提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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ヲゥッ


提督(笑)と父と娘と

「おい司令。この磯風も、かまえ」

 

執務室で書類をファイルに纏めて棚に収めていた時だった。

振り返れば、いつの間に入って来たのか、腰に手を当てて何処か偉そうな磯風さん。

 

「……」

 

はて、彼女はいったい何を言っているのだろうか。

さらに彼女の後ろというか開いた扉の隙間からこちらを覗く浜風さんと谷風さん。

 

「島風達ばかり、ずるいではないか」

 

えぇっと、これは元々いた父島組の駆逐艦達に集られていることに対して、俺が贔屓しているとでも思っているのだろうか?

そんな事は無いぞ。俺は皆を平等に愛でているのだからな!

只、父島組駆逐艦はやたらと向こうから絡んでくるのであって、それに対応しているだけである。

しかし、父島勢駆逐艦はツチノコこと、妙高姉さんにギロチンチョップ食らった初風さん。

彼女は同じ駆逐隊に所属していた経緯からこの島にいる谷さんと同じような境遇の娘さんだ。

他がちょっと情緒不安定なんじゃないかと思う。

あの寝苦しい数日前の夜明け。小一時間かけて引っ付いていた駆逐艦達を比叡に擦り付けて脱出した後だ。

何時ものように畑仕事に精を出し、結構色々なお野菜さんの苗や種を植え、ひと段落したころ。

天龍ちゃんの頭についたあの角の様な艤装が超気になって、後でぶん殴られること覚悟で両手で鷲掴みして撫でまわしてた。

龍田さんの頭に浮かぶ方も超気になるんだけど、触ったら手首斬られそうだからそんな事できないじゃん?

天龍ちゃんなら怒っても、一言言ってからぶん殴って来るって勝手な予測を立てた訳よ。

まぁ案の定、顔を真っ赤にしてプルプルと怒りに震える天龍ちゃんの出来上がりな訳で、速攻で土下座しようと身構える。

なら、最初からやらなければいいじゃんと女性は言うかもしれない。だけど、仕方ないじゃないか! 男の子やもん。

気になったら満足するまで触るやろ普通。

 

天龍ちゃんが何か言おうとしたそんな時に、比叡にくっ付けておいた筈の駆逐艦’sが裸足で向って来た。

 

すわ何事かと思ったら、そのまま飛びかかって来るんだもんよ。おっちゃん驚くわ。

なんか今にも泣きだしそうだったから、さらに驚くわ。

天龍ちゃんと一緒に宥めるのに苦労したわ。

 

ミック先生が言った事も俺が思ってた事も結構マジやった。

一緒に寝てた筈なのに起きたら居なくなってたもんだから、軽くパニックに陥ったようだ。

あと、季節柄というのもそれに拍車をかけた要因であるみたいだ。

…夏だからな。どうしても艦時代のあの夏の戦いを思い出してしまうようだ。特にゆきかじぇと天津風が酷かった。

片や、金剛が沈んだのを目の当たりにした艦。片や補給と整備が間に合わず置いて行かれた艦。

俺的には生き残ることが出来て良かったじゃないかと思っていたが、残された者の気持ちっていうのを軽く見ていた訳だ。

その辺はやっぱり自分の事で手一杯だからと言い訳して考えんようにしてたから反省した。

 

その辺があったんで、平等なつもりでいたが、もしかしたら父島組に対して比重が傾いてたかもしれんね。

それならば、構って欲しいというのならば全力でお相手いたしましょう。

 

「…そうか」

 

「お、おい司令」

 

彼女の両脇に手を差し込み、持ち上げる。

ほら、たかいたかーい。

しかし、体重的に普通の娘さんと変わらない重さなのに、人外の力を発揮できる艦娘の体って神秘だよなぁ。

よっこいしょ。どうだ、楽しんでもらえたかね?

