提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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提督(笑)と4人目

「今日、ここに集まってもらったのは重大な…とても重大な話があるからです」

 

「…集まった、って本当は交代で提督さんと過ごす為じゃないですかぁ。今日は私の番なのにぃ…。もう毎日のように三人でここ来てますよ?」

 

「そうですね」

 

ここは生徒宿舎の一室。主不在の部屋に三人の乙女が卓袱台を囲み、向き合っていた。

 

「細かい事は気にしない。大体、鹿島さんだって順番守って無いじゃない」

 

「うっ」

 

「まぁまぁお二人とも落ち着いてください」

 

表向き、自分たちの提督の警護のために、との理由だが、鹿島が一緒に出掛けたのが羨ましかった他の二人が、提督と過ごせる一緒の時間を作りたかっただけである。

 

「……(おっとりした様子なのに鳳翔さんが一番油断ならない)」

 

「……(鳳翔さん、いつの間にか提督さんの隣にいる事が多いんですよねぇ。…ずるいです。負けません!)」

 

「どうかされましたか?」

 

そんな二人の心など知らない鳳翔はいつもと変わらぬ穏やかさである。

 

「何でもないです。さて、もうすぐ何がありますか?」

 

気を取り直した夕張は本題に入ることにした。

 

「はい。提督さんが父島に赴任します」

 

手を上げて答える鹿島。

 

「正解です。でもその前に私たちは、やらないといけない事がありますね」

 

「引継ぎですね」

 

「そうです鳳翔さん! 教官の引継ぎなんです!」

 

パンパンと卓袱台を叩く夕張。

 

「そうでした。香椎にいろいろ教えてあげないと」

 

「私は大鯨さんではなくて龍鳳さんにですね」

 

「…私は大井さん。いや、そういう事じゃないんです!」

 

再び卓袱台を叩く夕張に、残りの二人は顔を向ける。

 

「いいですか! 新たに艦娘が来るんですよ! 提督に会ったらどうなると思います?

比叡さんですら気付いて指揮下に入っちゃったんですよ。そろそろ駆逐艦と顔合わせの講義もありますし」

 

提督候補1年生は座学と体力づくりが中心で、艦娘に接触するのは基本的に教官艦娘だけである。

2、3年になると将来自分の指揮下になるかも知れない艦娘達と定期的に顔合わせの講義がある。

今回は駆逐艦で、それが迫っていると夕張は言う。

卒業が近い彼女たちの提督も顔合わせは行われる予定である、

ゲームで言えば初期艦選びをすっ飛ばしていつの間にか艦娘が4人いる状態なのだ。

 

「…つまり、提督さんとあまり接触して欲しくないという事でしょうか」

 

「うぅん。極端に言えばそういう事なのかしら…」

 

首を捻る夕張。

 

「でも、戦力は多い方が提督としては嬉しいんじゃないでしょうか。それにその方が提督の安全に繋がりますよ」

 

「そうなんですよね。それは理解できるんです。赴任先が父島という最前線ですから…。この際、増えるのはいいんです。比叡さんみたい(提督にあまり興味ない)ならいいんですけど…」

 

「…ああ」

 

「…なるほど」

 

そこで夕張の言葉に鹿島と鳳翔は彼女が言いたいことを理解した。

要は提督ラブ勢の場合はどうするよ? という事が彼女の言いたいことなのだ。

 

「どうしたらいいかしら?」

 

「う~ん」

 

「そうですねぇ」

 

三者は考えるが良い解決策は思い浮かばない。

そして何かあれば、とりあえず邪魔する。という場当たり的な答えに三人とも行き着くのであった。

ちなみにここに参加していない比叡は、引き継ぐ相手は居ないのだが、学校に残るという選択肢は彼女の中に無い。

なんとしても司令を守らないと愛するお姉さまに殺さ…何を言われるか分らないからという理由。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近わが艦隊の娘達の様子がおかしい件。

 

まぁ、もともとおかしいと言えばそれまでなんだけど…。

 

肉体言語を結構、駆使しているお艦。

 

やたら他の娘(特に鹿島)に噛み付くメロン。

 

最初のガチガチは何だったのか、あざとさ全開の有明の女帝。

 

あぁやっぱり最初からおかしいか…。

 

…ちゃうねん。

 

おかしいのは認めるけどそういうおかしさじゃなくて…、なんて言うかコソコソ? ソワソワ? そんな感じ。

よく俺の部屋で三人で俺をハブってガールズトークしてやがんの。

何だ新手のいじめか? 俺をハブるんなら他でやればいいのにぃ…。なんで俺の部屋なん。

おっちゃん悲しいわぁ。あと、なるべく一人で行動することを禁じられた。意味が分からん。

そしてこの度、そんな混沌としている我らが艦隊に、新しい娘をお迎えしました。

先日、夜中に奇声を上げていた金剛型2番艦ヒェーこと比叡。

 

ちょっと力を貸してくださいと言った次の日の放課後。

おいちょっと面貸せよと言われ前日と同じように向き合ったんだよ。そこで、

 

