路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第二十九話

【アグライア・ファミリア】の新本拠(ホーム)夕焼けの城(イリオウディシス)』。

一日の始まる朝。団員達は起床して食堂に集まっていた。

今も眠たそうに欠伸をする者、朝食前に訓練してきた者、朝からダンジョンに行こうと既に装備を身に着けている者。

団員達と一緒にミクロは朝食を取っていた。

朝から賑わう食堂で今日はどうするのかと、何階層まで行くのかと談話を聞きながら朝食を口に運ぶ。

というか運ばされている。

「はい、団長。あ~ん」

隣にいる同じ【ファミリア】の団員のアマゾネスから食事を口に運ばれてそれを口にする。

「団長。私のもどうぞ」

そう言ってスープを掬いふーと冷ましてからミクロに飲ませる人間(ヒューマン)の女性。

ミクロ自身も特に抵抗はなくされるがままに食べる。

「………」

「ティ、ティヒア!?落ち着いて!ね!」

ぐにゃとスプーンを握り形を変えるティヒアを見て慌てて宥めに入るパルフェ。

「……くく」

それを見て笑いを溢すリュコス。

「ふぁ~」

欠伸しながら情報紙に目を通すセシシャ。

「はぁ」

ミクロを見て呆れるように溜息を吐くリュー。

「ふふ」

子を見て楽しそうに笑みを浮かべるアグライア。

昨日のミクロの言葉に団員の多くはミクロに絶大の信頼を寄せている。

あれほどまでにハッキリと信じ切っている言葉を言われたら裏切るようなことをするなんてできない。

嫉妬の視線を向けるティヒアと数少ない男性団員。

ああなるのも仕方がないと頭で理解していてもそれとこれとは別だった。

(おのれ団長……!)

(羨ましい……!)

(変われ!変わってください!)

(さっさと離れなさいよ……!)

男性団員とティヒアの嫉妬に満ちた眼差しをミクロに向ける。

「?」

だが、嫉妬が何かわからないミクロは視線を向けられているぐらいしかわからなかった。

そんな朝の食事が終えて団員達は動き出す。

ミクロも装備を整えてダンジョンに向かう為部屋に戻る。

「あ、ミクロ。今日は私と少し付き合ってちょうだい」

「わかった」

アグライアの言葉に従って今日一日はアグライアに付き添うようになったミクロはリュー達に声をかけてからアグライアと一緒に本拠(ホーム)を出た。

歩くアグライアの隣をミクロは黙ってついて行く。

「朝は大変だったわね」

「何故食べさせようとするのかわからない」

その言葉にアグライアは苦笑を浮かべながらミクロの頭を撫でる。

その辺は相変わらずと思いながら目的の場所まで歩く。

都市北部の方へ真っ直ぐ歩いて行きアグライア達は目的の場所までやってきた。

「着いたわよ」

歩いた先にあったのは都市最強派閥の一角【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)『黄昏の館』。

「アポは取っているはずよ。開けて頂戴」

門番らしき二人に声をかけて開けさせる。

開門して中に入って行く二人。

自分達の本拠(ホーム)と比べながらこういうものかと思いつつアグライアに付き添うミクロ。

「おー、アグたん。待っとたで~」

「久しいわね。ロキ」

「何言ってんねん。昨日少し会ったばかりやろ?」

「そうだったかしら?」

応接間の椅子に座りながら気さくに話しかけてくる朱色の女神ロキ。

都市最強派閥の一角を担う【ロキ・ファミリア】の主神とその近くに立っている【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