そして、未だに此方の様子を窺っている、浜さんと谷さんに向けて手を広げる。

 

「いえ、その」

 

「そうじゃない。そうじゃないよ提督」

 

執務室におずおずと入室してくる二人。

なんだい。いいのかい? 遠慮せんでもおっちゃん持ち上げたるよ? ぜかましとか、ゆきかじぇとかとっきーは喜んで飛び込んでくるんだけど。

その3人に比べると、この3人は精神的にもう少し大人なのか? 特に浜さんはもう大人顔負けだもんなぁ。

もし飛び込んでくるようなことがあれば誤って鷲掴みしてしまうところだったかもしれない…実に残念…ではなく白い目で見られる事がなくなって良かった良かった…。

 

しかし、構ってと言われてもだな…。

磯さんの頭に手をおいて、撫でまわしてみる。

おう。サラサラや! サラサラやでぇ。それに、

 

「綺麗な髪だ」

 

なんでや毎日毎日、潮風に当たっているというのに痛むことなくサラサラの艶々や、まさに艦娘の神秘。

おっちゃんの髪なんて、パッサパサでもないか…。そういや坊主頭からちょっと伸びて来たなぁ。

今は重力に逆らって逆立ってる。なんか提督組は髪の規定が結構緩いから、アフロにでもしてみようかな。

そこまでにするのにどん位かかるか知らんけど…。

 

「…ぅ…ぁ」

 

よし、触らせてもらったお礼にこの飴ちゃんも上げようでわないか。

上着の左ポケットに常備している梅風味の塩飴だ。紙の包装紙に巻かれた一粒を指で掴み、磯さんに差し出す。

すると包装紙ごとパクリと…、え!? まて包装紙は食べられない。

と思ったら、飴ちゃんだけ抜き取る器用な真似をされた…。

 

「…むぐ」

 

さて、俺の持っている飴の抜かれた包装紙…ゴクリ。一体、いくらの高値が付くんだろうか?

というかコレどうしよう? ここでprprしたら流石に皆ドン引きするよね?

 

──思考が完全に犯罪者です。

 

…いかん。全く反論できん。

 

というか磯さん顔をめっちゃ真っ赤にして超睨んでるんだけど…。

 

あ、やべぇ。接触してるとなんとなく感情が伝わるんだった…。

慌てて頭から手をどける。

俺のヤベェ感情が伝わってしまったか…。

しかし、どういった感覚で伝わってるんだろうか。

流石にクンカクンカとかprprとかだとぶん殴られるような気もするんだが…。

そんな様子は…あかん。超睨まれてますやん…。

 

「……」

「……」

 

そして二人からの無言の視線が…。

 

「浜風、谷風」

 

飴ちゃんが欲しかったんだな。君らにも上げようね。

 

「これもちょっと違う気がするよ」

 

「…そうですね」

 

とは言いつつも、俺から飴ちゃんを受け取る二人。

そして磯さんの分泌液が付いた包装紙を、そっとポケットに仕舞おう。

 

──それを何に使うのですか?

 

…え、ほら、そのうち捨てるんじゃないかな…。

近くにゴミ箱がないから本当に仕方なくの緊急処置だし?

 

──どうぞ

 

……。

 

ミック先生が小さなごみ箱を抱えて俺を見上げている。

 

「…すまんな」

 

──どういたしまして。

 

おいなんだそのドヤァ顔…。腹立つなぁ! ネギ…九条ネギ取り上げんぞ!

 

「パパーーっ!」

 

ミック先生に手を伸ばそうとした時、勢いよく飛び込んでくる駆逐艦一名。

 

磯さんの様に持ち上げて軸足を後ろに一歩下げて一回転。その勢いを殺して床に下ろす。

俺は学んだのだ。そのまま抱き止めると何時か俺の体が死ぬという事を…。

この娘さんをはじめ、全力で飛び込んでくる娘さんは受け止めるとかなりの衝撃がある。

何度も言い聞かせているのに直らないからな。

 

そのため編み出した技なのだ。くるりんぱと名付けた。

 

「…飛び付くな島風」

 

「ふふふん」

 

多分、言ってもまたやるんだろうなと思いつつも一応、釘はさしておく。

紺色の大きなうさ耳リボンに銀に近い亜麻色の長い髪。少し眠そうな緑いや黒? 黒が掛かった緑?

