路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第35話

【シヴァ・ファミリア】の団員達との決着が終えて数日後。

ミクロは一人で街中を歩いていた。

セツラとの戦いに傷が癒えたミクロは全ての事情をアグライアに報告して【ステイタス】を更新したらLv.4になっていた。

しかも、今回【ランクアップ】したのはミクロだけではなくリューもLv.5に到達した。

発現した発展アビリティをミクロは精神力(マインド)が自動で回復する『精癒』を選び。

リューは魔法の威力強化、効果範囲拡大、精神力効率など魔法の補助をもたらす『魔導』。

それぞれの発展アビリティを選択してギルドに【ランクアップ】の報告を終わらせたミクロは街中を歩いている。

特に理由はない。

ただ目的もなく歩いている。

「………」

(ホルスター)から取り出してブローチを見る。

セツラが持っていたブローチにはミクロの母親であるシャルロットが描かれていた。

何故セツラがこれを持っていたのかはわからない。

そして、へレスは何が目的でミクロを襲わせるように命じたのか。

まだ色々と謎が多かった。

「よぉ」

その時、突然目の前に現れた一人の男性。

気配もなく突然現れたミクロは咄嗟にナイフを抜こうとしたがすぐにそれを止めた。

もし抜けば確実に自分が死ぬことが想像できたからだ。

突然現れた男は紛れもなく強者だと本能がそうミクロに教えた。

男はその反応に口角を上げて笑みを浮かばせる。

「ほぅ、いい判断だ。セツラを倒したのも頷ける」

「誰だ?」

「お前の父親だ。ミクロ」

あっさりと答えるへレスにミクロは警戒を強める。

【シヴァ・ファミリア】団長、へレス・イヤロス。

自身の父親と呼べる男が目の前にいるのだから。

「まぁ、落ち着け。ここで戦うのはこちらもまずいからな」

制止を促すへレスは周囲に視線を向ける。

まだ人が多く歩いているなかで戦えば少なくとも被害は出て自身の【ファミリア】にも何らかの罰則(ペナルティ)が発生してしまう。

「安心しろ。今回は話を終えたら都市を出ていくつもりだ。親子水入らずに談話でもしようぜ?」

「……わかった」

へレスの言葉にミクロは従うしかなかった。

騒ぎを起こすわけにも仲間を呼ぶ隙もへレスはきっと与えてくれないどころかその隙があれば確実にミクロの息の根を止めてくる。

本当に都市を出ていくかは不明だが、今は従う以外の道がなかった。

二人は近くの喫茶店に入り、向かい合うように席に座る。

「俺がコーヒー。お前はどうする?」

「いらない」

「そうか」

あくまで警戒を解かないミクロにへレスは普通に注文を取る。

「そういや、お前が所属している【ファミリア】、【アグライア・ファミリア】だったか?その年で団長とはその辺は俺に似てんのかね?」

「知るか」

「なかなか有名みたいだな?この都市に来てからお前の噂話をよく聞くぞ?」

「目的はなんだ?」

談話するへレスにミクロは単刀直入に目的を問いかける。

へレスは要注意人物(ブラックリスト)に載っている。

その人物が目的もなく自分の前に現れる訳がない。

問いかけるミクロにへレスは呆れるように息を吐いた。

「やれやれ、少しは会話を楽しもうとはしねえのかよ?」

「よく言う。会話を楽しむつもりなんて初めからないくせに」

「ほう、何故そう思う?」

「お前の眼は破壊にしか興味はない」

へレスの眼は前に戦ったシャラ以上に狂喜の眼をしている。

その事を見抜いたミクロにへレスは微笑する。

「なるほど。中身はシャルロットに似てんのな。あいつもそういうところは鋭かったけな」

微笑を浮かべるへレスは懐から一冊の本をテーブルに置いた。

魔導書(グリモア)だ。これをお前にやる」

「何故?」

読むだけで魔法を使えるようになる魔導書(グリモア)

それをミクロに渡して何の意味があるのかわからなかった。

「不満か?オラリオを出て魔法大国(アルテナ)で手に入れた物だが」

「これを俺に渡してお前に何の得がある?」

メリットどころかデメリットしかないその行為に疑問を抱いた。

「理由は二つだ。一つはセツラを倒した褒美とでも思え。父親が子供にご褒美を与えるのは当然だろう?」

「もう一つは?」

「シヴァ様の命令とついでに俺の欲求を満たす為だ」

へレスはミクロに指を指して告げる。

「お前はまだまだ強くなる。だから強くなってシヴァ様のところに会いに行けるように。それといずれは俺とお前で戦うことになる。なら、希望を与えてからお前を壊したほうが面白いだろう?」

