路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第四十九話

セシルがミクロに弟子入りしてから三ヶ月。

「やああああああああッッ!!」

『グゲェッ!?』

掛け声とともに大鎌でダンジョンリザードを切り裂くセシルは切り裂いた勢いを利用して近くにいるゴブリンにも攻撃する。

現在ダンジョン四階層でセシルはモンスターの大群を一人で相手している。

ミクロは魔道具(マジックアイテム)で姿を消して助けに入れるギリギリの範囲でセシルを見守る。

「はぁ…はぁ……」

連続の戦闘で呼吸を荒くするセシルは周囲にモンスターがいないことを確認して回復薬(ポーション)を飲む。

「お疲れ」

戦い終えたセシルに労いの言葉を送るミクロだが、セシルの表情は暗かった。

「お師匠様……私、強くなれていますか?」

「【ステイタス】がその証拠」

セシルは順調に強くなってきているのはセシルの背中に刻まれている【ステイタス】を見れば一目瞭然。

だけど、セシルは強くなれている実感がなかった。

毎日ミクロの酷烈(スパルタ)の訓練を続けて早三ヶ月が経っているのにまだ四階層より先には進められない。

「私……やっぱり才能がないのかな……?」

セシルは魔法もスキルも発現していない。

魔法のスロットもたったの一つだけ。

辛くて苦しい訓練をしているのになかなか上がらない【ステイタス】。

「セシルは頑張ってる」

初めに比べれば鎌を扱う技術も防御も上手くなってきている。

後は積み重ねていけば問題ないと言おうとする前にセシルが叫んだ。

「才能あるお師匠様が言っても皮肉にしかなりません!!」

そう叫んでダンジョンに駆け抜けていくセシル。

地上に向かう道のりだからモンスターに襲われず心配はそこまでないと思いつつミクロは肩を落とす。

「何か間違えた…?」

教えるのって難しいと思いつつミクロは(ホルスター)に入れているネックレスを取り出す。

「渡しそびれた」

ミクロは取りあえずは地上に戻る為足を動かす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああ………」

その日の夜、セシルは自室で頭を抱えていた。

師であるミクロに対して暴言を吐いてしまったことに酷く後悔していた。

「どうしよう……」

勢いに任せて思わず言ってしまったが冷静になれば酷く失礼なことを言ってしまっ事に気付いた。

この三か月間ミクロは自分の時間を削ってまで付ききっりでセシルの鍛錬に付き合ってくれている。

団長としての仕事や自分の鍛錬もあるにも関わらず自分勝手なことを言ってしまった。

正直に言えば合わせる顔がセシルにはなかった。

「破門かも……」

憧れであるミクロに弟子入りできたのにあんなことを言ってしまえば破門されても何も言えない。

「セシル。入ってもいいでしょうか?」

「副団長?どうぞ」

「失礼します」

部屋に入って来たリューにセシルはやっぱり綺麗だと思った。

眉目秀麗の容姿に第一級冒険者の実力を持つ【ファミリア】の副団長であるリュー。

そんなリューと比べて自分は綺麗という訳でも才能があるという訳でもない。

自分がこの【ファミリア】にいるのは場違いではないのかと考えてしまう。

「ミクロと喧嘩したようですね」

「……はい」

リューの言葉に察したセシルは俯きながら肯定した。

破門か退団かどちらかを言われると思うセシルは恐怖と緊張で体を震わせる。

「ついてきなさい。貴女に見せたいものがあります」

「え?」

だけどそのどちらでもなかった。

部屋を出ていくリューにセシルは慌てながらもついて行く。

どこに向かっているのかはわからないが取りあえずはリューについていくセシル。

すると廊下の途中でリューは足を止める。

「見なさい」

