている

 

おそらく(ヴィラン)が暴れているのだろう。そしてそういう現場には決まってーーーヒーローがいる

 

「…………」

 

緑谷出久はヒーローが好きだ。みんなを助けるヒーロー、それになりたいと夢見て、願って、努力していた。ヒーローの現場と見かければ駆けつけるほどに、クセがつくほどヒーローたちの活躍を見るのが好きだった

 

無意識だった

 

(((クセでつい来ちゃったってか。やめとけ、今は……虚しくなるだけだってーーー)))

「………!?」

 

思わず瞬きして2度見する。しかし何度見直しても少年の視界に映っていたのは、オールマイトによってペットボトル詰めにされたはずの液状のヴィランだった。沼のような身体の色艶が、爆炎で彩られる

 

(((あいつ何で!?オールマイト!?逃げられたのか!?…落とした…!?だとしたら……)))

「………!僕の…せい………!」

 

浅はかな自分の行動により起きた惨劇を見て絶句しているところに、野次馬から意図なき追い討ちが掛かる

 

「ヒーロー何で棒立ちィ?」

「中学生が捕まってんだと」

「……!」

 

再び絶句。緑谷は1度、隠れ蓑として沼の身体に囚われたことがあった。あのヴィランの沼に捕まってしまえば、呼吸が急に止められてしまう。生命維持に必要な呼吸が止められるのが、生物にとってどれほどの苦しみとなるか

 

(((捕まってるって…あんな苦しいのを耐えているのか!?)))

 

同じ中学生である人質をすごいと思いながらも、思わず口を両手で覆う。あの時の体験を思い出しての、自分のせいであんな苦しい目に遭わせてしまった罪悪感による動作だった

 

周囲の人間がざわつく。オールマイトが来ているだの、オールマイトはどうしただの……彼の頭はそんな喧騒のことまで考える余裕がなかった

 

(((僕のせいだ…!!(オールマイト)は動けない!!あいつは掴めない!有利な“個性”のヒーローを待つしかない!!)))

 

さらに湧き上がる罪悪感に吐き気までもが催してくる。心の中で捕まった人に謝り倒しながら、ヒーローが早く来ることを祈る

 

沼で形取られた手から爆風を出しながら人質が抵抗する。一瞬沼が顔から離れるがすぐに口に張り付き、無抵抗に終わる

 

(((頑張って…!!!ごめん!!ごめんなさい…!!すぐに助けが来てくれるから…)))

 

誰か…ヒーローがすぐ……

 

そこで出久は気付く。人質として捕まった少年に

 

いつも出久(デク)と“無個性”とバカにしていじめてくる、強力な「爆破」の“個性”を持った幼馴染……

 

 

 

爆豪勝己(ばくごうかつき)と、目があった

 

 

 

血の気が引く、心が驚く………吐き気が、消える

 

そして野次馬も警察もヒーローも通り抜けて、緑谷は前へ飛び出した

 

『『『!?』』』

 

その場の全員に、衝撃が走る

 

「馬鹿ヤローー!!止まれ!!止まれ!!!」

 

驚いたヒーローたちの制止の声が木霊する。しかし緑谷の頭はそれ以上に混乱しており、考えることを止めていなかった

 

(((何で出た、何してんだ!?何で!)))

 

思考がグルグルと回る。自問自答を繰り返しても、答えは1つも出てこない

 

「爆死だ」

「ひっ……」

 

攻撃の予備動作に入るヴィランに怯えながらも、鞄を下ろしながら試行する

 

(((どうしようどうしよう、こういう時は〜〜!!)))

 

今朝見たヒーローが個性で視界を塞ぐことが書かれた……

 

(((25P(ページ)!)))

