(ノ`△´)ノ ダイゴロー
長野です。ただいま沖縄鎮守府に来ております。
ここに所属する提督の一人に挨拶するため訪れているのですが、とても衝撃的な出来事が目の前に広がっております。
慰霊祭当日と次の日は島の反対側のうるま市の方の基地でお世話になっておりました。そんなわけで沖縄最大の海軍拠点基地であるここへ挨拶をかねて訪れた訳でございます。先ほど鎮守府の司令長官には挨拶を終えており、今こうして目的の提督と向かい合っているのですが、
日村一郎(ひむらいちろう)提督の階級は少将であります。
もう一人? 女性が後ろに立っているのだが笑顔で黙している。そちらは後にするとして日村提督だが、見た目?
どう見ても日本人に見えません。
短めの金髪です。お目目の色は緑色。顎がちょい割れてます。恵まれた体格と真面目に訓練に取り組んでいる事が軍服の上からも見てとれます。脱いだら格闘家みたいに見えるのではないでしょうか? 硫黄島の提督が喜びそうです。さて、彼の簡単な経歴はと言いますと、艦娘が現れる前からもともと海軍属であり、海軍大学を卒業して江田島の士官学校を出たエリートさんです。年齢は四十後半位。帝国海軍にいた身としては違和感を覚えてしまいますが、そういえばそうだったなと平成を生きた記憶を思い出しました。
大日本帝国海軍は中学卒業→海軍兵学校(士官学校)→海軍大学校の順。
日本海軍(自衛隊も)は高校卒業→防衛大学校→海軍士官学校となる。
海軍士官学校が帝国海軍の海軍大学校に相当するというわけである。
江田島で提督候補以外から向けられた視線の意味が理解できたわ。そら、なんやこいつらってな感じで内心穏やかにはなれんだろうな。
「めんそーれ。日村です。日本の守護神たる貴方にお会いできるとは感無量です。海域解放もお見事でございました。閣下にもご足労頂きまして感謝申し上げます。良い演説でありました」
どうもご丁寧にありがとうございます。
某の名は長野壱業……? 業和? どっちだ。
「長野大佐であります」
と下の名は省いて敬礼。そのあと握手して…ねぇなんでずっと握ってるの? 自分はノンケなんでやめてほしい。
「んんっ」
咳払いをしたら席を勧められたので主計と共にお言葉に甘える。
というかめっちゃ日本語ペラペラですね。
それどころか、グンマーの右の方の訛りを感じさせます。
「ハハハ、大抵初対面では皆さん驚かれますが、平然としておられますな」
いや、驚いてるよ? 顔に出にくいだけで。というかなんで敬語? まぁ、めっちゃ年上になるので敬老精神かな? 俺はめっちゃ若返ってるけどね。
階級的にそれでええのだろうか?
「こう見えて私は生まれも育ちも栃木でして。まぁ祖父母はドイツ系ですがね。私自身は全くドイツ語は喋れんのですわ! ハッハッハッ」
あ、そうなんだ。WW1後のドイツ移民組のご子孫さんですかな?
「それにしても、ずいぶんと人気があるのですなぁ」
窓の外を見る日村提督。そこには鎮守府内の施設と港しかないのだが、言わんとすることはわかる。俺のことではなく艦娘さん達の方。
「沖縄の守り神たる臨時艦隊の艦娘が来ているとなれば当然の反応かと」
何故、当然のように主計さんはこの場にいるのだろう?
しかも軍服まで着用しているのだが、どういうことなのだろうか、謎である。
「主計……いや、詠……か」
今更ながら総理まで勤めていた人物に主計はないだろう。俺も閣下とでもつけるべきか?
「主計で結構です。それより私は司令官とお呼びするべきですか、それとも提督とお呼びするべきでしょうか」
そんなことを真剣に悩まないでほしい。
「……好きに呼んでくれ」
「……ふぅむ」
どっちでもいいんだけど、ほんとに。
いやそれよりジジイ無理すんな。ってな具合である。
この人、百歳に王手かかってんだぞ。
──バイタルチェック実施。……健康状態に異常無し。肉体年齢は七十九歳の平均値と合致。
なんだおまえその機能、便利だな!
