容姿は勝手に脳内補完してちょ。
降り注ぐ夏の日射し、空の青さ、南洋の青い海。
バカンスであれば絶好のロケーション。
しかし飛び交うのは怒声と砲撃と水飛沫。
「援軍はまだ!?」
マルセルウェーブのブラウンヘアーを振り乱し叫ぶ美女はアメリカ合衆国海軍セントルイス級軽巡洋艦の艦娘のヘレナ。
ミッドウェー方面からの突如の深海棲艦の大攻勢。
ハワイ諸島の西部海域の哨戒にあたっていた彼女たちは第一報を送るとともに後退遅延戦術に移行。
ようやく、ホワイトハウスやペンタゴンが重いケツを上げて艦娘主体の反抗作戦を実施することになった矢先の出来事であった。裏事情を語れば日本に人類初の海域奪還の名誉を越されたため、太平洋の覇者たる我が合衆国が遅れをとってなるものかという実に“らしい”理由であった。
「パナマが襲撃受けてるって! パールハーバー(ハワイの海軍基地)は援軍をそっちに送ってて呼び戻しに時間がかかるって! 周辺哨戒部隊が駆けつけるって! 合流して持ちこたえろだって!」
マハン級駆逐艦の艦娘カッシングが対空砲撃をしながら叫ぶ。
彼女達が哨戒任務に出た暫しのち、パナマ運河が深海棲艦の襲撃を受けており、パールハーバーから主力艦隊が緊急出撃していた。
「クソッタレ! ジャップお得意の囮作戦かよ!」
グリーブス級駆逐艦エモンズが魚雷を発射しながら悪態をつき、口の中のチューインガムを吐き捨てた。かの大戦中は主に大西洋方面で作戦に従事。末期には硫黄島攻略の際に作戦に参加した艦娘。
そして新月の深夜に硫黄島のアメリカ軍ベースキャンプを艦砲射撃して逃げる日本軍を追撃したのは良いが逆に鎧袖一触された。32000ヤードは離れていた筈なのに隣を航行していた巡洋艦アストリアが命中弾を浴びたのだった。一発ならばラッキーヒットとして捉えられるが、計2発の命中と、至近弾1という悪魔のような手腕を見せられ、追撃部隊は追撃を断念したのである。
「あれがジャップの亡霊なら貴女のへなちょこ魚雷が当たる訳ないでしょ」
エモンズの放った魚雷が命中したのを見届け、そこに追いうちの砲撃を放つのはフレッチャー級駆逐艦のネームシップのフレッチャーである。戦時就航の後、太平洋の激戦の多くに参加した歴戦の戦士。絶望の沖縄と呼ばれた海戦では戦艦アイオワと共に生き残り、従軍勲章をいくつも賜った。
「なんだとー!?」
「あれだけの数揃えてきたやつらが、忌々しいジャップの亡霊なら、私も貴女も今頃海の底に沈んでるわ」
沖縄戦、戦後は友軍として肩を並べたフレッチャーは思う。圧倒的な戦力差であろうとあいつらが本当にジャップの亡霊ならば容易くこちらを食い破ってくると。第三次ソロモン海戦では大乱戦の中で探照灯をこちらに向けて照射し続け、夜が明ければまるでゴーストのように消えていく。ルンガ沖夜戦では圧倒的優位にも関わらず、蹴散らされた。そして沖縄。フレッチャーは思い出したくもないが記憶として胸に刻まれた悪夢に艦娘として誕生した頃から煩わされていた。
悪夢の中の日本艦隊は邪悪で冷酷で美しくさえ思えるほど統率のとれた悪魔の集団だった。
軍艦というのは駆逐艦クラスでも最低で数百人の乗員からなる。合衆国海軍の水兵達も勇敢な海の男達ではあったが、沖縄で敵であったアレは恐怖など感じない、自分達を殺すまで止まらない。という狂気の意志で動く悪魔そのものであった。
しかし今、目の前にいる敵は姿かたちは悪魔のようだが狙いを定めれば当たるし、当たれば沈む。沈まなくとも動きは鈍る。「死なばもろとも」と突撃してくるわけでもない。中にはそういうのもいるがそこまでの恐怖はない。戦闘は厳しくとも勝利できるという希望も持てている。ジャップの亡霊なんて冗談じゃない。こいつらは良いところジャップの亡霊のなり損ないだ。だったら恐れるに足りない。
「ちゃんと止め刺したのを確認なさい」
フレッチャー級のネームシップ、米海軍ではマザーと呼ばれた彼女の一言に
「カッチーン」
と分かりやすく反応したエモンズであったが、
「ハイハイ! 喧嘩しないの。私の艦載機達も頑張ってくれてるけど護衛空母の私の搭載数少ないんだから上空警戒を怠らないで」
エモンズがフレッチャーに食ってかかるのを護衛空母のロング・アイランドが諫める。フレッチャーもエモンズも少々、口が悪いだけで不仲な訳ではなく、あれが彼女たちの日常である。だが、今は悠長に軽口を叩いている場合ではない。
「レーダーに反応あり! 敵が突っ込んで来るよ!」
エモンズの姉妹艦であるアーロン・ワードが叫べば、一様に気を引き締めて前を見据える乙女達。
「後ろから?! 違う味方機だぁ!」
後方上空より雲を切り裂くように飛来したの黒く力強い印象を与える艦上爆撃機SBD ドーントレス。
深海棲艦に向けて次々と急降下爆撃を敢行。
「…あれはサラの子達ね」
ロング・アイランドはトミーガン(トンプソン短機関銃)のような飛行甲板を構える頼もしい味方空母の姿が浮かんだ。
空母「サラトガ」
