提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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提督(笑)のドッキリ企画

 

「あれ、扶桑も山城もどうしたんだい?」

 

「くまりんこっ」

 

 二人の少女、ショートヘアでボーイッシュな雰囲気の最上と、赤いリボンでツインテールに束ねたほんわかした雰囲気の三隈。二人とも最上型重巡洋艦の艦娘である。

 服装は臙脂色のセーラー服姿。違いは最上がキュロットなのに対し、三隈はプリーツスカートである。波止場で体育座りをする女性たちに後ろから声をかける。声をかけられた女性、扶桑と山城は心ここに在らずでブツブツとつぶやいている。

 

「波がキラキラしているわ山城」

 

「そうですね姉さま。キラキラしています」

 

「あれ、僕の声聞こえてない」

 

 最上は僕っ子である。

 

「お二人ともどうしたのでしょう?」

 

 三隈の「くまりんこ」と発した言葉は「こんにちは」と今回の場合は同義であるが、自分の事を「くまりんこ」と呼ぶこともあるので、そう言う感じのキャラ付けだ。また、一文字入れ換えると非常に危ない意味になるので使用の際は十分注意が必要でもある。

 

「山城」

 

 空を見上げる扶桑。

 

「はい、姉さま」

 

 それに倣い同じく空を見上げる山城。

 

「人間は素手で私たちを倒せるのね」

 

 扶桑の脳裏に甦るのは鍛練室を外から覗いていたときの光景だった。

 加虐的な笑みを浮かべて鬼と呼ばれた艦娘を投げ飛ばしていたとある男の顔。当の本人は顔がひきつっていただけなのだが、残念ながら嵐のように去っていったため、真実は闇のなかである。

 

「……たぶん、アレだけだと思います」

 

 山城のその言葉は嘗て艦だった頃に最期を共にした艦長の言葉と一緒であった。

 

 西村艦隊──レイテ沖海戦と呼ばれる史上類を見ない数の艦艇が参加した大海戦の一翼を担った艦隊である。

 このフィリピンに上陸した連合国部隊の撃滅を企図した日本海軍と、それを阻止せんとする連合国艦隊の間で起こった一連の戦いの中でも、最も激しい戦闘を繰り広げたと言われる(異論あり)。

 

 大和、武蔵という当時の最大最強を誇る戦艦を有する主力の第一遊撃部隊の栗田艦隊。

 

 信濃、瑞鶴という新鋭最大空母と歴戦空母を有する敵機動艦隊を誘引する目的の囮部隊である小沢艦隊。

 

 那智、足柄を主力とする第二遊撃部隊である志摩艦隊。

 

 そして山城、扶桑を有する西村艦隊である。旗艦は山城。麾下に扶桑、最上、三隈、時雨、夕立、山雲、満潮、朝雲となる。史実では準備段階でごたつきや遅れがあり、急遽、西村艦隊が栗田艦隊とは別のルートでレイテを目指すことになったが、何処かの誰かのせいで最初から第一遊撃部隊とは別の分隊としてスリガオ海峡突破ルートが策定された。それは当時、作戦前の状況からすると捨て駒にされたとの認識を持たれても仕方がないものであった。最短ルートでレイテ湾を目指せるが、敵に最も発見されやすく航空攻撃に晒され、よしんば航空攻撃を凌ぎきっても敵艦隊に待ち構えられるルートであったからである。現に西村艦隊の参謀達からも不満の声が上がった。

 

「百戦錬磨の帝国海軍士官が出来ぬと仰せならば、僭越ながら小官に指揮を執らせていただきたい(指揮代わってやるから指揮権寄越せよ。または出来ないの?俺なら出来るけど:意訳)」

 

 と何処かの誰かに言われれば、黙るしかない。そもそも山城の艦長と三隈の艦長はそう宣った輩の同期であり、奴が行けるって言うんだから行けるだろと納得するし、山城艦長の篠田は駆逐艦菱、野風、三日月、暁、第九駆逐隊司令、軽巡長良、大淀の艦長としての軍歴を持つ水雷屋肌の人物であった為、対航空機戦はともかく、艦隊戦であれば敵を喰らってやろうな突撃上等の将であった。

 三隈のほうも史実ではミッドウェイで沈んだが、そもそも原因は最上と衝突したことで損傷したためだ。それ自体は軽微なものであったが、そこを敵の航空機に執拗に狙われて傷口が開いて沈むというのが大まかな流れである。今世では道に迷った夕張がミッドウェイに紛れ込み、多くの敵航空機攻撃を誘引していたのでレイテ沖海戦まで生き残っている。そしてその艦長に青葉や扶桑の副長が就いたあと陸上勤務が続いたが、レイテ海戦の約半年ほど前に中津という人物が就任した。これまた兵学校同期である。ちなみに扶桑の艦長はミッドウェイの時に夕張の艦長であった人物で、井上と並ぶ無茶振り被害者の会に属していたとかなんとか。

 そんなわけで大型艦艦長の三人(一人はものすごく苦い顔であった)が賛成するんじゃ参謀達も渋々ながら納得せざるを得なかったのである。

 

 そもそもの話ではあるが、大本営というか軍令部が現場に無茶振りしたのが事の発端のレイテ沖海戦なのである。

そろそろ連合国がフィリピンまで攻めてきそうだわーとなったとき、

 

 目標:敵の上陸部隊および輸送艦隊の撃滅。

 作戦:細かいところはそっちで決めて。

 現場:コレコレこんな風になった場合、どうします?