「しぇい!!」

 

背負っていた鞄が中身ごとヴィランの眼前でばら撒かれる。鞄、教科書、筆箱、その他もろもろが沼のヴィランの生身である巨大な眼球に命中する

 

「ぬ゛っづァ?!」

 

偶然当たった急所に悶えている隙に、緑谷は爆豪を助けるべく沼を掻き分ける。暗い濃緑が飛び散り、頰にヌメリと滴る

 

「かっちゃん!!」

「…ガハッ!何で!!テメェが!!」

「足が勝手に!!何でって…わかんないけど!!!」

 

色々理屈はあったと思う

 

『諦めたほうがいい』『っはい!!頑張ります!!』『僕のせい』『何で俺と同じ土俵に立てるんだ!?』『かっちゃん』『やってみないと』『目標なんだ』『超カッコイイヒーローさ』『相応に現実も見なくてはな』『笑顔で助けちゃうんだ』

 

今日1日で、今までで言った、聞いたことが駆け巡る。どれが重なって、どれが繋がってどんな理由を生んだのかを緑谷は全然思いつかない……ただ

 

(((ただ、その時は)))

 

 

 

「君がーーー助けを求める顔してた」

 

目尻に涙を浮かべながらも、笑ってそう答える。自分の憧れている……最高のヒーロー(オールマイト)と同じように

 

「やめっ…ろ…!」

「もう少しなんだから、邪魔するなあ!!!」

 

再びヴィランに囚われ白目を剥きかけながら悶える爆豪。そして緑谷にしてやられた事実がヴィランの怒りに火をつけた。巨大な泥沼の手が、風圧を起こしながら緑谷に迫る

 

「無駄死にだ、自殺志願かよ!!」

 

子供を助けるべくヒーローが動き出すが、誰も彼も距離が遠過ぎて間に合わない……

 

GRAP!

 

『!!?』

 

否、1人だけいた。ヴィランごと緑谷と爆豪の腕を掴んだのは、V字の髪型を頭部に乗せた金髪で筋骨隆々の…最強のヒーロー。筋肉の鎧で覆われた肉体から煙が上がる

 

「君を諭しておいて…己が実践しないなんて!!」

 

衰弱しきった身体に鞭打って…血反吐を吐きながら

 

「プロはいつだって命懸け!!!」

 

「オールマイト」は太い右腕を、沼ヴィランに勢いよく振るう

 

DETROIT(デトロイト) SMASH(スマッシュ)!!!!!』

 

凄まじい爆音、爆風。人が持つ力を圧倒的に凌駕するパンチは誰も手が出せなかった沼のヴィランを爆散させ、強過ぎる風圧は空を舞い上がり……かろうじて気絶しなかった緑谷出久はそれを見つめる

 

やがて……先ほどただの曇りだった空は晴れ上がり、そしてポツリポツリと雨が降る

 

「………雨?」

「まさか今の風圧で…!?上昇気流が…」

「おいおいおいおいおいおい」

 

降り注がれる雨は祝福の雨か…そう言わんばかりに、称賛の声もオールマイトに浴びせられる

 

「右腕一本で天気が変わっちまった!!」

「すげえええええ!これが…オールマイト!!!」

 

喝采が鳴り響く中、緑谷は憧れのヒーローを見上げていた

 

「は……ははは……!」

 

滲む視界の中で、彼は嬉しさのあまりに笑った

 

オールマイトはやっぱりすごいのだと…そして、幼馴染は助かったのだと

 

鳴り止まない歓声の中、オールマイトは小さく笑い……

 

商店街の電線に、誰かが降り立った

 

関節部位を除いた全身に黒い…ゴムのようなテカリを放ったラバースーツを身につけた細身の人間。よく見れば部位の一部には鉄の塊と背の装置と繋がったコードがあり、ゴーグルからの視線は危険な何かを感じさせた

 

「ムッ!」

「……え?」

 

よく分からない人間の登場に、オールマイトは警戒し、緑谷は思考が一旦停止する。周囲の状況が見えていないのだろうか、ラバースーツの人は息を荒げながら憎々しげに怒鳴る

 

