路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New01話

「さぁ、ここが私の家よ」

「えええええっ!!こ、こんな立派なところに住んでいるんですか!?」

アグライアはベルを自分の本拠(ホーム)に案内するとベルは大声を上げた。

その新鮮な反応にアグライアは笑みを浮かべる。

「ようこそ、【アグライア・ファミリア】へ」

ベルはアグライアに案内されながら本拠(ホーム)内を見渡しながらついて行く。

「か、神様の【ファミリア】の家って中も凄いんですね!」

「ええ、自慢の我が家よ。そして、今日から貴方の家でもあるわ」

「は、はい!」

アグライアの言葉に嬉しそうに返事をするベルを見て年頃の子供らしいと微笑みながらまずは『恩恵(ファルナ)』を刻むべく自身の部屋へとベルを案内する。

「さて、ベル。恩恵(ファルナ)を刻む前に一ついいかしら?」

「は、はい、何ですか?」

「貴方はどうして冒険者になりたいって思ったのかしら?」

アグライアはベルを入団させるつもりだがこれはどうしても本人の口から聞きたかった。

ベルを見つけた時にベルの瞳からは悲しみが見えた。

だけど、その瞳の奥から純粋なぐらいまで真っ直ぐな何かに憧れている光のようなものが見えたアグライアは遠回しにベルの覚悟を問いかけた。

「……僕は祖父と一緒に暮らしていました」

ベルは自分がオラリオに来るまでの身の上をアグライアに話した。

祖父と二人で暮らしていたが祖父がモンスターに殺されて家族を失った。

ベルがオラリオにやってきたのは運命の出会いに憧れていたから。

祖父との絆を確かめるように、絆を途切れないように、ベルは祖父と言葉に従って出会いを求めた。

「それだけかしら?」

「………僕は、今度こそ家族を守りたい。もうあんな思いはしたくない」

ベルから伝わる強い気持ちを聞いたアグライアは優しくベルを抱きしめる。

「なら、強くなりなさい。ここにいる皆は貴方の家族。家族を守る為に努力しなさい」

「………はい」

ベルの悲しみを知ったアグライアは気付いた。

ベルは家族を失い飢えていることにそしてきっと強くなることに。

それだけの強い意志をベルの瞳から感じさせてくれた。

こうしてベルは『恩恵(ファルナ)』を刻まれて【アグライア・ファミリア】の一員になった。

「これからもよろしくね、ベル」

「はい!よろしくお願いします!」

笑顔で返答するベルにアグライアは早速写したベルの【ステイタス】を見せるとベルはわかりやすいぐらい気を沈めていた。

魔法やスキルが発現しているかもという期待が見事に外れて肩を落とすベルにアグライアは苦笑を浮かべながらベルの頭を撫でる。

「初めから発現する子は少ないのだからそう落ち込む必要はないわよ」

「……はい」

「アグライア。入るよ」

「あら、ミクロ。お帰りなさい」

ダンジョンから帰還してきたミクロはアグライアの部屋に入るとベルに視線を向ける。

「誰?」

「新人のベルよ。ほら、ベル。彼がこの【ファミリア】の団長のミクロよ」

「は、初めまして!ベル・クラネルと言います!」

「ミクロ。ミクロ・イヤロス。よろしく」

ベルに手を差し伸ばすミクロにベルも緊張気味にミクロの手を握って握手する。

「今から皆にベルを紹介するからついて来て」

「え、も、もうですか!?こ、心の準備が…」

「問題ない。皆きっとベルを迎え入れてくれる」

ベルの手を握ったまま皆がいる食堂に連れて行くミクロに引っ張られながらどう挨拶しようか緊張するベル。

「皆注目」

食堂に辿り着いたミクロは食堂にいる全員に声をかけて団員達の前にベルを連れて行く。

「新しく【ファミリア】に入団したベル・クラネルだ。ベル、皆に挨拶」

「は、初めまして!ベル・クラネルと言います!皆さんの足を引っ張らないように精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!!」

