「さて、授業を始める、と言いたいところだが、先にクラス委員長を決める。自他推薦は問わん、誰かいないか」
(クラス委員長ってなんだ?言葉通りの委員長か?)
二時限の始まり、織斑先生がクラスの委員長を決めるために周りを見回した。
俺と同じで織斑はクラス委員長がよくわかっていないために首を傾げている。
「あの、千冬ね……織斑先生、クラス委員長ってなにするんですか?」
「そうだな、大抵は委員長業務だが、IS学園ではもうすぐ始まるクラス対抗戦に代表として出てもらうことになる」
「「うげっ……」」
つまりそれは他のクラス代表のだれかと戦うわけだからもし負ければ全校生徒の笑いものだしどこのクラスも実力のある奴が選ばれるわけで男の俺はお呼びじゃないわけで……
「はい!私は織斑くんを推薦します!」
「えあ?」
「私も私も!」
「うえええ!!?」
もちろん、織斑が他の女子に推薦されるわけで、俺は全く関係ないわけだ。
「ねえ、至鋼くん」
我関せずの意思表示を顔で示して鷹月大明神のノートを模写していると、鷹月大明神が隣の席から身を寄せてきて小さな声で恐ろしい言葉を吐いた。
「至鋼くんを推薦してもいいかしら」
「ブブォォッ……!!?」
両腕を組んで思いっきり吐瀉物噴出。
シーンとなった教室で一つ、ポケットティッシュを取り出して静かに鼻をかむ。
「どうした、至鋼」
「いいえ!?なんでもございません魔王さーーー」
ズバァァァン!!出席簿が黒板を叩いた音が教室に響き、魔王様もとい織斑先生の口元が「もう一度言ってみろ」と俺を見据えて動いたような気がした。
「い、いえーなんでもないですーアッハイ」
「そうか…では、織斑の他に誰かいないか。いないなら織斑に決定するが」
「………ちょいちょいちょい!鷹月大明神!?なんで俺を推薦しようとする!?」
「ジョークのつもりだったんだけど、刺激が強すぎたみたいね」
肩を竦めた鷹月大明神がごめんね、と両手を合わせた。
別のところではバン、と机を思いっきり叩いた音が聞こえて、誰かが甲高い悲鳴を上げた。
「冗談じゃありませんわ!男がクラスの代表!?このセシリア・オルコットに、そんな屈辱を一年間味わえと仰るのですか!?そもそも!このわたくしが極東の猿どもの学校に通わされること自体受け入れがたい屈辱で……周りは実力もなく張り合いのない生徒に礼儀はもとより常識すら持ち合わせていない男性搭乗者。果てにわたくしのクラス代表がそんな男になって仕舞えば、わたくしはそんな男に実力で敵わない代表候補生だと一生笑われますわ!!」
その正体はあのセシなんとかだった。
というか、本名はセシリア・オルコットだっだわけね、よく分かったわ。
「生き易いものだな、羨ましいよ…」
俺もヘタレな性格じゃなくちょっとだけでも自信満々な性格だったら良かったのに。
「……はぁ、いいですか?今のこのご時世男の立場というのは……」
「おい、あんた。いい加減にしろよ。日本人を極東の猿呼ばわりは言い過ぎだろ!?それならイギリスだって、飯まず覇者何年一位だよ!」
セシリア・オルコットには好き勝手言わせていれば良いものを、何をトチ狂ったか織斑も立ち上がって応戦し始めた。
「あなた、このわたくしをバカにしてますのねえ!?」
無論言い返すセシリア・オルコット。
「そっちが先に言い始めたんだろ!」
負けじと吠える織斑。
「……どっちもどっちだろ(ボソ)」
「「なんだって(なんですって)!?」」
興奮して席から立ち上がった2人に呆れ、小さな声で呟いたはずだったが、2人はその声を聞き逃さず憤怒の形相で睨んできた。
あ、やべ、撤退すry
「存夜!ここまでバカにされて言い返さないのかよ!?お前のこと、おんなじ男として期待してたのに!」
「期待?それってもしかしてウホッ♂」
「貴方!貴方も何か言いたいことがあるのかしら!?小さな声でぐちぐちぐちぐちと、貴方のような男は惨めに這い蹲っていればいいのですわ!」
「ぐふっ………抉らせてもらったで……セシリア・オルコット………」
「わっ、大丈夫?」
セシリア・オルコットの口撃に打ちのめされて何も言えずに沈黙。
「………つーか、セシリア・オルコットって、なんなの……」
「セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生の1人で今期のIS学園入学主席です」
「ッ!!?」
右横を見ると鷹月大明神が口を半開きにしている。
左を見るとオペレーターのカルマ・ヴェニデが伊達メガネをかけ直しながら手元の資料を持っていた。
正直に言おう、クッソ可愛い。
「使用ISは専用機のブルー・ティアーズでこの機体はレーザーを弾種としたスナイパーライフルとイメージインターフェースを用いたビット、近接用のショートブレードが武器になります。中でもレーザーライフルを使った射撃精度は代表候補生の中ではトップクラスの精度と思います」
「へぇ……てかなんで伊達メガネ?」
「ベテランオペレーターに見えるからですっ(キリッ)」
「……………」
こいつもこいつで結構癖のある人物ではないでしょうか?
