Illusional Space   作:ジベた

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54 仮想世界の主

 鏡のような水が床一面に広がっている。足を付けてみれば、沈み込むほどの深さはなく、波紋が消えてまた静かな水面へと戻った。壁など無く、水の床に果ては無い。上に視線を向ければ、吸い込まれそうなくらいな青々しい空が広がっていた。

 静かだ。とても落ち着く。煩わしいもの全てを取り払った純粋さがこの空間にはある。

 同時に寂しい。まるで時が止まった世界だ。生きているものがない世界とはつまり、世界そのものが死んでいるのではないだろうか。

 俺が足を踏み入れたとき、動いている存在は水色ワンピースとウサ耳の女性のみだった。水晶のように透き通った樹木の下、背中を向けて鼻歌を口ずさみながら、体を揺らしてリズムを取っている。

 聞いたことのない曲だけど、子守歌だろうか?

 

 俺は雪片弐型の切っ先を向けたまま、ゆっくりと歩いていく。こちらに気づいてないなどあり得ない。返事もあったし、俺の戦意を受け取っているはずだ。

 歌が途切れる。楽しげに揺れていた体も止まった。つい俺もそれに合わせて足を止める。

 

「問答無用で斬りつけてきそうな勢いで入ってきたのに、急に大人しくなったね、いっくん」

「当たり前だ。俺はお前を倒すのが目的じゃなくて、ナナを――箒を助けに来たんだからな」

 

 ただ相手を倒すだけなら、こうして言葉を交わす必要性なんてない。

 だけど、少しでも可能性があるのなら戦わない方がいい。

 別に俺は……目の前のこの人を殺したいわけじゃないんだから。

 

「それはきっと、我欲でなく甘さだと思うよ?」

「お前を殺しちゃいけない。これだけは徹底する必要がある」

「へー。それでいっくんはここに何をしに来たのかな?」

「何度も言わせるな。俺は箒を助けに来た」

「最終目標はわかりきってる。そのために君はどうするつもりかと聞いているんだよ」

「お前に土下座でもすれば箒を解放してくれるのか? だったらすぐにでもそうする」

「うーん、嘘はつきたくないからハッキリ言うよ。そんなことはあり得ない」

「だろうな。だから俺はこの剣をお前に向けている」

 

 戦いは避けられない。

 これは相手を殺すためのものでなく、俺が語る言葉そのもの。

 

「無駄な戦いになるのはわかってるのに、何を足掻くのか私にはわからない」

「そうなのか。意外だ。束さんにもわからないことがあるなんてな」

「知らないことの方が多いし、知らない方が良かったことの方が多いよ。どこの誰とも知れない有象無象の事情とか、どうでもいいでしょ?」

「じゃあ、束さんにとって俺は有象無象だったのか?」

「違うね。大事な大事な、箒ちゃんの想い人だよ」

 

 束さんにとって、俺は箒が関わらなければ有象無象の一人だったということか。

 なるほど。それがお前の考えか。

 

「いっくんだけじゃない。人間たちは外で今も無駄な戦いを続けてる。目の前の敵を倒したところで、私がどうにかなるわけでもないのに、ルニ・アンブラが消えるわけでもないのに、必死になってバカだなぁ」

「いや、無駄なんかじゃない。皆が戦ってくれなかったら、俺はこうしてお前と一対一になれなかった。もし誰も居なかったら、外にいるフォビアが俺を倒しにここまでやってくるんだろ?」

「…………」

 

 俺の質問に対するノーコメント。図星って奴だった。

 

「誰も諦めてない。それを知れただけで意味がある。俺が戦う活力になる。何度でも言おう。無駄なんかじゃない」

「……そうだね。いっくんの精神を支えているのならば、結果論であろうとも意味がある。それは認める。だから、本当に仕方なくだけど、束さんも覚悟を決めることにしたよ。君がここからいなくなるまで、私は逃げも隠れもしない」

 

 ウサ耳女の目つきが変わる。優しげな垂れ目だったのが鋭利な刃物のような睨みを利かせて、指鉄砲を俺に向けてきた。

 

「バン!」

 

 発声と同時に強力なPICCの力場が発生。

 衝撃砲以上に不可視となっている“ISだけを殺す弾丸”に対し、俺は左手をかざす。

 攻撃の正体がPICCとわかっているのなら対処も出来る。同じだけの力場をAICで形成してやれば相殺は可能。

 

「やるねー」

「今度はこっちから行くぞ!」

 

 戦闘開始。

 突破口を開くため、俺は雪片弐型で斬りかかった。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 銀の福音を前にしたプレイヤーの視界は真っ白に染まる。

 リンも話には聞いていた。実際に対峙した銀の福音は偽物ではある。しかし同系統の同等以上のレベルで放たれる光の雨に差異などほとんどないことを現在進行形で思い知らされている。

 攻撃されている。目の前が真っ白だ。光で埋め尽くされた世界には濃淡など一切なく、物体の輪郭などといった線引きが存在しない。

 暗くなどない。しかし深き闇がここにある。

 

 もう避けようとは思えなかった。敵の攻撃は点でも線でもなく面。安全地帯など皆無で、耐える他助かる道はない。たとえ悪足掻きに過ぎなくとも、リンの腕は反射的に動く。体の前で腕を交差して、少しでも本体へのダメージを減らそうと試みる。

 ……経験上、助かる見込みはない。冷静だった頭は敗北を認めている。それでも心の底では諦めたくなどなかった。何か間違いが起きて、助かるかもしれない。そんな都合のいい奇跡を願った。

 

「――良く生き残ったな」

 

 死なない瞳は幸運を引き寄せた。

 リンの視界を埋め尽くしていた白き闇は瞬時に晴れ渡る。

 

「ありがと、助けてくれて」

「どういたしまして、だ」

 

 待望の援軍はラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 彼女が現れたことで、リンはどのようにして助けられたのかを把握する。

 試しに龍咆を起動させてみた。反応はない。

 

「これがワールドパージって奴ね。射撃禁止だっけ?」

「私の“永劫氷河”は飛行機能も制限するのだが、宇宙空間においてはほぼ意味が無いようだ」

「私の衝撃砲が使えないんだけど」

「敵の銀の鐘(シルバー・ベル)を封じたのだから許せ」

 

 小言を呟きつつも淡々と双天牙月を装備するリン。

 ラウラもレールカノンとワイヤーブレードが使用できず、両手のプラズマ手刀を使った格闘戦に制限された。

 ワールドパージは範囲内の全てのISに効力が及ぶ。正に諸刃の剣である。

 ニクトフォビアの体の至る所から伸びる光の翼は健在。しかし翼から飛び散るように発射されるEN弾はただの一発も出ていない。翼を広げた異形の天使はリンたちを討つために近づいてくる。

 望んでいた接近戦だ。リンは嬉々としてニクトフォビアへと立ち向かう。ラウラもその隣に並んだ。

 

「油断はするな。メイン武装を奪っただけでどうにかなるような相手ではなさそうだぞ」

「わかってるわよ。ついさっきも押されてたから」

 

 銀の鐘を封じたのは大きい。しかし、リンたちも射撃武器を封じられ、手数が圧倒的に足りていない。

 ニクトフォビアの翼が掴みかかってくる。手のような形と動作だが実質は大型のENブレードに等しい。まずはラウラが前に立ち、手刀で翼を打ち払う。その隙にリンが前へ。右の双天牙月を突き出した。

 翼が一つのはずもない。リンの攻撃はニクトフォビアを守るように現れた新たな翼で防がれる。続けざまに左の双天牙月で連撃を敢行しようとするリンだったが、ラウラに首根っこを掴まれて無理矢理後退させられる。

 

「無茶をするな!」

「ごめん、ありがと。今のあたしには何が無理なのか判断が出来ないから、その辺のことは全部任せるわ」

「何っ!?」

 

 ラウラが手を離すや否や、ニクトフォビアに向かっていこうとするリン。ラウラは咄嗟にピンポイントAICでリンを止める。

 

「少しは考えろ!」

「考えてるわよ。相手はあたしの攻撃をちゃんと翼で受けようとしてる。つまり、他のフォビアと違って本体に攻撃を受ければ素直にダメージが入るってことじゃない」

「少しは守りをだな……」

 

 ラウラが困り果てていると、このワールドパージ内にもう一人入ってくる。

 ラウラと行動を共にするオレンジ色の機体。もちろんシャルルだ。

 

「リン。ラウラは真面目すぎるんだからからかうのは程々にね」

「あたしは大真面目よ? あたしが勝つには先手必勝、短期決着しかないもん」

「それにしたって、少しは周りを頼ってほしいってことだよ」

「アンタたちのことは信頼してるわよ? だから好き勝手にやってるんじゃない」

 

 それは信頼とは違うと断言したいシャルルだったが実際に口に出すことはなかった。

 我慢しているのではなく、思いついたことがあるからだ。

 

「わかったわかった。僕がフォローするから二人はひたすら接近戦を仕掛けて」

「秘策でもあるのか、シャルロット?」

「うーん……正直なところ、今の状況で僕たちが勝てる確率はかなり低いと思うんだよ。この敵が黒い月に向かわないために時間稼ぎをするのが正攻法なんだけど――」

 

 ここでシャルルはリンを一瞥する。リンがこの事件に関わってきた経緯を知っているシャルルには、彼女の考えが透けて見えるようだった。間違いなく、ただの時間稼ぎで終わらせるつもりがない。