 軍令:高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変な対処しろ。

 細かくいえば艦隊決戦したい現場とそれじゃ勝てんという上で軋轢があったりとかするのだが、大雑把にいえばコレである。

 

 そこで、それをやるならこうです。と第一次ソロモン海戦で輸送部隊にヒャッハーをかけ大戦果をあげ、尚且つ史実のカンニングで大まかな流れをしっている頭にスッゴイAIが入った無表情少将が現場で囁いたのだ。

 

 囮部隊を使い、敵の機動部隊を誘引しなさい。

 さらに目標攻撃部隊を分ける事によって敵の航空機攻撃を分散させます。運が良ければ、こちらが何をしたいのか相手に悟らせない欺瞞効果が期待できるでしょう。

 潜水艦? 気にしなくてよろしい。

 決行日まではフィリピン、台湾の航空隊は少々の反撃程度に留め、大部分は隠匿して備えましょう。

 挑発してきても乗ってはいけません。分かりましたね多聞丸? 

 これが嵌まれば『こうかはばつぐんだ』が出ることでしょう。

 理由? コーンパイプのおっさんの心理を逆手に取るのです。こちらの航空機が少ないことで反撃できないほど弱ってると錯覚させるのです。さすれば、相手の進攻日と上陸地点に大まかな予想が立てられます。なにせもうすぐクリスマスです。コーンパイプのおっさんは「クリスマスまでには」と功を焦りましょう。そこが狙い目です。

 

 と、胡散臭い占い師のように言ったわけではないが、概ねこのようなことを現場会議で囁き、一番上であった栗田がその策を採用したのであった。

もちろん、それに問題がなかったわけではないが、結局は他に手はないという結論に至った。

 

 そして西村艦隊にはその無表情無愛想少将……長野から直接伝えられる。まず間違いなく敵はレイテ湾から上陸する。そうなるとスリガオ海峡あたりで敵艦隊に待ち構えられる。

 戦うなら夜戦が好ましい。狭い海峡内であれば開幕酸素魚雷ぶっぱで一隻位は殺れる。そこで敵が混乱したら、突撃で殴り合いに持っていける。相手も同じことをしようとするから、酸素魚雷で相手の魚雷の届かないうちの先制が肝だということを。

 

 長野も真珠湾で戦艦が悉く沈んだから言えることである。これが史実通りであればさすがにそんな無茶なことは言わない。

 相手も戦艦2~3隻であろうという確信に似た予測であり、それまでの戦いで史実より大幅にアメリカ海軍が損害を被っていたからである。そして、相手にある程度損害を与えたなら退却してかまわないとも伝えている。

 実際、スリガオで待ち構えていた第7任務部隊の戦艦はアイダホとテネシーの二隻であった。

 だが、この戦いは敵味方の近距離殴り合いまで進み、両軍が満身創痍と言うありさまではあったが途中、志摩艦隊が加わったことにより西村艦隊の勝利といえる結果となった。

 合流した志摩艦隊もその結果ひどい有り様にはなったが。山城、三隈、時雨、夕立、志摩艦隊から合流した那智がレイテ湾を目指した。

 

 

 そこで山城が見た光景というのが、レイテ湾に停泊していた輸送艦隊に大損害を与え、任務を達成したものの敵に追われる第一遊撃部隊第二部隊の姿であった。

 

 

 途中で反転命令が出たが「通信機が故障している」という事にしてレイテ湾に突入した。敵主力艦隊が気づいて追いかけて来ているから逃げるぞという旨の通信(・・)が山城に届いたのであった。それも殿で敵に集中的に狙われている金剛から。

 

「本当にやれるとはな」

 

複雑で柔軟性の乏しい作戦において一応は目標達成したことに対して漏らした西村提督の呟きに、

 

「……たぶん、アレだけだと思います」

 

そう答えたのが篠田艦長であった。

 

 

「お~い、扶桑、山城~! あ、ようやく気づいた。一体どうしたんだい?」

 

何度も呼びかける声に対して、空を見上げた扶桑は後ろに振り返る。

 

「最上、私、飛ぶわ。だから貴女も飛びましょう?」

 

「え、えぇ、いきなり何!?」

 

「嗚呼、姉さまお労しい。山城もご一緒します。アンタも飛ぶのよ」

 

「一体なんですの?」

 

