Dies irae 番外の軍神   作:祇園

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4話

軍神は眠っている

 

戒から託された蛍を床に寝かしつけたあと、軍神もそのまま眠りに落ちていた

 

魔人となった黒円卓聖槍十三騎士団は睡眠を必要としない

 

しかし、軍神の眠りは深く、深く、過去の記憶に潜るように深い眠りであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー1940年 ベルリン

 

「よくやった、大尉!いや、もう君は少佐だったか」

 

「いや、お……私には勿体無いお言葉です。アルミン少将」

 

「いや、気にするな。この部屋には私と君しかいない。それに、君に敬語を使われると背中が痒くなるよ。アルベルト」

 

アルミンは軍神もといアルベルトに対して陽気に笑ってみせていた

 

「さて、祝福するのはここまでとして、君に移動の命令がきている。しかも総統閣下直々の指名だ」

 

アルベルトは上官から指令書を受け取り、中身を確認すると驚愕の色を浮かべた

 

「『最後の大隊(ラストバタリオン)』……ッ!?」

 

「そうだ……君には、総統特秘第666号に基づく特務についてもらう。前任の少佐が亡くなったのでね」

 

「これは本当なのか!?答えろ、アルミン!!」

 

アルベルトはアルミンの胸ぐらを掴み問いかける

 

アルベルトの顔を怒りの色一色だが、アルミンは冷たく鉄仮面の如く表情を崩すことはなかった

 

「アルベルト……君は常に勝利を勝ち取っているが、第三帝国は確実に滅びへと向かっている。だからこそ、総統閣下はこの戦況を打破するために最後の大隊(ラストバタリオン)を結成したんだ」

 

アルベルトはアルミンの胸ぐらから手を離すと椅子に崩れ落ちた

 

「この国は滅びるのか?俺達の故郷は……」

 

「戦争さえ起きなければ違ったのかもしれない……だが、ここまで来たんだ。せめて、交渉の場へ持ち込めるように戦況を変えるしかないんだ」

 

「……分かった」

 

アルベルトはそう言うと部屋から出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ……ッ!!」

 

部屋から出ていったアルベルトは酒を浴びるように飲み荒れていた

 

国を救えないことへの怒りもあるが、アルミンの言うことも分からないでもない

 

しかし、今まで自分がしてきたことが全て無意味に思えてならなかった

 

「おやおや、随分と荒れていますね」

 

アルベルトは路地からぼろ切れを纏った男から声をかけられ、足を止めた

 

青年にも、老人にも見える男にアルベルトは足を止めた

 

「見るからに、相当飲まれたようだ。酔い覚ましに私の占いでもお聞きになられますかな?」

 

アルベルトは内心では下らないと思いながらぼろ切れを纏ったも男の言葉に耳を傾けた

 

ぼろ切れを纏った男は口角を上げるとアルベルトに語り始める

 

結果としては、人相、手相、星占術による運勢や性格判断のみで、普通の占いと変わりが無かった

 

「いかがでしたかな?」

 

「聞くだけ無駄だったが、それがお前達の生業なんだろ?釣りは入らねぇ。俺は帰る」

 

「どこに帰ると言うのだ?我が友よ」

 

アルベルトが帰ろうとすると聞きなれた声が聞こえてきた

 

振り返るとドイツの街ではなく、どこかの建物の中へと景色が変わっており、アルベルトの前には獣のように金色の髪をなびかせる男『ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ』がいた

 

「ラインハルト!なぜ、ゲシュタポ長官のお前がここにいる!?そして、ここはどこだ!!」

 

「そう慌てるな。我が友よ」

 

「いやはや、貴方の言うとおり一度火が着けば苛烈な男になるというのは本当ですな」

 

ぼろ切れを纏った男は先ほどの場所から、いつの間にかラインハルトの横にいた

 

先ほどのぼろ切れを纏った姿ではなく、まるで執事ようにきちっとした服を纏った青年であった

 

しかし、アルベルトは青年から、そしてラインハルトから人とは違う何かを感じとり警戒を強めた

 

「ほほう、さすがは常勝の男。私達に何かしら違うものを感じとりながらも、退くことはせず立ち向かうとは……獣殿が『友』と呼ぶのも納得だ」

 

青年は一人で納得するとラインハルトの後ろに下がった

 

「まずは、称賛を送ろう。そして、私は卿に聖槍十三騎士団に入ってもらいたいのだ」

 

アルベルトはラインハルトの提案に困惑した

 

そもそも聖槍十三騎士団とはヒムラーSS長官のオカルト遊びのものであり、なぜそんなものにラインハルトからスカウトされるのか、アルベルトはラインハルトが後ろにいる青年に騙されてるのかと至るが、ラインハルトがそんな嘘に騙されるような人間ではないとアルベルト自身、それを知っている

 

「卿が私やカールを疑うのも無理はない……が、実際にこれを見てもらえば分かるだろう」

 

ラインハルトが構えると黄金の輝きが手に集まり

 

「ーーー形成(イェツラー)

 

ラインハルトの手に黄金の槍が現れ、アルベルトを焼き尽くすように光り輝く

 

聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)

 

それは、ヒトラーがとある部隊に回収させた聖遺物

 

かの聖人の死亡を確認するために突いた槍

 

その槍の所有者は世界を制する力を与えられると言われている

 

「はぁ……はぁ……」

 

その力を身をもって知ったアルベルトは片膝をつき、肩で息をするほど消耗していた

 

「見事だ、我が友よ。凡普な魂の持ち主であれば魂ごと蒸発してしまうところであるが、卿はこの槍の輝きに打ち勝った。卿こそ、第2席に相応しい」

 

「ーーーふざけるなッ!!」

 

アルベルトの一喝でラインハルトは口を紡いだ

 

「何が第2席だ。俺はそんなモノに興味はない!!俺はただ、戦争に勝ち、このドイツを守る……それ以外ーーー」

 

「ですが、ドイツを守るならば我々に着いた方が何かと好都合ですよ」

 

今まで黙っていたカールが遂に口を開いた

 

カールはアルベルトに利点、聖槍十三騎士団の目的を説明した

 

アルベルトにとってこの戦争に勝利するということ以外には興味がなく、人を捨て魔人となること、魂を食らうことには全く抵抗を見せなかった

 

むしろ、敵の魂であるならと、アルベルトは好都合としか考えていなかった

 

「では、私からプレゼント(魔名)を送ろう。死を食らう者(トバルカイン)という魔名(プレゼント)だ。常勝にして死なない軍人の君にはぴったりだろう」

 

「ふん、ご託はいい。ただし、俺は俺のやり方でやらせてもらう。とりあえず、第2席にはいてやる」

 

「では、次の団員をスカウトするぞ。カール、アルベルト」

 

「分かりました。獣殿」

 

「最後まで付き合ってやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー夢。この俺が夢だと……!?馬鹿馬鹿しい」

 

目を覚ました軍神は、夢という過去の行いに苛立ち、蛍を起こさないように外へと出ていった

 

外は軍神の心と同じように未だ夜明けには至っていなかった

 


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