 

「敵はこのニクトフォビアだけじゃない。僕たちがここで足止めを食っている間に他の個体がヤイバの元に辿り着いたらゲームオーバー。だから僕たち三人でニクトフォビアを倒そう」

「勝算はほぼないのにか?」

「ゼロじゃないなら価値はある」

「へー。シャルルも中々わかってるじゃん。あたしらゲーマーはね、軍人とは違って勝てる戦いしかしない生き物じゃない。強敵が立ちはだかるなら打ち倒したいのよ」

 

 三人中、二人がやる気になった。残されたラウラは溜め息を一つ入れる。

 

「作戦くらいは立てるんだぞ」

「任せたわよ、シャルル」

「あ、僕頼りなんだね。まあ、なんとかするよ」

 

 拡張領域系イレギュラーブート“転身装束”起動。

 フォルダBへ換装、“ガーデンカーテン”。

 シャルルの周囲に大小様々なシールドが展開される。

 

「元々博打だということを念頭に置いて欲しい。陣形は単純に行こう。リンが正面から。ラウラが後方から回り込んで挟み撃ち。僕がリンを援護するから、ラウラはリンのことを気にせず戦闘して」

「了解した」

「あたしもOKよ」

 

 話し合いが終わると同時、ニクトフォビアが目の前にまでやってきている。シャルルは二つの盾をニクトフォビアの顔面に叩き付け、距離を取った。

 物理シールドに対してすら防御行動を徹底している。ニクトフォビアはわざわざ光の翼で顔を覆ってシールドから守った。この光は視界にとって巨大すぎるホワイトノイズだというのに……

 

「そこ、もらったァ!」

 

 双天牙月がフルスイングされる。狙った場所はほんの小さな場所。人間で言う右足の小指。

 光の翼で守られていなかった隙間を突いた。絵面がとても卑怯者として映る割には、大して無人機にはダメージがない。

 だがダメージがゼロというわけでもない。攻撃されたことを自覚したニクトフォビアは反射行動のように光の翼でリンに殴りかかる。避けられるタイミングではないが、リンは焦る様子を見せない。

 

「させないよ!」

 

 間にシャルルのENシールドが割って入る。シャルルには『固有領域が広い』という操縦者としての個性がある。自身から固有領域の範囲内にある装備を非固定浮遊部位として利用できるため、少々の距離ならばBTを使わずにシールドで仲間を守ることも可能なのである。

 

「じゃあ、もういっちょ!」

 

 盾に守られたリンは再び前へ。攻撃された時点でニクトフォビアの守りには隙間が出来る。ラウラが裏に回っているため、正面の守りが疎かになっているのもある。隙だらけの脇腹に双天牙月がクリーンヒットする。

 連続して攻撃が入った。この事実は無人機であるはずのニクトフォビアにも焦りを生じさせた。このまま中途半端な防戦をしたところでじり貧となる。そんな未来を演算した。

 故に、未来を開くためには攻めるしかないと結論づけるのも自然なことだ。

 光の翼四つがリンに掴みかかろうとしてきた。その全てにシャルルは自分の盾を押しつける。まだ手数では負けていないが、一つ押さえるごとに一つの盾が消されていく。長くは持たない。

 

「このっ!」

 

 リンの二刀がニクトフォビアを斬る。胴体を十字に斬りつけられたニクトフォビアはよろめきはするもののまだまだ光の翼は健在。押し切れる雰囲気は微塵もない。

 

「――この空間において、射撃武器は飛ばない。だが、置いた爆弾は機能する」

 

 背後に回っていたラウラが所持していたミサイルポッドをニクトフォビアの後頭部に叩き付けた。衝撃で信管を起動させ、ポッド内のミサイルを一斉に爆破する。

 

「ちょ、あたしまで!?」

「まともにPICが機能していれば爆発など大したダメージにはならん。だが殴りつけた相手のPICはどうかは知らないがな」

 

 実際は若干のダメージ増でしかないのだが、ストックエネルギーの数値がダメージの全てではない。ダメージを受ける経験に乏しいAIがこの状況をどう判断するか。そこがラウラの攻撃の真の狙い。

 ニクトフォビアが鋭い牙の並んだ大口を開く。高密度のエネルギーが集束していく。これはニクトフォビアの最高威力を誇る攻撃の前兆。

 

「はぁ? なんで射撃攻撃を!?」

「いや、これはENブラスターじゃなくてENブレードだよ!」

「“白騎士の剣”か。たしかにアレならば“永劫氷河”の中でも問題なく使える」

「冷静になってる場合か! これの直撃はマズイって!」

 

 遠距離でも格闘戦のようなタイミングで飛んでくる正しく光の一撃。実際に格闘戦のレンジで撃たれれば回避不能。

 焦るリン。しかし他の二人はむしろしたり顔を見せている。

 この流れは望むところ。ラウラのミサイルポッド打撃は敵に決着を急がせるために実行された。シャルルがガーテンカーテンを使っているのもこの一瞬を迎えたときのための準備に過ぎなかった。

 残りの盾は七枚。その全てをリンの前方に直列に配置する。

 

 光が一閃される。

 対象となったのは、最も多くニクトフォビアに攻撃を加えたリン。ニクトフォビアが最も脅威と見なしたからであるのだが、それすらもシャルルたちの掌の上。

 七枚の盾はあっさりと打ち破られる。元より防ぐための盾ではない。軽減するための盾だ。ちゃんとリンに()()()()()()()()()()()()()()

 

 ここまでのお膳立てをされて、リンが思惑に気づかぬはずもない。

 双天牙月は投げ捨てた。必要な武器は拳についている“崩拳”。永劫氷河の中では使えない衝撃砲。

 

「ワールドパージ、解除!」

 

 リンの左肩をニクトフォビアの光の牙が穿つ。

 リンの右手はニクトフォビアの胸に届く。

 

「――“火輪咆哮”」

 

 単一仕様能力、起動。

 受けたダメージを衝撃砲の威力に変換。

 盾七枚分だけ生き延びたリンは限界までダメージを負ったに等しい。

 

「消し飛べえええ!」

 

 極大の一撃。

 加えて、後方よりかけられるピンポイントAICによりニクトフォビアには衝撃を受け流す逃げ道すら残されていなかった。

 胸に大穴。コアは欠片も残さず消失し、翼の生えた化け物の体はさらさらと光の粒となって宇宙に溶けていく。

 

 舞い降りる沈黙。最初に破ったのは右手を振り上げたリンだった。

 

「やったわ! あたし、福音に勝ったのよ!」

 

 厳密には銀の福音と違うだとかそんなことはどうでもいい。

 いつまでも一夏に助けられるだけの自分ではないのだ、と自分自身に向けて証明が出来ればそれで良かった。

 

「おめでとう、リン」

「ありがと、シャルル、ラウラ。アンタたちがいなかったら勝てなかったわ」

 

 涙すら流しそうなほどリンは感激している。

 だがその感動が全く届かない人種も居る。

 

「さて、さっさと黒い月に向かうぞ。戦いはまだ終わっていない」

 

 “ドイツの冷氷”と呼ばれているのは伊達じゃない。リンの心の機微など知ったことではなく、淡々と作戦の目標を更新する姿は軍人らしいと言うべきか。

 

「いや、ちょっと休憩させ――」

「何を言っている? こうしている間にもヤイバの元に敵が向かうかもしれないのだぞ? 自分への甘い判断が地球を滅ぼすことになってもいいのか?」

「くっ……正論だけど、説得の仕方がブラックだわ」

「黒ウサギ隊だからな」

「単純な色の話じゃないわよ! 噂に聞く限りじゃアンタんところの組織はドン引きするくらいのホワイトでしょうが!」

「苦労詐欺隊だからな」

「それで上手いこと言ったつもり!?」

「はいはい。二人とも、そろそろ行くよ」

 

 三人はルニ・アンブラへと向かう。

 ヤイバの戦う舞台、その入り口を死守するために。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 不思議の国のアリスをモチーフとした服装のまま戦闘している。ISなど要らないということなのか、それともあのコスプレ自体がISなのか。真実は俺にはわからないが、少なくとも手を抜かれているという印象はなかった。

 

「きらきら☆ぽーん♪」

 

 鋭い目つきだったのが唐突に豹変し、いかにも無邪気な子供っぽい笑顔で間抜けなセリフと共に魔法少女っぽいステッキを振るってくる。あまりにもふざけた真似をされているけど、実際はかなりチートな類いの攻撃内容だ。

 この攻撃の正体も大雑把に言ってしまえばAICである。ならば、AICで抗うことはできるし、()()()()()左手をかざすだけで楽勝で相殺できる。

 

「むむむ。初見で玉座の謁見(キングス・フィールド)を破ってくるとはねー」

「経験は無くても知識ならある。ラピスの前でそれを使ったことあるだろ?」

 

 返答の前に杖を持っていない左手の指鉄砲が放たれる。見えなくとも軌道は読めている。今度はAICで迎撃せずに避けた。

 

「“蒼の指揮者”、ね。敵に回すと面倒くさいことこの上ない」

 

 ()()()()()、か。

 

「まるで味方だったときがあるみたいだな?」

「言葉の綾だよ。細かい男は箒ちゃんに嫌われるぞ?」

「嫌われるは言い過ぎだろうけど、たしかに好かれそうにないな」

 

 あまり揚げ足取りをしても意味がない。

 俺が語る言葉としてはまだまだ弱すぎる。もっと決定的にしないと。

 

 流れを変えよう。

 今度こそ、俺は接近戦を試みる。

 さっきから逃げられてばかりだったけど、そろそろおかしいだろう?

