路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New05話

ミクロは執務室で書類の山を目に通している。

今日はベルと一緒にダンジョンに潜るほどの余裕がないほど今ある書類を終わらせなけれなならなかった。

派閥の総務を行うミクロは書類に目を通して羽ペンを動かしては署名(サイン)を書き付けていく。

団長として終わらせなければいけない雑務を淡々と終わらせていきながらミクロは呟く。

「ベルは無事かな……」

ベルが【アグライア・ファミリア】に入団して早半月が経過していた。

毎朝の訓練とダンジョンで泣き叫びながらも必死になってモンスターを倒していたベルだが、まだまだ心配ごとが多い。

今のベルの実力的なら単独(ソロ)五階層までなら問題なく進むことができる。

そんなベルが今日は初めての単独(ソロ)

本来なら安全面も考慮してセシルを連れて行こうと思っていたが先にアイカに捕まって今はアイカと共に買い出しに行っている。

「まぁ、問題はないか……」

いくらベルでもむやみやたらに下の階層に行くことはないだろうし、万が一に行ったとしてもベルの脚ならいざという時に逃げられる。

ベルの脚に追いつこうとするならそれは中層クラスのモンスターでなければ不可能で上層、それも五階層に中層のモンスターなんて現れる事なんてない。

「さて、早くこれを終わらせないと」

ミクロは書類を終わらせるべく羽ペンを動かす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』

「ほぁあああああああああああああああああああああああああああっ!?」

問題ないと思っていたミクロの考えを裏切るかのようにベルはモンスターに追われていた。

それも『ミノタウロス』に。

「な、なんで五階層にミノタウロスがッッ!?」

中層のモンスター『ミノタウロス』が五階層に出現してベルは追われていた。

ベルは今日は初めての単独(ソロ)探索。

日頃から団長であるミクロの酷烈(スパルタ)に心を折られながらも今日まで生きてきたベルだが、その命運も今日で終わってしまうのかもしれない。

追いかけてきているミノタウロスに。

いつもならミクロと共にダンジョンに潜っているベルだが、今日は最悪なことに頼れるミクロはいない。

今も執務室で書類という敵と戦っている。

Lv.1のベルの攻撃では一切のダメージを与えることが出来ないミノタウロス相手にベルは全力疾走で逃げていた。

ミクロの酷烈(スパルタ)のおかげなのかベルはまだ生きている。

今になってベルはミクロに感謝した。

まだ生きている事に。

「げっ!?」

だが、それもここまで。

ベルは正方形の空間の隅に追い込まれてしまった。

逃げ道はないベルは唾を飲み込んでナイフと両刃短剣(バゼラード)を抜いてミノタウロスと向かい合う。

「もうこうなったら戦ってやる!!」

追い詰められるのは日頃からミクロの酷烈(スパルタ)で慣れているベルははんばヤケクソ気味に叫ぶ。

自分よりも圧倒的に強いミノタウロス相手にベルは駆け出した。

『ヴゥムゥンッ!!』

襲いかかってくるミノタウロスの拳に辛うじて回避。

「やっ!!」

ベルはミノタウロスの目を狙う。

いくら体が硬いモンスターでも目だけは違う。

入れば確実なダメージを与えることが出来るとミクロに狙っていたベルは迷うことなくミノタウロスの目を狙った。

「ッ!?」

だが、ミノタウロスは角でベルのナイフを防いだ。

ベルの狙いは悪くはなかった。

だが、一つミスをした。

目を狙うのは確かに効果的ではあったがモンスターだってそれを知っている。

ベルは焦りのあまり狙うタイミングを誤ってしまった。

目を狙うなら相手の隙を突いたり、フェイントを行使して多少なり相手が油断している間に狙える場所。

それをベルは焦りの余り単純に真っ先に目を狙ってしまった。

いくらミノタウロスでもそんなわかりやすい攻撃を防げないわけがなかった。

「うぐっ!!」

ミノタウロスの腕がベルの直撃してベルは壁に叩きつけられる。

咄嗟に両腕を交差して防御できたのはミクロの酷烈(スパルタ)のおかげ。

でも、それも自分の寿命が数秒先送りにできただけ。

歩み寄ってくるミノタウロスに死んでしまったとそう思った時。

ミノタウロスの胴体に一線が走った。

「え?」

『ヴぉ?』

ベルとミノタウロスの間抜けな声。

走り出した線は胴だけでにとどまらず、体中に切り刻まれてミノタウロスはただの肉塊になり下がる。

『グブゥ!?ヴゥ、ヴゥモオオオオオオオオオォォォォオォ―――――!?』

断末魔が響き渡る。

大量の血のシャワーを浴びるように血飛沫を頭から浴びるベル。

「………大丈夫ですか?」

