提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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今回のお話、短い時間でしたが書きかけを投稿してしまいまして、見た人はご迷惑おかけしました。




提督(笑)の必殺技

「司令官。青葉戻りましたっ」

 

冷めた紅茶を啜りながら艦長室で頭を悩ませるライバック。

そこへちょっとしたお願いをした指揮下の艦娘である青葉が入室して来た。

 

「おかえり。で、どんな様子?」

 

「鬼気迫る迫真の鍛錬でした。下手に近づけば斬られますよアレ」

 

苺入り餃子改め戦神を含めた会議室での話し合いは終始、重い空気のまま。

そして、中心人物はしかめっ面を崩すことなく終った。

 

『君の推しは誰だ?』

 

の問いに、とりあえず何名かの名前を挙げられたのは僥倖だったとライバックは思う。

挙げられた人物達が何かしら巻き込まれるとしたら同情を禁じ得ないが…、とも。

だが、その者達の簡単な経歴と人なりを説明してもずっと顔色を変える事無く、むしろプレッシャーが増したようにも感じた。

ライバックが背中に嫌な汗をかいていると件の男は、

 

『今日は体を動かしていなかった』

 

そんな言葉を残して会議室を後にした。

 

「…ねぇ青葉」

 

「なんですか?」

 

「刀を振ってたりしたのかな?」

 

「ええ、そうですよ。空気がこうぶわっと」

 

身振り手振りを加えながら説明する青葉。

彼が何をしているか様子を青葉に見て来てとお願いをした。

そして青葉の言葉を聞いて会議室での会話が蘇る。

 

『細倉という男の首以外に興味はない』

 

といった長野の言葉が。

 

「首(物理)かぁ…」

 

と知りたくなかった事実に遠い目をする。

 

「司令官、クビになるんですか? では青葉も新しい司令官を…」

 

「ならないよっ! そして逃がすと思うなよワレェ!」

 

「…じょ、冗談ですよ」

 

「目を合わせて話そうかっ!?」

 

 

ギャーギャーと騒ぐ二人の漫才の様な掛け合いはしばし続いたあと、青葉は気になっている事を口にする。

 

「それより司令官。指揮下の皆には説明どうするんです?」

 

「あぁ…どうしようね? …そういえば青葉は長野さんのこと見ただけで気付いたの?」

 

「…えぇ、まぁ。衝撃的でしたね。長野司令と関わりを持った艦娘は気付いちゃうんじゃないですか?」

 

「マジかぁ…。という事は、ウチからだと名取は微妙だけど朝風は松輸送で関わってそうだし、春風はマタ船団? 時期的にどうなんだ? あと旗風はヒ船団で松風はトラック島航空戦(トラック島空襲)と第3606船団か」

 

先程まで改めて長野壱業の経歴を調べていたライバック。

長野と相性のよさそうな将官を紹介しようと、彼の経歴を見て判断しようと涙ぐましい努力を行っていたのである。

 

「どうすんだよコレ」

 

と頭を抱えるライバック。

 

「いやぁこの経歴凄いですね。まさに歴戦って感じがします」

 

ライバックのパソコンを覗き込む青葉は苦笑いを浮かべ頭を抱える自身の提督を見る。

 

「…ニュータイプすぎんだよこの人」

 

ライバックは溜め息をつきながら頭を上げ、青葉が眺める画面に自身も顔を向ける。

 

特に戦争後半から異質さが目立つようになる。

海軍の戦略を真っ向否定し、陸軍の定める国防圏に同調しトラックやラバウル放棄を早くから訴えている。

当時の海軍が一大拠点の放棄に賛成するわけもなく、異端児扱いされている。

トラック島航空戦では多くの艦艇を脱出させることに成功させるが、それは命令のねつ造による脱出劇。

上からは疎まれて海上護衛隊に夕張や龍田と共に追いやられる。

軍令部は長野を殺そうとしているのではないかと思えるほど少数艦艇での船団護衛をさせる事もあり、それでも大方は成功させ続ける。

ついでに潜水艦を何隻も葬っている。

何故こうも長野が率いる船団は被害が少なかったのか?