その瞳はまっすぐ俺に向けられている。

そこから下へ服装に目を向ければ、袖の無いセーラー服。かろうじて隠す程度の磯野家次女にも負けない超ミニスカート。

黒い細い布地…見せ下着でいいのだろうか? 見せ下着にしては際どいと思うが…。

Z旗を模したデザインと言われているが…おっちゃんはただただ目のやり場に困る。

まぁ、紅白のハイソックスに包まれている太ももと共にガン見するんですけどね!

 

さて、そんな彼女は俺をパパと呼ぶのだが、最初は提督と呼びなさいと言い聞かせたが、何度言っても直らない。

公の場では提督と呼ぶようにと言いつけてからはもう諦めた。

彼女のパパ呼びは確かに間違っていない。表向き設計開発、責任者は俺だ。

史実においても次世代型艦隊駆逐艦の最高峰を目指し、高速・強雷装の駆逐艦の本型として建造された彼女。

俺にやらせてください。ってお願いしたら許可をもらったので、頑張って設計しました。

 

…ミック先生が。

 

いま目の前に本当のママがいるのだが、まぁそれはいいや。

島風の他に設計開発に関わったのは大発の改良型とか、対魚雷艇の駆逐艇、簡単に言えば武装したモーターボートみたいのだな。

 

──一体、どこで育て方を間違えたのでしょうか? こんな破廉恥な格好になるなんて。

 

親の顔が見て見たいと言うのなら、鏡見たらいいと思うよ?

 

まぁ、その結果。史実の島風より速度が速くなったよ。燃料弾薬満載の状態でも最高44ノット。

キロメートルに直すなら時速約80kmというところ。フランスのル・ファンタスク級にも引けを取らない。

燃費も史実よりはちょいとだけ良くなってる。

船体の大きさそのものは変わっていないが艦橋部が幾分シャープになっているかな。

あと起工も竣工も史実より半年くらい早い。

で、速過ぎて艦隊駆逐艦としては使えねぇっていう流れは一緒という。

いやいや、速いの作れというたやないかいってツッコミを入れずにはいられない。

 

そんでまぁ、困った事にぜかましは本日、哨戒任務に就かせていた訳だけど、

 

「…また皆を置いて来たのか」

 

「だって皆遅いんだもん」

 

任務完了で帰投となると、一緒に組んだ艦娘達を置いて一人突っ走って帰ってきてしまう。

 

──誰に似たのでしょうか?

 

…間違いなく俺ではないね! 俺のポリシーは和をもって豆腐と茄子だよ?

このフリーダムぶりはミック先生の影響受けてますね確実に!

 

「…パパ?」

 

俺が着任するまでは、言葉で他の娘さん遅いという事はあっても、置いていくなんて事は無かったらしい。

これは俺が来た影響もあるわけで、そのうち落ち着くのか、それともきつく言った方がいいのか。

軍として考えたらきつく言って懲罰も考えないといけないのだろうが、果たして艦娘を軍人として見ていいのか?

確かに軍に所属しているという事にはなっているが、深海棲艦を倒すことに協力しているって考え方も出来るんだ。

軍律で縛ってしまうというのも何か違うような気もする…。

これは甘い考えなのかねぇ…。

 

そこんとこどう思います? お母さん。

 

──私は貴方の考え方を支持しますので、お好きなように。頑張ってください。お父さん。

 

「パパッ!」

 

「なんだ?」

 

「…怒ってる?」

 

目じりを下げてこちらを伺う島風。心なしかうさ耳リボンが垂れている気がするな…。

 

「…怒ってはいない。だが、皆と仲良く帰ってきてくれた方が嬉しい」

 

島風の頭に手を乗せて諭すように…、何だか本当に父親になった気分だわ。

 

「…わかった。我慢する。我慢するからまた一緒に駆けっこしたい…です」

 

え!? それはちょっと勘弁して欲しいんだけど…。

まじで手を取られて島中駆け回ったときは死ぬかと思った…。

や、やめて! そんなうるうるした瞳で見られたら断り辛いジャマイカ!

