ヴィランスレイヤー   作:ジャギィ

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息抜きで何か考えてたら「ヴィランスレイヤー」とかいう語感の良さが思い浮かんで、思わず書いてしまった。反省はしてない

思いつきで短編だから設定なんてものがないんだ☆ゴメンネー。あと忍殺語は苦手です

戦闘BGMは当然「ニンジャスレイヤー=サンがニンジャを殺す時に流れる曲」で


レッド・ブラック・キル・ザ・ヴィラン

生まれ持った力…“個性”。原因は不明だが、中国で光り輝く赤子が生まれたのをきっかけに、人間にはあり得ない力を持った人間が生まれ始めた。今では“個性”を使って人々を救う職業「ヒーロー」が実在するヒーロー社会と呼ばれるほど“個性”を持った人間…人類の実に8割以上が“個性”を生まれ持っていて、その“個性”で人々の生活を脅かす者を「ヒーロー(正義)」の対極に位置する存在…「ヴィラン()」と呼ばれた

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い暗闇が周囲を包む。通常であらばどんな人間であろうと一寸先すら見通せない暗黒の中で、数人の足音と重い何かを引きずる音と共に何かが蠢く。見えぬ人影が足元の物に足をぶつけると舌打ちをし、同時に耳鳴りがなる特徴的な音が周囲の人間の鼓膜を震わせる。数秒経って、もう1度耳に響く

 

「おい、この前の取り決めをもう忘れたか?俺の気分が不快になっからそれ(反響)止めろっつったろうが」「テメェがアジトを散らかすから使わざるをえねんだ。片付けを覚えてから言えボケ」1人は虎のように低い唸り声をあげながら、1人は神経を逆撫でするような少し高めの声で互いに文句を言い合う。その様子を聞いて「また始まったか…」と呆れる言葉が後ろから2人分漏れる。いつも行われている口論はいつもと同じように何事もなく終わった

 

直後、白く透き通る光が小さい丸として2つ現れ、無機質な壁を照らす。カチリと壁に埋め込まれた幾つかのスイッチのうち1つを押す。上から目を閉じたくなるほどの光が照明から溢れ出し……異質な4人の男がその姿を見せる。「ったく、ンな面倒なことするくれえなら、()()の解体俺がやっから誰か変われよ」黄と白のストライプ柄の、肉食獣を想像させるような服と黒いズボンの猫科野虎夫(ねこかのとらお)は猫のような瞳孔を細めそう言う。それに応じたのは、先ほどまでの口論の相手だった空鳴響(そらなりひびき)。黒服の垂れた袖を整えながら彼はため息を吐く

 

「テメェは片っ端から物は出す癖に直そうとしねえから問題なんだ。後で何度目かも分からん説教をしてやるから、まず()()の片付けからやれ」「またかよ……ハイハイやる。ンな目で見んなっつーの」「じゃあ、今回は外を見張っとくぜ。後は頼むわ」「警察かヒーローが来たらすぐに知らせろ」そう言いながらタンクトップに短パンの剛力剛(ごうりきつよし)岩井健(いわいけん)に背を向ける。同じくTシャツに短ズボンと露出の多い服装の岩井は作業をする3人を後ろ目で見ながら、広い部屋唯一の錆び付いたドアから出て行った

 

 

 

さて、このような薄暗い部屋にまで来て4人は一体何をしていたのかというと……眼前に広がる凄惨な光景を見れば嫌でも予想はつく。剛力が途中で引きずり運んだ……男女2人の死体を乱雑に床に投げつける。2つの死体は目や鼻や耳や口…顔の穴という穴から小さく血を垂れ流し、生き絶えた状態であった

 

ナムアミダブツ!何たることか!見張りに出て行った者も含めたこの4人の正体は、“個性”を悪用し悪事を働く犯罪者「ヴィラン」であった!しかも彼らは部屋の内部に置かれた麻薬の取引のみならず、関係のないモータル(一般人)を攫い殺害しその死体から臓器を取り出し臓器違法取引を行うという、血も涙もない凶悪集団である!