「………」

へレスは静かに嗤った。

シャラより深い狂喜の笑みを浮かべたへレスはすぐに嗤うのを止める。

「せっかくだ。お前は俺に何か聞きたいことはねえのか?」

「……俺の母親シャルロットについて」

ミクロは(ホルスター)からブローチを取り出してそれをへレスに見せる。

「母親の行方と代償魔法のことについて知っていることを話せ」

「知ってどうする?」

「わからない。でも知っておかなければならないような気がする」

セツラとの戦いの前にミクロは一度死んだ。

だが、セツラは母親のおかげで生きていると言っていた。

自身の体から出現した魔法陣がシャルロットのもので代償魔法がミクロにかけられていたとしたらシャルロットは安否はどうなっているのか。

その答えがミクロは知りたかった。

「代償魔法はその名の通り自分の何かを支払うことで何かを得ることが出来る魔法だ。得るものに比例して失う。それが代償魔法。そして、お前が生きているのもシャルロットのおかげだ」

注文できたコーヒーを飲みながら答えるへレス。

「シヴァ様は自身の血を眷属の子に与えた。お前もその一人だ。だけど、耐えることが出来たのはシャルロットが代償魔法をお前にかけたおかげだ。あいつは自分の耐久全てをお前に与えた。それを引き換えに病弱になったがな」

その言葉にミクロは気付いた。

何故自分の体が異様に頑丈なのかを。

発展アビリティに『堅牢』が発現したのかを。

「あいつの安否に関しては俺も知らねえ。ゼウスとヘラの奴らからシヴァ様を逃がすのに精一杯だったからな」

へレスが述べる言葉にミクロは理解した。

もうシャルロットはこの世にいないことに。

その事が容易に想像できた。

「さて、それじゃ俺はそろそろお暇させてもらうぜ。逃走用の(ルート)がいつもあるとは限らねえからな」

立ち上がってその場を去ろうとするへレスは思い出したかのようにミクロに告げた。

「そうそう、セツラ達以外にも何人か脱走して今は逃げてはいるがいずれかはお前の前に現れるはずだ。そいつらを踏み台にして俺のところまで這い上がってこい」

それだけを告げてへレスは去って行った。

「……」

テーブルに置かれている魔導書(グリモア)を見つめながらミクロはしばらくの間そこから動けなかった。

 

 

 

 

 

しばらくしてからミクロはへレスが置いていった魔導書(グリモア)を持って本拠(ホーム)に帰還した。

帰還するとリューがミクロに歩み寄る。

「ミクロ。祝勝会ですが前と同じ……どうしました?」

いつもと様子が違うことに気付いたリューはそう尋ねるとミクロはリューに抱き着いた。

「ミ、ミクロ……!?」

突然の抱擁に驚愕するリュー。

「ごめん。少しこうさせて」

「……ミクロ?」

だけど、今まで聞いたこともない弱り切った声にリューは冷静さを取り戻して腕をミクロの背中に回して抱きしめる。

無理もないと思いながら優しくミクロを抱きしめる。

あれほどの戦闘があり、一度は死を体験した。

それ以外にもミクロは背負っているものが多すぎる。

「へレスに会って母親のことを聞いた」

ミクロは話した。

へレスに会ったことも、自分の母親であるシャルロットが自分を守ってくれたことも。

全てをリューに話した。

リューはミクロの言葉を聞いてあの魔法陣のことについて納得した。

あの魔法はミクロに万が一があった時の魔法。

代償魔法を使って自分の命を捧げてミクロにその命を与えた。

ミクロもへレスの話を聞いてそれに気づいた。

「ミクロ。貴方の母親は素晴らしいお方だ」

心からの称賛と感謝の言葉を述べる。

「うん」

「だから、母親の分も貴方は生きるべきだ」

「うん」

「どんな時でも私達が貴方と一緒にいます。一緒にもっと強くなりましょう」

「うん」

ミクロが離れるまでリューはずっと抱きしめていた。

かつてされたように今度はリューがミクロを抱きしめた。


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