後年の研究家達の見解は定時連絡を行わなかった。という意見で纏まる。潜水艦を絶対沈めるマンの部分からは目を逸らしながら…。

 

暗号ガバガバなのに船団の位置まで定時連絡してれば沈めてくださいと言ってるようなもの。

長野を船団護衛に回したのは大本営さんの英断。

 

ネット界隈でこの話題になると大本営ナイス判断と皮肉が出る、その後のマリアナ沖海戦で小沢司令が長野を引き上げたのに賛否両論するまでがテンプレ。

 

「何度も暗号漏れ指摘してるのにね。改善されたのが死後。それも終戦一カ月前って報われないよなぁ」

 

左遷に無茶振り、最後は沖縄に特攻してこいと、そりゃあ、人選にもシビアになるか、とライバックはまた溜息をつく。

 

「とりあえず、うちの子達には説明しようか。黙ってて文句言われるのもアレだし…」

 

と語るライバックの背中には哀愁が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君たちには失望したよ。

 

時雨はんのお言葉を借りて我が心中を語ってみる。

 

ライバック氏はなんで推し艦を聞いたら知らない名前答えるんだよ。

日村一郎(ひむら いちろう)って誰だよ!? 

 

ハインリッヒ型一番艦ヒムラー・イチローか! って、どう考えても艦娘じゃねぇじゃん!

 

で、よくよく聞いたら沖縄鎮守府の提督の一人だとか。

沖縄鎮守府は戦後に米海軍と共同基地として作られたそうで、豊見城市にあるそうだ。

どうでもいいとまでは言わないけれど、何でそんな人物上げたの? 硫黄島の提督とお仲間なの?

空挺隊のお二方もやたらと熱のこもった眼差しを向けられてた気がするし、そうだとすると会議室にいた野郎ども全員アレじゃん!

 

もぅ早くおうち(父島)帰りたい。

 

そんな訳で、会議室から逃げ出…もといお暇させていただき、兼光もって後部甲板で振り回してる。

 

これで下手に誰も近づけまい!

 

深く腰を落とし刀の切っ先を相手が居ると仮定し、その峰に軽く左手を添えた状態。

俺って右利きだからね、本家とは逆手です。そして相手に向かって飛び込んで貫く!

 

空気を切り裂く音を余韻にしばし残心。

 

色づき始めた空に刀身が淡く光る。

 

名刀というのはついつい魅入ってしまうが、そのまま見ていると何かを斬りたい衝動に駆られる。

それを息を吐いて刀を納め、残心を解く。

 

斎藤さんは言いました。

 

戦場で二度同じ相手と戦う事は極めて稀である。技を見切られる心配をしてあれこれ小細工を弄するよりも、初撃で敵を確実に仕留める絶対の技を1つ持てば良い。

 

と。

 

「之、一撃必殺ノ極意也」

 

これが牙突だ!

約四十年に渡る中二病を拗らせた成果っ! ドヤァ!

 

──周りに注意してから発言する事をお勧めします。

 

「ははっ、君は侍かい?」

 

み、見られたーーー! しかも中二っぽいセリフまで聞かれたーー!?

 

振り返れば一人の女の子。

 

やや癖のある黒のショートヘアーに緑色の瞳、頭には赤いリボンを巻いた小さなシルクハットのようなものとアホ毛が一本跳ねている。

服装は大正時代の女学生風の着物だ。上着が白色の着物、袴は松葉色で金色の帯で腰を結んでいる。

何処となく歌劇団の男役にいそうな雰囲気の少女。

 

この娘さんもコマちゃんと一緒で初見だな。

いや、この娘の場合はユーリエちゃんに叩きこまれた一夜漬けの中にいた気もするが…。

 

唸れっ! 俺の灰色の脳みそ!

