少年と少女はめぐりあう   作:メガネコ

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比企谷八幡には、敵が多い

 

 

「あいつマジで何なの?」

「文実での偉そうな態度マジで腹立つ」

「死ねばいいのに」

 

ハッとしてベッドから飛び起きる。

嫌な夢だった。

いくら周りの人間から責められるのが慣れているといえどなかなかにくるものがある。

文実の一件以来俺の学校内での評価は、最底辺だ。

 

 

元から最底辺だろって?やめてくれ、その言葉は俺に効く…

廊下を歩いているだけでも、自分の悪口が聞こえてくる。

下駄箱の靴の中に紙くずが詰まっているなどの、いじめと言えるレベルのものまでの嫌がらせもあった。

まあ気にして抵抗すればするほどこういうのはひどくなるソースは中学時代の俺。

よって気にせずいつも通り気にしないのが一番なんだが……

 

 

「慣れているとはいえ、結構きついな・・・」

 

最近は睡眠が浅いせいか、腐った目がより一層腐っていた。

 

 

「生きるのって難しいな」

 

思わずつぶやいてしまった。

そんな中早歩きで奉仕部の部室にむかった。

 

重苦しい気持ちの中部室の扉を開ける。

「うす」

 

 

「あら、挨拶もまともに出来ないのかしらヒキガエル君」グサ

 

いつも通りの雪ノ下の馬鹿にする言葉ですら心にくる。

こいつや由比ヶ浜に悪気がないのはわかっている。

 

それでも・・・

 

「悪かったな。ずっとボッチだったからコミュ力足りないんだよ」

 

「そんなことだから、文実の時にあんな方法しか取れなかったのよ、クズ谷君」

 

今一番触れてほしくないものに、触れてくる。

唇をかみ感情を抑え込み、無言でやり過ごす。

こんな時にまともに相手をしていたら本当に泣きそうだ。

 

「やっぱり不真面目で最低だね君は。」

城廻先輩に言われた言葉が唐突に思い出される。

 

「はぁ」

ぽつりとため息が漏れてしまう。

 

 

いつもの自分の席に座りかばんの中から小説を取り出そうとする。

しかし、小説が見当たらない。

おかしい休み時間に読んでカバンの中に入れていたはずなのに・・・。

もしやクラスメイトに取られたのか?

カバンの中を見て固まっている俺を見て不思議に思ったのか、雪ノ下が声をかけてくる。

 

 

「今日は読むものを持ってくるのを忘れたの?あなたにしては珍しいわね。」

 

 

雪ノ下に余計な心配をかけるべきではないと判断した俺は、忘れたみたいだ。と答えた。

 

すると雪ノ下が読んでいた本を閉じてこちらを向き、帰るように伝えてきた。

それは奉仕部への依頼もないため由比ヶ浜は、久々に三浦達とカラオケにいって今日はいないそうだ。

また顧問の平塚先生も合コンの準備でもう帰宅しているそうなので、帰ってもよいとのこと。

雪ノ下もそれを俺に伝えるために、残っていただけなので帰るそうだ。

俺自身も特に用もないので帰ることにした。

 

「またね、比企谷君。」

 

「ああ、雪ノ下もな」

 

いつも通りの軽い挨拶を交わし雪ノ下と別れ下駄箱まで行く。

 

下駄箱の扉がへこんでいる。

おそらく誰かが殴るなりして、へこませたのだろう。

嫌な予感を持ちながら扉をあける。

 

扉を開けた途端ばらばらとちぎれた紙がたくさん落ちてきた。

 

「死ね」

 

「クズ」

幼稚な言葉がたくさん書かれていた。

 

ついていないことに下駄箱の中のおれのスニーカーはボロボロに切り刻まれていた。

そしてその中にビリビリに破かれた今日読んでいた小説が突っ込まれていた。

靴の中の紙くずを取りボロボロのスニーカーをはく。

周りからクスクスと笑っている声が聞こえる。

 

「ざまあないぜ」

 

「あれぐらいされても当然よね」

 

そんな声が聞こえる。

 

下駄箱の扉を叩きつけるように閉める。

 

「キレてる、キモイ」

 

