ヘタレな男とポンコツオペ子   作:人類種の天敵

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観戦する鴉

 

 

装甲三姉妹の母を倒した俺はオペ子やフォグシャドウこと深緑霧影、ベティを連れて常盤先輩のラボに戻った。

 

「ふぁ、ああ、お疲れ様。アリーヤ」

 

「お疲れ様っす。……凄く眠そうっすね」

 

「最近寝てないからね。凄く眠いよ」

 

片目を閉じ欠伸を噛み殺しながら片手でカタカタカタカタと手が霞む速度でホログラムのキーボードを叩く彼女は、空いた手でマグカップを手に持ち、真っ黒のコーヒーをズズッと啜る。

 

「他企業からの開発案ですね。色々なものがありますよ。AC」

 

オペ子は言う。

常盤先輩と提携している有澤重工やキサラギ社などから新しいACの設計図や試作品などを常盤先輩に見せてOKが出たら予算が出るそうだ。

なのでどの企業も予算が降りるように猛烈なアピールをしてくるらしい。

 

「有澤重工ですと対IS用の戦車とかグレネードライフル、グレネードキャノンとかですね。キサラギはAMIDAです」

 

「ねえ仮想シュミレーター以来の単語なんですけどAMIDA……一体なんなの」

 

てかあれって現実的に作れるものなのか?

訝しげにオペ子を見ていると、ガガガ、と音を鳴らして機械が紙を数枚吐き出した。

 

「また来たかな」

 

「これは、ACやフォグシャドウの開発案です」

 

「ああ、君の」

 

ええ、と短く肯定したオペ子は紙を俺と霧影に見せて来た。

どうやら俺たちに関係のある資料だったようだ。

 

「スカイ…フォーゲル?」

 

頭部を除く至る所に推進ユニットを搭載した空中戦型ACらしい。

ただ打鉄との比較データを見る限りその性能は未だ試作段階の域を出ておらず、こんなのを使っていても七面鳥のようなものだろう。

それに推進ユニットの負荷が強すぎて積載量や消費ENの大半を喰われている。

これではメインになる火力武器や格納武器を載せることも出来ないだろう。

 

「でも………空か」

 

飛びたい、飛んでみたい。

俺も、ISじゃないけど、空を自由に飛んでみたいものだなぁ。

 

「私のAC…シルエット……か」

 

霧影のフォグシャドウは元のラプターと武装構成はあんまり変わっていない。

ただ霧影から取れたデータなどを基に機体パーツを一から作り直したようで、文字通り霧影の専用ACとなるらしい。

その特徴は、機体の自重と推進力の低さを利用した小ジャンプというテクニックがあることか。

 

「MTの資料はどうしますか」

 

「ああ、アレだね。ならそこに置いといてくれるかい?」

 

「分かりました」

 

オペ子がそっと置いた紙を盗み見る。

MT……マッスルトレーサーの略で、ACを元に開発された純作業用マシンらしい。

複雑な機構を備えるACとは違って、単純で簡素な造りにすることで大量生産を可能にし、安価なパフォーマンスがウリの商品に出来たらしい。

既に試作機が各企業に10機ずつ配備されていて、現場からも重機作業が効率良くなったと中々良い評判のようだ。

 

「ではAC。邪魔をしても悪いですし、そろそろ」

 

「ん、確かに。じゃあ常盤先輩。お疲れ様っす」

 

「ああ。お疲れ様。アリーヤ」

 

常盤先輩に挨拶して部屋に帰る。

その途中、変な鳴き声と廊下を走る人影が。

 

「うわぁぁぁん!一夏のばかぁぉぁ」

 

バギィ!

 

「痛ぁっ!?」

 

豆粒の正体は最近転入して来た2組所属の中国代表候補生、凰鈴音。

奴は進路上にいた俺の鳩尾に見事な右ストレートを決め込むと、謝罪の言葉もなしに駆け足で去っていった。

正に嵐のような女だった。

 

「大丈夫か?」

 

「………全然」

 

腹を抱えて蹲る俺に霧影は言葉をかける。

だが俺の視線は霧影ではなく、前方のくそ女ったらしーー織斑一夏に注がれていた。

 

「鈴音のやつ……言い過ぎたけど何もブツことなんて……」

 

くそったれ織斑!お前の天然ジゴロに俺を巻き込むなバカ!