 だって、束さんが俺から逃げる必要なんてないはずだから。

 

 大上段からの雪片弐型。

 対するは玉座の謁見(キングス・フィールド)で使われていた魔法のステッキ。一見すると子供のおもちゃなそれで最高クラスのENブレードが真っ正面から受け止められてしまう。

 鍔迫り合いは俺から避ける。二歩分ほど距離を取ってからもう一度斬りつける。今度は縦でなく横。面と見せかけてから胴を狙う。

 フェイントを仕掛けたもののまだまだ安直な攻め。俺の攻撃は縦に構えられたステッキでまたもや受けられる。

 

「それ、武器だったんだな」

「いいでしょー。欲しい?」

「趣味じゃない」

「最近は男の子の方がこういうの好きだと思ってたんだけど」

「少なくとも俺の趣味じゃない」

 

 まるで日常会話を交わすように、何合も打ち合う。

 加速度的に腕の速度を上げていく。得物同士が衝突する周期が短くなっていき、剣戟(ビート)を刻む。

 ISだからこその殺陣。人間の剣の領域はとっくの昔に超えた。

 そして、片割れである俺はというと、さっきから頭痛が酷くて仕方がない。

 

「苦しそうだね、いっくん。まだ君には早かったのかな?」

「勝手に俺の限界を決めるなよ。まだまだ余裕だ」

 

 余裕なんて全くない。だけどここで強がらないのは俺らしくないだろう?

 そっちも乗ってこい。でないと俺が無理をしている甲斐がなくなる。

 

「強がるのも若者の特権だね。そうして人は強くなっていく。ちーちゃんもあの化け物に果敢に挑戦していった結果、あの強さを得られたようなもんだし」

「俺と千冬姉を一緒にするな」

「そこまで強がらなくてもいいよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()同じところにいつか行ける」

「そっか」

 

 存外、早く釣れた。

 俺は剣を引き、後ろに下がる。

 追撃は来なかった。なぜならば、敵は明らかに困惑している。俺が戦闘をやめた理由を理解できていない。

 

「どうしたの、いっくん? 諦めてくれたの?」

「いや、そろそろ茶番を終わらせようと思ってな」

 

 俺は左手で首の後ろにある装置を掴み、引きちぎる。

 

「これ、何だと思う?」

 

 この決戦に臨むに辺り、この瞬間を迎えるために取り付けてきた秘密兵器だ。

 ハッキリ言って諸刃の剣。戦闘にプラスに働くこともあったけど、『俺が俺自身を保つ』という一点においては苦痛しかなかった。

 この装置の正体を、目の前の女性はいとも簡単に見抜くことだろう。

 

「VTシステム……?」

 

 正解だ。彩華さんに無理を言って取り付けてもらった、禁忌とされている装備。登録されたヴァルキリーと同じ操縦技術を行使できる代わりに自意識が浸食される。使い続ければ間違いなく廃人となるこの装備を俺がわざわざ使った理由は、決して戦闘で勝つためなどではない。

 

「このVTシステムにはブリュンヒルデ――千冬姉の戦闘データが入っている。ルニ・アンブラに到達してからの俺の戦いは全てVTシステムによるもの。ぶっちゃけると、喋るだけで苦しかったぜ。俺という自我を表に出さないと喋れないからな」

「それで苦しくなったから外したの? いっくんの覚悟はその程度だったんだね?」

「いいや、必要がなくなったんだ。ここから先はもう、千冬姉の剣を借りずに俺の剣で戦ってもいい」

 

 そう。千冬姉の剣と俺の剣は別物。柳韻先生の剣を学び、己のものとして順当に昇華させた千冬姉と違い、俺の剣は小さい頃に『千冬姉を打倒するため』だけに全てを注ぎ込んだ歪な剣術がベースとなっている。後追いをしていたら千冬姉を倒せるわけがないから、絶対に真似なんてしない。

 

「俺の剣と千冬姉の剣は似ても似つかない。ルーツが違う」

 

 俺の無謀な挑戦から始まった歪な剣にはちゃんと師匠がいる。箒と仲良くなることを誰よりも応援してくれて、柳韻先生を毛嫌いしていたあの人は一緒に居る時間が短かったけど師匠の一人だった。

 

「千冬姉の剣は柳韻先生。俺の剣は柳韻先生からよりも先に束さんから学んだ。束さんは誰よりも、俺の剣が千冬姉と違うことを知っているんだ」

 

 だからこそ、さっきまでの俺を見て束さんは違和感を覚えるはず。

 千冬姉の弟だからと納得してしまうだなんてあり得ない。

 

「お前は誰だ?」

 

 束さんを説得するなんて元から無理だった。

 なぜならば、束さんはそこにはいない。束さんに言葉を投げかけても、スルーされて当たり前だ。束さんへ向けた言葉が別の誰かの心に響くわけがない。

 この機を逃しはしない。俺はここまで話をしにきた。話っていうのはちゃんと相手の目を見てするもの。だからまずはお前の目を見ることから始めよう。

 

「自分から言いたくないなら言わなくていい。俺から言おう」

 

 束さん本人でなく、束さんのことを良く知っていて、束さんの技術を使える人物。

 そして、箒が事件に巻き込まれた日、篠ノ之神社にいた人物。

 

「正体を現せ、クロエ・クロニクル!」

 

 瞬間、束さんの顔をした仮面が崩れ去る。

 貼り付けたような笑顔の仮面の裏には人間味のない無表情が隠れていた。

 まるで人形。生気の無い瞳は金色で眼球は漆黒。

 長い銀髪を靡かせ、赤と黒のドレスに身を包む少女は遺伝子強化素体の特徴をこれでもかと備えている。

 

「一本取られたよ、ヤイバお兄ちゃん」

 

 俺のことをそう呼ぶ少女はツムギにいたクーしかいない。

 表情の変わらぬ人形のような目が俺を正面から見据えてきた。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 その咆哮は獣だった。

 振り回される赤い爪は暴力の権化。

 絶対的な力の差を見せつけられた人間は本能から逃げようとすることだろう。

 恐怖とは生物として正常である証だ。

 故に、デモノフォビアという怪物を前にして一切の恐れを抱かない者がいるとすれば、人間として壊れている。

 

「視線と攻撃箇所が一致している。戦術レベルはCマイナスってところか」

 

 当たれば致命傷という爪の一撃を銀獅子――宍戸恭平は武器を使わずに捌く。直線的な攻撃に対して、そっと左手を添えて攻撃の外れるルートに導く。剛胆な姿勢から想像しづらい、恐ろしく精細な攻撃対処をしている。強引さなど欠片もなく、非力でも可能な戦闘方法に終始していた。

 

「事前の情報ではギド・イリーガルと同レベルとされていたが、比べるまでもない。純粋なパワーだけならば上だが、コイツは戦士ではなく獣に過ぎず、狩人からすれば狩猟対象。エアハルトの言っていたとおり、下位互換にすらならないレベルだ」

 

 銀獅子は自分から攻めるような真似はしなかった。

 独り言はひたすらに相手を侮辱しているのだが、侮るようなことはしない。徹底的に敵の癖を分析し、完全な勝利を確信するまで小手調べを続ける。いたずらに時間を掛けているのは相手を強敵と認識してのことである。

 攻撃の空振りが続き、デモノフォビアは形振り構わず距離を取った。接近戦では攻めきれないとデモノフォビアが判断するのも無理はない。全力の攻撃が柳に風と受け流されていては、人間でなくとも己の無力さを思い知らされる。その土俵での戦いを放棄するのは至極当然のことだと言える。

 デモノフォビアの攻撃。距離を取っての選択肢の中で最も単純な、威力重視のENブラスター。両手の間に圧縮したエネルギーが球を成し、両手で正面に押し出すと同時に赤い光の奔流が銀獅子を襲う。

 

「――操縦者の任意で形を変えるのはPICだけじゃない」

 

 装備を持たない銀獅子はあろうことか右手を正面に掲げた。EN兵器に対してあまりにも無防備。避けようと思えば避けられるはずのタイミングだというのに、銀獅子はそうしなかった。

 赤き極光の暴力は銀獅子の右手の前で緩やかにカーブを描き、逸れていく。ダメージはない。

 

「流れっていうものはよりレベルの低い方へと向かう法則がある。川の水が低い方へと流れるように。電気が抵抗の少ない方へと流れるように。ENブラスターという激流であろうとも、斜面に沿って流れるもんなんだよ」

 

 銀獅子はシールドバリアを操作した。体の周囲の守りを最低限とし、余力のバリアを自身の前方に集中。その際、シールドバリアの強度をわざと左に偏らせていた。

 特別な後付け装備など何も使っていない。銀獅子はISの基本装備の応用を使って、イリーガルと同等の一撃を無力化した。

 圧倒的なパワーを持つデモノフォビアに対して、決して力勝負は挑まない。かといって、逃げることはせず正面から叩き潰した。次の攻撃ならば当たるという希望すら抱かせない、受動的な蹂躙劇は既に始まっている。