精一杯挨拶して頭を下げるベルにミクロが一言加える。

「新しい家族としてベルを迎え入れよう」

「おう、よろしくな!ベル!」

「ベル君か、兔人(ヒュームバニー)じゃないんだよね?」

「可愛いね。団長とは違う保護欲が擽られる」

「よろしくな、ベル」

早速と言わんばかりにベルに群がるように集まる団員達にベルは慌ただしくなるが表情は笑っていた。

「私は副団長のリューと申します。改めてよろしくお願いします、クラネルさん」

「は、はい!よろしくお願いします!リューさん!」

リューに続くようにそれぞれ自己紹介をする団員達。

その後も団員達と楽しく食事をするベルは心から嬉しかった。

いい【ファミリア】に入れてよかったと思いながら食事を進めていると男性団員であるリオグがベルと肩を組む。

「どうよ、ベル。うちの【ファミリア】は?」

「はい、凄く楽しいです。この【ファミリア】に入れてよかったです!」

純粋な笑みでそう答えるベルにリオグやその周囲にいる団員達はうんうんと神妙に頷いた。

「そりゃよかった。だが、そんなお前に俺が団員達の事を教えてやる」

「おいおい、早速先輩(ずら)か?」

「余計なことをベルに吹き込むなよ」

「うっせ、余計なお世話だ」

からかいの言葉を一蹴してリオグはアイカを指す。

「あの人がアイカさんだ。因みにベル、お前は胸はデカい方が好きか?」

「な、なななな何を言うんですか!?」

顔を真っ赤にして叫ぶベルにけらけらと笑うリオグ。

「いやいや予想通り初々しい奴だなと思ってな。アイカさんは団長の専属家政婦(メイド)だけど、皆に優しくしてくれる【ファミリア】のお姉さんだ」

ベル達の視線に気づいたアイカは微笑みながらベル達に小さく手を振った。

「そんでもってあの人は鋭いから嘘はつかねえほうがいいぞ?ま、ベルなら心配はいらねえか」

如何にも純粋そうと内心で苦笑しながらそう思ったリオグは次にセシシャを指す。

「セシシャは俺達【ファミリア】の経理や交渉などを担当している。金銭面で何か相談したい時は頼りになるぜ」

「どこの【ファミリア】にもセシシャさんのような人はいないんですか?」

「まぁ、セシシャは元々商人だったという経緯もあったからな」

次の団員達を教えようとするリオグにベルは女性団員達に捕まっていた。

「ちょっとベルに変なこと教えないでよ!」

「おいおい俺はベルに他の奴らを教えているだけだぜ?」

「あんたが教えると純粋なベルが穢れるわ。ベル、私達と話しましょう」

「え、え……」

両腕を掴まれて女性団員達が集まるテーブルに連行されたベルは周囲が異性ばかりで緊張してしまい体が縮こまってしまう。

そんなベルの気も知らずに女性団員達はベルをぺたぺたと触る。

「何か癒される~」

「無垢な団長もいいけど純粋なベルもいいものね」

ベルを触って癒されている女性団員達に顔を赤くして言葉が出ないベル。

「皆さん、ベルが困っていますのでその辺りにしましょう」

スィーラがそんなベルを見て助け船を出すと女性団員達もスィーラの言葉を聞いて止める。

「すみません。大丈夫ですか?」

「は、はい。大丈夫です。えっと、スィーラさん?」

「ええ、合っています」

「私は?私の事は?」

「フールさんですよね?」

スィーラの隣から顔をベルに近づけるフールにベルは必死に名前を思い出して答える。

「うん、正解。ねぇ、ベルはどうしてここに入ったのか訊いてもいい?」

「はい。神様に誘われて」

【ファミリア】に入った経緯を話すとなるほどと頷くフール達。

「ベルは何か質問とかありませんか?」

「ええっと……」

どんなことを訊こうか悩んでいると他の女性団員やアイカに食事を食べさせられているミクロが視界に入ったベルはミクロの事をスィーラ達に訊いてみた。

「団長はどんな方なんですか?やっぱり団長だから皆さんより強いんですか?」

ベルの言葉にスィーラ達は難しそうに表情を固くする。

「強いは強いよ。いや、強すぎるが正しいのかな?」

「ええ、それは間違いなく」

「ただ、団長は色々凄いからね……」

「え?」

フール達の言葉に訝しむベルにフール達はミクロの事をベルに教えた。

たった五年で【ファミリア】の等級(ランク)をAまで上げ、オラリオでも極わずかしかいないLv.6まで到達。

多種多様な武器、魔法が使えて前衛、中衛、後衛全てに対応できる。

魔道具作成者(アイテムメーカー)としても有名で一部の魔道具(マジックアイテム)を売買して【ファミリア】に貢献している。

たった一人で【デュアンケヒト・ファミリア】の主力メンバーに勝利。

「だいたいはこんな感じかな?あ、団長の二つ名は【覇者】だよ」

「な、なんか凄いんですね、団長って。僕と歳もそう変わらなそうなのに」

ミクロの話を聞いて年も変わらないミクロと自分を比較する。

「団長が特別という訳ではありませんが気にする必要はないかと。ベルはまだまだこれからなのですから」

「そうそう、自分のペースでやって行けばいいんだよ?」

「はい!」

まだベルの冒険は始まったばかり。

これから頑張って行ければいいと内心でそう考えるベルはフール達に尋ねた。

「あの、皆さんにも二つ名はあるんですか?」

「このテーブルでは私とフールだけですね」

「私が【妖精護剣(フェアリーアミナ)】でスィーラが【雷魔姫(ライトニングマリカ)】だよ。他にも二つ名を持っている人がいるから後で聞いてみて」

フールとスィーラの二つ名を聞いて関心するベル。

「ベル」

「あ、はい」

ベルの背後からミクロが声をかけえきてベルは慌てて振り返る。

「家の中とベルの部屋を案内するからついて来て」

「わかりました。皆さん、色々とありがとうございました!」

「また明日ね」

礼を言ってミクロについて行くベルに手を軽く振るうフール。

ミクロはベルに本拠(ホーム)内を案内して最後にこれからベルが使う部屋を案内する。

「ここがベルの部屋。何か必要な物があったらセシシャに言って」

「はい」

これから使う自分の部屋。

使うには勿体ないと思える程綺麗な部屋にベルは嬉しさ半分と申し訳なさ半分だった。

「明日はギルドに登録を済ませたりベルの装備を整えるから昼までには起きてくれ」

「わかりました」

「お休み、ベル」

「お休みなさい」

部屋から去って行くミクロにベルはもう一度自分の部屋を見渡してベッドに寝転ぶ。

「わ、僕が使っていたベッドより柔らかい」

そんな感想を口にしながらベルは窓の外から差す月日を眺める。

「おじいちゃん。僕、冒険者になったよ」

今は亡き祖父を思い出しながらベルは疲れが溜まっていたせいかすぐに眠りについた。

 

 


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