大人しい印象を受ける顔立ちに茶色の髪のポニーテール。レキシントン級空母の特徴である大きな煙突を象った彼女の髪飾りには、黒いラインに白字で「E」が描かれている。「E」は1938年8月の演習で、サラトガがその技量を称えられて「Excellence in Engineering(機関科最優) 」の称号を与えられたことを記念し描かれたものだ。大人しい印象とはいえ、太平洋での戦いは真珠湾後の再建途上にありながら日本海軍と対峙することを余儀なくされ、総崩れギリギリの非常に旗色が悪い状勢であっても決して出し惜しみせず、第三次ソロモン海戦では就役したての新兵ばかりの商船改装空母2隻。大西洋で輸送任務程度のレンジャー。そしてドゥーリトル空襲、ミッドウェー、第二次ソロモン海戦の生き残ったパイロット達をかき集めてサラに詰め込んだ急増部隊。どうにか戦線を維持し続け、太平洋戦争開戦時に就役していたアメリカ海軍の7隻の空母セブンシスターズのうち、戦後まで沈没せずに残った2隻の空母のうちの1隻が彼女なのだ。
「ふぅ、助かったわ。今のうちに後退して陣形を整えるわよ」
ヘレナの言葉に各々が答えて後退を始める。
「援軍が来るまでに倒しちまってもかまわないんだろ?」
エモンズの豪気な言葉に皆は笑った。
油断している訳でも慢心している訳でもない。
United States Navyの乙女達は厳しい戦いの中でもグッドコンディションを維持できているのだった。
…長かった。
ここまで来るのがほんとに長かった。
「今、取り込んでるのがみえんのかっ!」
「軍楽隊が私に何のようだ?」
どっちが細倉?
――細い方です。
こいつが細倉か。いやほんとに君には会いたかったんだ。
で、こっちの恰幅が良すぎるおっさんは?
――舞鶴方面司令の三元中将。
細倉に三元って中将ががなり立てているところに、我々はやって来たところだ。
そっと侵入したので少しの間、言い争ってた二人は俺に気づいてなかった。
その姿を見ていたら、時津風がいることもあってビスマルク海海戦のあとトラックに戻った時を思い出したわ。
陸軍の丸眼鏡参謀が海軍に文句いってる姿。
なんなの? マジでアイツ。史実じゃガトーでマラリア患って本土で養生するんでしばらく大人しかった筈なのに、ガトーから完全撤退するまでずっとガトーにいたらしいよ。妙に俺に対して馴れ馴れしかったしな。
――マラリアの治療薬作りましたからね。
そうなんだけどさ…。確かに戦争になって南方の島々が戦いの舞台になったとき必須だと考えてたよ。あと二郎ちゃんの婚約者を救ってあげたくて結核の治療薬とかね。で医療・製薬部門を作った。そしたらその人物は架空の人というじゃない。「婚約者の容態どう? もうすぐ治療薬出来そうだ」っていう二郎ちゃん宛に手紙書いたら「妻も子供も健やかに過ごしてます。どなたかと勘違いされてませんか?」って返信がきてポカーンとしてしまった五十鈴艦長時代。
そんな黒歴史を作ってしまいながらも1940年に入る前には両方出来上がったのだ。
まさか、それが回り回ってそんな影響を及ぼすことになるとは思わんかった。
潤沢とはいえないが史実よりは物資が届いてたからなガトー。攻勢をかけられるほどの物量はなかったハズだが、あの参謀がいたせいで現場の兵士たちは大変な目にあっただろう事は容易に想像がつく。正直いえば参謀殿には戦死して欲しかった。現場の兵士たちには人望あったし優秀でもあったのだろうが、史実じゃ戦犯追及から逃げまくりで海外逃亡。上官に責任擦り付けて、ほとぼり覚めたら帰ってきて政治家になる。CIAが下手に権力持たせると第三次世界大戦引き起こす男って評価を下したその男がだ。そんな奴が政治家になれてしまう日本もどうかと思うんだ。だから、徳田くんのお爺ちゃんの
あとは田中さんが二水戦の司令を外されたのは奴のせいだ。私としてはこれが許せない。もともと日本の水雷戦隊は指揮官の乗る旗艦が真っ先に敵に突っ込んで行く風習というか伝統があった。という事は真っ先に敵に狙われるということな訳で、戦争が長引くに連れ、戦闘開始早々旗艦が脱落して指揮系統が混乱するのはいかがなものなのか? と海軍の上の方も考えはじめた。そして後方で指揮を取るように通達だしたわけだ。ただ、現場の人間からはこれが弱腰ととられて不評。それでも田中さんは実行した。そしてルンガ沖夜戦。史実と同じように日本の勝利。しかし積んでた輸送物資は放棄。陸軍の参謀は海軍は非協力的だと俺を引き合いに出して文句を言ってきた。そして二水戦司令の田中さんは交代。俺はその頃、第三次ソロモンが終わって本土に戻されていた。俺が文句を言ってもブーメランが刺さるだけで海軍からは意訳すれば「二水戦の司令になりたいだけだろ」って言葉を投げつけられる。結局、水雷戦隊の体質は変えることは叶わず。
「貴様っ!聞いておるのかっ!?」
と掴みかかってきた三元中将を反射的にぶん投げたところで現実に引き戻された。
「ひでげばっ!?」
と床に叩きつけられたおっさんから情けない声が上がる。
ヤベッ! 投げちまったぜ。
「しれー、反乱でも起こすのー?」
頭上からは緊迫感の欠片もない時津風の声。
いや、起こさないからねっ!?