 

──第七号駆逐艦もしくは…

 

言うなよっ! 今出るところだったんだよ!

 

──失礼しました。

 

第七号駆逐艦といえば、二代目神風型の…えっと…何番艦?

 

──答えは出ているのでは?

 

ぐぬぬ…。

 

──4番艦です

 

あぁ…、

 

「…松風か」

 

ライバックさんとこの艦娘さんだな。

あとは会ってないけど他の第五駆逐隊と名取が指揮下に居るんだったな。

今更ながら五水戦繋がりか。

 

「ん、僕のこと知っているのかい?」

 

艦娘としては初めましてだが、艦時代だとすると…。

戦前は鳳翔で標的艦アドミラル・セニャーヴィンに観測演習してた時だな。

戦中はコロンバンガラ島沖海戦は君は輸送隊だったから直接かかわってないか。

するとトラック空襲になるのかな。

いや、この世界だとトラック島航空戦とかになってたりするのか?

あとはサイパン行きの船団護衛か…ん、待つんだ俺よ。

 

それより気になる単語があった。

 

「…なんだい? そんなに僕の顔を見て」

 

ぼ、ぼくっ娘だとぉぉぉ!?

 

「あぁ、そうか君はうちの司令官と同じ…」

 

俺が驚愕に囚われていると目の前の少女は言葉を途中できり、ごしごしと目を擦りだす。

目にゴミでも入ったのかい? そんなにゴシゴシしたら肌が傷付くからやめなはれ。

あぁ、そういや俺が壱業って事は隠した方が良いのだろうか?

 

「あぁー! いたいた提督っ!」

 

如何したもんかと思っていたらメロン型巡洋艦が妖精さんと共につなぎ姿で現れた。

なんていうか、タイミングがいいのか悪いのか。

松風と夕張、史実じゃ左程関わりは無かったのだが、この世界の歴史だと…な。

 

「提督?」

 

小首傾げて俺を見ているメロンちゃん。

というより、え、君、他人様の艦で何やってたんだ? 変なギミックとかつけるんじゃないぞ。

 

「どうした?」

 

「ちょっとあっちで艦内の応急修理してきますね」

 

とメロンちゃんが視線を向ける先には曳航されている平波の姿。

 

「こんな時間からか?」

 

ちょうど水平線に日が昇り始めた頃だ。

 

「妖精さん達に手が足りないとお願いされまして」

 

ごめんよ変に疑ったりして…。

俺の後ろめたい気持ちをごまかすために頭撫でまわしておく。

 

「わわーわーわー」

 

父島に帰ったら蕎麦打ってやるからな。よしよし頑張っておいで。

 

「ゆ、夕張さん」

 

松風がぎこちなくメロンちゃんに声をかける。

 

「あ、松風ちゃん。久しぶり」

 

メロンちゃんの方がほんの数か月だけど年上か。

進水日を誕生日基準にすればメロンちゃんが春生まれで松風が秋生まれになる。

 

「久しぶり。いや、違うよっ! 僕の目には長野提督が見えるんだが…」

 

「…あぁ。…提督、どうするんですか?」

 

「何がだ?」

 

「松風ちゃんにはバレちゃいましたけど他の娘達には隠す方向でいくんですか? 提督が倒れてここに運ばれた時は見られてなかったと思いますけど」

 

と小声でメロンちゃんが伺ってくる。

ちょっと近いよ。ドキドキするでしょうが。

 

でも、ほんとどうしようか。

 

「……」

 

…というか、メロンちゃんは前々から思ってたが俺に対して思う事はないのか。

いや、こうも好意を向けられてたら無いのだろうな。

そして、松風にもバレてるっぽいな。

 

「…あの」

 

