ヘタレな男とポンコツオペ子   作:人類種の天敵

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いぇあ!なんか絶好調だぜ!(´Д` )



可能性の鴉

「織斑ァァァァァ」

 

銃のトリガーを引き、片手づつ握ったグリップが軽く跳ね上がると同時に弾丸が銃口から飛び出ていく。

それは一瞬で織斑へと迫るがあいつはそれを涼しげに交わしていく。

 

「こっちからも行くぜ!存夜ぁぁぁ!」

 

近接ブレードを振りかぶる織斑と相対して俺は脚部のスラスターを展開すると、脚部の一部が変形し、足全体がスラスターのようになる。

その状態でブーストを噴かすと弾丸のような速度で織斑から離れるように後方へ距離を取る。

 

「は、速いッ!!?」

 

唖然として口を開いた織斑の顔面へ放った弾丸は狙い違わず奴の顔へ命中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『随分と派手に暴れてくれたな……織斑』

 

『へへっ!まだまだ行くぜ!』

 

『ハッ!言ってろ雑魚がッ!死に腐れェェ!』

 

画面に映る黒い全身装甲の機体は脚部全体がスラスターとなって得られる推進力を多大に発揮して織斑の攻撃を避けていく。

いや、織斑機は既にACの速度について行けていない……それほどまでに両機の機体速度に差があった。

 

「クスクス。やっぱりアリーヤは面白い。教えてもいない可変脚部のフロートモードを早速使うなんて、流石だよ」

 

情報端末を忙しなく弄りながら雨燕常盤がおかしそうに笑う。

その途中電話の呼び出し音が鳴ったために両手は端末を弄りながら彼女は通話に応える。

 

「何か用ですか?ブリュンヒルデ」

 

『その名は止めろ。私のことは織斑先生と呼べ』

 

通話の相手は織斑千冬。

彼女はブリュンヒルデと呼ばれたことに怒りを表したが用件は別にあるようでさほど時間も経たずに本題に入る。

 

『アレはなんだ』

 

「貴女方がボクのアリーヤにガラクタを使わせるので、彼に相応しい翼を与えただけですよ。それが何か?」

 

『つまり、国連が開発しているEOSのモデルか…それはまあいい。それよりも、あの無人機の事だ』

 

織斑千冬が言っているのは先ほどまで織斑機と戦闘を行い、十分な時間稼ぎを果たして爆散した無人機ロボットUNAC1のことだ。

 

「アレはUNAC1と呼ぶ、ボクが開発した玩具の一つですよ」

 

『なぜあんなものを試合に使う必要がある。ISの戦闘ではビット使用は認められていても現在無人機の使用は認められていないはずだ』

 

「それはボク以外は技術力が無いからでしょう?クスクス。それに一人で大気圏突入が出きて、それもたった一人で戦争もできるISと違って、ボクのアレはチームで運用することを前提に造ったものですから」

 

『……………ISは戦争するものでは無い、訂正しろ』

 

「現にアレは戦争の道具にも、その抑止力にもなっている。アメリカはさらなる軍事用ISを開発中で、貴方こそアレは兵器だと去年ボクに教えたはずですよ。クスクス」

 

電話の向こうで織斑千冬は黙り込む。

それすらも常盤には更におかしく笑ってしまう要因なのだが。

 

『まあいい、至急アレの性能ステータスなどの資料をIS学園に提出しろ。でなければアレは即IS学園で預かることになる』

 

「出来ますか、貴女達に。ボクの玩具を解析できるほどの力がこの学園に存在するとでも?ISの解析すらままならないくせに」

 

『ふん、随分と言うものだな、小娘が』

 

その言葉を皮切りに通話は終わりを告げた。

常盤はモニターの向こうに見える黒い機体に人差し指を画面越しに押し付け笑う。

 

「クスクス。どんなに美しい白であっても、結局は全て黒に飲み込まれる。そして誰も、いなくなる……それがISの結末に相応しい最後ですよ」

 

ねえ?という言葉は、暗い部屋に響き、やがて誰に聞こえることもなく消えていった。

 

 

 

 

 

「ふん、随分と言うものだな、小娘が」

 

常盤との通話を切った織斑千冬は、白熱するアリーナの戦闘へ目を向ける。

変形した脚部から放出される莫大な推進力によるブーストでアリーナの隅から隅まで滑るように移動しながら織斑機へ銃撃を行う至鋼存夜が操縦する黒い機体と、存夜機の機体速度について行けず、防戦一方を強いれる織斑機。

白と黒の対称的な両機の戦闘は俄然存夜の有利で進んでいた。

 

「やはり存夜が操縦するあの機体と無人機は雨燕が開発したもので間違い無いようだ」

 

「はぁー…凄いですね…常盤さん。二年生の、弱冠17歳の少女が無人機やEOS以上の性能を持つパワードスーツを手がけるなんて」

 

織斑千冬の報告に山田真耶は長く息を吐いて感嘆を口にする。

 

「雨燕の開発したものだと知れただけで、存夜に発破をかけた甲斐があったか……」

 

山田先生とは反対に、ふぅ、と小さく息を吐いた織斑千冬は山田先生が身を縮こませて顔を俯かせるのを見て、ふと声をかけた。

 

「どうしました、山田先生」

 

「あ、織斑先生………………存夜くんにしたことが、本当に良かったのかって、思いまして……」

 

織斑千冬に声をかけられてビクッと身を震わせた山田先生は数秒の思想の後に自分の思いを語る。

それは、山田真耶の胸中に渦巻く存夜に対しての後悔の念である。

 