窓の外に視線を向けるリューにセシルもそちらに視線を向けると中庭でミクロが一人で大鎌を振っている。

何度も振るうミクロの姿を見てリューはセシルに言う。

「ミクロは毎日最低でも一万回は素振りをしています」

「一万……ッ!?」

リューの言葉に驚愕の声を上げるセシル。

毎朝の千回の素振りとダンジョンの分を含めても一万回達するかどうかをミクロはそれ以上に大鎌を振るっている。

「貴女はミクロを誤解している。それを解きたい」

リューはセシルの為にミクロの誤解を解く為にミクロの事について話す。

「確かにミクロは才能がある。ですが、才能関係なくミクロは努力しています。普通の何倍も努力を重ねて自身を研磨し続けている」

「…どうしてお師匠様はそこまで努力をなさるのですか?辛いとは思わないのですか?」

ミクロの酷烈(スパルタ)を受け続けたセシルだが、ミクロ自身はそれ以上の過酷な訓練を行っている。

辛くて苦しいと思うはずなのに今も止める気配が全くなかった。

才能があるはずなのにとセシルはそう思った。

「辛くも苦しくもないのでしょう。ミクロはそれ以上の辛さを身を持って知っている」

リューはミクロがアグライアに出会うまでのミクロの生活について少しだけ語った。

そんなミクロをリューが鍛えたことも。

「しかし、ミクロに言わせればそれはどうでもいいのでしょう。考えるだけ無駄だと言うはずだ」

「どうして……」

それだけ辛いことがあったのにどうでもいいなんてありえない。

自分が同じ立場なら絶対に死にたくなる。

それをどうでもいいなんて言える訳がなかった。

「その考えすら彼にはないのです。それが当たり前のように生活してきた彼には」

始めてミクロと出会った時を思い出しながらリューは語った。

だからこそリューはミクロを放っておくことが出来なかった。

毎日鍛えるようにと言えばミクロは言われたとおりに毎日鍛えていた。

目的もなくただ言われたとおりにそれを実行した。

「ですが、今のミクロは前とは違う。今は貴女を少しでも強くなれるように自身も武器を振るって武器の特徴を捉えてどうすればいいのかと考えている」

その言葉にセシルは心当たりがあった。

ミクロは多彩な武器、道具(アイテム)魔道具(マジックアイテム)、魔法を使えるがその中にセシルが使う大鎌はなかったにも関わらず指摘、考案などを教えて貰った。

それは自分が努力して身に着けた技術をセシルに教えていた。

少しでもセシルが強くなれるように。

「どうしてお師匠様はそこまでしてくれるのですか?」

他人の為に自分の時間も削って過酷な訓練をしてセシルを鍛える。

今日もいつも通りならセシルは休んでいてもおかしくない時間帯なのにその時間もミクロは努力していた。

「ミクロは優しい。それと嬉しいのでしょう。こんな自分に憧れる人が現れてくれたことが」

本人は自覚はないでしょうがと言葉を続けるリュー。

ミクロから言わせれば弟子にしたから鍛えるのは当たり前と容易に答えるだろう。

だけど、一部の者は気付いている。

ミクロが嬉しそうな表情をしていることに。

「セシル。例え貴女に才能がなかろうとミクロは決して貴女を見限ったりはしない」

「……私、謝ってきます!」

その場から駆け出すセシルは急いで中庭に向かう。

階段を跳び下りて中庭に駆け出す。

「セシル……?」

「お師匠様!本当に申し訳ございません!!」

セシルは大きく頭を下げた。

「お師匠様が努力しているのに才能なんて言葉で片づけて自分勝手なことを言って本当に申し訳ございません!!」

セシルは謝罪した。

自分の為に自分以上に努力しているミクロに向かって謝罪の言葉を飛ばした。

「どうか、どうかこれからもご指導ご鞭撻をお願いします!!」

都合がいいことはセシルも十分に知っている。

だけど、間違っていないと証明したかった。

ミクロに弟子入りしたことが間違いではない。

