織斑とオルコットの試合が終わった。
結果はオルコットの勝利だったが会場の熱気は何度も織斑の名を連呼していた。
その理由は………………
「一時移行……か」
オルコットとの戦闘中に一時移行という操縦者に適した装甲や形状に変化する操縦者の専用機へ織斑のISが変化した。
これはつまり、織斑はISが扱いにくい状態で俺と戦い、オルコットの狙撃を避け続けていたということになる………らしい。
しかも一時移行に至った織斑のオルコットへの快進撃は凄まじいものだったらしく、織斑が勝つまであとほんの少し……それだけの差がオルコットの危うげな勝利と会場の熱気の理由のようだ。
ところで俺はというと……
「マキちゃん出力の調整は大丈夫?はひぃっ……!?そ、そのコードは、ち、ちがうよぉ………あ、あぁ…さっきバランサーの調整が終わったのに………」
「あっちゃー!悪いっ!やっぱ私こーいうの苦手だから退散するぜ存夜っち!ちゃんと美穂のこと慰めておいてねーアデュー!」
「なぁっ!?に、逃げやがったあの脳筋女……あ、あの……佐藤さぁ…ん?大丈夫でしょうかぁ……」
「ふきゅ……ふ、ふ……ふぇぇ………」
「泣きながらも微調整してくれるのを見るのは好感度と罪悪感に板挟みされてて精神的にきついぜ…………でもなんか泣きながら作業してる方が作業スピードが速いって…逆に凄えな佐藤さん……」
「スモーク弾搭載の特殊ターレットはオッケーね、ファングシールドはどうするの?」
「残念ながらナイトフォーゲルの腕部には適合しないですね。仕方ありません、この際スモークを展開した後にサプレッサーを装備したMPX9(IS用に強化されたMPX)とMP7F1(IS用に強化されたMP7)で接近して倒すしかないです」
「でもACの弱点は数十センチくらいしか浮遊できないことよ。きっとオルコットさんはそれを突いてくるわ」
「はい、ですので煙幕の中でSR−3 ブリッツの一撃をスラスターに当てて地面に落とすことから試合を始めなければいけません」
「……そうそう!ブリッツで思い出したんだけど、EMP弾(電磁パルスを内包した弾丸)の使用を前提に常盤先輩が開発した試作品があったわよね。アレをスラスターに撃ち込んで電磁障害で機能停止させて地面に落とせば絶対防御が発動してSEの大部分を削れるし数秒間動きを制限できるんじゃないかしら」
「……!それは考えてもみませんでした。急いで手配可能か聞いてきますね」
オペレーターが端末を操作して常盤先輩と連絡を取っているようだ。
因みに今この場にいるのは先ほど抜け出した齋藤さんを除いて、俺と鷹月大明神とオペレーター、それとナイトフォーゲルの整備・微調整を急ピッチで進めている佐藤さんだ。
常盤先輩は部室の方に戻ってナイトフォーゲルの戦闘記録を解析して今後の試作品のデータに変換するのと、織斑にぶっ壊されたUNAC1の修理で、今この場にはいない。
「鷹月さんにAC。彼女から試作品が二つ貸与してくれるようです。一つは弾丸の空白部分にEMPを内包した弾丸を当てることで小規模のEMPを引き起こすスナイパーライフルと、電磁パルスの威力と弾速と射程を高出力のレーザー程に強化して、なおかつ段階的なチャージングを行うことで威力・弾速・射程距離を可変できる上に重度の電磁障害を引き起こすEMPレーザーライフルです。どちらを外して装備した方がいいでしょうか」
「なんだろう………EMPレーザーライフルを使えば開始数秒で瞬殺……てかピーピーピーボボボボボできるような気がして来た」
「サブマシンガン2丁ぐらいは格納できるんでしょう?なら2つとも両手に装備すればいいじゃない」
「………それもそうですね。では2つとももう少しで転送されるらしいので、先にオルコット対織斑戦の報告ですね。オルコットは先ほどの戦いでビット3基を撃墜されて、データになかった奥の手であるミサイルビット2基も確認出来ました。後は通常ビットが1基とミサイルビット2基になるのでビット攻略は楽勝です(にっこり)」
「普通スペアとかあるんじゃないか?そこんところ大丈夫か?」
「大丈夫です。情報によれば彼女はここ数日は自分の射撃訓練かブルーティアーズの整備のみで英国からスペアパーツを取り寄せる様子は確認されていません」
……………え?それってここ数日の話なわけで日本に来てから学園初日までにビットを補充してる可能性あるよね………?