「試作品のEOSが、ISに立ち向かえるのか……私たち教職はともかく学園の生徒にも分かりきった事を、ワザと存夜くんに強要するなんて、許されることでは無いです……例えそれが、常盤さんがあの機体を持ち出すことを見越しての上層部や各国の思想で……断ることが出来なかったとしても……」

 

中立を高らかに宣言する独立しているはずのIS学園が、実は各国首脳部の思惑に右へ左へと右往左往している現状は、何かの皮肉か。

 

「………」

 

「きっと、存夜くんは私たちに怒りと憎悪を抱いています。でも、私はそれを…弁明なんてきっと出来ない。残酷な選択を強制しておいて、赦しを請うなんて……彼にまた、失望されちゃいます……」

 

「私は、あいつらに、私の言葉には、はい、か、イエスで答えろと言いました」

 

「………?」

 

「しかし、存夜は、しっかりと私を見て、しっかりと反論を口にした、ふざけるな、と。お前は何を言っているんだ、と……私にも元世界最強という実績と、その称号が世に知れ渡っているという自負があります」

 

世界最強の女、織斑千冬。

世に知れ渡っているも何も、それこそがISにおいて永遠について回る伝説であり、IS神話を確固たるものとした織斑千冬の功績だ。

 

「あいつは、骨のある奴です。そして存夜には、支えてくれる仲間がいる。あいつはこれくらいで潰れる器ではないですよ。何度地上に叩きおとされようが、醜くしぶとく立ち上がる」

 

織斑千冬は、存夜の評価を言いながら、ふと頭によぎる自責の念があった。

あいつを私が支えてやれば、ああはならなかったのではないのか。

こんな世界になったのは、あいつの暴走を受け止めてISの正しい価値が世界に示せるようになるまであいつを支え切れなかった自分の責任なのではないのか、と。

しかしISは既に宇宙用のパワードスーツを超えて表向きは競技用の、しかしそれは既に実用可能な兵器を試すためのパワードスーツとして使用され、裏では軍事用のISが何機もロールアウトしている。

 

「ISの可能性は…戦いではないんだ……」

 

「何か言いましたか?」

 

「いえ、そろそろ決着が着きそうだと」

 

「そうですね、織斑くんが心配ですか?」

 

「あいつも、これくらいの事では折れる男ではありませんから」

 

ISの利用価値は既に戦争の道具として形骸化している。

そして、雨燕常盤はそれに対して、純戦闘用の兵器を生み出した。

独りで行動できるISとは異なり、機体を操縦するパイロットが、パイロットを支援するオペレーターが、無人機を使い援護を行うパートナーが。

ISとは異なり、ISをやがて超える兵器。

恐らくアレの可能性とは戦うことそのものであり、ISはアレの前になす術もなく破れていくだろう。

 

「だが、それで良いのだろう」

 

元々ISの可能性とは戦うことではない。

大空を、そして宇宙を飛ぶことがISの存在意義なのだから。

そしてアレは、道を外れてしまったISの軌道を強引に変えてくれる。

一人で無理なら二人で、それでも無理なら三人、四人………最初から独りで何かを成そうというのは土台無理な話だったのだ。

あいつは、なまじ頭が冴えるために、結局それが分からなかった。

分からないままISの間違った可能性を世界に教えてしまい、ISはあいつの思想と理想を外れて迷走してしまった。

あいつも私も、気付けば汚い大人になってしまっていた。

あの頃、あいつのIS論を鼻で笑い飛ばし、気にもかけなかった大人たちに。

 

「今ならまだ、私も変えられるだろうか」

 

アリーナに目を移すと一夏のブレードを片手で受け止めた存夜が銃口を一夏の胸に押し付けて引き金を引いた。

フルオートで放たれた弾丸は一夏の白式を穿ち、SEを削っていき、半分ほどあったそれらを一気に全損させた。

 

『負けた…へへ、いい試合だったぜ、存夜』

 

『……おう』

 

存夜には本当に悪いことをした。

最悪、あいつは私たちに殺される一歩手前の所まで追い詰められた。

しかし、あいつは仲間たちに支えられて立ち上がった。

ならば、私もあいつも、諦めなければ変われるはずだ………ISの可能性と共に。

後進の邪魔をするのは最早得策ではない。

私は私なりにあいつらの背中を後押しすることが、ISの可能性を信じてやれる最後のよすがだ。

 

「あれ、お、織斑先生」

 

「どうしました、山田先生」

 

「カルマさんからオルコットさんとの試合での抗議が来ています…ど、どうしましょう」

 

オルコットの試合…ああ、アレか。

アレは確かにイギリスの国旗をいずれ背負うだろう候補生のオルコットには相応しくない戦いだった。

そこに気付くとは……なるほど、良いオペレーターに恵まれているようだな。

 

「分かりました、カルマの話を聞きましょう。判断はそこからでも遅くないはずです」

 

「 ! はいっ、分かりました!」

 

山田先生が端末を開いてヴェニデからの抗議メッセージを開く。

それは抗議の本質とオルコットと存夜の再戦を強く希望するものであり、私たちにそれを拒否する義務はない。

なぜならこれは1−1組の代表を決定する戦いであり、オルコットの戦法はそれを背負うに値しない……アレでは、紳士淑女の欠片も見えない戦場で、外道のやることだ。

 

「以上ですね、私は再戦に賛成です」

 

「ふむ、そうですね。私もヴェニデの言い分には納得がいきます。織斑との試合の前にオルコットに事情説明をお願いできますか」

 

「はい!」

 

山田先生がパタパタと駆け出していく。

アリーナでは存夜と織斑が、それぞれのハンガーへと帰投していた。




ひゃっはー!申し訳程度の千冬救済?あとオルコット戦のリベンジ伏線。
安心してください。ポンコツオペ子の騙して悪いが、が出ますよ!

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