心の中で思いっきり罵倒した(口に出さないのは篠ノ之がそばにいたから)。

しかし鈴音の奴もバカだなぁ、こんな超朴念仁に恋心を抱くなんて。

また人ごとだし別にどうでも良いけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『〜〜〜これより、第×回クラス対抗戦を始めます。最初の組は〜〜〜』

 

クラス対抗戦。

常盤先輩にメールで『連れてってくれないかい』と言われた俺は途中で合流したオペ子と一緒にアリーナ観客席をいくつか適当に確保した。

オペ子は相も変わらずキーボードを叩き、先輩は資料やらなんやらから解放されて伸び伸びとしていたが、

 

「少し眠くなったかな。始まったら起こしてくれるねアリーヤ」

 

俺の肩に頭を乗っけて眠ってしまった。

起こすのも悪いし良い匂いが鼻腔をくすぐるので放置、無心だ、無心になるのだアリーヤよ!

 

「おいーっす、存夜っち」

 

「どうもです」

 

見るからに高身長で、活発そうなん雰囲気の齋藤さんと見るからにロリ属性根暗ぼっちの佐藤さんだ。

彼女たちは常盤先輩の隣の席に座り、手持ち鞄から取り出したゲーム機で遊び始める。

 

「織斑先生にバレたら取られちまうぜ?」

 

「だいじょぶだいじょぶ。あの先生観客席には来ないからー」

 

「ふっふっふ。このレーザー攻撃の嵐を喰らうです」

 

余裕綽々の2人はオンラインモードで2人とあと1人の計3人で遊んでいる。

因みに鷹月大明神は別のお友達と観戦するらしい。

 

「友達?野良?」

 

「友達だよー美穂のだけど」

 

「も、森さんっていう。3組のとと、友達……です」

 

へえ、良かった良かった。

基本ぼっち属性の佐藤さんに1人でも友達がいるのがわかって心底ホッとした。

しかし佐藤さんはそれが気にくわないのか、可愛いらしく俺を睨む。

 

「ごめんごめん。佐藤さんに友達が出来たようで嬉しくってさ」

 

「そ、そうです?」

 

うん、ちょろい。

 

「あ、そろそろ始まるな……先輩、先輩。始まるっすよ」

 

「zzz(しょうもなさそうだからやっぱり寝る)」

 

「いや、何言ってっから分かんねえっす」

 

まあ、先輩が寝てても構わないだろうから起こさずにしておく。

 

「一夏!あの時の言葉、謝るんなら少しは手加減するけど?」

 

「へっ、あんまり舐めんなよ、鈴!俺だって〜〜〜」

 

「あ、始まった」

 

「凰鈴音の甲龍は第三世代機で、近接戦闘向きの長期戦型ですね。更に龍砲という装備も備えています」

 

「龍鳳?あの艦これのーー」

 

「龍砲です」

 

「あっはい」

 

だめだ、ジョークが通じなかったぜ。

とりあえず齋藤さんと佐藤さんのゲームは辞めさせたほうがいいのだろうか。

にしてもこの2人も中々アレだよな、今話題の男性操縦者と代表候補生の試合そっちのけでゲームにのめり込むとか。

 

「うおおおお!」

 

「やるわね!一夏!でもーー!」

 

「………」

 

あ、無理。

もう無理、つか飽きた。

いや、ISの戦闘ってさ、すっげえ臨場感とか迫力があってテレビで観てても面白いけどさ、それやっぱビュンビュンとんで銃弾が飛び交っているところがあってこそだと思うんよね。

ただあんまり動かなくて近距離で剣ぶんぶん振ってチャンバラみたいに殴り合いされても全然面白くねえや。

周りはキャーキャー言ってるけど俺にはちょっと無理だな。

ゲームもfps系が多めだし、剣とかファンタジー系や三國無双or戦国無双くらいだわー。

 

「い、一夏ぁ!何をしてる!さっさとその女を……い、いい何時まで2人っきりで添いあってるのだぁ〜〜〜!!!」

 

「篠ノ之さん落ち着いて。ハウスよハウス。分かるかしら。ハウス」

 

あ、大明神発見。

違う友達とってかブレーキ役な訳ね、納得。

つか篠ノ之見境なさすぎ、狂犬かよ(笑)