…………嫌な予感すんね………(^◇^;)
「ちょ、ちょっとハッキング出来るんなら日本に来る数日前とIS学園初日までの記録を遡ってみようぜ?」
「?……そうですか?…あ、EMP弾のSRとEMPレーザーライフルも転送されたようです。鷹月さんもどうですか?」
「そうね、私も見てみるわ」
「あ………あー…………その前にやることが………」
「う、動かないでね、アリーヤぁ……これ以上調整が出来ないと泣いちゃうですぅ」
「アッ………ハイ(´Д` )」
見事なまでに足並みの揃わないチームワークに致命的なミスを犯す予感のするオペレーターの情報収集。
それでも俺は信じてたよ、オペレーターの判断に従うべきだって………。
オルコット戦
「ふふふ、また来ましたのね。その不屈の意志に敬意を表してこれまでの無礼を謝まりますわ」
「???(なんでこいつ、こんな偉そうなの……)」
右手にEMPレーザーライフルと左手にEMP弾のスナイパーライフル、あと機体のどこかにサブマシンガンを二丁格納したナイトフォーゲルを装着してアリーナの地面に飛び降りると、俺を見下しながら笑いながら謝罪を口にするオルコットが出てきた。
「こんにゃろ………舐めやがって」
因みに、オルコット戦を二度目の再戦できたのはオペレーターが先生に抗議したオルコットの戦法である試合開始のブザーと共に狙撃、が理由だ。
なんでもこの戦い方はイギリスの代表候補が過去に一度やっており、その本人から「これはあくまで戦場での戦い方であり美しくない」と自ら負けを認めて今後自分もそしてイギリスの代表、代表候補にもさせない事を宣言したらしく、オルコットのやり方はその誓いを破ったとかなんとかかんとか。
「ふふ、それで提案なのですけど、元々この戦いでわたくしと貴方に直接的な因果関係はありませんので、今この瞬間に降伏と言えば貴方がわたくしに叩きのめされずに済みますわ。さあ、どうでしょう?」
あの女……本気で俺の事を舐めているらしい。
まあ、第1戦で軽く瞬殺されたのは事実だけど、EOSとは違うこの機体なら俺の方があの金髪女をフルボッコにしてやる。
俺からの返答……EMPレーザーライフルの銃口を自分に向けられたことにオルコットは上空から鼻を鳴らして同じようにレーザーライフルを向け……ようとして止めた。
第1戦でオペレーターから開幕狙撃を避難された事を思い出したのだろう。
まあ、俺も開幕狙撃をする意味は無いので宣戦布告をした後に銃口を下ろして傍に置いてある長方形の四角い箱のロックを外す。
静寂…そして甲高いブザーが鳴る。
ロックの外れた四角い箱の扉を開いて右手に持つEMPレーザーライフルのチャージングを開始、左手のスナイパーライフルの弾丸が薬室に入った事を確認して後ろへブーストしながらスコープを覗き込む。
スコープの向こうで自信満々にライフルを向けるオルコット機のスラスターに初撃を放つ。
『アリーナの読み込みに少し時間がかかります、あと10秒時間を下さい』
「了解」
セミオート方式のために引き金を引いて、離して、引いて……速射で6発を放つ。
それらはレーザーライフルを撃ちながら後退するオルコット機の腕部に命中し、それと同時に奴のレーザーがナイトフォーゲルの肩部に直撃した。
「ぐっ!………」
頭部ヘッドパーツにアラームが鳴り響く。
レーザー弾の雨が上空から降り注いでくるようだ。
何か無いか、HUDに映り込む対処法欄の項目を目を剥いて探していると、腕部シールドという言葉を見つけて直ぐにソレを展開する。
「………弾いたッ!」
左前腕部に取り付けられた突起から膜のようなエネルギーシールドが展開してレーザー弾を全て相殺した。
そのまま左腕を掲げながらその左腕にスナイパーライフルの銃身を乗せて軽く4連射する。
直ぐに回避に転じたオルコット機に3発が外れていく中で最後の1発がオルコットの頭に直撃した。
「ッ!?頭が……!!ハイパーセンサーが乱れて…?」
たった小規模の電磁障害でハイパーセンサーの大部分が乱れたらしい。
ISというものは絶対防御などのチート機能がある割にはEMPに滅法弱いようだ、これは覚えておこう。
『アリーナの全体図読み込み終了……最善のルートへスモーク弾の展開を開始します』
ウィィィン……と、ターレットの作動音が聞こえて、直後に一本の支柱に付けられた二個の長方形からスモーク弾搭載のミサイルがアリーナの四方八方へ飛んで行った。
「なっ……!!これは、す、スモーク!?」
オルコットの驚く顔が見えた。
オルコットはスモークが展開しきる前に俺を倒そうと我武者羅にレーザーを撃ちまくるが、両手に展開したエネルギーシールドでそれらを全て塞ぎ切る。
『頭部センサー、サーマルビジョンに切り換え。EMPレーザーをオルコット機のスラスターに直撃させて下さい』
「了解っと……」
