碧と閃の交錯   作:燐火月

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リィンが初めて見た、貴族と平民の対立。


相容れぬ者

アリサ、ラウラ、エマと別れて、魔獣を倒しつつ歩みを進めていた一同だったが。

 

「……………」

「……この気配は」

突如、リィンとガイウスはその足を止めた。

 

「? どうした……」

「ふぅん、結構鋭いね」

マキアスが問おうとして、少女の声がそれを遮り、声を辿って、全員が柱に視線を向けると、そこから銀髪の少女が現れた。

 

「よかった、無事だったか。……と言っても、その様子じゃ、心配することもなかったかな」

「うん、必要ない」

リィンがそう言うと、銀髪の少女はこくりと頷いてそれを肯定し。

 

「フィー・クラウゼル。フィーでいいよ」

そして、銀髪の少女…フィー・クラウゼルはそっけなく名乗った。

 

「もう半分は越えてるから、その調子で行けばいい。それじゃあ」

フィーはそう言うと、くるり、とこちらに背を向けて歩き出す。

 

「ちょ、ちょっと待った!!」

「一人で大丈夫なの!?」

マキアスとエリオットが揃って慌てると。

 

「別に。慣れてるから。先に行くね」

フィーはそう言って、軽やかに飛び上がると、二階の通路に消えて行った。

 

「なぁっ……!?」

「す、凄い……!!」

マキアスとエリオットが呆気にとられ。

 

「……。大した身のこなしだな」

「そうだな。それじゃあ、俺たちも先に行こう」

ガイウスとリィンが、大して驚いた風もなく、そう言った。

 

◇ ◇ ◇

 

そして再び一同の足を止めたのは、今度は剣戟の音だった。

 

「この音は……」

ガイウスの言葉に、リィンが頷き、二人は揃って駆け出し、後ろからマキアスとエリオットの声が響くが、二人揃ってそれをスルーして、その場所に辿り着くと、ユーシスが魔獣に囲まれていたが、それを苦も無く倒していた。

 

「こ、これは……」

「……凄い剣さばき……」

やや遅れてマキアスとエリオットが辿り着いて、それぞれそう呟いた。

 

「どうやら助太刀の必要はなさそうだな。しかし、あれは帝国の剣術なのだろうか?」

「あぁ。帝国の貴族に伝わる、伝統的な宮廷剣術だろう」

そんな事を話していた、ガイウスとリィンの目の前で、ユーシスが最後の魔獣を剣で屠った。

 

「―――それで、何の用だ?」

「さっきは名乗る暇もなかったから、自己紹介をしておくよ」

ユーシスがこちらを向いたので、リィンはそう前置きをして。

 

「リィン・バニングス。クロスベル自治州からの留学生だ」

リィンがそう名乗ると。

 

「ど、どうも……、エリオット・クレイグです」

「ガイウス・ウォーゼルだ。よろしく頼む」

続いてエリオット、ガイウスが名乗り。

 

「ユーシス・アルバレア。一応、改めて名乗っておこう。……それにしても、なかなか殊勝な心構えだな?」

ユーシスも名乗り返したが、最後にマキアスを見てそう言った。

 

「な、何がだ?」

「大方、すぐに頭を冷やして、殊勝にも詫びを入れたのだろう。……いやはや、“貴族風情”には、とても真似できない素直さだ」

その言葉に、リィンはとても不穏なもの―――どう控えめに言ってみても、『喧嘩を売ってます』だとか、『挑発してます』的な、不穏さを感じた。

 

「何様のつもりだ……。その傲岸不遜な態度……」

マキアスもマキアスで、その挑発にあっさり乗っかってしまい。

リィンは、『殴り合いに発展する前に、止める事にしよう』と内心で決めた。

 

「アルバレア公爵家と言えば、帝国で一、二を争う大貴族……。さぞ僕たち平民の事を見下しながら生きてるんだろう!?」

「そんなことをお前に言われる筋合いはないな。レーグニッツ帝都知事の息子、マキアス・レーグニッツ」

ユーシスのその言葉に、見守っていたリィン達を含め、一瞬話に間があいて。

 

「……。あぁっ、そう言えばレーグニッツって!!」

見守っていたリィン達の中で、エリオットが敏感に反応した。

そこまで帝国事情に詳しくない、リィンとガイウスは思わず顔を見合わせて、話の続きを待つ。

 

「帝都ヘイムダルを管理する、初の平民出身の行政長官……。それがお前の父親、カール・レーグニッツ知事だ」

どこか勢いに呑まれていたマキアスに、そう言ったユーシスはそこで一呼吸おいて。

 