 

外傷が1つも存在しない不可思議な2つの死に体。この若い2人は外で楽しく出掛けていたところを裏路地に連れてこられ、“個性”で抵抗する間もなく殺されてしまった哀れな被害者である。女の死体に着られた服を邪魔だと感じた猫科野は、その立てた人差し指の爪に力を込める。すると、その指だけがアンバランスに肥大化し、爪はナイフのように大きく尖っていた。鼻歌交じりに服を下着ごと引き裂くと、生気のない白い肌の裸体が晒される。その胸は豊満であった

 

服を引き裂いた際についたであろう赤い線の傷を見て、空鳴が怒鳴る。「何傷つけてんだ!何の為に“個性”使ってまで俺が殺したと思ってんだ!」「うるせえな、どうせ売るの中身だろうが。お前のフェチにまでいちいち付き合ってられっか」「クソ、真っさらな肌をズタズタに汚してやるのがいいんじゃねえかよぉ……ハァハァ」「また始まったか」いつものように顔を赤くし興奮するNo. 1な変態に残念そうな視線を向ける剛力。この4人組は全員が何らかの理由でヒーロー社会を憎み、疎み、馴染めず、追放された者たちだが、空鳴がヴィランになった訳は見て分かるように異常性癖が問題であった

 

仲間たちすら一歩引くような性癖を語り続ける空鳴を無視しながら、猫科野は死体の豊満なバストを見てニヤニヤ笑う。「けどよぉ、この女はちょいと勿体無かったなぁ。今は冷たいし硬えがデケェしなぁ……今夜はお楽しみだった、ですかぁ!?ザマァ!ギャハハハハハハァッ!!」男の死体に唾を吐きつけながら、あり得ないほど発達した犬歯を剥き出しにして下品に笑う。強者が弱者を蹂躙する弱肉強食の世界。いつも通りこいつらを捌いて売った金で好き放題しよう……そんな悪辣な考えが今日崩される

 

カッ…カッ…カッ……。耳のいい空鳴はドア越しの床を歩く音を聞いて、眉をひそめながら2人に警戒を促す。「……ンンン?おい、誰か来る」「あん?岩井の奴じゃねえの?あいつは外皮どころか内臓も岩みてェに頑丈に出来る「岩強」の“個性”だぜ?不意打ちじゃまず倒せねえし、暴れたら嫌でもお前が気づくだろうが」仕事を邪魔されたことに苛立ちを表しながらも、ダルそうに立ち上がる猫科野。だが猫科野、加えて剛力は知らないのだ。空鳴の耳には、確かな爆発音が響いていたことが

 

決して長くない、20秒も満たない時間……歩く音が止まり、軋ませながら扉が開く。「……ハ?」「何!?」「い、岩井?!」普段声の荒げない剛力が大声を上げる。開かれた扉から入ってきたのは……信じられないと言った表情で目からハイライトを失わせた、血を滴らせる岩井健の生首。その額には十字型の投擲武器…スリケンが致命傷ではないが薄く突き刺さっており、首だけのその状態は誰がどう見ても明らかに絶命していた。……そして、そんな彼の首を髪を掴みながらここまで運び、彼らの前に晒していた人物が当然いた

 

頭の天辺も含んだ全身に包まれた赤黒のニンジャ装束、両手には少し赤みがある鉄製の籠手。長く赤いマフラーのようなものを伸ばして巻いており、そして何より特徴的な口元を大きく覆うメンポ。そこには禍々しい字体で「悪」「殺」と刻まれている。悪辣非道なヴィランを殺戮する為に、鉄血の匂い漂う大部屋に「ヴィランスレイヤー」が乱入してきたのである!