サーマルビジョンによって煙幕の中でも支障が出ないほどに見やすくなった視界の上空に、オロオロと右往左往するオルコット機のスラスターへ、フルチャージが完了したEMPレーザーライフル“KARASAWA”の照準をそっと合わせて、トリガーを引いた。
目も眩むような極太の青い閃光が一直線にオルコットに直撃する。
「ハイパーセンサーから、光が逆流する……!ギャァァァァァァァァァァァァ!!」
「………な、なんて断末魔…………あれ?スラスターが爆発したぞ」
どかん、とひときわ大きな……汚い花火が上がり、オルコット機が急速に地面へと落ちていく。
EMPレーザーによる電磁障害でスラスターを使えなくさせるはずが、威力があまりにも高すぎてスラスターごと破壊してしまったらしい。
『チャンスです、ラッシュを!』
EMPレーザーの威力には驚いたが、オルコット機は地面に衝突して微動だにしない。
オペレーターの言う通り、今がチャンスだ。
スナイパーライフルとEMPレーザーライフルを地面に放り投げ、格納庫からMPX9とMP7F1を取り出して脚部をフロート型へ変形、超速度で接近する。
「め、目が……目がぁぁぁ……ですわ……」
目をゴシゴシと擦っているオルコットへ接近、絶対防御を発動させてSEを削るために両手の銃をヘッドショットさせる。
「キャァァァァァ!!?」
『敵機SE、90%まで減少、いけます!』
「もういっちょおおおおおおおおお」
旋回してもう一度ラッシュをかける。
すると、蹲っているオルコット機から小型の何かが飛び出してきた。
「そこですわっ!!」
「ぐぉおあっ!!?」
レーザーの一斉射を喰らってフロート脚部が損傷する。
「やられたっ!?だが、まだ煙幕は残ってる!!!!………つーかオペレーターッ!!?オルコットのレーザービット4基とも健在じゃねえか!?」
早く終わらせなければ、と両手を構えるとオルコットがスカートアーマーからミサイルビットを二基出した。
「何をする気だぁ〜?無駄無駄ァry」
オルコットはそのミサイルを、あろうことか自分の周りの地面へと撃ち始めた。
爆風が残り少ないオルコットのSEを削り、爆炎のためにオルコットに近付けない。
不意にサーマルビジョンが見えづらくなった。
最後に見えたのはオルコットがこちらへレーザーライフルを構えているところ。
そこでやっと気付いた。
展開された煙幕がオルコットから半径20メートル程まで取り除かれていることに。
「なっ……!?」
絶句した途端に肩部、コア、腕部にレーザーの直撃を喰らう。
「オペレーター!!状況を報告してくれ!?」
『彼女は……自身のSEが削れるのを御構い無しに地面にミサイルを発射……直撃した時にできた爆風で煙幕を消し飛ばしました……』
「〜〜ッ!さ、サーマルを通常HUDに……」
「させませんわっ!!」
ビット、ミサイルビットによる集中砲火を喰らって後方へ吹き飛んでしまった。
「こ、この野郎………くそっ!遊びは終わりだ!」
吹き飛ばされた場所はスナイパーライフルとEMPレーザーライフルを投げ捨てた場所だった。MPX9を手放してEMPレーザーライフルのチャージを開始する。
HUD画面上中央に表示されたAPが残り約600を切る。
右腕のシールドバリアでレーザーを弾きながらミサイル群をMP7F1で撃ち落とす。
『チャージング完了まであと5秒!』
「オペレーター!武装をインパクトミサイルに換装しろ!」
『………わかりました』
肩部に一撃が入る…危ない、APは耐えた。
HUD画面に肩部ミサイルの表示が出た。
俺はロックオンをオルコットに限定して衝撃特化のインパクトミサイルを撃ちまくった。
「づッ!!?カッ…は!?」
インパクトミサイルの乱打がオルコットの体を打ちのめしていく。
衝撃で手からレーザーライフルを取り落としたオルコットの目が鋭く俺を睨みつける。
何をするつもりか……オルコットの戦う意思は彼女を取り巻く6基のビットが次で決めることを証明している。
「これで……終わりですわぁぁッ!!!」
「ああ、終わりだよ。全てな」
4つのレーザー、2発のミサイル、それら全てを右腕で構えたレーザーライフルから放つ極太の青い閃光が飲み込み、一直線にオルコットを貫いた。
「ふっ……当然の結果だ。撃ち負けはせんよ、当たるのであれば……………………………………………………………………………………………………………………………ん……………………………………………………………あ?オルコットが立ち上がってこない?……………………………………………………………ま、まさか…や、殺っちまったか???」
『え、AC……SE90%も減少した相手にフルチャージはやりすぎでは……』
「いや……え?………なんか、ノリで?」
リベンジのオルコット戦は……接戦の末にこっちの方が悪辣なオーバーキルをしてしまう結果になってしまった………。
安心して下さい、死んでませんよ(棒読み)
いやーISのぜったいぼうぎょはべんりだなー(棒読み)
そこそこ腕は立つようだが、(KARASAWAの前に立つなど)バカか、貴様はッ!?