 デモノフォビアの姿が掻き消える。比喩だ。静かな初動のイグニッションブーストで銀獅子の死角に回り込もうとする。

 だが本来、ISに死角などない。人間の眼球を通した視覚は理解しやすいというだけであり、やろうと思えば全方位の情報が脳に映る。

 銀獅子は指を差していた。デモノフォビアが動く度、指先は常にデモノフォビアを向いている。デモノフォビアにしてみれば、どう動いても常に敵の銃口が自分を向いているようなもの。

 

「どうした、もう終わりか? 織斑とオルコットのコンビだったら、もうオレに一撃を当てているぞ?」

 

 敵への煽りであると同時に生徒への賛辞である。銀獅子の辞書には謙遜という言葉はなく、自己評価が高い。その彼が認めるレベルにヤイバは足を踏み入れている。

 

 もし銀獅子が最初からISVSで戦えていたなら、事件はもっと早く解決していたかもしれない。そうならなかったのは銀獅子には戦えない理由があったからだ。

 銀獅子は遺伝子強化素体の生き残り。とりわけ優秀な個体であった彼は亡国機業の長であるイオニアス・ヴェーグマンに逆らえないよう遺伝子レベルで本能として刻まれている。その影響により、ヴェーグマンの後継者であるエアハルトにも逆らえず、エアハルトとコア・ネットワークを通して繋がってしまうISVSでは洗脳が働いてしまう。

 戦う力を持ちながら、自らの目的のために力を振るうことが許されなかった。そんな彼の前で織斑一夏がヤイバとして立ち上がったのは、彼にとって救いだった。

 

 今は借りを返している最中だ。教え子に救われたのだから、今度は師としての在り方を見せなくてはならない。

 幸いなことに、これまでの障害となっていた『遺伝子強化素体の呪い』を無視できる状況が整っている。他ならぬエアハルト自身が同じ目的で戦っているのだから洗脳など起きようはずもない。この状況ならばイオニアス・ヴェーグマンが直接立ちはだからない限り、思うように戦える。

 

 デモノフォビアががむしゃらに攻め込んでくる。もう思考を放棄したということだ。乱雑に振るわれる爪を銀獅子は右手で二度払い除け、敵の懐に入り込む。

 密着するほどの近距離。殴るために腕を引くこともままならない。銀獅子は左手の掌をデモノフォビアの脇腹に押し当てている。

 

「吹き飛べ」

 

 ぽそりと呟く。口も感情も動きが小さい中、銀獅子の駆るISは激しくも精密な作業を求められていた。

 ピンポイントAICでデモノフォビアの脇腹をロック。対象の位置を固定し、密着させていた左手のみに多段イグニッションブーストを適用する。

 無理矢理固定されていた敵の脇腹に向けて、ゼロ距離の掌打を複数同時に叩き込む。

 脇腹を構成していた装甲は弾け飛び、ピンポイントAICの効果時間を過ぎたデモノフォビアは文字通り吹き飛ばされた。

 

「頑丈さだけは認めてやる。面倒くせえがお前が完全に壊れるまで付き合ってやるよ」

 

 脇腹に穴が開いてもなお、デモノフォビアは動いていた。動く限り、放置は出来ない。

 銀獅子は油断することなくデモノフォビアと対峙する。

 決して慌てないその理由は決まっている。

 信頼する教え子がこの決戦を終わらせるという確信があるからだ。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 今の世界は楽しい?

 俺がISVSに入る度に聞こえてきていた声の主は昔から俺がよく知っている人のものだった。

 この質問は今の世界を楽しくないと思っている裏返しである。千冬姉はそう受け取っていたし、俺も同じ事を思っていた。今もそれは変わらず、きっと束さんは変わらない世界に嫌気が差していたことだろう。

 ――まるで俺が軽々しく神様とやらを呪っていたときのように。

 思い違いかもしれないけど、少なくとも俺は束さんが聖人だったとは思ってない。頭は良くても、気に入らないことがあるとすぐに頬を膨らませてて、俺や箒よりもずっと子供っぽく柳韻先生に反抗していた。その手段にミサイルすら用意していた恐ろしさを当時の俺は良く理解できていなかった。

 

 千冬姉は束さんの子供らしい短絡さと人間らしくない残忍さを知っていたからこそ、違和感を覚えなかったんだろう。『束ならやりかねない』と肯定してしまっていた。それだけ、偽物による変装の再現度が高かったのだ。

 でも俺にとって束さんはやっぱり『変わり者だけど、妹思いの優しいお姉さん』でしかなくて、そこがブレていると例え真面目だったとしても束さんだと認められなかっただろう。

 

 結局のところ、俺は俺の知ってる束さんしか知らなくて、クロエはクロエの知る束さんしか知らなかった。互いの知識が噛み合わないのならば、どれだけそっくりに真似たところで相手には伝わらない。クロエの語る束さん像に俺はあまり共感できなかったんだ。

 

「ようやく話が出来るな、クロエ」

 

 雪片弐型を拡張領域に片付ける。

 俺は別にクロエを殺しに来たわけじゃない。箒をこの世界から解放し、ついでに現実への攻撃をとりやめてもらう。それでこの戦いは終わる。できることなら話し合いだけで解決したい。

 そんな俺の考えは甘かっただろうか。

 黒いドレスを纏った彼女が右手を空に掲げると、赤い雷光が落ちる。次の瞬間、その手には血のように赤いポールアクスが握られていた。

 空の雲行きが怪しくなってくる。透き通っていたような青空を映していた天井に暗雲が立ちこめ、赤い稲妻が絶えず奔る。

 

「束さまならばともかく、私があなたと会話する意味を見出せません」

「急に余所余所しくなったな。もう一度ヤイバお兄ちゃんと呼ぶ気にはならないか?」

「残念ながら、実年齢は私の方が上です」

「若作りだったのか」

 

 ついつい考えもせずに言葉を漏らすと、目の前に瞬間移動してきたクロエと目が合う。眼球が黒く染まっているだけではない。明確な殺意がそこにはあった。

 

「危ねっ!」

 

 振り下ろされた斧が頬を掠めた。それだけで雪片弐型が直撃したくらいのストックエネルギーを持って行かれている。当たれば即死のチートな武器に違いない。

 

「失言は謝る! だからとりあえず武器を下ろしてくれ!」

「取引になっていません。私がここにいる。その時点であなたは抹殺対象なのですから」

「なんなんだよ、それ!?」

「本来、ここにいるべきは束さまなのです。あなたは確信を持ってそれを否定した。故に許されない。あなたという存在は」

 

 ポールアクス先端の槍部分が俺を向く。尖った先端というキーワードが脳裏を過ぎり、俺は全力で右にイグニッションブーストをする。

 クロエの突きが空を切る。これまで相手にしてきた達人級のプレイヤーと比べて緩慢な動きだが、今のは生きた心地がしなかった。

 

先端恐怖症(アイクモフォビア)との戦闘経験がありましたか。口では余裕ぶっていても意外と繊細なようです」

「俺は図に乗ることが多いけど、基本的に面倒くさがりで臆病者だからな」

「性格の自己申告をする可哀想な人だということはわかりました。ちなみに先ほどの攻撃にはアイクモフォビアの槍の呪殺効果などありませんでした」

 

 どれだけ煽られようと俺の行動は間違ってなかった。今のクロエの言葉が真実とは限らないし、敗北の可能性が少しでもあるのなら、俺は全力で回避しなくてはならない。

 

「仕方がない。武器を下ろせと言っても聞いてくれないなら、他の手段に出るしかない」

「実力行使ですか。わかりました。迎え撃ちましょう」

 

 斧に帯びる赤い雷光が輝きを増した。

 こんな威嚇に屈する俺じゃない。目に物を見せてやる。

 

「頼む。箒を解放してくれ」

 

 全力で頭を下げる。

 箒さえ助かるのなら、俺がここで退場してもいい。ルニ・アンブラの方はエアハルトがなんとかしてくれる。

 皆の力を借りてここまで来たけど、結局のところ俺にはこんなことしか思いつかなかった。

 偽物の束さんにはどんな言葉も届かない。ナナたちと一緒に過ごしていたクーの良心に訴えるしか活路を見出せなかった。

 

「交渉下手ですね。始めから頭を下げていては自らの意思など通るわけないでしょう」

「それでも俺にはこれしかない」

「弱者の論理。意義のない意地。それでは束さまの耳にも届かないです」

 

 情け容赦なく振るわれる斧。工夫の欠片もない、ただ速いだけの一撃を、俺は飛び退いて避ける。箒が解放されるまでやられるつもりなんてない。

 

「少しは反撃しないのですか?」

「攻撃を当てたら箒を解放してくれるか?」

「なぜ私がそのような約束をする必要があるのですか?」

「箒を助けられないのにお前と戦う必要が俺にあると思うのか?」

 

 互いに質問を投げ合う。

 攻撃は一方的。クロエが斧で斬りかかり、俺はイグニッションブーストで大きく避ける。

 攻撃して倒すだけならできるけど、それは俺の負けを意味する。

 未だ会話は平行線だけど、根気よく続けるしか道がないんだ。

 

「ツムギに居た頃、クロエもナナが救われることを願っていただろ!」

「もちろんです。そして、あと少しで箒さまは救われる。束さまのいる世界に帰っていただける」

 

 薙ぎ払われる赤き斧の太刀筋は一切ブレない。

 迷いがない。ただ一つの確信を持って、自分が絶対的に正しいと思い込んでいる。

 そんなの絶対に間違っているのだと俺は知っている。

 

