提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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命も無いのに殺し合ってました。遅くなってごめんなさい。


提督(笑)の艦娘達

 コツコツと複数の足音が廊下に響く。

誰もが口数少なく前を歩く男の背中を見つめる。

陸奥はその男の背中を見つめていると様々な思いがよぎる。

 

一つは天一号作戦直前の事。

長門と陸奥をソ連の南下に備えて、どうしても本土に残しておきたいと考えていたその男、長野壱業。

聯合艦隊司令部としては十分な燃料が確保できたので長門、陸奥も沖縄に向かわせたかった。

時間的な余裕がない為に司令部の説得を諦め、長門と陸奥の機関長に一時的に機関不調に出来ないかと頼みに来た時の事。

託されたという誇らしさと同時にあの時に自分や長門がいれば…。と何度か艦娘になった時に考えた。

実際、作戦直前に陸奥の艦長に抜擢された西田艦長は、オホーツク海での戦いを終えた後もずっと悔やんでいた。

 

そして終戦を迎え、あれだけ多くの人から慕われて、救って、守って、それなのに生贄の様に悪者にされて、報われないじゃない。

当の本人はそんな世界に再び呼ばれて、あっという間に海域開放を行ってみせた。

何故、どうして、一体何を想っているの? 陸奥の胸中は複雑で、今すぐ問いかけたい気持ちをグッと堪えている。

 

気持ちを落ち着かせるために、少し前を歩く自身の提督である百合恵を見る。

 

長野提督への少なからずあった批判的な声など物ともせずに、尊敬する人物は「長野壱業」と憚る事無く言い切る姿勢。

芯の強さが眩しく映った。この娘は間違いなく遺志を受け継いでいると感じた。

だからこそ指揮下に入って支えてあげようと。

実際、少々突拍子のないことをするが彼女は優秀な提督であった。

その彼女が今はまるで物語の主人公に出会ったかのように目をキラキラさせて男の背中を追っている。

 

…ただ、金剛と夕立がこちらを向いた状態で担がれているのは何とも言えない。

 

百合恵の気持ちは理解できる。

目で追っている人物は本当にあの戦争の末期では海軍の支柱だったのだ。

 

「この度はご迷惑をおかけしたデース」

 

「あ、はい」

 

男の肩に担がれている金剛が、百合恵に明るく話しかけてはいるが、その姿は大分シュールである。

 

「夕立、代わってよ」

 

「お断りっぽい」

 

金剛の逆方向の肩に担がれている夕立に対して、時雨が先程から何度も問いかけている。

その様子を彼女たちの姉妹それぞれが複雑な表情で見つめている。

白露は「見えてはいけない御方が見えている気がする…」と肩を貸してもらいながらブツブツと呟いている。

肩を貸している村雨と春雨は無言を貫いているが、きっと言いたい事や聞きたい事が沢山あるのだろうと陸奥は表情から読み取っていた。

そして五月雨は涙目で震えながら陸奥の隣を歩いている。

 

「大丈夫よ。怒られたりしないわよ」

 

五月雨の肩にそっと手を置いて宥める陸奥。

 

「ほ、ほんとですか?」

 

陸奥自身も百合恵から無理やり聞き出していなければ、もっと動揺していただろうから、「まぁ無理もないかな」と思う。

写真や百合恵提督から聞かされた話でも衝撃だったのに、本人がいきなり現れた今の彼女たちの心境を考えると、仕方ないと思うのだった。

 

大日本帝国海軍最強の指揮官だった人間。

ただし道理や合理に欠ければ相手が誰であろうと辛辣極まりない物言いをする一面を持つ。

 

それが今目の前で、金剛と白露型姉妹の一人を担いで歩いているのだから。

そして五月雨はスンダ海峡での座礁した件を咎められるのではないかとビクビクしているのだろう。

 

「確かに座礁したのは貴女よ。だけどそれは貴女のせいではないでしょう?」

 

「そうですけど…」

 

艦時代の記憶を持つ艦娘だが、その時に起こった不手際は艦娘である今の自分たちのせいではないのだから。

それでも怯えてしまうというのが長野提督の存在感かと、陸奥はそれが少し可笑しかった。

 

「……」

 

「……」

 

そして飛龍と蒼龍である。流石に弁えたもので二人とも黙って歩いているが時折、顔を見合わせて目で会話を行っている。

気持ちは良く分かる。

片や沈みゆく自身から艦長を連れ出すのを最期に見届け、片や山口提督をしばき倒して止めるという荒業を行った男が目の前だ。

胸中に色々なものが渦巻いているのは陸奥から見てもありありと分かる。

 

