学院生活
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リィンは自室で制服に着替えて、部屋に備え付けられた鏡の前で、髪を結う紐で、髪を結いあげて、おかしなところがないか確認する。
「……よし、これでいいかな」
そしてクローゼットの横に置いた、棚の上に置いたフォトフレームには、ロイドとリィンとガイとセシルの写る写真。
ちなみにもう一枚、肌身離さずに持っているが、こっちは飾っておくために焼き増ししてもらったものだ。
「……行ってきます」
それを見て、リィンはそう言って、部屋を後にし、3階から2階に降りたところで。
「あ、リィン!!」
少年の…エリオットの声が、かかった。
「おはよう、エリオット」
「えへへ、おはよう。学院に行くなら、せっかくだし一緒に行かない?」
エリオットの提案に、リィンは頷く。
「勿論。そんなに時間もないし、行くとしよう」
「他の皆は……もう出かけちゃったのかな?」
エリオットの素朴な疑問に。
「このフロアに人の気配はしないし、皆学校に行ったんじゃないか?」
けろりとした顔をして、そう答えたリィンを見て。
(……オリエンテーリングでもそうだったけど、……気配って、どうやって感じるんだろう)
エリオットはそう思ったという。
そして連れ立って1階に降りると、アリサとエマが話をしていた。
「アリサ、委員長、おはよう」
「おはよう、アリサ、委員長」
リィンとエリオットが声をかけると。
「おはよう、リィン、エリオット」
「リィンさんにエリオットさん、どうもおはようございます」
それぞれ挨拶を返してくれた。
「二人共これから登校か?」
「学院に行くなら、せっかくだし一緒に行かない?」
リィンとエリオットの提案に。
「えぇ、いいわよ」
「それじゃあ、行きましょうか」
アリサとエマは頷いた。
◇ ◇ ◇
「でもこの2週間、あっという間でしたね」
ちなみにこの2週間で委員長に決まった、エマの言葉に、全員が頷く。
余談だが、副委員長はマキアスである。
「覚悟してたのは、武術訓練くらいだったけど……。まさか普通の授業のレベルがあんなに高いとは思わなかったよ」
「そうね、確かに。まぁ……文武両道は、帝国の気風でもあるものね」
エリオットの言葉に、アリサがそう言う。
「予復習はきっちりやらないと、ついていけなくなるかもしれない」
リィンの言葉に、意外そうな顔をしてリィンを見るエリオット。
「リィンもそうなんだ……。はぁ、委員長とマキアスとリィンが羨ましいな……。3人とも、入学試験じゃ委員長がトップで、その次がマキアスで、3位がリィンだったんでしょ?」
「ほんと、凄いわね」
エリオットの言葉に、アリサが頷くと。
「そう言うアリサにユーシスだって、かなり成績はいいみたいだけど」
「ラウラさんやガイウスさんも、上位に入るみたいですしね」
リィンとエマがそう返した。
「うーん、頑張らなくっちゃ。……それにしても、本当にいいのかな?」
ふと出たエリオットの言葉に、全員が足を止めて、エリオットを見る。
「えっと……なんとなく対等に話してるけど、ユーシスとラウラ2人共貴族の出身だし……。特にユーシスなんて、帝国東部を治める大貴族だよ?」
「まぁ、二人とも構わないって言ってるんだから、気にする必要はないさ。……かと言ってマキアスみたいに喧嘩腰なのも、ちょっとどうかとは思うが」
エリオットにそう返すリィンのその言葉に、全員が『あー』という顔をする。
「あの2人が同じ場所にいるだけで、空気が緊張するし……」
ふぅ、とアリサがため息をつきながらそう言い。
「あれからますます、仲が悪くなってるみたいだし……」
はぁ、とエリオットが同じくため息をつきながらそう言い。
「ユーシスの方も、無用に挑発的だからな……」
リィンが困ったように眉を寄せて、そう言い。