いやいや、といっても八十歳のお爺ちゃんなのは変わりない。だから主計さんの頭の上でぺしぺしするんじゃない。
「うん? これが妖精ですか、じっくり見るのは初めてですな」
頭の上にいたミック先生を捕まえてマジマジと眺めてる主計さん。
「閣下は適性をお持ちでしたか!」
と日村提督。そういや、妖精さんとコミュニケーションとれるのが提督適性(艦娘を指揮できる能力)の条件ってのがあったっけ。
「持っていたのは知っていたがね。何しろ棺桶に片足突っ込んでいる歳だ。流石に赤紙は出されなかったよ。それにしても不思議なものですな」
「ブレーダゾ ジジイ ハナセ」
主計さんの手を緑色の葉物でぺしぺしやってるミック先生。君の方が無礼だよ。
──解放を要求します。
「主計、それをくれ」
興味深げに観察していた主計さんはこちらにネギ持ちを渡してくれた。
んで、ぽいっ。
夕飯までに帰っておいで。
──かしこまり
そしてミック先生は窓を開けて飛び降りていった。
夏の暑い風と潮のにおいが室内に入り込む。それとわずかばかりに拡声器を使った音が流れ込んできた。
それを聞いて主計さんは眉をしかめ、同室にいた女性が片手で器用に窓を閉めた。外も気になるけど、それよりさぁ、
「主計、何故軍服を纏っている?」
コスプレか? そういやコミケ会場にもけっこうな数の改造軍服着てたレイヤーさんもいたな。巷でも流行ってるのだろうか?
「今度は何処までもお供させて頂きます」
いや、うん。気持ちは嬉しいのだけどね。
貴方、ご自身の年齢を考慮してくれませんですかね?
「無理をするな」
「この老骨、今さら己が命に未練など持ち合わせておりません。邪魔だとお思いならば切り捨ててください。しかし活躍を見届けよと仰られたのは司令官ではありませんか」
いや、言ったけどさ。長生きしてくれよって意味なんだけどなぁ……。
どうしたもんかねぇ。
「長野提督、表の団体についてですが、如何されますか?」
困って窓の外を眺めていたら日村提督が声をかけてきた。
これが先ほど日村提督が人気ですねと言ってたやつだ。
艦娘に会いたいって団体と、なんかよくわからん団体が入り口に集まってる。前者は別にいいんだけど、後者がよくわからん。前世では本土から見捨てられた感情を上手く利用して国内外問わず反米、反日運動家が多くいた地であることは理解している。もともと沖縄本土と周辺の島は大陸本土とかからの移民が開拓してパイナップルとか育てていたということもある。それはこちらの世界でも変わらない。だが、犠牲はあったとしても見捨てられたとは言い難い状況を作れたはず。いや、犠牲は出たのだ。たとえ、俺の知ってる歴史とは違っても、今ここで生きている人達にとってはそれが正史になるのだから、俺が烏滸がましく何か言える立場ではない。
犠牲なき勝利とは外交段階でしか成し得ない。
それは分かっている。いるのだが、どうしても考えてしまう。あの時、こうしてれば、ああしていればと。
やり直しの歴史を歩んでいた身でもそう考えてしまう。
……届かないからこそ理想か。
それでも今度は守りきる……必ず守る。
「あれは何を主張している?」
話し合いが可能であればそれに越したことはない。
ないのだが、おそらく平和市民団体の方は結局はウォッカの国かパンダの国から支援を受けているのだろう。話し合う余地があるのか?
「一言で言えば、艦娘を寄越せと言っとります。全く米軍は出ていけと言ったり、居なくなれば見捨てるのかと言ったりと忙しい連中ですわ。今度は世界平和の為に艦娘を派遣しろってお題目を掲げとります」
やれやれといった具合の日村提督。自衛隊……ではなく日本軍はいらない。人殺しと言ってるような連中がいないだけでもマシと考えるべきか……? ここにいないだけでどっかにいるのかもしれないが、この時勢で流石にそんな事を声高に叫んでいる連中はいないと信じたい。
「大国の尖兵にされていることすら気づいておらんのでしょう。まぁ、司令官が手を打たれておいでのようなので、あとは諜報部と公安が動くのを待つだけです。そちらは放置で宜しいかと」
え、いつの間に? 記憶にござ……あっ、ネギ持ちか。
「いやはや、米国を震え上がらせた諜報力は健在ですか。敵には回りたくないものですな」
としみじみ呟く日村提督である。
ミック先生の妖精姿を思い浮かべるとピンと来ないが、確かに恐ろしいかもしれない。
主計さんは放置でいいと言ってるが、今の段階だと艦娘に会わせてくれといっている団体も会う訳にはいかない。平和市民が絶対に騒ぐ。
しかしウォッカの国は昔から余計な事ばかりする。
そもそも日米開戦の原因の一端は当時のソ連だ。
一方的に米国がハル・ノートを突きつけて日本に開戦の意志を固めさせた。……と思われがちだ。それも間違ってはいないが、無理難題を相手に要求することからはじまるのが当時の外交である。だから日米で「この要項はこうならば受けてもいい」とか「いやいやそれは無理、それならここまでなら妥協する」というやり取りをしてたのだ。両国共に時間稼ぎって面もあったのだが、だが、最終的に米国政府にいたソ連の回し者が日本が全く呑めないものを「これが最後だドーン」とやりやがったのだ。
そんでもって日本にも政治中枢に近いところにソ連の回し者がいたので、まぁ、そうなるな。
だから、戦時中は日本国内の赤狩りは商会を通じて徹底させてもらった。
でもどっかから湧いてくるんだアイツら。……Gかな?
