路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第32話

ミクロ達を含めて団員全員は居室(リビング)に集まってこれから団長であるミクロが発表することに緊張しながらも静かに耳を澄ませていた。

全員の前に立つミクロは口を開けて発表する。

「これより、遠征に行くメンバーを発表する」

【ファミリア】が結成してから初めて行う『遠征』。

今までは朝早くからダンジョンに赴きその日には帰還していた。

だが、【ファミリア】も大きくなって団員達の実力もある程度把握できるようになったことによりミクロ達は『遠征』を行うことにした。

「今までは22階層までだったが今回の遠征での目標到達階層は24階層とする。前衛は俺とリュコス」

「あいよ」

「中衛はリュー」

「はい」

「後衛はティヒアとスィーラ」

「わかったわ」

「わ、私ですか……?」

幹部であるティヒア達を除いて選ばれたスィーラは目を見開かせて自身が選ばれたことに困惑する。

「後衛の火力不足を補うにはスィーラの魔法が一番適している。高威力の魔法ならリューも使えるけど中衛のリューにそれは難しい。だからスィーラを後衛に選んだ」

中衛のリューに魔法も使用させるのは負担が大きくなる。

更に緊急時にリューの魔法を温存する必要もある為、ミクロはスィーラを選んだ。

「やったじゃん!スィーラ!」

相棒であるスィーラが選ばれたことに自分事のように喜ぶフール。

一度スィーラの魔法を見たことある団員達も選ばれたことに納得するように頷く。

「わかりました。微力ながら頑張らせていただきます」

「頼む。次にサポーターはパルフェ、フール……」

パルフェを始め数人のサポーターを発表して今回の遠征の目的は到達階層を増やすことと余裕があれば【ファミリア】の資金を手に入れる。

「出発は正午。解散」

その二つを目標に発表を終えて各自準備に取り掛からせる。

ミクロ自身も自室に一度戻り準備に取り掛かる。

武器、道具(アイテム)、『魔道具(マジックアイテム)』を装備して準備を整えている。

「ミクロ。いいかしら?」

「問題ない」

ノックして入って来たアグライア。

「【ステイタス】を更新しておきましょう。するとしないとでは違うわ」

「わかった」

【ステイタス】を更新する為に上着を捲るミクロにアグライアは手早く【ステイタス】の更新を終わらせる。

 

ミクロ・イヤロス

Lv.3

力:B756

耐久:A889

器用:S974

敏捷:A872

魔力:A897

堅牢:H

神秘:I

 

ミクロがLv.3になって半年近く。

確かにミクロは前衛で一番多く【経験値(エクセリア)】を稼げる。

最近では襲いかかってくるモンスターを一人で倒しているという報告も受けているアグライアだが、やはりこの成長速度には驚きを隠せない。

「はい。終わったわ」

更新を終わらせて更新用紙をミクロに渡す度にアグライアはミクロの成長にシヴァが関わっていることを考えてしまう。

アグライアはミクロに神血(イコル)が流れているのを知ってから自分なりにシヴァとその【ファミリア】の情報を集めている。

だけどわかったのは公開されていた情報だけでそれ以上は何もわからなかった。

問題がなければそれでいいが何故か今朝から不安を感じるアグライアは万が一を備えて【ステイタス】の更新を行った。

「リュー達のところ行ってくる」

「ええ、ちゃんと全員で生きて帰ってくるのよ」

「わかった」

部屋を出ていくミクロの前にセシシャが腕を組んで立っていた。

「あの、ミクロ」

「どうした?」

何かに悩んでいたセシシャはそれをミクロに伝えようと思った。

「あの、いえ、やはり何でもありませんわ」

「わかった」

思ったが、これから『遠征』に行くミクロに負担を掛けまいとその言葉を呑み込む。

何でもないと分かったミクロはその場から離れてリュー達のところに向かう。

「やはり、伝える必要はありませんわよね」

一枚の情報紙を持ってセシシャは今日の交渉のことについてもう少し詰めておこうと行動に移る。

「【シヴァ・ファミリア】の脱獄だなんて私達には関係ありませんわ」

『ギルドの牢獄から【シヴァ・ファミリア】の団員が脱獄!何者かが手引きした可能性あり!』

セシシャが持っている情報紙の一端にそう記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、ギルドの連中がなんか騒いでいたね」