「何とかできればいいんですけど……」
エマが困ったようにそう言ったところで。
「邪魔だ。退くがいい」
そんな声が聞こえて、全員がそちらを見ると、歩み寄ってくる人影があった。
「フン、≪Ⅶ組≫の連中だったか」
それは、白い制服…貴族生徒の男子だった。
後ろに従うように、2人同じ制服の男子生徒がいた。
「……所詮は寄せ集めの連中か。行くぞ、皆」
「はい、パトリックさん!!」
「まぁ、精々分を弁えるんだな」
言いたい事だけ言って、男子生徒は去っていき、後ろに従うようについていく、男子生徒達も言いたい事だけ言って、去って行った。
「……なんなのよ、もう!!」
「さ、さぁ……?」
その姿が見えなくなったところで、アリサが声を荒げ、エマがアリサを宥めつつ首を傾げる。
「……あの建物が、貴族生徒の≪第一学生寮≫か……」
エリオットは話を逸らす為か、先ほどの男子生徒達が出てきた道を視線でたどって、建物を見上げる。
「それであちらが、平民出身の生徒が住んでる≪第二学生寮≫ですね」
エマの言葉に、全員が身体を反転させて、反対の建物を見上げる。
「しかし、まさか≪Ⅶ組≫が寮まで別とは思わなかったな……」
呟きながら、なんというか、姉となんだかんだで結構、似たり寄ったりな状況になるとは思わなかったリィンであった。
なにせロイドもまた、古い3階建てのビルに特務支援課が入ったことにより、1階を仕事の主な活動スペースとして、3階にそれぞれ女性陣の自室、2階に男性陣の自室があるらしく、そこで暮らしているのだ。
「私たちが入るのに合わせて、古い民家を改築したみたいね」
「意外と綺麗だし、雰囲気も悪くないけど……。学院までちょっと歩くのは、善し悪しってところかもね」
アリサがそう言い、エリオットがそう返したところで、鐘の音が聞こえてきて、全員が話を中断する。
「予鈴だな、急ぐか」
「えぇ、そうね」
リィンの言葉に全員が頷いて、歩きだした。
◇ ◇ ◇
「起立―――礼。着席」
エマの号令で全員が席を立ち、頭を下げて、席に座る。
「―――皆さんもご存知のように、かつてエレボニア帝国は存亡の危機に瀕していました」
全員が席に座ったところで、そう語りはじめたのは、眼鏡の教官…トマス・ライサンダー。
「その危機とは、250年前の≪獅子戦役≫……。時の皇帝亡き後、帝位を巡り有力な帝位継承者たちが、数年に渡って繰り広げた内戦です。この内戦は長期化し、各地の有力貴族も巻き込んで、泥沼の様相を呈していきました。そして、国土は荒廃し、人心は乱れました。そんな中、民を顧みずに続けられた、骨肉の争いに終止符を打つべく……ある一人の流浪の皇子が、辺境の地で立ち上がったのです」
そこでトマスはぐるり、と一同を見回して。
「ドライケルス・ライゼ・アルノール。第73代エレボニア皇帝にして、≪獅子心皇帝≫とも呼ばれる中興の祖。この士官学院の創設者でもありますね」
そう言った。
「そのドライケルス皇子が、最初に挙兵した辺境の地ですが……。リィン・バニングスさん、その地がどこかご存知ですか?」
あてられたリィンは、帝国の歴史に詳しくないながらも、予習はしていたので、席を立ちながら地名と地理を思い返す。
「≪ノルド高原≫、帝国北東に広がる高原地帯です」
ちょっと緊張しながら、リィンがそう答えると。
「おぉ、よく知っていましたね。当時ドライケルス皇子は、放浪の果てに異郷の地ノルドで遊牧民たちと暮らしていました。そして、帝国本土での内戦を聞き、遊牧民の協力を得て、挙兵したのです」
トマスはそう言って、講義を続ける。
リィンは席につきながら、ほっ、と内心で胸を撫で下ろしつつ、ノートに授業内容を纏めるのだった。
投稿が遅くなってすみませんでした。
この先のクエストや戦闘がうまく書けずに、詰まったので気長に待ってくださると幸いです。