 

──頑張ってください。お父さん。

 

て、てめぇ…。他人事だと思って…。

 

「…わかった。この妖精も一緒に走りたいそうだ」

 

「バカナ」

 

抱えていたゴミ箱を落とすミック先生。

一蓮托生でしょ俺たちはさぁ! そうだよな母さん?

 

──これが孔明の罠!?

 

君は何言ってんだい?

 

「やったー!」

 

だが、俺はきっとなんだかんだ理由をつけてなるべく先延ばしにすることだろう、

すまない島風。汚い大人の俺を許してくれ。

 

そして先ほどから…、

 

「…お屋形様…父…父上。うむ。父上これだな」

 

「父さん…お父さん…お父様。これですね」

 

「父ちゃん…親方…違うね…親父…親父だね」

 

「どうしたのパパ?」

 

どうしたもこうしたも、彼女達は何を話し合っているのでしょうかねぇ?

おっちゃんちょっと気になります。だけど、聞きたくないそんな感じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都にある高層オフィスビル群の一角、ひと際巨大な長野グループ本社ビル。

 

「社長。お嬢様がお見えになりました」

 

「通してくれ」

 

「かしこまりました」

 

入室して来た秘書は一礼して扉を閉めて出ていった。

数日前に娘より、大切な話があるから時間をくれと長野グループの代表の男は連絡を受けた。

そして今日はその約束の時。

 

「お父さん久しぶり」

 

「…あぁ」

 

「失礼します」

 

少し間をあけて、二人の人物がやって来る。

一人は男の愛娘である百合恵。そしてもう一人は娘と年の頃が同じくらいの男。

それを認めるとだんだんと男、業雅の目が鋭くなっていく。

 

そんなことにお構いなく、娘はソファーへと腰掛ける。

 

「徳田も座んなよ」

 

「…あぁ、失礼します」

 

業雅に一度礼をして百合恵の隣へと腰掛ける男。最低限の礼儀は弁えている。

だが、そんな事は業雅にとってはどうでもいい事である。

 

「…? お父さん? あの、話があるんだけど…何でそんなに徳田を睨んでるわけ?」

 

訝しむ娘。

本日ここに来た目的は父島に赴任した爆弾が爆弾を放り投げて来たからである。

最近、長野グループにちょっかいをかけて来る軍の一部に対して、長野グループも手をこまねいていた訳ではない。

ちょっかいを受け流す一方で、海軍監査局やその他政府関係者などとの関係強化に腐心していた。

 

あの日受け取った爆弾を、結局二人とも自分たちだけで解決するには手に余ると結論した。

そこで目を付けたのが百合恵の実家。百合恵には実家の力に頼るのはという気持ちもあったが、

海軍内で動き回るより自然に接触できる点と言うのも大きく、他に思いつく手も見つからず、という訳である。

 

ちなみに急に百合恵提督の執務室から追い出された時、暫くして中からなまめかしい声が聞こえてきて、徳田が顔を赤らめ、若干前かがみでその場を後にしたことはどうでもいい事である。

 

「…駄目だ。許さん。話は終わりだ。徳田君といったね?」

 

「あ、はい」

 

「帰りたまえ」

 

徳田を親の仇の様に睨みつける業雅。

 

「ちょっとちょっと!? お父さん!?」

 

「許さんと言ったら許さん!」

 

 

何か盛大に勘違いしている長野グループの代表であった。

 

 




Comfortable wind Tシャツ いい風、着てる。

くだらないと思いつつ、分かってくれた人がいて嬉しいです。

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