 

 

「ぐっ、なんだ!?見えない…」

 

「ふふん。分かんないようだから教えてあげるわ!これが甲龍の龍砲よ!」

 

 

「やべー飽きた。これ、まだおわんねーの?」

 

「まだですね。ただ、ISの使用時間から言って凰鈴音の方が有利ですし、白式自体の性能がポンコツの欠陥兵器ですからもう少しじゃないですか?」

 

うん、解説ありがとうオペ子。

ただ、思ったことを言わせてもらうとポンコツはお前の方な気がする。

 

「仕方ない。ここは常盤先輩の寝顔でも観て癒されてお……」

 

「うっわー、存夜っちそれは引く」

 

「じー…です」

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ見ないでええええ」

 

しくじった見られたうわ恥ずかしっ!

 

「お、五連ミサイルゲットー」

 

「ナイスです。それは後に温存しとくです!」

 

よ、良かった。

齋藤さんと佐藤さんはオンラインゲームに夢中であんまり深く弄られなかった……。

 

「はぁ、AC。後で雨燕常盤には伝えておきますから」

 

おいポンコツオペ子、こういう時だけきっちりしてんじゃない。

 

「……?回線が?」

 

 

 

ドカン。

 

 

 

アリーナの天井から、急にそいつは現れた。

 

「ーーーっ、なんだ、こいつ!」

 

「一夏!気をつけて!こいつ、アリーナのSEを1発のレーザーで破壊したわよ!」

 

ずんぐりとした胴体に、腕は気味悪いほどに長いロボット。

どうやら、IS学園に侵入してきた張本人で、豆ちびの言葉によると、たった一撃のレーザー攻撃でアリーナのSEを貫通した。

セシリアの使うブルーティアーズでも通用しないアリーナのSEを、だを

 

「回線が切られています!AC、機体は行けますか!?」

 

「あ、ああ……」

 

可変二脚ACナイトフォーゲルもタンク型AC霧積も、G-SHOCKを操作すれば即座に展開できる。

だが、だけど、こいつを動かすには周りの人が多過ぎる。

先ずは避難するか避難させないと……!

 

「うっわー!なんだよ!回線抜けちったー!?今いいとこだったのにぃー!れ」

 

「いやいや齋藤さん!そんな場合じゃ、ねーから!今すぐ逃げ………あ?」

 

齋藤さんの隣、こぢんまりした体型の佐藤さんが、顔を俯かせてプルプル震えていた。

やばい、佐藤さんが怖すぎてパニクったか!大丈夫、俺も怖いから!

 

「……す」

 

「ん?(´・Д・)」」

「……ろす…ぅ……」

 

「ん?ん?( ゚д゚)?」

 

「ろす。ころす。コロス。殺す、殺す。………殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すゥゥゥウウウゥゥウゥウウゥウウウウウウウーーーー!!!!!」

 

「………(・Д・)」

 

ゲーム機を握りしめ、立ち上がった佐藤さんはアリーナにいる敵ISへ向けて、そう宣言した。

虫も殺せなさそうってか虫が羽ばたき出したら泣き出しそうな佐藤さんが、だ。

 

「オンの邪魔をしたお前を!絶対に絶対に絶対に許さないDeath!!」

 

なんて気迫だ、ちょっとちびったかもしれない。

そしてそれはオペ子も同じらしい。

口を半開きにして呆然としながらも頰を赤く染め、スカートを軽く押さえてモジモジしてる。

 

いやいや、それよりも、だ。

佐藤さんは常盤先輩並みのタイピングでホログラムキーボードをダダダダダダッと打ち込むと、ふぅーー!と息を吐いた。

 

「とりあえず、掌握されてたIS学園のセキリュティを突破して回線を元どおりにしたです。糞ハッカーは突き止められなかったですが、あのISの情報は手に入れたです」

 

糞ハッカー…糞、糞?あの佐藤さんからそんな言葉が飛び出るなんて……。

そんなに回線抜けされたのがイラついたのか。

そして相手の解析をする仕事って普通オペ子の仕事じゃね?