「馬鹿か! そんなもの、箒も束さんも望んじゃいない!」

「それはあなたの言葉です、織斑一夏。あなたは箒さまでも束さまでもありません」

「そっくりそのまま返すぞ、クロエ! お前は束さんじゃない!」

「そう言えるあなただからこそ、あなたは完全なるイレギュラー。束さまのため、この世から消えていただきます」

 

 大振りの斧を回避した直後、空中で斧が静止する。クロエは斧を起点として大車輪のように回り、両足で回し蹴りをしてきた。

 想定してなかった攻撃。俺は初めてクロエからの攻撃を受ける。

 

「VTシステムの恩恵を受けていないのに私の攻撃を受け止められるのですか。どうやらあなたのAICの方が上手のよう」

 

 ISで殴ったり蹴ったりといった格闘攻撃は使い方によっては物理ブレードと同等かそれ以上の威力になると宍戸から教わっていた。クロエの攻撃もそれに類するものだったけど、左腕で受けた俺に大したダメージは入っていない。

 ……今までこんなことはできてなかったはずなのに、今は不思議とできている。まるで自分以外の誰かが俺を動かしてくれているかのよう。

 

「認めましょう。あなたは強くなりました。だからこそ私は思います」

 

 ポールアクスの先端が俺に向けられる。

 

「なぜ、もっと早くあなたが居てくださらなかったのかと」

 

 イグニッションブースト。クロエ自身が弾丸となって突っ込んでくる。タイミングが計れている直線的な攻撃など避けるのは難しくない。だが速すぎる攻撃だ。避けられたのは紙一重。さらにクロエは俺と交差した場所で急停止した。

 

「なぜ、あの日、あなたがあの場所にいなかったのかと!」

 

 ポールアクスの斧の刃がこちらを向く。

 そのまま横に薙ぎ払われるのだと理解はしている。

 だけど、すぐに行動には起こせなかった。俺の頭の中は戦闘以外のことを考えてしまったから。

 横腹に斧が突き刺さる。赤い雷光はファルスメアと同系統のものだろうか。シールドバリアを無視し、絶対防御が発動。自分から吹き飛ばされることで少しでもエネルギー減少を減らす。

 まだストックエネルギーは残っている。共鳴無極の恩恵だ。俺一人分のストックエネルギーは今ので無くなったけど、まだラピスの分が残っている。

 斧なんかよりもクロエの言葉の方が切れ味が鋭い。俺自身が自分を責めていたことを、改めて当事者であった他人から聞かされると堪える。

 ――なぜ俺は約束の日に篠ノ之神社にいなかったのか。

 もう答えが出ていても、苦しいことには変わりない。

 

「今更出てきて私を責める権利などあなたにはありません。少しでも私たちを思う気持ちがあるのなら、私の世界に迎合してください。私とて織斑一夏を排斥したくはないのです」

 

 俺への攻撃が手緩かったのもそういう理由か。

 何回か俺の前に現れては諦めさせようとしてきたのも、俺をお前の世界に取り込むためだけだった。

 迎合。つまり、俺の意思を捨てろとクロエは言っている。

 

「……ふざけるなよ」

 

 その選択肢は最初からない。折れるのは俺だけじゃなく、箒も束さんも助けてくれた人たち全員もだ。

 既に投げられた賽だからというわけじゃない。ここで俺がクロエの軍門に下るのは誰のためにもならないとわかりきっている。

 ――もちろん、クロエのためにもならない!

 

「俺はお前の世界を認めない!」

「では私を討ち倒し、あなたの世界を守ればいい。その右手に剣を持ち、私の胸を貫く。あなたには簡単なことです」

「それだと“俺の世界”は守れないって言ってるだろ!」

「私もあなたの世界を認めるわけにはいきません。束さまのいない世界など消え去ってしまえばいいのです」

 

 箒のいない世界など嫌だという俺。

 束さんのいない世界など嫌だというクロエ。

 同じような事を言ってるはずなのに、俺とクロエは噛み合わない。

 その差異は、ISVSという仮想世界をどう位置づけているかなのだろうか。

 俺にはISVSが現実にとって代わる世界だとは思えない。だけどクロエにとってはもうこここそが現実。それはわかる。だけどそれだけの違いだとは思えなかった。

 何よりも気になることがある。

 俺は聞かなくてはならない。

 

「クロエにとって大切な人は束さんしかいないのか?」

「はい。束さまは私の全てです。束さまがいなくてはクロエ・クロニクルは存在意義を失います」

「箒――いや、ナナは?」

「束さまの妹。束さまの人格を形成する大きな要素です」

()()と仲が良かったシズネさんは?」

 

 本当のところ、クロエが箒をどう思っているのかよりもこっちが聞きたかった。

 束さんのいない世界だから現実をぶっ壊す。もしかしたらその中に苦楽を供にした人がいるという自覚がないのかもしれないと思った。

 だけど俺の指摘を聞いたのにクロエの人形のような無表情は変わらない。

 

「鷹月静寐は箒さまが自身を文月ナナという別人だと誤認させる危険な存在でした。故にこの世界から解放し、退場願ったのです。二度と箒さまと会わせるわけにはいきません」

「箒が会いたくてもか!」

「束さまの妹、篠ノ之箒には不必要な存在です。完全なる束さまのための世界にとって、彼女の存在はむしろ邪魔と言えます」

 

 ……なんなんだよ、それ。

 ツムギの皆はクーのことを仲間だと思ってたのに、お前は何も感じていなかったのかよ。

 ナナもシズネさんも自分たちが危険に晒されると知りながら、お前を守って戦っていたこともあったのに。

 

「……もう一度ハッキリと言ってやる」

 

 もうこれは無理だ。言葉だけで届くような簡単な話じゃない。

 何よりも俺自身が口だけで終わらせられない。

 湧き上がるのは怒り。この衝動を抑えた言葉だけで何を変えられる?

 

「俺はお前の世界を受け入れない。その理由はたった一言だ」

 

 クロエの目指す世界はもう死んでしまった束さんと過ごす過去の世界。箒や俺といった束さんの過ごしていた現実を再現して、終わらない夢を見続けようとするもの。現実世界の破壊は誰にも邪魔されないためというおまけに過ぎない。

 狭苦しく目新しさの欠片もない世界だ。きっと、この構想を束さんが聞いたとしたら、同じ事を言っただろう。

 

「お前の世界は()()()()()!」

 

 好きな人がいる世界は素晴らしいものだろうと思う。俺も箒がいる世界を目指しているからそこだけは理解できる。

 だけど、俺は箒のいた子供の頃に戻りたいわけじゃない。やり直したいんじゃなくて、箒とのこれからが欲しいんだ。

 

「シズネさんは泣いてた。自分が人間であることを忘れてしまいそうだって。まるでゲームのキャラになってしまうみたいだって。そんな世界、クソ食らえだ!」

 

 箒を過去の住人(ゲームキャラ)にさせてたまるか!

 雪片弐型を抜刀。

 切っ先をクロエに突きつける。

 

「箒を解放しろ、クロエ! アイツの居場所は仮想空間(こんなところ)じゃなく、俺の隣だっ!!」

 

 攻撃しないなんてもう言っていられない。

 クロエの思想を全否定する。そのためにクロエの保有する武力を徹底的に打ちのめす。力尽くでも俺は俺の意思を押し通すと決めた。

 イグニッションブースト。勢いを殺さないまま雪片弐型で横一文字に一閃。光の刀身は縦に構えられたポールアクスの柄で弾かれた。

 攻撃失敗。移動の慣性を殺さずに至近距離から離脱。その際、BTビットを展開し、背中越しに狙い撃つ。

 クロエは振り向かないまま斧を床に叩き付けた。円形に衝撃波が飛び、(ほとばし)った赤い雷に蒼のビームを撃ち落とされる。

 

「千冬さまの技を借りなくともこれだけの動きが出来るのですか。亡国機業の強者を(ことごと)く退けた“無敵の刃”……箒さまが憧れるに足ると認めます」

「だったら俺に託してくれ」

「それとこれとは話が別です。あなたの言葉を借りれば、『あなたの語る世界はつまらない』」

 

 やっぱりクロエの関心事は束さんに関することだけだ。箒のことは束さんの妹という記号でしか扱っていない。

 

「織斑一夏の戦闘意思をしかと確認しました。認めたくありませんがこのまま続ければ、戦闘技術で劣る私の敗北は見えています」

 

 クロエの手に四角い箱が現れた。それはさっき俺が壊したものとよく似ている。

 

「VTシステムか!」

「はい。あなたを千冬さまに匹敵する強敵と判断しました。であれば、対等以上に渡り合うには私が束さまとなるしかありません」

 

 箱がクロエの背中に張り付く。漆黒のドレスが赤い雷を帯び、黒い翼三対が背中から生えた。

 何よりも大きな変化がある。クロエの無表情に笑顔が貼り付けられた。感情が現れたのではなく、単なる真似に過ぎないことがわかっていると虚しい。

 クロエの左手、その人差し指が俺を向く。

 

「バン!」

 

 慌てて飛び退く。

 指鉄砲攻撃の厄介なところはISが攻撃と認識してくれないことだ。敵にロックされているという警告もなしだから、操縦者の感覚に頼らないと避けられない。

 もちろん指鉄砲は牽制だった。飛び退いたばかりの俺の背後には既にクロエが斧を振りかぶっている。赤い雷は直撃すれば一撃で終わる。

 

「零落白夜ァ!」

 