蒼い装備に身を包んだ、金髪金眼の女剣士。

名を聞かなくても見れば誰だろうとわかってしまう。

【ロキ・ファミリア】に所属する第一級冒険者。

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

アイズを見てベルは気を失ってしまった。

先程のミノタウロスの一撃で損傷(ダメージ)を受け、それ以前に逃げ回って体力を疲弊させてミノタウロスが倒れたことに緊張の糸が切れてしまったベル。

「……どうしよう」

突然気を失ったベルにアイズは困惑する。

ミノタウロスが五階層にいるのも元々は【ロキ・ファミリア】の不手際のせい。

死んではいないが被害を出してしまったアイズは取りあえずはどこの【ファミリア】に所属しているのかエンブレムを確かめる。

「この子……」

エンブレムを見てベルがどこに所属している【ファミリア】か判明できたアイズは謝らないといけないと思った。

「おい、アイズ。そんなところで何してんだ?ああ、誰だそいつ?」

後ろから姿を現したベートはベルに視線を向けると舌打ちしてベルを肩で担いだ。

「取りあえずはフィンのところに行くぞ。こいつをどうするかはその後だ」

「……はい」

担がれたベルに一度視線を向けるアイズ。

「………」

アイズの懐かしい記憶が蘇る。

「あれ……?僕は………」

「気が付きましたか?」

気を失ってすぐに意識が覚醒したベル。

日頃からよく気を失っているせいか目覚めるのも早かった。

意識が戻ったベルにアイズは顔を覗き込むように見るとベルは一瞬で顔を真っ赤にした。

 

 

 

 

 

 

一方でミクロはようやく山のようにあった雑務を終わらせていた。

「お疲れ様~ミクロ君」

「ありがとう」

雑務を終わらせたミクロに飲み物を手渡すアイカ。

一息入れるかのように休憩を取るミクロと休憩しているミクロを微笑ましく眺めているアイカ。

すると、廊下からドドドドドドドと慌ただしい足元が執務室に向かって近づいて来ていた。

「団長!!アイズ・ヴァレンシュタインさんに勝ったって本当ですか!?」

執務室の扉を勢いよく開けたのはベルだった。

「取りあえず落ち着け」

慌ただしいベルに落ち着くように言うミクロだが、落ち着こうにも興奮しているベルがそう簡単には落ち着けれるはずがない。

アイカはベルに近づいてベルの頭を持って自身の胸元に押し付ける。

「――――――――っ!!―――――っ!!」

「ほらほら~落ち着いてね~」

頭をしっかりと固定されたベルはアイカに胸元で叫び声らしきものを上げているが二人は聞く耳持たずベルが落ち着くのを待っていた。

少しして体の力が抜けたベルは解放されたがアイカの胸が柔らかったことは胸にしまっておいた。

「で、アイズがどうした?」

落ち着いたベルを見計らってミクロは尋ねるとベルは事の経緯をミクロに話した。

ダンジョンの五階層でミノタウロスと遭遇(エンカウント)してアイズに助けられた。

ギルドで働いているエイナからミクロはアイズに勝ったことがあると聞いて慌てて帰って来た。

そして現在に至る。

「勝った。アイズとは二度戦って二回とも勝ったがもう一年以上前のことだ。それにどちらもギリギリで勝ったから次に勝てる保証はない」

謙遜抜きでそう言うミクロ。

少なくとも剣の腕は間違いなくアイズの方が上。

前回の戦いでは防ぐことが出来たがまた防げるかどうかはわからない。

「ア、アイズ……。だ、団長はアイズ・ヴァレンシュタインさんと親しい関係なのですか!?も、もしかして付き合っているとかは……!?」

「突き合う?突き合ったことはある」

戦った時に何度もアイズの連撃に体を貫かれそうになったことを思い出しながら何故それをベルが知っているのかわからなかった。

「こ、恋人同士だったんですか!?」

「違う。友達」

ばっさりと言い切ったミクロにベルは安堵する。

「アイズ達が五階層にいるということは遠征から戻ってきたのか」

二週間前に【ロキ・ファミリア】は遠征に行っていたことは知っていたがベルの話を聞いて帰ってきたことがわかった。

そこでミクロはベルに尋ねた。

「それよりもベル、お前アイズに助けてくれた礼は言ったのか?」

その言葉を聞いたベルは空いた口がふさがらなかった。

「ど、ど、どどうしよう!?」

助けてくれた礼を言うどころか逃げ出してしまったことにようやく自覚したベルは慌てふためく。

それを見たミクロはベルに告げる。

「じゃ、明日にでも会いに行くからついて来い」

【ロキ・ファミリア】の打ち上げ場所でよく行っている『豊穣の女主人』に。


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