「チクショウ!あいつ、僕を見かけるなりいきなり襲ってきやがって……狂っていやがる!!」

 

いくつもの電線を使い体勢を整えながら、一定方向を警戒しながらそう言う。こんな混乱した状況でも緑谷は考え込む

 

(((あの人、電線に2本以上乗っても感電していない。あのスーツのおかげか…それとも“個性”を使って…?それに“襲って”?あの人誰かに追われているのか?でも見かけるなりって…もしかしてヴィランに追われ)))

「誰だあいつは!新手のヴィランか!?」

 

考え事を遮るような大声を誰かが叫んだ。多分ヒーローの誰かだろうが、そんなことは些細なことだった。電線に乗っていた人はこちら側を見るや、戦慄したような声で呟く

 

「あれは、オールマイト…?!しかもこんなにヒーローが…!まさか僕を追って……いや、今は早くこの場からーーー」

 

 

 

そんな彼の背後から、雨音に混じって別の音が響き渡る。野次馬、ヒーロー、オールマイト、そして緑谷の視線の先にいたのは、電線の上をサーフィンめいて滑るボロボロなニンジャ装束のヴィランスレイヤー!赤黒の殺戮者のエントリーである!!

 

ラバースーツの男は気配に気づいて振り向こうとするが、影は電線を強く蹴り上へ跳躍!反動で電線が上へ跳ね、男の体勢が崩される!ワザマエ!

 

「うあっ…」

「イヤーッ!」

「グァーッ!」

 

ヴィランスレイヤーの空中回転カカト・ケリ!ガードも出来ずまともにくらってしまったために、男は物理法則と重力に従い垂直落下!蹴られた部位のラバースーツが強引に破れているところを見れば、そのワザの恐ろしさが理解できるだろう

 

「Wasshoi!!」

 

目の前で起きた暴力的現場にヒーローが駆け寄ろうとするが……地面に着地した存在の圧倒的アトモスフィアに当てられ、全員が足を止め、9割の人間が萎縮する

 

その萎縮する人間の中には、冷や汗を流している緑谷出久も含まれる。根性が座っていようと、モータルである彼にNRS(ニンジャ・リアリティ・ショック)の発症は逃れられない運命である

 

(((なんだこいつは?!いきなり現れて人に襲い掛かって…ヴィラン?そして……ニンジャ?ニンジャナンデ!?…それにオールマイトと同じように画風が違って見える存在感、オールマイトと同じくらい強いってこと!?)))

 

緑谷はただただ混乱するしかなかった

 

 

 

 

 

『その日にかけられた言葉が運命の分岐点だったのなら……』

 

将来の緑谷は、この時の体験をこう思い返すのだった

 

 

 

『あの時気絶しなかったのは、きっと運命の出会いだったんだ』

 

 

 

 

 

 

 

赤黒のニンジャ装束を纏った存在は殺意のこもった視線で叩き落とした男を見下す。太陽光がメンポの「悪」「殺」の二文字を照らす。なんたる恐怖を煽る字体!「いいぃ加減にぃぃいしろよお前ぇえぇ…!!僕がぁ、お前に何したっていうんだあぁぁあぁああ……!!」ブルブル肩を震わせながらラバースーツの男は立ち上がる。当然怒りによる震えだ。しかしヴィランスレイヤーは無駄な問答と言わんばかりに切り捨てる「オヌシがヴィラン…それだけで理由は十分だ、エレクトロン=サン」

 

エレクトロン、ヴィラン。それがラバースーツを着込んだ男の名前…ヴィランネームと正体であった。エレクトロンという名前を聞いて、緑谷は一瞬頭の中を整理する。「エレクトロン……?その名前、確か……あああ!!“エレクトロン”って、2ヶ月前の「種子島ロケット破壊事件」の、あの!?」「詳しいな君は!」オタク!緑谷の的確な指摘は近くのオールマイト、ヒーローたちに伝播し、そこからさらにモータルたちにも波紋のように広がっていく