 形振り構ってはいられない。零落白夜を起動し、俺の使える最強の一撃を以て、クロエの雷斧を迎え撃つ。

 赤い雷はファルスメアのように消失させられなかった。ポールアクス自体が赤い雷光に守られていて、雪片弐型+零落白夜でも止められてしまう。

 

「壊せない……?」

「零落白夜のエネルギー消失効果はたしかに厄介です。しかし、絶えず供給され続ける無限のエネルギーがあれば対抗できます」

「無限のエネルギー? そんなものがどこに――」

 

 どこにあるのか。言っていて答えはすぐに思いつく。

 

「絢爛舞踏……」

「黒鍵と紅椿のコア融合の副産物でしたが良い誤算でした。あなたに絶対的な優位はありません」

 

 絢爛舞踏があれば零落白夜でエネルギーを消され尽くすことはないっていうことか。だとすればエアハルトが絢爛舞踏を手に入れるのに必死だったのは千冬姉に対抗するためだったと言える。俺がファルスメアに勝てたのはエアハルトに無尽蔵なエネルギー供給がなかったからだ。

 

「天運も私に味方しています。まだ続けますか?」

「当たり前だ」

 

 戦う意思に変わりはない。だけど旗色が悪くなったのは間違いなかった。

 零落白夜の実質的な無力化はあまり関係ない。本当にまずいのはクロエがVTシステムを使っていること。もしクロエの人格が破壊されて暴走でもされてしまえば、倒さずに勝つことが不可能となる。

 結局のところ、俺に残されている選択肢は短期決戦のみ。

 BTビットから空にビームを発射。偏向射撃で円の軌道を描かせ、待機させておく。これを繰り返す。

 対するクロエはポールアクスをバトンのように軽々と振り回す。まるで単なる演技だが、ポールアクスの軌道上には赤い光の球が幾つもできていた。

 

 斉射。蒼の雨が降りしきる中、赤の雷光が空を奔る。

 光同士が相殺する中、俺は前へとひた走る。元より遠距離から攻撃するだけで勝てる相手だとは思っていない。単純に接近戦に持ち込んでも零落白夜でごり押しできないのでは勝率は高くない。

 しかしだ。俺の優位な点が全て失われたわけでもない。俺はアドルフィーネやギドといった敵と相対してきたが、どちらも零落白夜を使わずに倒している。

 俺の優位な点。それは俺一人だけが戦っているわけじゃないということ。射撃戦と格闘戦を同時に行っているけど、俺自身は格闘戦に集中すればいい。射撃はラピスの担当だ。

 でもクロエはどちらも自分で対処しなくてはならない。束さんだったなら余裕でこなすかもしれないけど、いくらVTシステムを使っていようが、頭の回転速度はクロエの脳に依存している。だったら、限界はあるはずだ。

 偏向射撃のぶつかり合い。その一つ一つがクロエの集中力を削ぐためのもの。ラピスが負担してくれているおかげで、俺の方は万全のまま近づける。

 まずは一太刀。接近と同時に斬りつけた。ポールアクスの柄に阻まれるも、クロエからの反撃は飛んでこない。まだ俺の攻撃が続けられる。

 

「どうした、クロエ? 俺の知ってる束さんなら今の隙を逃さないぞ」

 

 上段からの二撃目。縦に打ち下ろした一刀もポールアクスの柄で受けられる。押し込もうとしてもビクともせず、力勝負は分が悪い。

 

「あなたが! 束さまを語るな!」

 

 初めて、クロエの心を見た気がした。

 VTシステムの影響からか、人形っぽい表情とか機械っぽい話し方は影も形もない。

 

「じゃあ、教えてくれ! お前が知ってる束さんを!」

 

 雪片弐型を押しつけたままクロエのポールアクスに蹴りを入れてから距離を取る。

 クロエは実直に追いかけてきた。

 

「束さまは――」

 

 体を前面に押し出し、斧は後ろ。腰を捻っている振りかぶった体勢からのフルスイング。

 なんて素直な攻撃だろうか。

 なんて真っ直ぐなんだろうか。

 たしかに束さんも小細工抜きな力押しをする傾向がある。だけど、それは何か企んでいると相手に思わせる、束さんの人間性があって成り立っている。

 このまま真っ直ぐに向かってくるはずがない。罠の一つでも仕掛けてくるはずだ。

 そう相手に思わせる束さんだからこそ有効な動き。

 

 俺は知っている。VTシステムは登録されたヴァルキリーの行動パターンの通りに動ける()()である。システムの内部ではヴァルキリーの思考をもトレースしようとしているらしいが、トレースが完成する前に操縦者の人格が破壊される。だからこそ禁忌となっている。

 

 クロエは束さんじゃない。戦術はクロエのまま。

 早い話が、俺には当たらないってことだ。

 

「お前にとって束さんは、本当に優しい人だったんだな」

 

 振り抜かれた斧を見送る。大振りな攻撃の直後、クロエは背中を向けている。この隙を見逃す手はない。

 雪片弐型を振り下ろす。ポールアクスで受け止めることはできないであろうタイミング。だが、雪片弐型は止められた。

 さっきまでクロエが握っていたポールアクスがクロエの背中で浮いている。ラピッドスイッチでポールアクスを背中に出現させ、非固定浮遊部位扱いとしたまま俺の攻撃に当てた。この辺りの基本技術くらい束さんをトレースしているのなら苦にならないだろう。

 

「優しいの一言で表せません」

「だろうな。俺も束さんには何度も助けられた。それは優しいだけじゃできないことだろうよ」

「どういうことですか?」

 

 両手にポールアクスを掴んだクロエが再び体全体を使ってフルスイングしてくる。真っ向勝負は分が悪い。剣を交えることなく後退。戦況は押され気味といったところだ。

 

「あの人は(したた)かだ。自分を蔑ろにしてまで俺を助けるようなことは絶対にしなくて、何をするにしても自分を一番優先してた」

「当たり前です。あなたは所詮、千冬さまの弟であり、箒さまの想い人でしかないのですから」

「よく知ってるじゃないか」

 

 四機のBTビットを飛ばし、クロエを包囲。一斉射撃をするも赤い雷が渦巻いて全て掻き消される。

 

「あなたの理解を否定します。束さまは決して自分本位な人ではありません。実際、あの日、篠ノ之神社で束さまは箒さまを助けるためにご自分を犠牲にされました。箒さまへの優しさに他なりません」

 

 渦を巻いていた赤い雷が複数の球体を象る。

 エネルギーの圧縮は攻撃の前触れ。

 振り上げられたポールアクスを合図として、全ての球体が雷の獣と化して俺を襲ってくる。

 

 見ただけじゃ軌道なんてわからない。

 防げる盾など持っていない。

 当たればもちろんただでは済まない。

 

 だけど俺は落ち着いている。

 こんなものはピンチのうちに入らないって確信がある。

 今の俺は“無敵のヤイバ”だから。

 

 目で見る必要はない。見るのは彼女(ラピス)の役目。

 俺はただ導きに従い、結果を引き寄せるのみ。

 立ち位置を決める。たったそれだけ。イグニッションブーストすら使ってない。

 静止した俺を掠めるように赤い雷が通り過ぎていった。

 

「クロエ。俺の完敗だ。お前は束さんのことを良くわかってる」

 

 元より、クロエが束さんを慕っていることなど否定する余地はない。

 彼女は俺よりもずっと長く束さんと一緒にいた。俺よりも束さんに詳しくて当たり前なんだ。

 だから俺はクロエの言葉を肯定する。お前が正しいと言ってやる。

 

「お前の言うとおり、束さんは箒が生きることを選んだ。他ならぬ、あの世界で生きることを」

 

 あの世界。もちろん俺たちが現実と呼んでいる世界のこと。

 束さんは最期まで箒のことを案じていた。箒が生き残る道を残すための選択肢を必死で守り続けた。

 

「思い出せ、クロエ。大切な人を次々と失ってしまった束さんが最後に何を願っていたのかを。お前は一番近くでそれを見てきたはずだろう?」

 

 束さんがなぜ篠ノ之神社に向かったのか。

 束さんがなぜ亡国機業の親玉と相討ちせねばならなかったのか。

 それを優しさだと思えたのなら、理解できないとは言わせない。

 

「お前の作ろうとしている世界は、束さんが目指した“楽しい世界”と言えるのか!」

 

 クロエが動きを止めた。

 すかさず、俺は雪片弐型を振り上げてイグニッションブースト。

 接近までは一瞬。クロエの頭を目掛けて剣を振るう。

 反応は若干鈍い。だが初動が遅れてもポールアクスは雪片弐型の前に立ちはだかった。このままだと再び簡単に受け止められる。

 もちろん、そんなことは最初からわかってる。

 ここからは俺の剣術。強敵を相手にするとき、必ずと言っていいほど使う小細工。肉を切らせて骨を断つだとか、蜥蜴の尻尾切りだとか、そういう感じのものだ。

 雪片弐型とポールアクスが接触する瞬間、俺は雪片弐型を手放す。自由になった右手は何にも遮られることなく、クロエの懐にまで届いた。

 距離が近すぎる。再び雪片弐型を呼び戻したところで攻撃もままならない、イーリス・コーリングが得意としていたゼロ距離。シールドピアースは持っていなく、残されているのは手だけ。

 拳を握ることもない。掌をクロエの腹に押し当てる。ついさっきまで全く選択肢になかったけれど、急に頭の中に浮かんだ技が今なら使える。そう、漠然としたイメージなのに確信していた。