例え才能がなかろうとこの人の元で強くなりたかった。

頭を下げるセシルだが、ミクロの足音が離れていく。

やっぱり都合が良すぎるとそう思った。

酷いことを言った上にまた教えを乞おうなんて都合が良すぎるにも限度がある。

「セシル。頭を上げて」

「え?」

そう思った時ミクロの声が聞こえてセシルは頭を上げるとミクロが目の前に立ってくれたいた。

「これあげる」

「これは……」

ミクロがセシルに渡したのは漆黒に覆われた大鎌。

「セシルの得物もそろそろ限界だろうから椿に作って貰った」

ミクロは少し前に椿のところに足を運んで大鎌を作って貰った。

快く承諾してくれて椿が作った大鎌。作品名『メラン』。

弟子であるセシルの為にミクロは椿に武器を作って貰っていた。

「あとこれも」

ミクロは更にネックレスをセシルに手渡す。

「名前は『キラーソ』。一言で言うなら見えない鎧を纏うことが出来る」

ミクロが作製した魔道具(マジックアイテム)『キラーソ』。

身に着けるだけで見えない鎧を纏うことが出来る。

身に着けても鎧を身に着けた感覚は一切なく動きに支障もでない。

防御が苦手なセシルの為にミクロが作製した魔道具(マジックアイテム)

「こんな立派な物を二つも……」

大鎌も見ただけで業物だとすぐにわかる。

魔道具(マジックアイテム)も説明を聞いただけでもの凄い物だとわかる。

それを貰えるなんて嬉しくもあり、本当にいいのかと不安を感じる。

自分じゃなくて他の誰かが使った方がいいのではないかと。

「それとごめん。俺も考えが足りなかった」

頭を下げるミクロにセシルは大慌て止めに入る。

「頭を上げてください!悪いのは自分勝手なことを言った私なのですから!お師匠様は何も悪くありません!!」

努力しているのにそれを無下に扱ってしまった自分が全て悪いのだとまた頭を下げるセシルを見てミクロは頭を上げる。

「じゃ、お互い悪いってことでこれからもよろしく」

「はい!よろしくお願いします!」

仲直りの握手をする二人の師弟関係は元に戻る。

「俺も反省した。やっぱり自分の道は自分で切り開かないと成長はしないことに気付いた」

「はい?」

何故か冷や汗が出たセシルは手を離そうとするがミクロが手を離してはくれなかった。

「助けるのはやっぱりよくない。その安心が油断に繋がるから今度は助けるのは止めにすることにした」

「ええと、はい?」

「死んで欲しくないけどその二つがあれば七階層での死亡率は一気に下がるはずだから問題ない」

「あの、お師匠様……?」

ミクロの言葉を聞くたびに尋常じゃない程の汗が流れる。

そして、ミクロの口から七階層などという聞き間違いであって欲しい言葉が聞こえた。

「でも、セシルなら必ず帰還するって信じてる。行こうか」

握った手を離さずにミクロはセシルをダンジョンに連れて行く。

「あの、お師匠様、もう夜ですが……」

「ダンジョンに昼も夜も関係ないから問題ない」

引っ張られながら顔を青ざめていくセシルに気にも止めずに歩き出す。

もしかしなくてもミクロの酷烈(スパルタ)に拍車をかけてしまったセシルはこれから向かう摩天楼(バベル)が死を誘う死の塔に見えた。

「あ、はは……」

力なく笑うセシル。

しばらくしてダンジョンから悲鳴が鳴り響いた。

次の日の朝。無事に生還したセシルは魂の抜けた抜け殻のように倒れていた。

だけど、そのおかげもあってセシルに二つのスキルが発現していた。

 

師弟関係(ピスティス)

・師事を仰ぐ事で経験値(エクセリア)が向上。

・師弟の絆がある限り効果持続。

 

自信斬烈(ハリファ)

・自信を持つ限り武器を強化。

・自信の向上によりアビリティ補正。

 

発現したスキルを知るのは数時間も経った頃だった。


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