 

「イヤーッ!」何の予兆もなくヴィランスレイヤーは手に持った岩井の首を投げつけアンブッシュする。何が起きたのか未だに理解しきれてない猫科野は、自身を標的に投げつけられたことに受け止めきれずにいた。「………ッハ!」しかし、寸でのところで彼はニューロンの海から脱出する!己の右腕を虎のような暴君の腕に変貌させると、猫科動物の如き反射神経でその顔を叩き落とす。亜音速で床に激突した頭はトマトめいて潰れ、彼の足元にあった死体の白い肌を血で紅く染め上げた

 

死体とはいえ仲間になんたる仕打ちと憤激するところ。だが、彼ら3人は使えない仲間は()仲間と既に割り切っている上、そこら中に開けられた麻薬や大麻を容量限界まで使用していたことにより高揚状態となっていた。非常に危険な状態である!そして、アンブッシュが失敗しても特に取り乱すことなく、ヴィランスレイヤーは手を合わせ丁寧にオジギをする

 

「ドーモ。レオパルド=サン、ショックウェーブ=サン、ストロング=サン、ヴィランスレイヤーです」それは猫科野、空鳴、剛力のヴィランネームである。なおすでに殺した岩井のヴィランネームはロックスキンである

 

「何!ヴィランスレイヤー!?貴様がそうだというのか!」3人組の中で唯一冷静を保っている剛力ことストロングが驚愕する。もっとも、違法物質を取り込んだ彼の身体とニューロンは病的なまでに侵されており、一般的な冷静とは程遠い状態である。右脇に散開しているレオパルドとショックウェーブの2人の目は正気を失っている

 

ショックウェーブに至っては口の端からよだれを垂らしながら奇声を上げており、もはや狂人にまで堕ちぶれていた。「キヒヒヒ…ヴィランスレイヤー?噂だけだと思っていたが、一体何をしにここまで?」「何をしに、だと?足元に死体を晒しておきながら、わざわざ理由を尋ねるとはおめでたい奴らよ」

 

「ヴィランスレイヤー」…彼の名乗ったこの名前は全てのヴィランを殺すという決意であり、ヴィランたちの大半にとって恐怖の代名詞であった。「私がここに来たのは貴様らを全員殺す為……ヴィラン殺すべし!」簡素に理由を述べ、ヴィランスレイヤーは宣告する。彼のアトモスフィアには十分に殺意が宿っており、戦いというものを知らないモータルは見ただけで失禁し、気絶し、嘔吐し、最悪ショック死もあり得ただろう

 

だがレオパルドたちにとってヴィランスレイヤーという存在は信じるにも恐れるにも足らずな名である。四肢と頭を凶暴な虎に変え、レオパルドはヴィランスレイヤーに突貫する。「何がヴィランスレイヤーだァ!どんな“個性”か知らねえが、俺の「虎ンス」に勝てると思ってんじゃねぇー!」

 

コンクリートを砕くほどの強脚による速度、そして強靭な前脚から放たれる爪の乱舞が宙を裂く。一撃目は回避に成功するが、二撃目三撃目と虎の動体視力と身体能力から繰り出される斬撃は躱しきれない。アブナイ!「イヤーッ!」SLUSH!

 

だがヴィランスレイヤー、咄嗟の判断で切られぬように籠手で防ぐ。ガキリッ!と籠手を少し傷つける程度で済んだものの、その腕力の重みまでは相殺しきれずヴィランスレイヤーは大きく仰け反る。「ヌウーッ!」「どうしたよ!さっさとお前の“個性”を使って、みろよォーーー!!」再び虎の横一閃!強烈な斬撃が空気を切り裂き、風圧を作る。やはり速い!恐るべき斬撃!

 

しかしそこにヴィランスレイヤーの身体は存在しない!腕を地につけブリッジ回避!「何!?」なんたる俊敏性!彼の猛攻で戦いに参戦できないショックウェーブとストロングは、常人の3倍に膨れ上がったレオパルドの身体能力と互角に渡り合う速さと頑丈さに、ヴィランスレイヤーの“個性”が常時発動の強化型ではないかと当たりをつける

 

そしてこの回避は、次の攻撃への予備動作でもあった。「イイヤアアーーーッ!」「ブガッ?!」ゴウランガ!ブリッジ状態でさらに素早く後転し、その反動を利用してのハイキック!攻撃の最中で身動きの取れない虎の頭部の右側に強く直撃した!己の素早さ故に手痛いダメージを負ったレオパルドは、肉体強化による速度とバランス感覚を使用し空中で態勢をとろうとする