 

「種子島ロケット破壊事件」とは、種子島のロケット打ち上げ当日にスペースシャトル含めたロケット全てを破壊したという名前通りの出来事である!そして恐ろしいことに、それらの破壊工作はたった1人の人間によって行われたものなのだ!死者6名、重軽傷者14名の被害を出したこの凶悪事件の犯人こそが、今ヴィランスレイヤーによって虐げられている「振須間 五那須(ふらすま いなす)」…ヴィランネーム“エレクトロン”その者であった!

 

1人を除いた全員が考える。しかしそうなれば謎が残る。もし彼が凶悪なヴィランの1人であるエレクトロンだとするならば、それを追っている彼は何者なのか?ヴィランを追っているあたりヒーローなのかもしれないが、彼のような容姿のヒーローは緑谷も見たことがないと断言できる

 

みなが見守る中、エレクトロンはゴムの纏った身体の…手から小さく青い電気をはじけさせると、懐の拳銃でヴィランスレイヤーを狙撃!BLAM!BLAM!「ヌゥ!」ヴィランスレイヤー、紙一重でこれを回避!2発目の弾丸がニンジャ装束と皮膚を掠め、少量の血が飛び散る。それを見かねたヒーローの1人であるシンリンカムイが、木の枝の腕を伸ばしてエレクトロンをアンブッシュの形で拘束を図る!

 

「うっとおしいんだよ!」それを見たエレクトロンは、指先の鉄と鉄を迫る木の枝の目の前で合わせ電気を流し込む。周囲と身体は雨で濡れて、電導率が高まっている!「グッ!これしきの静電気!」しかし実際静電気程度の弱さであったため、怯むことなくエレクトロンを縛り付ける!ラバースーツが滑り止めの役目を果たすため、脱出も不可能

 

「………ニィ……」だがそれは、エレクトロンの思うツボだったのだ!僅かに動かして枝に触れた手から走った紫電が拘束枝と接触…すると先ほどとは比にならない電撃が枝を伝ってシンリンカムイを襲う!「グアアアァッァァァーーーッ!?」ナムアミダブツ!回避と拘束戦術が中心のシンリンカムイでは、これほどの電撃にはまず耐えられない!堪らず拘束を解くものの、彼はもはや戦闘が続行できぬ状態であった

 

エレクトロンの“個性”は名前に相応しく電気の“個性”である。しかしならば何故1度目は威力を抑えたのか?疑問は尽きぬが、味方がやられたのを見て黙っていることはできずヒーローたちがエレクトロンに接近するーーー。「うお!」「し、手裏剣!?」「っ!やはり止めてくるか!」それぞれのヒーローの足元に2つのスリケンが突き刺さる。ヴィランスレイヤーが威嚇の意で投擲したものだ。ヒーローたちが怯む中、オールマイトが最後の呟きを発する(((……やはり?)))

 

「オールマイト、やはりって?」「ム!緑谷少年、聞いたのか?」(((シット!失言したな!)))頷く緑谷を見て、やはり失言したと己を自責する。そしてその瞬間、ヴィランスレイヤーとエレクトロンの戦いは既に雌雄を決していた!

 

読者の皆さんはご覧になったであろうが、ヴィランスレイヤーが威嚇のスリケンを投擲した直後、エレクトロンは赤黒のニンジャとの距離を詰めた!エレクトロンからすれば、目の前にヴィランスレイヤーがいて、後ろにはオールマイトと中心としたプロヒーロー軍団。1人は潰したものの前門のタイガー、後門のバッファローな状態であった。「隙だらけだな!」

 