しかし、ここまで仕出かした事を思えばそう思っても仕方ないかもしれない。
ここまで来る間にあった出来事を少し回想しようか。
大本営のとある一室の扉を叩く…ことなく扉は開いた。
だが、待ってほしい。
その扉の横には指紋認証だか、コード入力型だかは知らないが、解錠システムが存在していたのだけれども、なんというか今さら感が有るけど、国防の中心地で好き放題やりすぎではないでしょうか?
──これも国防の為です。
…そうですか。
心なしか声が弾んでいるように聞こえたが、ミック先生がそういうならそうなんでしょう。
で、なんで地下にある警備厳重なコンピュータールームに?
どう考えても監視カメラにバッチリと時津風とギターケースを担ぐカオスな軍人が映り込んでいると思うのよ。
しかも、途中で職務に忠実な軍人さんたちを段ボール好きな傭兵の如く制圧(気絶)して来ちゃったしさ。
まぁ、見張りの軍人のみんなは俺たちを見て口を開けて一瞬固まるからさ、ついミック先生の制圧しろって言葉に反射的に体を動かしてしまった俺も俺だけど。
とにかくこれは大分、問題になりますよ?
後で謝って済むって軽いもんじゃなくて下手しなくても最低、テロ容疑で拘束されるんじゃなかろうか?いや、国家反逆罪で絞首刑も見えてくるのだけれども。その辺り、本当に分かってます?
──大丈夫だ。問題ない。
嘘つけこのやろう!
ミック先生が腰から九条ネギを引抜き、チカチカとLEDを点灯させてるでっかいコンピューターに突き刺して頭をかくかくさせている。
お前、まさかそれをやりたかっただけじゃないだろうな?
──恐れ入りますが現在取り込み中です。時間を置いてから再度、お問い合わせ下さい。
図星かっ! おまっ、マジでどーすんだ?!
細倉って野郎に殴る蹴るの暴行を加えることができなかったら俺はお前を一生、情緒不安定体と呼ぶからな!
というやりとりの後に再び、段ボール好きな傭兵ごっこしながらここまで来たわけだ。
うむ、これは完全に反乱分子ですわ。
おい、情緒不安定体。着地点ちゃんと考えているんだろうな?
──公安、軍の監査局に仕事をプレゼントいたしました。これで動かないようであればあなたが権力を掌握することをお薦めします。ちなみに私は情報集積体です。
そうかい。ならば
「その首、もらい受けよう」
拘束するだけで命まではとらないが気持ちは首を刈るつもりでっ!! 出来る限りの抵抗をしてほしい。
その方が殴れるからな!
ぶん投げてしまったおっさんはとりあえず放置だ。
時津風をパージしてギターケースを開く。
ちょっとお高めなギターのネックを掴んで取り出した。
俺の歌をきけぇぇぇぇ…エェ…。
…違う。こっちじゃない。
「しれー、なにがしたいのー?」
屁理屈捏ねて好き勝手にやる参謀がいるらしい。
二郎ちゃんとは堀越二郎氏です。堀越さんもグンマー人だからね。主人公とはちっちゃい頃何かあったんだよ。
アメリ艦娘のイメージは作者の勝手な想像なんで実際に実装されたら全くの別物になる可能性大だからね。
すごくどうでもいい補足。
アメリカの飛行機乗りもエースパイロットが史実以上に量産されてます。ドゥーリトル空襲で虎の子精鋭エンタープライズが沈み、他も軒並み沈んでいく。
実戦経験者を後方に下げて教官やらすって流れでエースが出来にくい環境がアメリカにはあった訳ですが少なくとも43年の中頃まではそんな事言ってる場合じゃねぇ!
になると思うんだよ。ミッドウェーで日本は史実だと航空機300機近く航空機搭乗員110人も失ってますがこの世界だと190機60人位に抑えられてますからね、アメリカは新米パイロット送っても返り討ちになる。歴戦パイロットでどうにか渡り合おうって流れが出来た故にエース量産。