 ピンポイントAICでクロエの腹を固定。密着したまま押し当てた右手のみに多段イグニッションブーストを適用する。

 

「お前の知っている束さんならなんて言うのか。もう一度考え直してみろ」

 

 赤と黒のドレスが弾け飛ぶ。体をくの字に曲げて飛んでいったクロエは二回三回と水の張った床を転がり、そのまま仰向けに倒れた。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 途中からクロエは何も言い返せなかった。

 否定されれば反論は出来る。しかし自らの発言を肯定されてしまった。論理的に考えて、言い返す必要性がなかった。織斑一夏の言葉は自分の言葉でもあったからだ。

 織斑一夏との二人だけの空間で、束という存在が共通認識となった。その時点でクロエの描いていた束像は確かなものへと変貌する。長く会えなかった主人にもう一度会えたような錯覚さえあった。

 束は人間を嫌っている。しかし親友と妹のことだけは自分よりも大切にしている。クロエの短い生涯の中、常に傍にいてくれた仮初めの母親は自分自身と深く繋がっている人を最も気に掛けていた。

 身内にはとことん甘い。そんな束のことが大好きだった。あの日、亡国機業の動きを伝えて篠ノ之神社に向かってしまったことは必然。葛藤こそあったものの、最終的に束に情報を伝えたのも、束に束らしくいてもらいたかったからだ。

 

 全て思い出した。束が箒を救おうとしていたこと。たとえ自分が死んででも、箒にだけは“楽しい世界”に辿り着いて欲しかったことを。

 “楽しい世界”に束はいない。クロエには耐えられなかった事実を、当の本人である篠ノ之束は生前の時点で受け入れていた。

 クロエが目指していたのはクロエにとっての“楽しい世界”。それは失ってしまった過去に戻りたいという願い。束の目指した未来とは逆方向への道だった。

 

 今の自分は束の意思に反している。

 そう気づいた途端、目の前が真っ暗となる。

 束のためと謳いながら、その実、束の思いを蔑ろにしていた。

 

 今のクロエに対して束がなんと声をかけるのかは想像できない。

 しかし、少なくともクロエ自身が自分にかける言葉は決まっている。

 

 ――今の自分(あなた)はつまらない。

 

 水の張った床に仰向けとなったまま、動けなかった。

 胸を埋めるものは後悔と謝罪。

 冷静さを失ったパニック状態のまま、黒い何かが体を浸食していく。

 自分が自分でなくなる。そんな感覚に抗えなかった。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 狐は平石ハバヤを連想させる動物だった。習性だとか小難しいことは何も関係ない。純粋に見た目だけの印象である。傍目からは瞳すら覗けないほどの細いキツネ目は、彼の視線がどこを向いているのかを悟らせてはくれない。

 黒い霧状の物質が塊となり、わざわざ狐を象っているのはハバヤの趣味である。胴体が異様に長いそれは管狐(くだぎつね)といったところか。使い魔として思い通りに操るハバヤの周りに黒い管狐が何匹も纏わり付いていた。

 

「おやおや。更識楯無を名乗る者が悪に屈してしまっていいのかなぁ?」

 

 ハバヤに傷はない。対する楯無の着物のようなISの装甲にはところどころ穴が空いている。

 これらは全て攻撃を受けた痕。黒い狐に食い千切られた惨状である。

 

「私は負けを認めてないわ」

 

 閉じた扇子を向けて念じる。先端から水のような弾丸が放たれた。

 単調に撃っただけ。ハバヤを取り巻く黒い狐が水の弾丸をその身に飲み込んだ。

 水の弾丸は同じ見た目をしていても効力は二択。

 通常のEN属性射撃かアクア・ナノマシン集合体による爆発攻撃。

 今回は後者であったのだが……

 

「やっぱりこっちもダメか」

 

 ファルスメアに攻撃が完全に無力化される。黒い霧はブラックホールのように全てを飲み込み、あらゆるものをまるで無かったかのように消し去っていく。楯無の装備のみならず、通常のISの装備ではとても太刀打ちできるものではない。

 元より真っ向勝負の力技は楯無の得意とするところではない。正面でダメならば、回り込んででも有利な状況に持っていく。それが己の長所であると、ついさっき思い出したばかりだ。

 明らかに落胆した顔をハバヤに見せつけておきながら、裏では淡々と攻撃を練っている。ハバヤを取り囲むようにして集めたアクア・ナノマシンを一気に集束させて槍を複数形成。包囲したまま一斉に槍をハバヤに撃ち放つ。

 だがハバヤには見えている。通常のプレイヤーならば突然に水の槍が現れたように感じられるだろうが、高レベルのBT使いにはナノマシンの動きなど手に取るようにわかる。見えていたのならば、楯無の攻撃は奇襲となり得ない。槍は全てハバヤに命中するがそれはハバヤの見せている幻に過ぎず、槍は黒い狐に食われて消えた。

 

「ワンパターンだな、楯無ちゃんよぉ。もっとオレ様を楽しませてくれねぇと困るぜ」

 

 ハバヤのターン。黒い狐が三匹、楯無に向けて解き放たれる。各々が不規則な軌道を描いているのはハバヤがコントロールしているというよりも、本当に狐が動き回っているかのようだ。

 楯無の扇子から水の弾丸が発射された。狙いは黒い狐である。もちろん命中し、何事も無く弾丸が消えるだけに終わった。

 右腕の袖。左脇腹。左の(すね)。三カ所を狐に食われた。装甲が千切られ、操縦者の体が露出する。

 一方的な展開が続く。とっくに負けていてもおかしくないほどに。今、楯無のストックエネルギーがほとんど減っていないのは、単純に舐められているからだ。

 

「生憎だけど、私はあなたを楽しませるためにここにいるわけじゃないのよ」

「ごもっとも。しょうがねえから、オレ様が勝手に楽しむとするかな」

 

 また黒い狐がハバヤへと帰っていった。攻撃を続ければすぐに終わるはずであるにもかかわらず、ハバヤはそうしない。彼にとっての勝利とはIS戦闘の先にあるものではなく、己の自己満足を達成できるかどうかにある。

 

「楽しむ? そんな余裕があなたにあるとは思えないけど?」

 

 一方的に負けている状況でも、楯無の心は折れていない。デモノフォビアのときと違い、目の前の相手には負けたくないという思いが強い。たとえこのまま負けるのであろうとも、負けを認めることだけはしないと言い切れる。

 楯無の強気を支えているもの。それは楯無の敗北が世界の終わりを意味しないことが根底にある。無駄に気負う必要が無い。

 

「そろそろ頃合いか。冥土の土産に教えてやるよ」

 

 このまま楯無を倒したところで、ハバヤは己の勝利を掴めない。役割を果たしたと思われたまま退場させたところで、ハバヤの溜飲は下がらない。

 故にハバヤは己の最大の武器である言葉を使う。

 

「オレ様の目的はこの仮想世界の主、創造主であるクロエ・クロニクルの精神を破壊することにある」

「クロエ・クロニクル?」

「そういや、知らねえか。オレ様もあの篠ノ之神社に()()()()()()()()存在自体を知らなかっただろうからな。簡単に言うと、篠ノ之束の養子であり、狂信者だ」

 

 篠ノ之束には知られざる身内が存在した。この時点で楯無も敵の正体が篠ノ之束本人でない可能性に思い至る。

 

「偽りの神とはそういうことなのね」

「理解が早いのは助かるぜぇ。その通り。篠ノ之束を名乗っているアレは遺伝子強化素体の生き残りだった。従属を宿命づけられている遺伝子強化素体の本能から、アレは篠ノ之束に心酔した。それこそ篠ノ之束のいない現実を受け入れられぬほどに」

 

 クロエが束を真似ているのは束になりたいからなのではない。束のいる世界でないといけないという強迫観念から、束の存在をこの世界に刻み込もうとしている。

 当然、意味などない。現実逃避の行く末は誰も満たされぬ破滅が待っていることだろう。ハバヤとしてはそれも面白くない。

 

「そもそもの話だ。オレ様は亡国機業と行動を供にしながら、連中の目標を達成させようとはしなかった。エアハルトが篠ノ之箒を狙っていることなどどうでも良かった。オレ様の狙いは最初からツムギが匿っていたクロエ・クロニクルだったんだからな」

「やっぱりあなた、ロリコンだったのね」

「クロエ・クロニクルは現実に肉体のない精神だけの存在。この仮想世界に生まれた生命と似たようなもんだ。だが決定的に違う点があった」

 

 楯無の煽りを無視し、ハバヤは喋る速さとテンションを上げていく。

 

「あの日、篠ノ之神社で起きた出来事。真実は単なる相討ちなどじゃねえ。篠ノ之束とイオニアス・ヴェーグマンの精神が、クロエ・クロニクルの中に閉じ込められた。今もなお、天才はこの世界(ISVS)に生きている。クロエ・クロニクルという封印の中でな」

 

 にわかには信じられないどころか、理解すらもしがたい真実。

 だからこそ楯無は真実なのだろうと納得する。ハバヤという男が単なる作り話で驚かして楽しむような人間でないという理解があってのことである。

 

「封印を解き放つためにクロエ・クロニクルを探した。見つけるまでは簡単だったが、篠ノ之箒という厄介な護衛が付いちまってた。仕方なくオレ様はエアハルトを焚きつけて篠ノ之箒を排除しにかかった」