目の前にいる松風と夕張。第3606船団という本土からサイパンまでの護送船団で一緒だった。

輸送船12隻、護衛は夕張、龍田、松風と海防艦一隻という陣容だった。

護衛艦が少なすぎて泣けた。そして潜水艦多すぎて爆雷使い果たし、船団に接近を許してしまい護衛艦はサイパンに着くまでに軒並み輸送船の盾になって被雷。

龍田以外はサイパンで座礁して置いてくることになった。

帰りは損傷した龍田だけでは、どうにもならず湧いて出てくるような潜水艦に輸送船が2隻沈没させられ、さらにサイパンに米軍襲来で、空襲にまで遭う始末。

物資輸送は成功したが、船団壊滅っていう結果だった。

 

「…好きなだけ罵るといい」

 

君の気分がそれで晴れるなら。

まぁ罵られてもご褒美にしかならんがなっ!

 

「「は?」」

 

なんならその靴を舐めろというなら甘んじて受けようではないか。

 

「だが、まだ腹を切るわけにはいかない」

 

せめてマレー半島までのシーレーンを。南シナ海を安定させるまでか、アメリカと共同で太平洋を奪還できるまでは。

そうなればある程度、日本は安定するだろう。その後なら…。

 

「いやいや待ってくれ。その侍みたいな考え方は何なんだい? そもそも本物なの?」

 

とメロンちゃんを見やる松風。

 

「えーとね、松風ちゃん」

 

そう言ってメロンちゃんは俺を見て頷く。

うん? よくわからんが俺も頷いておこう。

 

「こちらの方は私をこよなく愛した長野提督です!」

 

「「…えっ?」」

 

「提督までなんですかその反応っ!?」

 

俺の服を両手で掴むメロンちゃん。

 

「……」

 

「あの提督。もしかしてサイパンでのこと気にしてます?」

 

じっと俺の目を見るメロンちゃん。

そりゃあ気にするだろ。松風もいるんだから尚更。

 

「はぁ~。提督はちょっと責任感が強すぎますよ。松風ちゃん」

 

「なんだい?」

 

「提督のことどう思う?」

 

「僕の提督の事かい? それとも長野提督の事かい?」

 

「私を愛した長野提督のこと」

 

「ずいぶんそこ強調するんだね。夕張さんほどじゃないけど僕も好きさ」

 

どうして、そんな真っすぐな目でこっぱずかしい事を言えるんだこの子達は。

 

「提督、分かりました?」

 

全然わからないよ…。

 

「Hey!Hey!Hey! 聞き捨てならないヨー!」

 

おい、金剛どっから湧いて出てきやがった!?

 

「テートクヘの愛は誰にも負けないデース!」

 

と背中に飛び付く金剛。何故かちょっと顔色が悪いように見えたが。

 

「何かあったか金剛」

 

「テートク怖かったヨー。ホーショーに…」

 

鳳翔がどうかしたか?と口を開こうとする前に、

 

「うふふふ。何でもありませんよ提督。ね、金剛さん」

 

とお艦がいつもと変わらぬ優しい笑顔でやって来る。

 

「アッハイ」

 

なんだその返事。

 

「「提督ー」」

 

「「しれぇーしれー」」

 

「てーとくさーん」

 

また続々と現れる、朝も早くから元気なうちの娘さん達。

 

「皆、提督の事大好きなんですよ」

 

と笑う夕張にドキリとさせられる。

 

向けられる好意が重いし意味が解らんのは変わらない。

 

それでも、笑ってくれる君達を見ると頑張れる気がするんだからチョロいよな俺って…。

 

 

「…皆、僕の存在忘れてないかい? なんだかいつもより朝日が眩しい気がするよ」

 

松風の声は夏の朝空に消えていった。






プロットの段階だと松風未実装だったなぁと書いてて思いました。
ずいぶんと長い連載になってますが、気長にお付き合いいただければ幸いです。

前回、何となく感想に返信させていただきましたが、毎回は無理だと思いました。
どうしても何か聞きたい事があればメッセージで聞いてください。

『残心』が『残芯』になってますけれど、誤字ちゃいますけん。
なんとなく芯の方がかっこよろしかろう?

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