ダンジョンに潜る前にギルドの職員が慌ただしい雰囲気をしていたが特に気にも止めずダンジョンに潜っていたミクロ達。

思い出したかのようにリュコスがそう口にするとミクロ達も頷いて応えた。

「少し聞こえたなんだけど何でもどこかの【ファミリア】が脱獄したみたいよ」

ギルドの職員の声が聞こえたティヒアはそんなことを言っていたとミクロ達に教える。

「二人とも。気を緩めてはいけません」

談話するリュコス達に注意を促すリュー。

「って言われてね」

チラと視線を前に向けるリュコス達の先には一人でモンスターを殲滅しているミクロ。

「もうこの階層だとミクロ一人で十分じゃないか」

『遠征』を始めて既に19階層に到達したミクロ達。

当然この階層に来るまでモンスターは襲いかかってはきたがそれをミクロ一人で討伐した。

「終わった」

当然のように終わらせるミクロはパルフェ達に魔石とドロップアイテムの回収を任せて一休憩を取る。

「………」

自身に身に着けている『魔道具(マジックアイテム)』にどこも不調はないことを確認できたミクロは次の階層からは一度下がってリュー達に指揮を執る予定となっている。

これからのことを考えて多くの事を知らなければならない。

指揮の執り方もその一つ。

まだまだ発展途上の【アグライア・ファミリア】。

その団長を務めているミクロは学ぶべきものは多い。

パルフェ達が回収を終えてミクロ達は前進し、20階層に向かう途中でリュコスとティヒアが何かに気付いた。

「誰だい!?そこに隠れているのは!?」

「出てきなさい!」

獣人である二人は誰かが近くに隠れ、こちらの様子を窺っていることに気付いた。

その二人の反応に戦闘態勢を取るミクロ達。

全員の視線の先に二人の男女が現れた。

長槍を持つ男性の人間(ヒューマン)と二振りのメイスを腰にかけている女性の猫人(キャットピープル)が草むらから姿を現した。

「何か用?」

ミクロが二人にそう尋ねると男性の方が爽やかに答える。

「申し訳ありません。なんせ、久々に再会したものですからどれだけ成長したのか気になりましてね」

「知り合い?」

男性の言葉にミクロはリュー達にそう訊くが誰もが首を横に振った。

もちろんミクロも覚えがない。

疑問に抱くミクロ達に猫人(キャットピープル)の女性がせせら笑うようにミクロを指す。

「シャラ達が言っているのはお前ニャ。ミクロ、いや、へレス団長の息子」

その言葉瞬時に理解出来たミクロ。

だが、その瞬間を狙ったかのようにミクロ達の背後から複数の冒険者が襲いかかって来た。

『っ!?』

誰もが驚愕するなかでミクロは『魔道具(マジックアイテム)』を発動させようとしたが襲いかかっくる槍をナイフで防ぐ。

「貴方の相手はわたしですよ、ミクロ君」

槍の連撃によってリュー達から離れていくミクロは目の前にいる男の実力に気付いた。

「Lv.4」

「正解です。あ、私の名前はセツラです。よろしく」

「ミクロ!?」

離れていくミクロにリューは襲いかかってくる冒険者を撃退しながら追いかけようとするが目の前にシャラが立ちはだかる。

「お前達の相手はシャラ達ニャ。エルフ」

「どきなさい!」

木刀とメイスがぶつかり合うなかでリューはシャラが自身と同じLv.4だと気付く。「にゃはは。【シヴァ・ファミリア】所属シャラ・ディアブル。愉快に面白く壊してあげるニャ」

狂喜に満ちた笑みで二振りのメイスを振るうシャラ。

内心で離れていくミクロの心配をしながらリューはシャラと対峙する。

一方でリュー達と離れてしまったミクロはセツラと交戦していた。

「やりますね。流石は団長の息子です」

「知った事か」

褒めるセツラにどうでもよさそうに返事をしてセツラと距離を取る。

「何故俺を狙う?」

「頼まれたからですよ。貴方の父親であるへレス団長に。貴方の様子を見てこいとね。まぁ、ずっと牢獄生活でしたからいい気分転換にはなりますけどね」

「俺の父親はどこにいる?」

「流石にそこまではわかりません。もうオラリオに出て行ったかもしれませんね。一応は要注意人物(ブラックリスト)に載っていますから」

ミクロの問いに何の疑問も抱かず平然と答えたセツラは笑みを浮かばせたままミクロに声をかける。

「ミクロ君は私達のことをどこまで知っていますか?」

「シヴァと父親がまだ捕まっていない、【シヴァ・ファミリア】はゼウス・ヘラの【ファミリア】に壊滅された」

「なら、どうして滅ぼされたかご存じで?」

「オラリオの破壊が公になったから」

「公になった原因は何かわかります?」

その問いにミクロは答えられなかった。

それを承知でセツラは答えた。

「ミクロ君の母親、シャルロット・イヤロスが私達の計画を公にしたせいですよ。【不滅の魔女(エオニオ・ウィッチ)】の二つ名を持つ【シヴァ・ファミリア】副団長のせいでね」

セツラの表情から笑みは消えて表情を歪ませる。

「あの女のせいで私達はオラリオの破壊という至高の快楽を味わうことが出来なかった。全く持っていい迷惑です」

吐き捨てるように言い放つセツラは再び笑みを浮かべた。

「ミクロ君。貴方は特別な存在だ。自分が思っている以上に。それ故に知っているはずです。破壊の快楽を、混沌の空気を、血を沸騰させ、肉を躍らせる快感を!悦びを!貴方は知っているはずだ!」

壊すことに悦びを知ったセツラはその悦びをミクロに語った。

同意を求めるように、同士に語り合うように狂喜に満ちた笑顔でミクロに手を差し伸ばした。

「一緒にオラリオを出ましょう。そして、あの時出来なかったオラリオの破壊を共に行いましょう!」

「断る」

だが、ミクロはその手を払いのけた。

「お前の言う通り俺は知っている。破壊の快楽もその悦びもその全ても。だけど、アグライアが教えてくれた」

路地裏で生活していたミクロならセツラの手を握っていただろう。

だけど、今はもう違う。

「この世界は美しいと。壊すなんてもったいないと。俺はアグライアと仲間達と共にこの世界を堪能する。オラリオの破壊はその夢も壊す」

ミクロはナイフと梅椿を持って構える。

「その夢を壊そうというのならお前等は俺の敵だ」

その言葉を聞いたセツラは落胆するように息を吐いた。

「残念です。どうやら貴方は出会いを間違えたようだ」

槍を構えるセツラは淡々とミクロに言う。

(ころ)してあげましょう。そして後悔なさい。自分が愚かな神と出会ったことに」

(ころ)されるのはお前の方だ」

唐突に襲いかかって来た【シヴァ・ファミリア】の団員達。

戦闘を繰り広げているリュー達とシャラ達。

衝突し合うミクロとセツラ。

 


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