 困惑する最上と三隈。

 

 果たして航空戦艦と航空巡洋艦が空を飛ぶ。そんな日が来るかは今は誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん、なんだこの状況? わけがわかないよ。

 

 場所はホテルの一室。そして俺の目の前に並べられたモニター。それを椅子に座って見ている俺。

 映し出されているのは宴会場。んで老人達が和気あいあいと宴会を楽しんでる光景が映し出されている。

さらに俺の横にはお医者さんが一緒にモニターを眺め、後ろには看護師さんが数名待機していらっしゃる。看護師さんたちは一人につきひとつのAEDを持っている。

 

 以上、状況説明終了。

 

 だれか、めしたのむ……じゃなかった。説明してくれ。いや、説明はされたんだよ。主計さんから。

 

「パニックになりかねませんので一先ず、こちらで待機願います」

 

 だってさ。

艦娘のほうがパニックになるとおもうのだが、「艦娘で慣らしてから」とか訳の分からんこと言うわけですよ。なんか人を怪獣だか危険物だかみたいに扱ってませんかね? 

 

……あぁ、刀ぶら下げてましたわ。めっちゃ危険人物だった。

 

 道理で、先ほどからチラッチラッってお医者さんが視線を向けてくるわけだわ。なんかごめんね? 

 

「楽にしたまえ」

 

俺の事は気にしないで楽にしてて?

 

「はい。……なんだかドッキリのようですね」

 

 言われてみればその通りである。会場にいきなり艦娘が現れたらどういう反応を示すのかやってみた!みたいな?

 

「この老人たちは?」

 

「戦友会みたいなものと伺ってますが」

 

なるほど、モニターに映る何人かが見覚え有るわけだわ。

 

『絶対儂らは見た!』

 

『あれは間違いなく金剛だった!』

 

『儂ら三人だけじゃなく本土から観光に来た若いのも見たんだからボケ扱いはやめろ!』

 

 これとか父島に行く途中で会った漁船の爺さんたちだろ。

 話してる内容は良く分からないけど、今から本物が登場するけど大丈夫か?

 

「あの、詠元首相とはどういったご関係か聞いても?」

 

 モニターを眺めてると横から恐る恐るといった感じで話しかけられた。見た目的には俺のほうがめっちゃ年下に見えるはずなんだけどなぁ。

ふむ、主計との関係か。

 

「昔、世話になった」

 

 いやほんと、めっちゃ優秀なんだよ主計さん。五十鈴の艦長やってたときなんか、在庫の缶詰一缶に至るまで艦の事を熟知してたんじゃないかと思うもん。

俺が水兵だったら主計さんがいたらギンバイしようとか思わんもん。

 まぁ、どうしてもやるとしたら物資の積込の時を狙うけどな。そんな話を主計さんにしたら「対策を考えておきます」とか真顔で答えられたけど。実際、その頃は艦政本部と艦長職の併職だったから、ギンバイする奴が結構いたんだよ。最終的に張り込み俺っていう至ってアナログな解決策が示されたわけだが、ムスカごっこ楽しかったから良し!そんなわけで、マジで死ぬ直前までお世話になりっぱなしなのよ。いや、実際には死んでないんだけどね。

 

 俺の事はいいんだけどさ、あなたたちはどうしてここにいるのでしょうか? 

 

「あなたは?」

 

「私の父も会場にいましてね、あとは金沢で医者をしているもんで、そこでご縁があって、こうして今回呼ばれたわけです」

 

 なるほど、もしかしたらサチを医者として看取ったのはこの人なのかもしれないな。

 

『Hey! Everyone! お元気デスカー!?』

 

 ちょっとしんみりしたと思ったら会場のほうで動きがあった模様。そんな登場の仕方で大丈夫か?

 

「ちょっと! コンパニオン呼ぶとか聞いてませんよ!」

 

 お医者さんが叫んだ。

 

 

 

 まぁ、そうなるな。

 

 

 

 

 金剛が会場に乱入したことにより、静まる会場。

 

『お嬢さん、会場間違えておらんかな?』

 

『ムム、アナタは航海長?』

 

『えっ?』

 

『Oh、そうでした。ワタシは艦娘の金剛デース! 皆さんよろしくお願いシマース!』

 

 おい、航海長ってまさかおい! 生きていたのか佐川君!? 海軍兵学校64期だぞ! 百歳いってんじゃねーか!

 

──否、1916(大正5)年生まれです。

 

こまけぇよ! あれだぞ、金剛の艦橋掠めて爆発した駆逐艦の砲弾で血だらけだったんだぞ彼。

 

──貴方は鉄材が腹部貫通してました。

 

そうだけどもっ! そう言うことじゃなくて! 薄々気がついてはいたが、もしやこの人たちに会いに行かなきゃならんのか? なんだこの逆ドッキリ企画は! 責任者を呼べっ!

 

 





航海長の佐川さんは完全架空の人

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