周りの声を聴かないように、下を向き早歩きで駐輪場にむかった。

早く帰ってさっきあった出来事を忘れたい。

外の天気は雨が降っていたのだが、そんなことにも気づかなかった。

 

そこでさらに、嫌なものをみる。

自分の自転車のサドルが切り刻まれている。

チェーンが切られタイヤがパンクしている。

自分の周りがどす黒く塗りつぶされていくように感じた。

耐えていた感情が、こらえきれず洪水のようにあふれ出てきた。

 

 

「あああああああああああああ」

 

 

泣きながら、自転車をおいてただがむしゃらに走った。

なるべく早く遠く学校から離れたかった。

 

 

めぐりside

 

生徒会の仕事は文化祭が終わり、つぎの体育祭までしばらくない。

私にとって高校最後の文化祭は対外的には大きな問題もなく終わり、

最終的には成功した。と言える。

 

人一番優しい一人の少年が自分を傷つけることで。

 

「比企谷君、大丈夫なのかな?」

文実が終わって以来彼の悪名が広がっている。

なんでも女の子を泣かせたクズ野郎だの、偉そうなことをいう口だけ野郎だの。

 

相模さんたちが、必死になって嫌な噂を広げているそうだ。

いじめを受けているなどの嫌な噂を聞くようにもなった。

いくら周りのことを気にしていないといっても、大丈夫なのだろうかと不安に思う。

 

 

私自身も、彼に対してひどいことを言ってしまった。

周りの意見だけで彼を判断してしまった。

みんなが怠ける中、仕事をちゃんとこなしてくれていたし。

相模さんが責められない形で説得してきてくれたし。

自分を犠牲にするというあまり褒められたものではない形だったけれど…

 

 

「こんど会って話をしてみよう。前回のことを謝らないと…。」

と決意をした。

謝り、そして、彼が困っているなら力になりたい。

そう思いながら外に出る。

 

 

雨が降る中傘をさし帰る。

帰り道の途中の交差点でカバンも持たず傘もささずにボーっと立っている男の子を見つけた。

 

 

「大丈夫ですか…?」と声をかける。

 

 

するとゆっくり振り向き「…城…廻先…輩…?」と尋ねてきた。

よく見てみると比企谷君だった。泣いているのか声がかすれていた。

急いで彼を傘の中に入れる。

「どうしたの比企谷君!?カバンは!?傘は!?」

 

 

矢継ぎ早に尋ねる私に、彼は何も答えずただ泣きながら立ち尽くしている。

信号が変わり青になった。

私は彼をこれ以上雨にさらさないように、家に連れていくことにした。

手を引いていくとおとなしくついてくる。

しかし、それだと傘から出て彼が濡れてしまう。

私は彼に腕をからめ、濡れないように引き寄せる。

早く家に連れて行かないと…

雨はますます激しさを増していく。

 

 

 

私の家は二階建ての一軒家で、私と両親の三人家族で、両親は共働きをしている。

ちなみに今両親は出張に出ている。

自宅につき玄関の扉を開け、彼を中に連れ込む。

途中で傘も役に立たないほどの土砂降りになった。

おかげでふたりともびしょ濡れである。

 

「ちょっと待っててね、着替えと拭くもの持ってくるから!」

そう言って急いで自分の部屋に戻り軽く体を拭いて部屋着に服を着替え、彼の体を拭くためのバスタオルと着替えを持っていく。

男物の着替えはお父さんの物を使うことにした。

玄関にもどり比企谷君に着替えのシャツを持っていき手渡す。

 

 

「早く着替えないと風邪ひいちゃうよ~」

 

 

それでも彼は生返事しか返ってこない。

 

 

「しょうがないなぁ、お姉さんが着替えさせようか?」

そう言っても、彼はボーッと立ちつくしている。

 

このままでは風邪をひいてしまう。

私は比企谷君のびしょ濡れの学生服をぬがせる。

お姉さんぶってはいても、そもそも男性に告白されることはあっても付き合ったことのない私は、当然こんな近くで男の人の体を見たことなんてない。

自分でも意識してるような場合ではないと思いながら、運動部に入っていないのに意外と厚い胸板や、うっすら割れている腹筋を見て、顔が熱くなるのを感じる。

 