それよりも問題は空挺部隊の面々だ。百合恵提督は彼らにどう説明するつもりなのだろうか。

事前に陸奥は言い含められていたし、ほかの艦娘達も作戦中の事は口外しないと言わせていたが、あまりにも衝撃的な出来事。

この島で過ごしているうちに空挺部隊の面々が長野提督に対して違和感を覚える事は必至で、到底隠し通せるとは思えない。

 

…まったくそんなにキラキラした瞳で見ちゃって。

と、長野提督の背中を見る自身の提督の表情を見ながら、「どうなることかしら」と内心で呟いて陸奥は困った表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

暑い日差しの中で立ち話も何ですからどうぞ中に。

ちゅう訳で修繕の進む建物を歩く。それでもひび割れてたり壁がところどころ無かったり崩れたりしてるけど。

ポジティブに考えればとても開放感のある、と言えるのではないだろうか。

そんな事考えながら歩を進める。

 

なんか艦娘さんの面子的に第二次ソロモンや亀作戦でご一緒だったのを思い出しますわ。

 

長女と蒼龍は関係ないけど…。

あとは五十鈴と駆逐艦の様な空母がいれば亀作戦参加面子全員集合だな。

 

 

 

 

1942年(昭和17年)9月

 

─陸奥 艦橋

 

スンダ海峡を越えて少し西へ航路を取り、艦隊を再集結させた。

いざガーデン島砲撃に参ろうか。という訳で皆さんに集まってもらった訳だが…。

 

ミック先生曰く、何でか英国の空母フォーミダブルとヴィクトリアスがインド洋のど真ん中突っ切ってこちらに向かっているらしい。

しかも護衛に戦艦ロイヤル・サブリンとウォースパイト他、駆逐艦5隻って言う陣容。

 

「これより西進して東洋艦隊を討つ」

 

しかないよな…。

 

何でかなんて言ったけど、理由は分かる。

アメさんの空母がエセックス級が就役するまでサラトガ一隻だもん。

英国のケツ叩いて空母寄越せと言ったんだろう。

レンドリースでなんやかんやで条件付けて納得させたんだろう。

 

そしてここで東洋艦隊を叩ければ以後、英から米への戦力貸し出しはまず無くなるだろう。

あの英国の首相がやるわけない。

つっても、43年以降はアメさんはブーストかけてくるから、辛抱はあと数か月の間だけだ。

その後はアメさんからいっぱいおもちゃ貰えるんだから英国は羨ましい限りだね。

 

あとはトーチ作戦に参加予定のヴィクトリアスがこっちに来ているという事は、結果的に独ソの殴り合いが少しでも長く続くのではないかという願望と、マダガスカル島もまだヴィシーフランス(親ナチス政権)が粘っている筈だから、それに対して微々たる援護になる…といいなぁ。

 

はぁ~。他人とは言え、人の生き死を盤上の駒のように考えている自分は間違いなく悪人だな。

今更言っても仕方ない事か…てか、士官の皆さん無言だが、どうした? 

 

あぁ説明が足りないか。

 

「…先のソロモンの戦いで米国の空母はサラトガだけとなった」

 

「伊号潜水艦が損傷させたという報告を受けたが」

 

何度も思うけどどうして多聞丸付いてきちゃったのさ。

あと松山さんも連れて行けってまた駄々捏ねるし…。

 

「…まぁ、それでもいいでしょう。とにかく米国は空母が一隻です。

米国と言えども空母の補填にはそれなりに時間がかかるでしょう」

 

日米共に戦果は目視で誤認も多くあった。

特に日本の場合、沈めたと誤認する事が多かった。

被害を与え、通常沈んでもおかしくない状態だったものを戦果としたが、アメリカのダメージコントロールが当時ずば抜けていた事から、沈まずに後に復帰するなんてこともざらであった。

今回の場合は完全なる誤認であるが、それを確かめる術はない。

 

…通常であれば。

 

俺はミック先生という反則持ってるからなぁ。

 

「そこで米国は英国に空母戦力の協力を求めた。それが今インド洋を抜けこちらに向かっています」

 

第三次海軍拡張法と両洋艦隊法で来年中にエセックス級7隻就役してくるわけだが…。

 

「長野、最初からこれがお前の狙いか」

 

え、山澄君。何言ってるの?