 

だが、「グワッ!」おおっ、見よ!不意に視界を歪めるほどの酔いと全身への激痛がレオパルドを襲う!獣に変貌していた姿が人間としての状態に戻っているではないか!「グウーッ!」レオパルドはうずくまって呻く

 

「虎ンス」は人間身体を虎の反射神経・動体視力・身体能力などに変える身体変異型の“個性”。能力自体は非常に強力だが、当然ながら制限時間は存在する。そして変異が解けた時に変異した部位、数に応じて反動がやってくる。酔いは反射神経と動体視力が急に人間並みに戻ることから、激痛も同じく人間に戻った際に虎状態での肉体の酷使が人間の身体に還元されることから

 

本来ならば長期戦も考えてここまで“個性”を使いはしないのだが、薬による高揚感が彼の判断力を酷く鈍らせていた。激痛により、一瞬だけ思考が冷静になる。(((クソッタレ!この状態じゃ当分動けねぇ!おまけに頭蹴られてクラクラすーーー)))「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

ヴィランスレイヤーの容赦なきスリケン追撃!レオパルドの脳天と心臓に深々と鉄塊が突き刺さる!2つの局所を同時破壊された猫科野は空中で痙攣を起こすも、地に落ちた数秒後には物言わぬ亡骸となり…「サヨナラ!」レオパルドはしめやかに爆発四散した

 

死神のような視線が、残りの2人を一瞥する。「ウオオオーーーーー!!」大地を揺らす叫びを発したのはストロングだ。仲間を失った悲しみか、己を奮起させる怒りか、目に見える両腕を膨張させてヴィランスレイヤーに殴りかかる!

 

ストロングは「ビルドアップ」の名前通り筋力を強くする“個性”。単純だが人間以上の力を引き出すこの“個性”、レオパルドの「虎ンス」のような目立った弱点も存在しない。強いて言うならば、筋肉の硬直により人並みの柔軟な動きができなくなることくらいだ

 

しかし力だけで速さが足りない!赤黒の身体を動かし、腕を逸らしながら難なく回避!拳の当たった床が破片をばら撒いて砕ける。「喰らえ!」「ヌウッ」もう1度と言わんばかりにストロングはその豪腕を横に振る。ターゲットはもちろんヴィランスレイヤー!ヴィランスレイヤーは対応すべくジュー・ジツの構えをとった

 

右手の掌を整えた状態で前に構え、その後ろ左に同じく整えられた左掌が若干上向きで制止させる。今まで戦ってきたヴィランの多くをジゴクへ送り込んだ、ヴィランスレイヤーの殺人カラテである!迫り来る筋肉の塊をポンパンチで迎え討つ……その直前!

 

「グワーッ!?」何が起こったのか!?突如ヴィランスレイヤーが血の涙を流し、苦しみ始めたではないか!そのメンポの下からも血を垂れ流している!追い打ちをかけるようにストロングのパンチが炸裂!「グワーッ!」ナムアミダブツ!物理法則に従いヴィランスレイヤーは殴り飛ばされ、壁面にヒビを入れながらしめやかに地面に倒れ伏す。立ち上がろうにも、彼の内部が強いダメージを受け立ち上がれない!

 

「キヒヒヒ!どうだヴィランスレイヤー、俺の「内臓破壊音波」の威力は!」「良いサポートだ、空鳴」ウカツ!多対一の戦いであることを念頭に置いていたにも関わらずヴィランスレイヤー、彼はショックウェーブの援護を許してしまった!しかし彼は武器を使っていなければ1歩もその場から動いてすらいない!では一体どうやって!?