「でも一夏くんがエアハルトの前に立ちはだかった」

「厄介な奴だった。いざというときのために用意しておいたギド・イリーガルまで壊された。だからオレ様は強硬手段としてプレイヤーの抹殺を計った」

「それすらも一夏くんに止められた」

「あのときは全てが終わったと自暴自棄にもなった。だが運命はオレ様を見捨てなかった。織斑一夏が白騎士を使ったことによってクロエ・クロニクルが記憶を取り戻した。篠ノ之束のいない世界に、狂信者の人格が帰ってきた。そこには絶望しかなかったろうよ」

 

 そして、クロエは篠ノ之束となるため、篠ノ之箒をさらった。

 よりリアルな篠ノ之束となるために、環境を整えようとした。

 

「オレ様はクロエに近づくことにした。自棄になってIllを取り込んだオレ様は仲間として認められた。懐に入り込んだあとは甘言を弄して、織斑一夏がクロエ・クロニクルに立ち向かう構図を作ってやるだけ。なぜオレ様はそんなことをしたと思う?」

 

 問いかけをしておきながら楯無の返答を待たずに続ける。

 

「織斑一夏は篠ノ之箒を助けるため、間違いなく偽りの神であるクロエ・クロニクルの心を殺しにかかる。己の過ちを認めさせることで、自分から篠ノ之箒を解放させようとするだろう。オレ様の思惑通りと知らずに」

 

 この決戦は未だにハバヤのシナリオ通りに動いている。

 防衛に穴があったのはハバヤがそうしたから。

 織斑一夏が一人でクロエ・クロニクルに向かう状況となるように戦力を調整した。

 

「残念ながら、オレ様ではクロエ・クロニクルの心を殺せない。アレは甘言には耳を傾けるが、ストレスとなる言葉には全く耳を貸さない。コントロールをする立場として、オレ様が挑発するのはハイリスクなだけでリターンが期待できない。だからこそ利用させてもらった。テメエらの希望である無敵のヤイバとやらをな」

 

 ハバヤの目的がハッキリとした。

 一夏が箒を助けようとするのを利用して、クロエに精神的な負荷をかける。その結果、クロエが自我を保てなくなれば――

 

「間もなく我らの王が蘇る。ISの登場で支配者不在の混沌と化した世界は終わりを告げ、正常に戻った世界で人類はさらなる高みへと足を踏み入れる。オレ様もそれを導く側へと回る。今から楽しみで仕方ない」

 

 全ての管狐が一斉に鎌首をもたげる。視線は楯無に集中。今度は食らいつくそうとする戦意も垣間見える。

 

「以上で土産話は終わりだ。凡人でないテメエになら、理解はできただろう?」

「えー、もう終わり? もっと秘密の話とかないのかしら?」

 

 理解はしている。にもかかわらず、楯無の言動はあまりにも軽い。

 

「……もう少し頭の良い女だと思ってたが興ざめだ」

 

 ハバヤの顔から表情が消える。冷めた目で右手をかざし、使い魔に指示を下す。

 更識楯無を殺せ。

 現実で死ぬわけでなくとも、自らの手で楯無を殺せたという事実を残そうとした。

 

 管狐がハバヤの体を離れて楯無へと向かう。避けるのは現実的でなく、ファルスメアを受け切ることはもっと無理だ。

 楯無の顔に冷や汗が浮かぶ。しかしその口元は笑っている。諦観に染まったのではない。これは勝利の確信であった。

 指を鳴らす。この行動自体に特別な意味はなく、単純に相手に対して『今、攻撃した』というメッセージを送っている。

 

 爆発が起きた。場所は――ハバヤの背中。

 

「な――!?」

 

 立て続けに二度三度。ハバヤの体、Illの装甲の内側で爆発が止まらない。その内の一発が、コアに接続されていたファルスメア・ドライブを砕いた。

 原動力を失った管狐は動きを止めてさらさらと宇宙の塵になっていく。楯無の目の前で。あとほんの一瞬でも遅れれば、楯無が餌食となっていたであろう。

 

「ふーっ……」

 

 大きく息を吐く。綱渡りだった。全てはハバヤが防御を捨てて攻撃に集中する一瞬に賭けていた。

 弱者を演じた。実際に不利であったのだから演技でもなんでもないのだが、逆転の目があるとハバヤに思わせなかった。

 

「バカな……アクア・ナノマシンはもう無くなっていたはず……」

「あったのよ。それこそ最初から。あなたには見えていなかったけれど」

 

 BT使いにも見えなかったナノマシン。

 ISVSにおいて、既存の兵器だけで説明が不可能な事態に陥ったとき、プレイヤーがまず考えるべき可能性がある。

 

「切り札とは忍ばせておくもの。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)があなただけの特権のわけがないでしょう?」

 

 単一仕様能力、玲瓏波紋(れいろうはもん)

 特定武器強化系パラノーマル。使用するBTナノマシンに特殊なステルス効果を付与し、BT使いから見えなくすることができる。BT使いが相手でなければほとんど意味のない低ランクの単一仕様能力である。

 

「あなたに一つだけ教えてあげる。真実が見えてないと嘘はつけない」

 

 決して強い能力ではない。だが情報を武器とする戦いとなったとき、隠れた情報が勝敗を左右する。

 

「何も知らないあなたは嘘ではなく出任せしか言えない。戦場を制御するなんてもっての外。あなたは最初から私の掌の上で踊っていたの」

「ふざけ――」

 

 なおも続く爆破。ハバヤを覆っていたIllが削り取られ、徐々にその面積を小さくしていく。

 虚言狂騒を使うタイミングはとうに逃した。今更隠れても楯無の攻撃はもう終えている。見えなくなっても的確にハバヤに攻撃を当て続けられる。

 逆に追い詰められてしまったハバヤは高笑いをする。

 

「オレ様は消える! だが! それはオレ様の敗北を意味しない! 既に賽は投げられた! 世界の滅びを願う偽りの神は倒れ、我らの王が新たなる神として君臨する!」

 

 完全に立場は逆転していた。

 ハバヤの方が『自分が負けても決戦に敗れたわけではない』と主張することとなる。

 楯無が両手で指を弾く。それを合図として、ハバヤの頭上には巨大な槍が出現した。

 

「あなたはずっと向き合わなかった。男も女も関係ない。私が楯無となれたのは、少なくともあなたよりは優秀だっただけなのよ」

 

 割と直接的に『あなたは弱い』と告げる。

 ハバヤから笑い声が消え、顔は怒りに歪んだ。

 そこへ水の槍が落ちる。断末魔もなく、ハバヤという男は仮想世界から退場した。

 

「一番の邪魔者は倒したわ。あとは頑張ってね、一夏くん。いえ、ヤイバ」

 

 張りすぎていた緊張の糸が切れた。

 楯無はボロボロのISを纏ったまま、その場で意識を失う。

 すやすやと息を立てる彼女の寝顔は安らいでいた。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 ゼロ距離掌打が決まって、クロエは床に転がった。まだ戦えるはずなのに起き上がろうとしない。

 

 俺の言葉が届いてくれたのか?

 

 束さんの願いを認識してくれたのか?

 

 真実はわからない。

 だけど、決して現状が良いものとは言えなくなってきた。

 

「これは……ファルスメア?」

 

 クロエの胸元から盛大な勢いで黒い霧が噴出される。

 

「あ……あ……あ……」

 

 目を開いたクロエの瞳は焦点が定まっていない。

 心ここに在らずと言った様子で口から漏れているのは小さい悲鳴。

 助けを求めるでなく、ひたすらに自分を責め立てているような、ゴールの見えない苦痛。

 俺の想像だが、きっとその正体は後悔だ。

 

「クロエ! 落ち着くんだ! お前が悪いわけじゃない!」

 

 俺は束さんの記憶を通じて知ってる。クロエも束さんと一緒に箒を助けようとしていた。ただ束さんの言うことに従っていただけだとしても、箒を助けてくれたクロエを悪だと断じることはしない。

 でもクロエにとって、俺の言葉は軽いのだと思う。黒い霧の噴出は収まるどころか酷くなる一方。青く澄み渡っていた美しい世界の空を黒い霧が覆い隠していく。

 床に張っていた水は蒸発して消えた。鏡のように美しかった一面は見る影もなくなり、荒れ果てた赤いひび割れの大地へと変貌を遂げる。

 同じ景色の中、唯一存在していた水晶の樹木も大地と供に塗り変わる。透き通ったクリスタルが灰色に濁り、枝は形を変えて人間の腕を象る。樹木の頂点に水晶の髑髏が現れたかと思えば、それも即座に灰色の濁りを帯びた。

 

 世界の変質に気を取られてクロエから目を離してしまっていた。

 慌てて意識を戻す。だけどもう、クロエの姿はそこにはない。

 世界を塗り替えた黒い霧の発生源。クロエが倒れていたはずの場所には、この場にそぐわない老人が車椅子に腰掛けていた。

 

「コイツは……」

 

 機械仕掛けの左腕は義手と呼ぶにはあまりにも無骨。

 左目に眼球は無く、代替物として置かれているものはレンズ。

 俺はこの男を知っている。

 

「歓喜の時だ! 我が魂はここに再臨を果たしたのだ!」

 

 発声器官すら機械仕掛け。

 ノイズ混じりの機械音声が耳に障る。

 コイツはあの日……篠ノ之神社にいた亡国機業の親玉。

 全ての元凶。

 

 ――イオニアス・ヴェーグマン。


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