 

「…全くの偶然だ」

 

「おんしの言う、それを誰が信じる?」

 

いやいや、本当に偶然なんだって…、何で信じないのさ?

 

しかし空母二隻と龍驤。戦艦2隻と陸奥。

艦船の多さで言えばこちらが有利だが…厳しい戦いになるな。

 

…待てよ? この時期ってヴィクトリアスは艦載機10機位だっけ? ミック先生。

 

──シーファイア6機と推測。

 

あれ? シーファイアなのか。まぁいいか。

フォーミダブルは40機位だとして、アルバコアやワイルドキャットだろ。

ワイルドキャットは英国だと少女向け漫画雑誌みたいな名前だったか。

 

──名称、マートレットと推測。艦載数アルバコア21、ソードフィッシュ1、マートレット16

 

そうそう、それそれ。

いや、名前はどうでもいい。44機だとすれば龍驤でもやりようがあるな。

零戦が24で九七艦攻9の33機。

 

空母戦は先に敵を見つけた方が圧倒的に有利だ。

全機突撃で空母を一気に仕留める。

艦攻隊には、雷撃後に直ぐに機首を上げて上昇させずに機体を横滑りさせて、十分に距離を取ってから高度を上げるように徹底させよう。

夜間着艦になるだろうが敵艦隊に夕暮れ間際に攻撃できるように調整も必要だな。

 

 

 

この時、本当に東洋艦隊が向ってきているのかと疑問に思わない同期達は、長野に毒されていたと言える。

そして山口をはじめ他の士官たちも天津風で宣言通りに潜水艦を沈めるのを目撃していたので、何も言えなかった。

 

斯くして、ガーデン島軍港に艦砲射撃を行うためにやって来た筈の一行は、インド洋のど真ん中で英国の東洋艦隊と激突する事となる。

 

日本側は長野の作戦通りに事を運ぶ。しかし英国はこの当時世界で一番レーダー性能がよかった。

その性能はアメリカに直ぐ抜かれる事になるが、この時点では英国が一番だ。

 

迎撃態勢を完全にと言えるまでに整える事は出来なかったが、日本側の艦載機隊を迎え撃つ。

結果、フォーミダブルとヴィクトリアスに1本ずつの被雷。

その後の夜戦にて両空母は撃沈され、戦艦ロイヤル・サブリンも陸奥に一方的に撃ち込まれて撃沈された。

ウォースパイトと駆逐艦1隻を除いて全滅である。

ただ、日本側も無傷とは言い難く、撃沈こそないものの陸奥と夕張は小破判定。

龍田は中破、五十鈴によって牽引される。

村雨も大破判定で春雨によって運ばれる事となった。

 

その後、帰投中に陸奥は被雷して中破、スンダ海峡で五月雨が魚影を魚雷と勘違いして舵を切り、座礁損傷という損害が出た。

 

 

 

 

 

 

「司令、探したぞ。ほら」

 

皆で廊下を歩いていると磯さんとエンカウント。

縄をこっちに差し出しているが何だろうか?

 

「なんだ?」

 

「私を縛っていいぞ」

 

ドヤァと胸を張る彼女は一体何を言っているのでせうか?

とても誤解を招きそうな物言いなのです。

後ろの方々の視線が突き刺さっている様な気がするのでそちらを向くには勇気がいります。

というかあまりにもアレなんで見れない。

むっちゃんとかダイビングスーツでパツンパツンなのよ。

普段は長門型の肩出しへそ出しミニスカなんだろうけど、なんか逆にエロイ。

他の面々にも言える、特に空母の艦娘のお二方。男の視線を釘付けにする凶器だと思うわ。

 

「…磯風。浦風と浜風と長波が表で君に助けを求めている」

 

「ほう?」

 

「頼りにされているな」

 

「ふっ、そうか。この磯風が必要か。仕方がない、行ってやろう」

 

はい、いってらっしゃい。

なんかちょっと磯風さんは残念な子に育っている気がするんだが、気にしないようにしよう。

 

「おぉ? 白露たちではないか。そうか救援か。いやしかし、今はこの磯風を必要とする声に応えるのが先だな。すまない、また後でな。

フフフ、待っていろ今この磯風が助けに行ってやるからな。ハッハッハ」

 

…気にしないようにしよう。

高笑いをして遠ざかっていく磯さんの声を聞きながら、再び歩きはじめると

 

「しれー、どこいってたのさ…むっちゃん? むっちゃーん」

 