 

それにはショックウェーブの“個性”の説明が不可欠だ。その“個性”は、人体では発することのできない音波を出すことができる「絶対音波」。これによりショックウェーブは人間の声よりも遥かに周波数の低い超低周波音、高い超音波を発することができるのだ!しかしその分身体の構造が複雑な為、常人の半分以上は運動能力が低い。付け加えれば彼は目も悪い

 

だが、それらを加味しても有り余るほどに「絶対音波」は応用性が高い。コウモリなどが使うエコーロケーションと呼ばれる超音波で物体を把握する能力を使えば、完全な闇の中でも行動できる。周波数を調整すれば、心臓あるいはニューロンのみを限定して破壊し殺すことも可能!彼はこうすることでモータルの内臓を傷つけず殺していたのである

 

「心臓や脳を破壊するには、相手に合わせて周波を完璧に合わせなければならない……だが!内臓を破壊する程度なら、相手に聞こえない一定の周波数を聞かせ続ければいいだけ!」「グウッ…!身体が……!」そして今、ヴィランスレイヤーはショックウェーブの超音波により内臓を著しく損傷していた。ナムサン!ニューロンが身体に電子信号を送り続けても、ヴィランスレイヤーはピクリとしか動けない!

 

「テメェはもう動けない!残念残念だ!」「これでトドメだ!ヴィランスレイヤー!」「ビルドアップ」により身体と同程度まで腕が肥大化する。痛みを無視して身体を動かすものの、既に時遅し。体内がボロボロの肉体は、壁の一部を壊す勢いで叩きつけられ……ヴィランスレイヤーの辛うじて繋いでいた意識は途切れた

 

 

 

「チッ、殺せたのはいいが……壁に大穴を開けちまった。これじゃあ隠れ家を変えるしかねえぞ剛力」「すまない…が、お前の“個性”を喰らってもまだ動くような奴だ。確実に殺しておいた方がいいだろう」「分かってる」あからさまに機嫌が悪そうにショックウェーブはそう返す。実際被害は甚大だ

 

襲撃によりアジトは破壊、元味方は半分の2人も殺られ、騒ぎを聞きつけられたらヒーローがやってくる可能性もある。アジトの破壊に関してはインガオホーとも言うべきではあるが、そんな倫理観をヴィランは持ち合わせてない

 

必要最低限の麻薬だけでも…そんなことを考えていた空鳴が、ふと思いつく。「やっぱあの野郎をもっと痛めつけなきゃ気が済まねえ!剛力、ヤクは俺がやるからテメェはあのクソ野郎を掘り返せ!あいつのアソコ引っこ抜いて、そっから内臓ブチまけてやる!」「分かったから大声出すな。ヒーロー共に聞きつけられる」これからこいつと2人きりなのかと頭が痛くなるのを堪えながら、ヴィランスレイヤーが埋まっている瓦礫の山へ近寄る

 

 

 

 

 

……ニューロンの海に、赤黒のニンジャ装束を纏った存在が沈みゆく。ヴィランスレイヤーの混濁とした意識は、深海に沈められたバイオヒトデめいてニューロンの闇の中を力なく浮遊していた(((音波による攻撃、での内臓と…直撃した…打撃での、外傷の……損傷が激しい。なんたる…ウカツ……ヴィランを、殺し続けたことで…できた侮り……と……連戦、ゆえの…集中力の……乱、れ……)))

 

ヴィランスレイヤーは、これまで数え切れないほどのヴィランを殺してきた。出会えば、裏路地だろうと、ヒーローがいる公の場だろうと、表が干渉できない裏の世界だろうと…己の中にある憎悪を、家族の無念を晴らす為に……今回殺すヴィランも殺してきたうちの1人となる。その考えが、敗北寸前まで追い詰められている理由なのだ

 

『情けない』そんな己の考えを自粛しようとした…その直前であった。『なんと情けない男よ』声が、聞こえる。忌々しい、しかし殺意だけが濃縮されたかのような……老人の声。『実際情けない』罵りを発したのは禍々しき影

 

まるでヴィランスレイヤーを文字通り影にしたような精神的容姿…ヴィランスレイヤーのニューロンに居座る邪悪存在である。『数が多かろうと弱小ヴィランと戦い油断、挙句このザマよ。これでは話にならんぞ………フジキド』

 