ならば、強くとも1人だけのこいつを倒してしまえば逃げ果せる!そう考えても仕方ないほどエレクトロンは焦燥しきっていた……が、だとしても彼の行動は無謀にも程があった。彼の目の前にいるのはタイガーよりもずっと恐ろしい…ヴィラン殺しの死神である!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」3発のスリケンがラバースーツを貫通すべく放たれる!しかしエレクトロンが鉄を鳴らし電気を散らし…手から紫電が散ればそこから放射線状に雷が舞う!十文字の鉄塊はトーフめいて崩れる。「お前、運がなかったよ、雨が降るなんてな……僕は最高だけどっな!」そしてヴィランスレイヤーの負傷した二の腕に左掌を押し付けて…電撃が走る!この瞬間、完全に雌雄が決したのであった

 

ここでエレクトロンの“個性”の詳細を説明しておこう。先ほども説明したように電気の“個性”なのだが、正式な名称は「電子回路」。電気が流れて30分以内の部位ならば、掌から流れた電気は残った電気や電子に反応して、致死レベルの電撃を連鎖的に流せれる“個性”であった!一見使い勝手のなさそうな弱い“個性”に見えるだろうが、言い方を変えれば「電気が通って30分以内の場所は強烈な電撃を無制限で流せる」ということでもあるのだ。簡易的に電気を流し再度“個性”を使用すれば、絶縁体で防がぬ限り不可避の攻撃が襲ってくる!水辺や雨は彼の独壇場である!

 

そしてこの“個性”の真の恐ろしさは電気が関していれば、電子信号であろうと反応することである!……そう、生物の神経!彼が傷口に直接触れて電気を流せば、神経をズタボロにしつつニューロンなどといった内臓を焼き殺すことも容易である。傷をつけられ、そこから“個性”によるヒサツワザ同然の電撃を流されたヴィランスレイヤーの末路は………

 

「お得意の電気花火はそれで終わりか?エレクトロン=サン」「…ッ?!!バカな!?」なんということか!ヒサツワザの電撃を受けてなお、ヴィランスレイヤーは生きていた!しかし何故!?答えはエレクトロンの触れていた掌にある!「あっ…なっ?!」エレクトロンの掌の先には、傷を隠すようにゴムの皮が覆われていた!しかもそれはエレクトロンの着込んでいるラバースーツの一部である!電線の上での僅かな攻防、あの時の隙にヴィランスレイヤーは破れた絶縁体の皮を掠め取り、懐に隠し持っていたのであった!ワザマエ!

 

自爆を防ぐために用意した装備が、逆に利用され己の攻撃を無力化させてしまった。付け加えて手もラバースーツで覆われていたため、ゴムの感触に気づけず反応が遅れたのであった!なんなるインガオホー!

 

「ハイクを詠め!エレクトロン=サン!!」電気の“個性”である以上、絶縁体の効果は絶大!当たらなければ、エレクトロンの「電子回路」は意味がない!!「イヤーッ!」「ゴボァッ!!」ヴィランスレイヤーのジゴクめいたチョップ突きが、エレクトロンの胴体を貫通だ

 

「う、うわあああ!!」「しまった、よそ見している間に!」人体が貫通するという凄惨な光景は中学生の緑谷には衝撃的過ぎた。その隣でオールマイトは歯噛みする、またしても止められなかったと。その他にも後ろではモータルの野次馬たちが口を覆いながら目を背ける者、次は自分たちだと泣き喚く者など多種多様である。「アイエエエエ!」「ゴボボーッ!」“無個性”の者は失禁し、嘔吐する者まで現れている

 

そんな中、口から血を吐きながらエレクトロンは声を漏らす。怨嗟の声である。「ち、くしょ…う、な、んでぼ…僕が…こんな目に……!」「知れたこと、オヌシがヴィランだからだ」「な……りたくて、なった、わけじゃ…ないのに……」「なるほど、犯罪者らしい都合のいい言い訳だ。多くの弱者を虐げてきた時点で、オヌシは悪しきヴィランと何も変わらぬ。ヴィラン殺すべし、慈悲はない」エレクトロンの言い分も全て一蹴する。ヴィランスレイヤーからすれば、虐げることに悦楽を覚えた時点で全てのヴィランはスレイ対象なのである。彼の決して晴れぬ憎悪は、邪悪なヴィランを全て殺すためにあるのだから