「じゃ、じゃあ、軽く体を拭いとくね。か、風邪ひくといけないし。」

 

さっきまでのお姉さんの雰囲気もどこにいったのか、大分どもってしまった。

は、恥ずかしい。

なるべく体を見ないように気を付けながら、タオルで拭いていく。

手早くシャツを着せ、髪の毛をワシャワシャと拭いていく。

その後足を拭きあがってもらった。

さすがにズボンを着替えさせるのはためらわれたので、着替えてもらったけれど。

彼がズボンを着替えている間に体が温まるように紅茶を用意した。

 

 

 

着替えが終わり廊下に突っ立った彼を自分の部屋に案内して紅茶を出した。

彼にクッションに座ってもらい自分はベッドに腰かける。

彼が紅茶を飲み、こわばった顔が少しずつだがほぐれてきた。

 

しばらくして落ち着いたようなので紅茶のカップを机に置き、彼に何があったのか尋ねようとした。

 

 

「学校で何かあったのかな?もし言ってくれたら、何か力になれるかもしれないから。」

 

 

真剣な表情で彼を見つめる。

すると彼の目から涙がこぼれ始めた。

そしてそのまま壊れたように泣き始めた。

 

 

私は彼を引き寄せ抱きしめる。

そうしないと彼が消えてしまうような気がした。

確か、心臓の鼓動の音を聞くと人は落ち着くというのを本で見た。

自分の胸に彼の頭を抱き、優しく彼の頭をなでる。

 

 

彼の耳元で「大丈夫だよ。私がそばにいてあげる。」とささやき頭をなでる。

 

しばらく、そうしていると彼は泣きつかれたのか、眠ってしまっていた。

彼をベッドに運び寝かせる。

腐った目と言われているのを聞いていたけど、目を閉じ眠っている彼は顔も整っている。

また、泣いていたので目の下が少し赤くなっていて、失礼かもしれないけれど可愛いとかんじてしまった。

彼に対する印象は、文実の時の一匹狼のような感じかと思っていたが、こんな風に弱っている姿を見せられると、なんか、こうキュンとくる。

よく少女漫画にある、ヒーローの弱っている姿にトキメキを感じるようなものだ。

女性のみなさんならわかってくれるはず!!

まあ、こんなことが現実にあるとは思っていなかったけれど……

 

 

 

穏やかな呼吸を繰り返す彼をみて、抱きしめた時のことを改めて思い出す。

「私ってこんなに惚れっぽい人間だったかな…」

と思わずつぶやいてしまった。

しかも、無意識のうちに彼の頭をなでていた。

それに気づき慌てて手をひっこめる。

まずい…顔がどんどん赤くなっていく。

いけないいけない、弱っている人にこんな感情を持つのは失礼なことだ。

頭をブンブン振って切り替える。

 

 

外を見ると雨は先ほどよりも弱まっているようだ。

時刻は午後六時半、比企谷君は眠ったばかりだし起こすのは忍びない…

 

 

「しょうがない、比企谷君には泊まってもらおう!」

 

そうしかたないのだ、実際学校で何かあったのは確実だし…。

今彼を一人にするのは、何となくダメな気がする。

弱っているときにこそ誰かがそばにいて、ささえないと。

 

それに心のどこかで彼のことをもっと知りたい。そういう思いが私の中に生まれてきていた。

 

 

泊まってもらうとすると、着替えが必要となってくる。

最近では下着もコンビニで売っているし、幸い近所にコンビニとスーパーもある。

季節外れの台風のせいで、ここ一週間は雨の予報が出ている。

ということは、食料品も買ってこないと。

今後のことを考えながら、玄関で靴を履き、傘を持って外に出る。

幸いにも、雨の激しさが弱まり小雨程度になっている。

外の天気の悪さと反対に、私はウキウキしながら買い物にくりだしていた。

 

 

 

 

 




とある所の八幡×めぐり作品を読み、感化されて書いてしまいました。

自分の体調があまりよくなく入院しているため、不定期な投稿になると思いますが、また見ていただけると嬉しいです。

最後に、つたない文章ではありますが、見ていただきありがとうございました。(^o^)丿

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