フジキド…藤木戸健二(フジキドケンジ)、それがヴィランスレイヤーの真の名である。「黙れ、オバケめ……」精神の中でうつ伏せに倒れながらも、フジキドは抵抗の言葉を発する。「まだ…やれる、私が……やるのだ。引っ込んでいろ………ナラク!」ナラク、それがこの邪悪存在の名である

 

ナラクと呼ばれた影は不気味に笑いながら、フジキドに問いかける。『やる?何をだ、小童(こわっぱ)……言うてみよ』「ヴィランを殺す!ヴィランを!」『よいぞ…よいぞ…』

 

精神に鞭を打ち、フジキドは立ち上がる。その胸に秘めた、隠しきれない憎悪を血涙と共に吐き出して。それをナラクは全面的に肯定する。「ヴィラン殺すべし…全ヴィラン殺すべし!」フジキドのニューロンで加速回転する、家族との思い出。(((父さん…母さん…兄さん……)))家族の為に働く優しい父、微笑みの温かい母、無個性でもヒーローを目指した誇れる兄。フジキドの心を温かくしてくれた人たちが…家族が、無慈悲な炎の中で燃えてゆき、目の前で殺された映像がビデオシアターめいて流れる!

 

『ならば身体を貸してみよ!!!』ナラクが、闇を滾らせる黒い炎と化す。それは復讐というにはヌルく、憎悪と呼ぶには安く、暗黒と見るにはあまりにも暗い……。そんなフジキドの心を掻き消しそうな息吹の中でも、フジキドは己を保ち否定する「ダメ…だ…」

 

とうとう精神力に限界が来て、白目を剥いて身体を傾けるフジキド。そんなフジキドをナラクは優しく倒し、フートンを被せ声を笑わせる。『よいよい、フートンで寝ておれフジキド…オヌシは実際限界であろう』邪悪存在とは思えぬ安らぎ…しかし、ナラクの言葉は全て甘言に過ぎず。ここまでのことをする理由は、たった1つ『ワシが見本を見せてやる、このワシが』

 

フジキドと同じく…全てのヴィランを殺すために。「ダメだ…!だが…ヴィランは…殺したい…」『そうよのう』フジキドの意識が溶けてゆく。「ヴィラ………ン…殺す…べ…し…」『そうよのう』後に残ったのは………

 

 

 

殺意

 

 

 

「ッ?!」ゾクリと、ストロングの全身に言いようもない悪寒が走る。先ほどのヴィランスレイヤーとの戦いでぶつけられた殺意……そんなものがちっぽけに感じる、絶対零度の黒い()()()。近づいていた瓦礫の山が爆発し、そこから黒い影が飛び出る。ヴィランスレイヤーだ!しかしその全身には黒き不浄の炎が纏われており、圧倒的殺戮アトモスフィアを発している!「バカな!?あれは絶対に死んだはず!それにその炎は!?」『イヤーッ!』

 

剛力が目を剥いて悲鳴をあげる。しかし彼の戸惑いなど無視して、ヴィランスレイヤーは空中回転!ガードしている両腕ごとヘシ折りながら蹴りを見舞いする!ゴウランガ!「グワーッ!?腕が!?グワーッ!」衝撃と痛みに2度叫ぶ!

 

(((あの黒い炎は!?あれがヴィランスレイヤーの“個性”!?ならばあの身体能力は素!?“無個性”状態で殺られたということなのか、2人は!?)))吹き飛ばされゆく中、ストロングは頭をフル回転させるがまともに働かない!

 

“無個性”が“個性”持ちを殺したという事実と禍々しい黒い炎の存在が、彼のニューロンを混乱のドン底に叩き落としていた。猫科野の時はスリケンを投げたヴィランスレイヤー、しかし今は信じられない速度で宙を飛ぶ剛力との距離を詰める。「Sonic・wave(ソニック・ウェーブ)!!」ナムサン!またもや横槍!