「………」

「………」

互いに無言のまま目を合わせる二人だが、同時に手を伸ばして握手する。

「ミクロ。ミクロ・イヤロス。ミクロでいい」

「アイズ。アイズ・ヴァレンシュタイン。アイズって呼んで」

互いに固く握手する二人を見て主神の二人は不思議そうに顔を見合わせる。

「どういうことやねん?」

「互いに何かを感じるものがあるのかしら?」

会ったばかりになのに仲良くなった二人に首を傾げるがロキが咳払いして話を進めた。

「んん。んじゃ、そろそろ始めようやないか」

「いったい何を企んでいるのかしら?ロキ」

何を考えているのかわからない悪神(ロキ)は満面な笑みで告げる。

「そんなもん、うちのアイズたんとアグたんのとこの【ドロフォノス】の実力勝負や」

「わかった。受ける」

「ミクロ。貴方ね……」

理由も聞かずに即決するミクロにアグライアは頭を押さえる。

相変わらずというからしいというか前のセシシャの時のような思慮深さはどこにいったのかと思いながら疲れるように溜息を吐く。

「私もミクロと戦ってみたい」

アイズもロキの言葉に賛成していた。

元からミクロに興味があったアイズはこの機会を無駄にはしたくなかった。

「ほな、決まりや!こっちやで!」

戦える場所へと案内するように先頭を歩くロキについて行くミクロ達。

アグライアは歩きながらミクロに声をかけた。

「ミクロ。どういうことなの?」

アイズはリューと同じLv.4の冒険者。

Lv.3のミクロでは相手にならない上にそれに応じる必要はどこにもない。

更には自身の実力を他派閥に見せることになるかもしれない。

アグライアにとって戦う必要なんてどこにもない。

「アイズは俺に近い何かを感じた」

「え?」

いつものように淡々と答えるミクロの言葉に耳を疑った。

「着いたで!うちの子供達の鍛錬場や」

もう一度訊こうとしたがその前に目的地まで到着してしまった。

「フィンー!ちょっと審判頼むわ!」

「ああ、任せてくれ」

【ロキ・ファミリア】団長であるフィンが笑みを浮かばせながら審判を了承するとミクロの方に足を運んだ。

「久しぶりだね。ミクロ・イヤロス。答えは見つかったかい?」

「ああ、あの時の助言のおかげで答えを見つけられた。ありがとう」

「そうか」

自身の望みを見つける為に悩んでいたミクロに助言してくれたフィンにミクロは頭を下げて礼を言った。

フィンも特に気にすることなくそこで話を終えた。

広い鍛錬場の中心に向かい合うように立つアイズとミクロ。

「よろしくお願いします」

「よろしく」

片手剣(デスぺレート)を構えるアイズにナイフと梅椿を抜刀するミクロ。

「互いに魔法の使用は禁止にする。どちらかが降参を宣言、僕達が戦闘続行不可能と判断したらそこで終了だ。こんな感じでいいかな?ロキ」

「ええで。アグたんもそれでええか?」

「……ええ」

ミクロの言葉が気になりながら勝負の内容に了承するアグライア。

「それでは始め」

フィンの言葉と同時に動いたのはミクロだった。

真っ直ぐと正面からアイズに向かって駆け出すミクロにアイズは迎撃に備える。

駆ける途中でミクロは投げナイフをアイズに向けて投擲するがアイズはそれを全て防ぐ。

だけどミクロにとってそれは想定内。

煙玉を地面に叩きつける。

鍛錬場全体に煙幕が張ったミクロは煙の中に姿を消す。

「………」

それに対してアイズは周囲を警戒してどこから攻撃してきて対応できるように構える。

前の【ディアンケヒト・ファミリア】との『戦争遊戯(ウォーゲーム)』同様に何をしてくるかわからない。

接近してくるか、投げナイフを投擲してくるか、または『魔道具(マジックアイテム)』か、もしかしたらロキを投げてくるかもしれない。

人を物のように投げたミクロならやりかねないと警戒しつつそう思っていたが一向に何かしてくる気配がなかった。

「っ!?」

突如背後からやってきた何かをアイズは剣で弾いてその正体を鎖分銅だと判明。

そして、更に背後からミクロが接近した。

背後から奇襲するミクロはナイフでアイズに斬りかかる。

だが、アイズはナイフを躱して斬り払う。

咄嗟に梅椿で防ぐミクロだが、アイズは追撃する。

ミクロに反撃する暇も与えない程の連撃を浴びさせるアイズにミクロは辛うじて防ぐことに成功するが時には防ぐことも出来ずに体に切り傷ができる。

だけど、ミクロは冷静に分析した。

同じLv.4であるリューと速さは互角かそれ以下だが剣技はリューより明らかに上。

毎日のようにリューと模擬戦を繰り返しているミクロは自分より強い奴とはどう戦えればいいのか把握している。

まずは冷静に相手を分析する。

相手の手数、癖、動き、視線など可能な限りを把握していく。

しかし過激になっていくアイズの連撃に堪らず後退する。

後退したミクロに追撃を止めてミクロを見据えたまま再び剣を構える。

油断はないと把握したミクロは(トラップ)は失敗したと判断した。

煙幕の中でアイズを中心にミクロは罠を張ってから攻撃を仕掛けた。

もし、後退したミクロに油断して追撃でもしたらその罠は容赦なくアイズを襲っていた。

「強いな、アイズ」

「ミクロも強いよ」

互いに称賛の言葉を送る二人。

ミクロはアイズをどう倒すか算段を考える。

Lv.はアイズが上で剣技の腕はミクロの何倍も上回っている。

先程の連撃でも運よく切り傷だけで済ませられたが次は確実に斬られると確信した。

アイズもミクロをどう倒せばいいのか悩んでいた。

ナイフ、投げナイフ、道具(アイテム)、鎖分銅。

多種多彩の武器や道具(アイテム)を使ってくるミクロの次の手が読めない。

更にミクロには『魔道具(マジックアイテム)』がある。

必要以上に警戒しなければこちらがやられてしまう。

例え離れていても一瞬の油断も許されない。

一秒が凄く長く感じるなかでミクロは動いた。

「?」

ただ普通に街中を歩くかのように動くミクロにアイズは疑問を抱いた。

武器は持っているが構えているわけでもなく隙だらけ。

妙な動きをしている訳でもないミクロの奇策にアイズはどう出てくるかわからなかった。

警戒するアイズにミクロは足を止めた。

アイズと一定の距離で足を止めたミクロは腕を上げて詠唱を(うた)