 

助けてくれないことを理解したのか、その顔を憎しみで大きく歪めながらエレクトロンはヴィランスレイヤーを道連れにすべく手を開く。「許さ、なぁ、いぃい……!!ころ…して、やるぅう……」「私は貴様らヴィランの存在を許さぬ」ヴィランスレイヤーはエレクトロンよりも早く余った手で頭を掴み……。「イヤアァァーーーッ!!」エレクトロンの身体を上下に引き裂いた。脇から下にかけての部位がヒーローたちを超え、モータルたちの眼前に転がる。コワイ!上半身と離れたエレクトロンの身体は不可思議に発光、そして……。「サヨナラ!」爆発四散!

 

それだけでその場はメキシコジャングルめいた大混乱に陥り、その場の人間たちが正体不明の赤黒のニンジャを恐れた。ヴィランスレイヤーは片手で持ち上げたエレクトロンの死体を地べたに打ち捨てると、もはや用がないとその場を後にする。「おっと、もう帰るのかい?」しかしいつの間に回り込んでいたのか、筋骨隆々なオールマイトがこちらを見据えていた。声のトーンがとても低く、オールマイトの剣呑アトモスフィアに周囲は息を飲む

 

そんな状況でもヴィランスレイヤー、掌を合わせ礼儀正しくオジギをしながらアイサツを交わす。「ドーモ、オールマイト=サン。ヴィランスレイヤーです」「ハッハッハ!どうも、私はオールマイト!…って知ってるか!」先ほどの空気と一転、明るい口調でアイサツする平和の象徴。そんな様子を間近で見ていた緑谷は、聞こえたある単語に固まる

 

(((…今……一体何て言った?ヴィランスレイヤー……ヴィランスレイヤーって、あの?!都市伝説じゃなかったのか!?)))近くに転がっているもの言わぬ惨殺死体をチラリと見て、思わず吐き気がこみ上げてくる。ヒーローたちも鬼気迫る感じで警戒して当然のような存在に、良く生きているなと感心していた。「オヌシたちヒーローに用はない。そこをどけ」「君にはなくても私にはあるのだよ、ヴィランスレイヤー…いや、藤木戸健二くんが正解かい?」「…………」

 

ヴィランスレイヤーの無言が、オールマイトの問い掛けを肯定する。「藤木戸少年、君のことは調べさせてもらった。その上でーー」「断る」「って、早いな君ィ!」ヴィランスレイヤーの即答にツッコむオールマイト。しかしヴィランスレイヤーは言葉を続ける。「私の中の憎悪は、ヴィランを全て殺さなければ晴れぬ……ヴィラン殺すべし!」「この分からず屋さんめ!」「オヌシに言われたくはないな。イヤーッ!」そう言葉を残し身を翻すと、オールマイトとは真逆の位置に向かって全力で駆ける。「…って、こっちぃ!?」

 

真逆を走る以上、必然的に緑谷の直線上を通ることになり、それを理解した緑谷は両腕で自分を庇いながら…通り過ぎるヴィランスレイヤーを見た。血に濡れたニンジャ装束、己を縛り付けるような「悪」「殺」のメンポ、そして…殺意に隠れた苦しみに満ちた瞳。「ーーーあ……」後ろを振り返る。が、そこにはヴィランと死体を処理するヒーローと野次馬の姿しかなかった。雨は、すでにあがっていた




タイトルの意味は「始まりのヒーロー」

更新しないと言っておきながら更新しちゃう作者のクズ。優柔不断な僕を許してくれ……続きを書く書かないは、気まぐれとリアルと閃きに掛かっているとだけ言っておきます

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