「あら、そちらの方は私のことを詳しく知っているようですわね。まあ、その程度常識の範囲内なのですけれど、おほほほry」
「はい、わざわざヴェニデ流の情報蓄積術を使いましたが、はっきり言って無駄でした。せっかくのビット兵装も使っている間は動けない弱点がありますし射撃精度はあくまでも代表候補生の輪を抜けきれません。しかも近接用のショートブレードに関しては初心者用コールを使わなければ出せない実力(笑)これはこれは、とんだエリート様ですね(嘲笑)」
(………………!!?ウェッ!?結構黒いなこいつ!?)
「………なっ、なっ、なっ………」
上げて褒めて煽てて囃し立てて良い気にさせといて一気に落とすッッッ!!
オペレーターの残酷な手口にセシリア・オルコット含めて教室の誰もが唖然とした。
無論俺もセシリアと激しく言い争っていた織斑でさえもだ。
「あああ貴女、わ、わた、わたくしをコケにしてますのね?」
「?…私がわざわざ貴女を?それをちょっと……買いかぶりすぎではないですかね(にっこり)」
伊達メガネを外してフッと息を吹きかけ、丁寧にメガネケースへ収納した後でオペレーターはにこにこと笑みを浮かべて小首を傾げた。
「………話が過ぎたな。では、織斑とオルコットには来週模擬戦を行い、勝ったほうをクラスの委員長とする。これでいいな 」
「待ってくれよ、千冬姉ぁ痛ッ!?……お、織斑先生。俺はやるなんて一言も言ってないぞ」
「他者から推薦された者はやるやらないに限らずその期待に応えてみせろ。泣き言を言うな。それとも、貴様は他者から面白半分に推薦されたことが不服か?」
「いや……そういうわけじゃ」
「ならまずはオルコットと模擬戦を行い、どちらかがクラス委員長に相応しいのかをはっきりさせろ。それなら貴様も文句はあるまい。無論私はおふざけ半分や思いつきで他者を推薦するなどという行為は好かん。今後は却下するので留意するように」
織斑が渋々と席に腰を下ろした。
セシリアも織斑先生の剣幕に恐慌しながら席に着く、これで平和になった、良かった良かっry
「あ、そうだ!千…織斑先生!俺は存夜を推薦するぜ!」
「発言の意味が不明でry」
「よし、ならば来週アリーナを借りて織斑、オルコット、至鋼の3人で模擬戦を行う」
「話が……違うっすよ……おふざけ半分や思いつきは却下するって…………」
その後俺の必死な弁明も無視されチャイムが鳴ったからとそそくさと魔王は教室を去っていった。
「いやー!大変なことになっちまったな、存夜!でもまあ、戦うときは負けないぜ」
「………」
爽やかな笑顔で俺の肩を叩く織斑。
隣の鷹月大明神は気の毒そうに、オペレーターは情報端末を使って何やら忙しそうにしていた。
そんで、俺はというと。
「………黙れよ」
「…………え?」
織斑のいい加減な発言にも、その姉の理不尽な言葉にもブチ切れていた。
「あ、存夜?」
「黙れよ、茶番はもう終わりだ」
もう我慢ならない、俺が口喧嘩一つ言い返せないヘタレだからって好き勝手やりやがって。
自由に生きるのはいいことだ、だがな、他人に理不尽を強要するのにだけは我慢ならなん!
「俺を負かしてみせる?」
「お、おおry」
「あ゛ぁ゛ん゛ ?やってみろよおおおおおおおおおお!!!」
「流石ですっ!貴方ならそう言ってくれると信じてました。ささっ、不肖ながら私がセシリア・オルコットと織斑一夏の情報と想定を集めましたのでブリーフィングをしましょう」
織斑に向かって啖呵切った瞬間にオペレーターがパチパチと手を叩いて数々の資料を手にとって見せた。
その内容はセシリア・オルコットしかり、ブルーティアーズの武装しかり織斑の情報だったりだ。
「まだまだ未熟ですが、貴方のオペレーターとして頑張りますので、一緒にに頑張りましょう」
俺に付いた専属のオペレーター。
腹に一物黒いものを持っているが、それが俺のためになるのだろうと思えば、こいつほど頼りになる相棒など今この時点ではいないはずだ。
こいつほど、ポンコツなオペレーターも、今思えば、いないはずだ。
ヘタレが本性表した。
まあ、マッハで蜂の巣にされるんですけどね