 

「……私の、仕事……」

 

あ、オペ子さん茫然自失…。

 

「とりあえず避難しなきゃなーーって扉しまってルゥー!オペ子!出番だ!」

 

仕方ないのでオペ子に仕事ーー何故か閉まっている扉を元どおりに全開させる。

オペ子も俺の言葉で我に帰ったし、後は織斑に任せて一安心だ。

 

「分かりました。セキリュティの道は佐藤美穂のを使って……「カシャン」ほら、この通り。楽勝です」

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!?アリーナの、アリーナのSEまで消えちゃったわ!?」

 

「嫌ぁぁぁぁぁ!誰か出して!先生!先生ぃぃ!!」

 

「おかぁさぁぁぁぁぁぁん!」

 

「………」

 

「……あら?おかしいですね……あれー?…えと……」

 

「やっば、敵のISがこっち見てる!あのレーザー攻撃使ってくるみたいだけど!存夜っち!…て、わっ!?SEが消えてる!」

 

嫌ぁぁぁぁぁ!!!ポンコツオペ子のドジで死ぬなんて嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

「無念です」

 

「いやいやいや!?諦めるの早いな!オイ!」

 

「zzz」

 

「先輩はとりあえず起きて!?うわー!もうダメだ!死ぬウゥゥーー」

 

死を覚悟した、その時。

 

ドドン!ドッカンドカン!

 

「っ!?え」

 

『悪い。遅くなった!』

 

観客席から飛び出した深緑色のペイントをした1機のノーマルACが思いっきり敵ISを蹴飛ばした。

 

「まさかまさかの霧影さぁぁぁぁん!!」

 

女神!天使やで貴女!

 

『このまま押し込む』

 

どうやら観客席から飛び出した彼女は空中でノーマルACを展開して敵ISを蹴たぐったあとで追撃としてミサイルとロケット弾のプレゼント。

そして霧影は巧みな高速機動と両手のショットガンを使って軽快に動き回り、敵ISの動きを封じていた。

当然敵は霧影の動きを取らえられずなされるがままに固まっている。

 

「今の内です。アリーナのSEは再度張りましたが敵のレーザー攻撃に耐えられるかどうか……八割の確率で貫通されます。その前にACが扉を開けて避難勧告して被害を最小に……」

 

「張り直したもなにもさっきお前が自分で剥がしたんじゃry」

 

「作戦行動に移って下さい!」

 

「アッハイ」

 

「はいはいどいてー。怖いのは分かるけど今から扉開けるんで道を開けてー」

 

固く閉ざされた扉をレーザーブレードで断ち切る。

後は扉をノーマルACのパワーでもって強引に開き、脱出経路を確保する。

 

「や、やった!出口よ!」

 

「みんな!慌てないで!慌てずに出口から出て行って!」

 

『あ、大明神じゃん。ちーっす』

 

「ふふ、また後でね。ありがとっ存夜君」

 

パニックになっている生徒を落ち着かせつつ大明神も扉の向こうへ避難していく。

 

「よいしょ、常盤先輩は連れてくとして。美穂ードッキングするよー」

 

「分かったです。ドッキングです!」

 

「「合体ー」」

 

あかん、この子らバカや。

こんな非常事態でよくらのほほんと遊んでられるな、こいつら。

 

「……この子たちは私が責任持って連れて行きます。ACは援護を」

 

『了解』

 

避難が進んでいく観客席を眺めながらアリーナ下を見下ろす。

するとそこには、ボロボロになった深緑色の機体が……、

 

『が……く、くそ』

 

「あんたは下がっててくれ!鈴!」

 

「ええ、一夏!こいつ、油断出来ない!」

 

『マジか』

 

まさかの霧影がやられた。

ラプターの装甲はボロボロになってるし、ブースターを破壊されたのかプスプスと煙を上げている。

 

『んじゃま、とりあえずKARASAWAで』

 

何時ものようにKARASAWAを取り出しチャージする。

その後はフルチャージになる頃を見計らって敵ISから距離を取れと注意を促す。

 

敵の頭に照準を合わせるのと、アリーナのSEが消えたのは同時だった。

 

『あばよ。酔っ払い』

 

青白い極太の閃光が、敵ISを丸ごと呑み込んだ。




今更ながらやっとオペ子がポンコツっぼいシーンを書けたなと思った。
読み返してるとポンコツどころかすげー有能だわこのオペ子。(なのでこれからはちょくちょく騙して悪いガールにしていこry)

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