そんなわけで商会は特別高等警察、いわゆる特高とは、けっこうなパイプを持っていたようなのだ。そのせいで後世で陰謀論とか都市伝説の玩具にされるって言うね。
警察の公安の前身というか源流が特高なわけで、しかも今も交流が続いているようで、そんな裏事情を知っている人がいたら、そりゃ敵には回りたくないと思うよね。
だけど、なんだよ長野機関て……、んなもんねぇーよ。
「提督、そろそろ紹介してくれないかしら?」
今まで沈黙を保っていた女性が口を開いた。
「あぁ、そうだったな! 長野提督、こちら足柄ですわ! 私の指揮下には他にも何人かおるんですが、長野さんとこのちびっこたちと遊び回っとります! 指揮下以外にもおるんで、あとで彼女らにも会ってあげてください」
「ちょっと提督。声を少し小さくしてくれるかしら?」
餓えた狼さんである。
茶色の長髪でスレンダーでかつ長身。母性の象徴も然りと。大人の色気のある餓えた狼さんこと、妙高型の3番目足柄さんである。
ゲームだと勝利とカツカレーとよく吠えている餓えた狼さんである。
餓えた狼とは大戦前に英国に遊びにいった際に英国からつけられたあだ名である。無骨過ぎてそう言われたんだが、良い意味で捉えちゃった日本海軍である。ブリティッシュジョークは当時の日本には難しかったのだ。
という雑学が有名であるが、これも実際には餓えた狼とは言われていないのだ『イーグル(英空母)は女の子っぽいけど足柄は狼っぽいよね』と言われたのが回り回って飢えた狼となったそうだ。
そんな妙高型の彼女はワシントン海軍軍縮条約のもと造られた巡洋艦であるが、設計と建造とその後の艦船設計で揉めた艦型でもある。
設計はメロンちゃんの生みの親でもある平賀氏。多くの軍艦の設計に携わり、大和型の設計にも関わっている人物だ。
妙高型に「魚雷不要やろ」という平賀氏と「駆逐艦と一緒に突撃して魚雷ブッ放」を主張する軍令部で一悶着。
なんやかんやあって条約の10,000トンを越すという。
これに関しては平賀氏に賛同を示したいが、一方で頑固過ぎ、リベット打ちに拘ったり、電気溶接に否定的であったり往年は精彩を欠いていた。ええ、何度も口喧嘩しましたとも。
潮の艦長職後に海軍工廠火工部に異動……っていうか行きたいと言って行ったのだが……。
そこで煙幕に使う薬剤の黄金比を研究していた。そして大戦中に大活躍(私見)した『煙に巻く君3号』を開発した。丁度、大和型戦艦の設計が本格化していた頃だ。
46センチ砲弾関連で関わることになるのだが、
『
こんなことを海軍の中で言われるくらいには口喧嘩した。
「司令官、どうかされましたか?」
と主計さんの言葉に現実に引き戻される。どうやら遠い目をしていたらしい。さて、ちゃんと現実に向き合おうか。
「壮健そうで何より」
「ええ、とっても元気だわ! 今夜はカツカレーね」
元気だわ! からカツカレーの間に、もっとこうあるだろ?
餓えた狼……個人的には嫌いじゃない。昔、山で追いかけっこしたことあるしね。
ただ、こっちの足柄さんとはさほど関わりないのだ。
基本的に南遣艦隊に所属していた彼女はお留守番してることが多かったから。カンガルーの国に艦砲しようぜと言って何故かインド洋で紅茶の国とやり合った行き帰りで停泊してたのを五十鈴から見てたくらいか? あ、南遣艦隊の司令部に「んじゃ五十鈴はこのまま借りていきますんで」って二水戦の司令官を迎えに行った時は隣に停泊してたか。
「勝利の日は近いわね!」
そんな足柄さん、私の顔を見てそんなことを仰います。
でね、開幕からズゥーッと気になっていることがありましてね。
「その子は?」
足柄さんの腕の中でスヤスヤと眠る赤子のお姿が見えるのです。
「私と足柄の子ですわ。かわいいでしょ!」
「だから提督、声が大きいわ」
「ハッハッハ! すまんすまん」
笑てる場合か!
テメェ! ヤリやがったなっ!
こちとら童貞なのに! 童貞なのにぃぃぃ!
足柄嫁の提督諸兄へ
なんかごめん