その後、病院に運ばれたロイドは無事だったものの、頭を強打した、と言うことで入院し。
人目から隠すように、ガイのジャケットに包まれて、ガイに同行した男性に抱えられ帰ってきた放心したリィンを、何も聞かずにセシルとレイテがお風呂に入れてくれて、身なりを整えられてからようやく我に返ったリィンは窮地に見せた力を嫌がり、周囲を拒絶して絶食して二日目が過ぎようとしていた。
「ただいまー」
ガイがそう言っても、ベッドの上で布団に包まって座り込んだ人影…リィンは、無反応だった。
「リィン、ロイドは三日後退院できるそうだ」
「!! ……」
ロイドの事に関してだけ反応し、黙り込むリィン。
ガイはちらりと視線を走らせ、リィンの座り込むベッドの傍らに置かれた机の上にある、セシルお手製のお粥に、手を付けずにいるのを見つける。
「リィン、いい加減ごはん食べないか? 帰ってきてからずっと、食べてないだろう?」
「いりま、せん」
弱々しい声だったが、確かに否定するリィン。
ガイは参ったな、と言いたげに、視線を部屋の入り口に向ける。
そこには、リィンが謎の力を見せた現場にガイと一緒に来て、リィンを連れて帰ってきた男性が立っていた。
ただし、リィンは謎の力を使っている間の事を何一つ覚えておらず、その後男性に気づくことなく、すぐに狂乱して放心状態に陥っていた為に、ようやく男性の事を認識した。
そして男性はつかつか、とリィンとガイの傍まで歩み寄ってきて、じっ、とリィンを見下ろし。
「……確かに、尋常ならざる力を持っているようだな」
―――そう言い放った。
「!!」
目の前の男性の言葉に、リィンは身を固くする。
「この前の事件が原因で、いらない、って絶食してて困ってるんだ。どうにか力を抑える方法、ないか?」
「ふむ……」
ガイの言葉を聞きつつ、男性はリィンを見下ろしたまま、考え込んで。
「老師に引き合わせてみよう。丁度、クロスベルにいる」
そう言ってから、リィンに目線を合わせるようにベッドの傍らにしゃがみ込む。
顔を逸らそうとすれば、ガイに頭を掴まれ、ぐりっ、と遠慮なく視線を男性にあわせられて、しょうがなくリィンは口を開いた。
「だれ、ですか」
「ガイの同僚、アリオス・マクレインだ。君は?」
男性…アリオス・マクレインはガイにリィンの事をさんざん聞かされて、知っていたが、あえて問うた。
「……リィン・バニングス」
そして、リィンが名乗る。
視線を合わせたリィンの瞳には、自身への恐怖の色が宿り、全てを諦めたかのように光を失っていた。
その上、この年頃の子供でなくとも絶食など、決して身体にいいとは言えないのだ。
「その力、制御するために武術を学ぶ気はないか」
「……え……?」
力に抱く恐怖はよほどのものだな、と思いつつアリオスが言った言葉に、リィンは目を見開く。
「……どうにか、できるんで、すか」
「恐らくは」
縋るようなリィンの言葉に、アリオスはそう返す。
「リィン、お前さえよければ、俺の学ぶ剣の流派、八葉一刀流の師を紹介しよう。その力にただ恐怖し、絶食するより、ましだろう。……やってみるか」
「…………」
包まる布団の端っこをぎゅう、と握りしめた後、リィンはす、と顔をあげ、ガイはその目を見て、リィンに気づかれぬように、そっと息をついた。
リィンの目に、ようやくいつもの光が戻っていたのだ。
「……この力を、どうにかできるのなら、……八葉一刀流を、やって……」
そこまで言って、リィンはゆるゆる、と首を横に振って、包まっていた布団から外に出て、アリオスの目をしっかりと見て。
「……いえ、この言い方では失礼ですね。……アリオスさん、八葉一刀流を学ばせてください」
「……あぁ。分かった。だから、」
そう言ったリィンの決意をガイが優しい目で見守る傍らで、その決意を受け止めたアリオスが頷き、了承したのち、続く言葉を切って。
「まずはちゃんと食事をとってからだ。身体が弱っていては、話にもならん」
「という訳だ。食べられる量だけでいい、食べられるか?」
と、ガイと揃ってそう言った。
アリオスとガイの言葉に、リィンはこくん、と頷き、その後セシルお手製のお粥を完食した―――まではよかったが、ほぼ二日間絶食していたリィンにしてみれば、少しの量でも食べすぎたらしく、ちょっと気分が悪くなって戻しそうになり、二人を少々慌てさせたのだった。