「【壊れ果てるまで狂い続けろ】」

「っ!?」

「【マッドプネウマ】」

放たれた黒い波動にアイズは緊急回避。

呪詛(カース)……ッ!」

詠唱文や放たれた黒い波動から魔法ではなく呪詛(カース)だとすぐに理解した。

魔道具(マジックアイテム)』以外にもこんな恐ろしい技を持っていた。

避けるアイズにミクロはもう一度狙いを定めて詠唱を唱えようとしたがアイズは一気に接近して詠唱を止める。

接近するアイズの剣をミクロはナイフで防ぐ。

アイズはまた離れられて呪詛(カース)を唱えられたら危険と思い、ここで一気に決着をつけようとする。

「動くな」

「っ!?」

決着をつける為に動こうとするアイズだが、急に体が動かなくなった。

「な……ん、で……?」

急に体が動かなくなったことにアイズは驚きを隠せない。

だが、その隙をミクロは見逃さない。

「悪い」

謝罪と共に回し蹴りを放つミクロにアイズは吹き飛ばされて倒れる。

立ち上がらないアイズを見てフィンは宣言した。

「この勝負。ミクロ・イヤロスの勝ちだね」

「な、なんやて!?うちのアイズたんが!?」

驚きを隠せれないロキは叫ぶがミクロはアイズに近づき起き上がらせる。

「アイズ。お前にはどうあがいても勝てないから卑怯な手を使わせてもらった」

「卑怯な手?魔道具(マジックアイテム)?」

「ああ、何かまでは教えられないけど」

ミクロはアイズをどう倒すか考えたが魔法やスキルでも使わない限り勝てる可能性は限りなく低かった。

純粋な接近戦ではアイズには勝てないとミクロは断言できた。

だからこそ、ミクロは『フォボス』を使った。

アイズの剣をナイフで防いだ時に強烈な暗示を掛けることが出来る『フォボス』をアイズの視界に入れて暗示を掛けた。

対人用として作製した『フォボス』。

強烈な暗示を掛けることが出来るがミクロにとっては本当にたいしたことがない。

魔道具(マジックアイテム)』とも呼ばなくてもいいと思っている。

団員に説明した時のように暗示は所詮暗示。

暗示だと分かれば何の効果もない上に仮にモンスターに使ったとしても本能に生きるモンスターに暗示は効果がない。

アイズのように一対一の時こそ最大限効果を発揮するが一対多の場合だと見破られる可能性が高くなる。

使えば使う程効果がなくなっていく『フォボス』。

だからこそモンスターとの戦闘、主に緊急時に役立つ『レイア』を作製した。

十段階で評価するなら『アリーゼ』が八で『イスクース』が七。

『フォボス』と『レイア』が二になる。

次にアイズと戦うことがあれば今より勝つ可能性は低くなる。

今後の事を考えれば使おうとは思わなかった。

だけど使わなければアイズには勝てなかったことも事実。

「ううん、魔道具(マジックアイテム)もミクロの実力だから私は気にしない」

「ありがとう」

暗示が解けたのか動けるようになったアイズは素直に自身の敗北を認める。

「私はもっと強くなりたい。だからまた戦ってくれる?」

「わかった。次は魔道具(マジックアイテム)無しで戦う」

手を握り合う二人にやれやれと肩を竦めるフィン、微笑するアグライアとロキ。

そこでミクロ達は【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)を出て自身の本拠(ホーム)に帰る。

「ねぇ、ミクロ。戦う前に貴方が言っていたことは本当なの?」

自分に近い何かを感じたと言ったミクロ。

神血(イコル)が流れているミクロにアイズはそれに近い何かを感じ取ったミクロは首を横に振った。

「わからない。だけど、どういう訳かそんな気がした」

「………」

ミクロの言葉に思考を働かせるアグライア。

ミクロの勘はよく当たる。

一緒に暮らしているからこそそれがよくわかる。

「ロキのところにも訳アリがいるということかしら」

ロキはミクロの正体を知った上で誘ったのか?

だからアイズと戦わせたのか?

その真意はわからなかった。

 

 

 


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