数歩も歩かないうちに時津風にエンカウントする。

そして、むっちゃんのパツンパツンに飛び込んだ。

 

…柔らかそうだなぁ。

 

「あら、時津風。久しぶりね」

 

「むっちゃーん」

 

同じ戦艦でもヒェーとえらい扱いが違う気がするな…。

 

いやたぶん、気のせいだ。そういうことにしておこう。

陸奥に対して特に思い入れがあるんだよきっと。

 

あぁ、インド洋で東洋艦隊と戦った後に魚雷から庇った影響かな。

 

病院船を発見して、真っ先に時津風と天津風が臨検に向かった。

流石、脳筋二水戦だわぁ。なんて余裕こいてたら、敵潜水艦が近くにいる事に気づく。

まさか、臨検中に狙ってこないだろうとは高を括っていたが、そのまさかが起きる。

時津風と天津風、五月雨以外、自由に動ける船がこの時いなかったのが災いした。

 

おかげで病院船は沈むわ、陸奥で時津風を庇うために艦首から魚雷に突っ込んで今の平波みたいな状態になるわ、

おまけにスンダ海峡で五月雨が座礁するわで、艦隊がボロボロで帰投だったんだよな。

 

むっちゃんに肩車されている時津風。

なんだかちょっと娘をとられたような気分…。

はっ!? これが刷り込みと言う奴か!

 

「パパーーっ!」

 

え、ちょっと待って島風さん、今は両手塞がってるぐふっ!

 

「ぐっ」

 

腹部に走る衝撃で息が止まった。

 

「ふふふん」

 

悪気がないのは知っている。

だけど本当にお願いだから飛び込んでくるの止めて欲しい。

あと、パパって呼ぶのも今はやめて欲しかったなぁと思うのです。

 

装着オプションを一つ増やして廊下を歩く。

歩きづらいし、目的地がいつもより何倍も遠く感じる。

そしてやっとの思いでたどり着いた。

 

「Tres bien。オマエ、サバンナでもオナジコト言エンの?」

 

「コマンダーさん。バッチリですよ。比叡さん訳して訳して」

 

「あのー私、寝たいのですが…」

 

「えー折角温まってきたのにぃ…比叡さん。もうちょっとだけ頑張りましょうよー」

 

「そうですよ。コマンダンテストさんも日本語覚えたいって言ってますし」

 

司令部施設カッコカリの中では、コマちゃんがメロンとヒェーと有明の女王に向かい合う形でお喋りしている。

 

「あっ、Amiral」

 

そのコマちゃんが俺の姿を認めると立ち上がって寄ってくる。

 

「ミーはおフランス生まれのカンムス、コマンダンテストざんす。Est-ce la bonne reponse?(あってますか?)」

 

うん、とりあえず、

 

「夕張」

 

艤装全部ドラム缶にしてやろうか。

 

「…ひ、ひどい。私のせいにするなんてぇ」

 

よよよとワザとらしく泣き真似するメロンちゃん。

こんなネタ教えようとするのは君以外に考えられないだろ。

 

「鹿島」

 

なんで止めてくれなかったのさ?

 

「はい。私が悪いんです。だからお仕置きしてください提督さん」

 

「なっ!? 鹿島さんきたないっ!」

 

ちょっと、あのね、だから、誤解を招くような事を言うのはやめて欲しいのだよ。

ほら、救援に来た方々がみんな変な目で此方を見ているじゃありませんか…。

 

『あの、なにか間違ってましたか?』

 

大丈夫コマちゃん、君は何も悪くない。

 

『今度は私と二人だけで勉強をしよう。二人だけで』

 

今度はコイツら抜きで教えてあげるから。

 

「お姉さまっ! 今、司令がこのフランス娘を口説いてます」

 

「何言ってんだお前」

 

「テートク。どういう事ですカー?」

 

口説いてねぇよ! 多分。

大丈夫だよねミック先生!

 

────貴方がイタリア人に思われる程度の語弊は許容するべきです。

 

敵は己の中にいたでござる。

 

 

「…改めて、救援感謝する」

 

もうなんか疲れた。この言葉言うだけで精一杯だよ。

 

 

 




おまけ

図鑑説明 時雨(苺味)

僕は白露型駆逐艦2番艦の時雨だよ。
あのレイテ沖海戦では、西村艦隊に所属して、運命のスリガオ海峡に。
そして最後は長野艦隊に所属したんだ。
扶桑も山城も…金剛も凄かったよ……。
皆が忘れても、僕だけはずっと覚えているから……。

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