 

CRAAASH!!アメコミ風の技名と共に破壊音波がヴィランスレイヤーに直撃!だがヴィランスレイヤーはまるで意に介さぬ!ヴィランスレイヤーの傷はすでに塞がっているのだ。「内臓は確かに破壊したはず!何故だ!?俺の“個性”なのに!!」己の“個性”に絶対の自信があったショックウェーブはいよいよロウバイし始める。そんなショックウェーブに対して、ヴィランスレイヤーことナラクが顔を向ける。殺意の視線が赤い残光を残す。『オモチャめ!』

 

「ヒ…ッ…」震え上がり、失禁寸前までショックウェーブの精神は追い詰められる。目の前でそびえ立つ死に、完全に戦意を失っていた。しかし、だからと言ってヴィランを見逃すなど、ナラクの()()()()からはあり得ない。『イヤーッ!』「グワァ!」『イヤーッ!』「アバーッ!」

 

ストロングを蹴りで地面に叩きつける。同時に足場として活用したナラクは、流れるように裏拳で肋骨を砕きながらショックウェーブを吹き飛ばす。ショックウェーブは壁に激突『イヤーッ!』無数のスリケンが彼を壁に縫い付ける!カラテで吹き飛ばした直後に神速の速さで正確無比なスリケン投擲を行ったのである!タツジン!

 

『イヤーッ!』そして最後と言わんばかりにもう1発スリケンを投げ……。「アバーッ?!」ショックウェーブの股間を破壊した。ム、ムゴイ!しかしショックウェーブはヴィランスレイヤーの股間を憂さ晴らしのために引っこ抜き、さらに痛め付けようとしていた。インガオホーである

 

「サヨナラ!」壮絶な痛みでショック死し爆発四散したショックウェーブを満足そうに見やると、足元のストロングの頭を踏みつけて愉快そうに邪悪に笑う。コワイ!『グググ……“個性”に頼るだけの虫ケラ風情が、真のニンジャでありヴィランたるワシに勝てると思っていたのか?』

 

「グワッ、ヴィランを殺すヴィラン、ヴィランスレイヤー…。何故ヴィランを殺す…?」『何故?知れたことよ』異質に変化したヴィランスレイヤーの状態ではなく、同じヴィランを名乗りながらヴィランを殺す理由を求める。頭を踏む力を強くする

 

苦悶の悲鳴をあげるストロングを無視して、ナラクはただ淡々とそれを言う。『ワシの中の憎悪は、この世のヴィラン全てを殺さなければ晴れぬ。全てのヴィランはワシが殺す!』「き…狂人……」『さて、貴様はどう殺してくれようか…その強靭と自称する肉体を炙り殺してやろうか。幸い、焚べる薪には困らぬ……ヌ?』どうしたのだろうか?ナラクことヴィランスレイヤーが胸に手を当てると、先ほどまでの恐るべき狂笑を引っ込め思案する

 

『……早いな、フジキドが目を覚ますか。さらにこの騒ぎ…ヒーローが来るか』そう、草木も眠るウシミツアワーからだいたい30分ほど経ったこの時間帯、静まり返った夜にヴィラン同士の戦闘に周囲の一般人は不安になりヒーローを呼んだのだ。こんな時間でもヒーローは現れる

 

ここで乱入してきたヒーローを殺しても、ヴィランとしては特に構わないが…フジキドの復活とそれにより起こり得る拘束が何より不味かった。全ての邪魔者を消し去るのに、フジキドの肉体だけではあまりに心許ない。何よりヴィラン以外を殺したとすれば、フジキドが最悪の決断を取ることもあり得る

 

『……イヤーッ!』「グワーッ!」ナラクの行動は速かった。痛めつける予定だったストロングの頸椎を速攻で折る。そしてそのまま爆発四散。「サヨナラ!」巨体が弾け飛び、血飛沫が壁を塗りたくる。『イヤーッ!』そして開け放たれた壁から、人里の離れた場所へ走り抜けてゆく。ウシミツアワーの闇に向かってヴィランスレイヤーは翔ける




タイトルの意味は「ヴィランを殺す赤黒」。英訳は不真面目に行きます

設定なんて考えてません!本当です!1日でパッと思いついただけなのです……信じて!

何にせよ息抜きにはなりました。他の人の息抜きにもなれるといいですね

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