「ただの平民というには、少しばかり大物すぎるようだな?」

「だ……だったらどうした!! 父さんが帝都知事だろうと、ウチが平民なのは変わりない!!」

勢いに呑まれていたマキアスが噛み付くように、そう言い返せば。

 

「だが、レーグニッツ知事と言えば、かの≪鉄血宰相≫の盟友でもある、“革新派”の有力人物だ。……“革新派”と“貴族派”は、事あるごとに対立している」

静かな声でユーシスがそう言って、一呼吸置いて。

 

「露骨なまでのその貴族嫌悪の言動……随分安っぽく、“判りやすい”と思ってな」

挑発するような笑みを浮かべて、言い切った。

その言葉に、マキアスがユーシスへと歩み寄ろうとしたので。

 

『殴り合いに発展する』と判断したリィンは、後ろからがっ、とマキアスに組みついた。

その光景に、エリオットとガイウスは思わず唖然とし、ユーシスは瞬きを繰り返し、マキアスは凍りついた。

 

「な、ななな……」

エリオットが声を漏らすも、言葉にはなっていない。

 

「何をしてるんだ君は―――っ!!」

ようやく復活したマキアスが叫ぶと。

 

「留学生なもので、平民と貴族の格差による事情は知らない。だから、気持ちはあんまり分からないが、ちょっと落ち着いてくれ」

リィンはそう言って、とても女子とは思えない力強さで、マキアスが暴れるのを封じる。

 

「で、そちらも少し言葉が過ぎると思うんだが」

リィンが足掻くマキアスに後ろから組みついたまま、マキアスの肩越しにユーシスを見れば。

 

「……。売られた喧嘩を買ったまでだが」

あっさり、ユーシスはそう言い切った。

 

「だからと言って、ああも煽らなくていいと思うんだが」

「リィン!! 離してくれ!! 落ち着くから!!」

「落ち着いたら離す」

暴れるマキアスにリィンがそう言うが、『マキアスは落ち着くどころじゃないだろうな』と、エリオットとガイウスは思った。

 

簡単にマキアスを押さえてはいるが、リィンは紛う事なき女子である。

恐らく、組みつかれて『何が』、とまでは言わないが、当たっているがゆえにマキアスはパニックに陥っている訳である。

 

「あ、あのね、リィン。本当に一旦離してあげて」

「その方が落ち着くだろうから、そうしてやってくれ」

見かねたエリオットとガイウスがそう進言すると。

 

「? そこまで言うなら……」

不思議そうにしながら、マキアスを離し、マキアスは即座にリィンから距離をとって。

 

「君は女子だろう!! もうちょっと慎みを持ちたまえ!!」

そう叫んだ。

 

「?」

リィンは不思議そうに首を傾げるだけで、マキアスは違うパニックに陥った為か、ユーシスというか貴族への怒りが幾分か鎮静化したらしく、深く呼吸をして。

 

「……すまない、少し頭を冷やしてくる」

そう言って、先に歩いていった。

残ったのは、未だ不思議そうにしているリィンと、リィンの咄嗟の行動に少々マキアスに同情したくなったエリオットとガイウス、そして。

 

「……とりあえず、今のは言い過ぎだ」

「……確かに口が過ぎたな。俺もまだまだ修行が足りんな」

リィンに咎められたユーシスだった。

 

「へ―――」

そして今度はエリオットが、意外そうな顔をして、思わずその言葉に反応してしまった。

 

「……なんだ、その表情は」

「いや、だって……。公爵家の若様なんでしょう? なのに……ってすみませんゴメンなさい!!」

ユーシスの問いに、答えようとして、突如エリオットは謝った。

 

「……無用に畏まるな。身分の区別はあるとはいえ、士官学院生はあくまで対等。学院の規則にもあっただろうが」

「た、確かにそうだけど……。じゃなくて、確かにそうですけど!!」

ユーシスの言葉に、これまたエリオットが慌てたように言葉遣いを直すと、ユーシスの表情が少々険しくなった。

 

(……どうやら帝国では、身分はかなり重要らしいな?)

(みたいだな)

それを横でガイウスと共に眺めていたリィンは、ガイウスに声を掛けられて一つ頷く。

 

「それでユーシス、君の方はどうするんだ?」

エリオットへの助け舟を兼ねて、リィンがユーシスに問えば。

 

「……。ヤツと同じ行動をするのも癪だ。同行させてもらうぞ」

「えぇっ!?」

エリオットが反応してしまい、あんまり意味はなかった。


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