「司令なんですか!?」

 

なんて言われたから、

 

「学生だ」

 

とお答えしてやった。大体、君の司令だったこと一度もないですし。

俺は間違った回答をしていないと今でも自信をもって言える。

 

「……」

 

「……」

 

そして見つめ合う事数秒後、

 

「長野司令なんですか!?」

 

ヒェーはもう一度口を開いた。

 

「…確かに長野だが、司令ではない…学生だ」

 

今はただの学生なのである。もうすぐ任官するとは言え、少佐であれば良いとこ駆逐艦の艦長ってところだろう。

まぁ艦これ的には少佐でも司令や提督って呼ばれるけど。

 

「……」

 

「……」

 

そして再び沈黙が起こる、

 

「いち、壱…いちごっ! 長野苺提督なんですかっ!?」

 

「誰が苺かっ!」

 

こいつ恐らく俺が壱業って事に気づいたが、名前まで覚えてなかったのだろう。

しかし苺チョイスは許せん、なぜそれ知ってるし!?

 

「ヒェーっ!」

 

勝手にクーデレキャラにするんじゃない、と思わずヒェーの頭を掴んでしまった。

ここで俺氏にかき氷を一気食いした時に起こる片頭痛が発動する。

 

「あっ」

 

ヒェーが目を見開く。

 

「……」

 

俺は頭痛により比叡から手を放し、顔を顰める。もともとしかめっ面ですけども。

 

「あの、司令。私、指揮下に入ってしまいました」

 

「…え?」

 

今思えばあの頭痛が、指揮下に入るときに起こる提督の負担て奴だったんだろう。

わが艦隊の娘さんたちと同じように、壱業じゃないよ業和だよと説明した。

なんかアホの子オーラが強いから念入りに説明して黙っとけよと申しつけておいた。

 

「そんな…そんな…あの司令」

 

「口外厳禁だ」

 

「そんな…そんな…」

 

そしてヒェーはフラフラした足取りで時々、机とか扉とか壁とかにぶつかりながら去っていった。

次の日から目に見えて元気が無くなった。

そんなに俺の指揮下に入りたくなかったのか? ちょっとショックなんですけど…。

でも、それなら言ってくれれば外れてもええのよ? で、指揮下から外すのってどうするんだろうか?

って話をヒェーにしたんだけれども

 

「指揮下に入ってる事が辛いのではなく、指揮下に入ったことを金剛お姉さまに話せないのが辛いんです。大体、あんな強引な…お姉さまに…言えない」

 

だそうだ。

アレかな? 私にも提督が出来ました的な報告できないのが辛いって事かな?

どちらにせよバーニングラッバーさんは色んな戦場を飛び回ってるそうなんで簡単に話せないらしいけど。

 

以上の経緯を持ち、わが艦隊に高火力な戦艦クラスが参入したのである。

目下の悩みはヒェーに元気が無い事だ。

 

で、現在校長室に呼び出されて、眼光鋭い中将殿と向かい合ってる状態です。

 

「…何故、呼び出されたか理解しているかね?」

 

「…はい」

 

授業態度が悪いとか色々あるけど、今回はたぶんヒェーの事だよね。いや、ヒェーの事だけじゃないか。

半端な奴には大事な戦力は預ける事は出来ないとか仰ってましたし…。

教官艦娘達を根こそぎ掻っ攫っていく勢いですもんね。あとはカトリーヌ先生でコンプリートだ。

お前何してくれてんの?って感じだろうね。

カトリーヌ先生と言えば、あとで教育的指導してくれるって言ってたけど。いつしてくれるんだろうか…。

楽しみです! って言ってから目も合わせてくれなくなったけど…。

 

「君は一体何者だね…?」

 

そんな哲学的な問いに対する答えは、

 

「自分は自分…です」

 

って言うのが精一杯なんですけどねぇ。

ところで校長先生、貴方の後ろの方の棚によじ登っている妖精さんが自分、気になります。

そして何か物色してますよ…?

妖精さんが手に取ったそれは、桐の箱に達筆な漢字が書かれている物体。

絶対、それ高級な日本酒だろ! こちら向いてドヤァ顔するんじゃない!

 

おい馬鹿やめろっ! そいつをどうするつもりだ!?

 

「…ふむ。では、この短期間で艦娘達を指揮下に置けた理由は何だね?」

 

待て、待つんだ、妖精さん。ここで箱から開けるんじゃない。せめて脱出してからにしろ!

おい聞いているのか! って喋ってなかった。こっち見ろ妖精さん。

そんなウキウキ顔で取り出すな、しかも音を立てずに完璧な隠密スキル。使いどころ間違ってない!?

あ、あれは前世では1本3万円オーバーの大吟醸じゃないかっ!

それは拙いだろ!? そっと返しなさいっ! 

何だそのジェスチャーは? 妖精さんは俺と自分を交互に指さす。…お前…俺で…って事か?

そして乾杯の身振り手振り。一緒に飲む?

おい、それは俺に酒をパクる片棒を担げと言っているのか!?

 

「…妖精」

 

サムズアップするんじゃない俺はまだ了承してないからっ! あれ、校長先生何か言った? 

 

「要請か…。艦娘達側から要請されたから応えたというわけか…。ならば何故そこまで君は彼女たちに信頼を寄せられているのだね?」

 

校長先生。何言っちゃってんの!? 何がどういう事?

あと妖精さん!? 何そのドロボースタイル!?ほっかむり&唐草模様の風呂敷。

ワタシはカタチから入るタイプなんだ。って知らんがな!? 

 

「知らん」

 

思わず突っ込んじまった。このわずかな時間で妖精さんのジェスチャーを分ってしまう自分が悲しいわ。

 

「……」

 

「……」

 

妖精さんが気になりすぎて校長の話が全然頭に入ってこない…、めっちゃ怖い顔で睨まれてるんですけど!?

 

「わかった。退出したまえ」

 

めっちゃ怒ってるよ!? と言っても何も言えることないし。

素直に退室しましょう。

扉を開け。一度振り返り…、

 

「…失礼しました」

 

「ヘヘ ヤリマシタネ ボス」

 

「「なっ!?」」

 

そして扉を閉める妖精さん。勿論、風呂敷には日本酒。

 

コイツ…コイツ…。主犯を俺にしやがった!

 

弁解する言葉を発することも出来ずに扉が閉まった。

今、校長先生は大変ご立腹のご様子だったのでクールダウンの時間が必要だと思うの。

というか、呼び出された理由がイマイチよくわからなかったな…。

 

あぁ、とりあえず逃げよう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

宿舎に入って部屋に戻る前に俺はいつも入口の前の掲示板を見る。

何かイベント事とかあっても誰も教えてくれないの。だってボッチだから!

でもね白露の君が、同じ授業の時は挨拶してくれるようになったんだ。

いつもすごい気合が入っててさ、こちらも返そうとするんだけどその前に自分の席に戻ってしまうのだ。

卒業までには何とか話せるようになりたいものだね。ってもう、ひと月位しかないけど…。

さてさて、掲示板には何かあるかな…、

 

あぁ。近々新しい教官の艦娘が来るんだ…って前、鹿島が言ってたか。

香椎ってどんな娘だろうか。楽しみだねぇ。大井っちにはあんまり関わりたくないなぁ。

龍鳳には「て・い・と・く」と耳元で囁いてもらいたい。

この中で、一番関わりあるのは、間違いなく龍鳳やし、これはワンチャンあるか?

 

そんな事を考えながら、肩に日本酒持った妖精さん乗せて自室に入る。

 

何という事でしょう。私の部屋なのに4人のお嬢さん方がいるではありませんか。

まぁ最近はよくある事なんだけど…。あれ? 4人? 

 

「提督お帰りなさーい。講義終ったらまっすぐ戻ってこないと駄目ですよ」

 

ゲームやってるメロンちゃん。呼び出されてたんだからしょうがないじゃない。

 

「提督さんお疲れ様です。どうぞ」

 

雑誌読んでた小悪魔は。座布団を敷いてくれた。ありがとう。

 

「お疲れ様です。お茶淹れますね」

 

おそらく、夜の走り込みの後のお夜食を作ってくれていたであろうお艦。

 

「司令…、お邪魔してます」

 

で、最後にヒェーが正坐して座っている。

 

「どうした比叡」

 

敷いてくれた座布団に着席。

 

「司令。私、今出来る事を考えました。それはズバリ監視です!」

 

「お、おう?」

 

鼻息荒くそう仰ったヒェー。

ちょっと意味が分からないけど、なんか元気出たみたいだからいいか。

 

「な、なななんですか!?」

 

何も言ってないよ。ただちょっと見てただけじゃないの。何でそんなに焦るのよ?

 

「……」

 

「サッソク ノムカ ボス」

 

酒をもって肩の上から飛び、卓袱台に着地する妖精さん。

あ、日本酒どうしようか。

 

「あら、お酒ですか? どうしたんです?」

 

「…モ、モラッタ」

 

こっちを見るな妖精さん。

 

「提督、このお酒どうされたんですか?」

 

「も、貰った」

 

1本3万円。飲んでみたい誘惑には勝てなかった…。

 

「そうですか。でも、まだ駄目ですよ。夕ご飯食べてからにしてくださいね? 冷蔵庫に入れときますね」

 

「…ああ」

 

「サスガ ボス」

 

お艦に嘘をついた胸が痛いです。ごめんよお艦…。ちょっとだけ。ちょっとだけ飲んだらきっと返すから…。

 

 




恐らく、本文で語られることのない感想にあったものへの回答

鈴谷、熊野は改鈴谷型か伊吹型の方が軍関係者ならこっちの呼び方なんじゃないかと思った次第。

主計さんのモデルはあくまでモデルであって出身は北陸設定。

海軍学校時代の写真と今の顔は本人ですからそっくりです。ただ何十人も一緒写ってる引きの白黒写真では…ね…。


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