路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第二十七話

【ディアンケヒト・ファミリア】との『戦争遊戯(ウォーゲーム)』に勝利してから数日が経ち、多くの商人や入団希望者が増築中の【アグライア・ファミリア】の本拠(ホーム)に足を運んでいた。

だが、その多くはミクロが『神秘』によって作り上げる魔道具(マジックアイテム)を欲していた。

ミクロが『戦争遊戯(ウォーゲーム)』で使用していた魔道具(マジックアイテム)、『イスクース』を見てそれやそれ以外の魔道具(マジックアイテム)の売って欲しいと懇願、取引を持ち込む商人や商会。

だが、いくら話を振って来てもミクロは首を縦には振らなかった。

『俺は仲間の為にしか作らない』

それだけを告げて丁重に帰って頂く。

例え、美味しい話があったとしてもミクロはそれにも応じることはなかった。

入団希望者の方も多くは魔道具(マジックアイテム)を使って一儲けしようと考えている者ばかりだった。

だからミクロはそういう輩には『洗礼』を与えることにした。

十分間ミクロと戦って立っていられたら入団を認めるという『洗礼』を。

戦争遊戯(ウォーゲーム)』の影響でそれを伝えたら大抵の入団希望者は去って行ったがそれでも挑戦する者にはミクロは躊躇いもなく攻撃した。

金よりも命が大事と思い知らさせる。

そう思い込ませるぐらいに痛めつける。

最初の一人がその『洗礼』を浴びてそれに恐怖した他の者は去って行った。

だが、それでも残る者はいた。

その中の殆どがアマゾネス。

戦争遊戯(ウォーゲーム)』で圧倒的強さを示したミクロに一言で表すのなら惚れた。

アマゾネスの本能がミクロの『洗礼』を潜り抜けて入団を認めさせた。

新たに団員も増えて【アグライア・ファミリア】の噂はオラリオの外にも広がり始めてきた。

更に名が上がったミクロは椿に会っていた。

「椿」

「おお、ミクロではないか!戦争遊戯(ウォーゲーム)見事であったぞ!」

「ありがとう。頼んだ物は?」

「もちろん。抜かりはない」

笑みを浮かばせながら椿は一振りのナイフを取り出した。

白銀色の輝きを放つナイフをミクロに渡した。

「ミクロの注文通り元のナイフも加えて新たに手前が鍛え上げたナイフだ」

受け取ったナイフを一通り振るうと問題ないように頷く。

ミクロは戦争遊戯(ウォーゲーム)の後で武器の整備を椿に頼むと椿がミクロに告げた。

『これはもう整備しても意味がない』

ナイフの耐久値に限界が来ていた。

アグライアから貰ったナイフ。

ずっと使い続けてきたナイフの耐久値がきてミクロは前に手に入れた『ヴィーヴルの鱗』を椿に渡して注文した。

『このナイフが壊れないように鍛えて直して欲しい』

主神であるアグライアから頂いた物をミクロは手放したくなかった。

だから新たに鍛えて二度と壊れないように椿に注文した。

『手前に任せておけ』

ミクロの心意気に応えるよう椿は快く快諾して持てる最高の素材と技術を持って最高の一振りを完成させた。

第一級特殊武装(スペリオルズ)《シルフォス》。

不懐属性(デュランダル)』を持つナイフに椿も満足そうに頷く。

新たに鍛え上げられたナイフをミクロは収める。

「ありがとう」

「礼を言われる筋合いはない。手前は注文通りに応えだだけだ」

鍛冶師としての本懐を遂げたまで。

そう告げる椿にもう一度礼を言ってからミクロは工房を出る。

人通りの多い道に出ると多くの者達がミクロに視線を向けられてくるが全て無視した。

街中を歩き、現在増築中の本拠(ホーム)を一目見てからリュー達と合流しようと考えていると増築中の本拠(ホーム)の前に一人の女性が立っていた。

長い金髪を縦巻きにして裕福な服装をしている女性はミクロに気付いて歩み寄って来た。

「貴方が今噂されている【ドロフォノス】かしら?」

頷いて肯定した。

「私はセシシャ・エドゥアルドですわ。見ての通り商人を営んでいますの」

「用件は?」

「貴方が作製する魔道具(マジックアイテム)について交渉を、ってどこに行きますの!?」

話の途中で去ろうとするミクロにセシシャは思わず大声を出した。

「俺は仲間の為にしか作らない。売る気はない」

「そこをなんとかできませんの!?」

「できない」

「交渉の余地だけでも!」

「する気はない」

バッサリと言い切るミクロにセシシャは苦虫を噛み締めるように歯を食いしばる。

オラリオに来るまである程度の噂は聞いていたセシシャはそれなにの覚悟と十分な準備も施してきた。

だが、ほんの僅かな余地すらなく断られた。

「仲間が待っているから俺は行く」

「あ、ちょっと待ちなさい!」

呼び止めようとするセシシャだがミクロを止めることは出来なかった。

ミクロが去ったセシシャは一人そこに棒立ちしながら怒りで拳を震わせていた。

「ふ、ふふ、いい度胸ですわ。この私を侮辱したこと後悔させてあげますわ……ッ!」

ふふふと不気味に笑うセシシャ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日が沈み頃、ミクロ達はダンジョンから帰還して現在住んでいる宿に目指している。

「それでまた断ったのですか?」

リューの言葉に頷くミクロ。

「ミクロの魔道具(マジックアイテム)は凄いから商人の気持ちはわからなくもないけどね」

「まぁ、断って良かったと私は思うよ」

「あたしにはよくわかないね。商人の話なんてね」

セシシャのことを話しながら疲れた体を休ませるために宿に向かう。

「お待ちしておりましたわ!【ドロフォノス】!」

「セシシャ・エドゥアルド」

宿の前に待っていたのはダンジョンに潜る前に会った商人のセシシャだった。

「この方がそうなのですか?」

リューの言葉に頷いて応える。

「貴方がこの宿に泊まっていることは既に調べておりましたの!私が一度交渉に失敗したぐらいで諦めると思っておりましたの!?お生憎!私はしつこいですわよ!」

宿の前で大声を出すセシシャにリュー達は少し引いた。

厄介な女性に巻き込まれていると思った。

「あんた、女難の相でもあるのかね?」

「?」

リュコスの言葉の意味がよくわからず首を傾げる。

「さぁさぁ!今度こそは交渉をする為にまずはこちらの」

「必要ない」

「うぅ!よ、よろしいのですか!?もしかしたら貴方方にとって有益になるものかも」

「いらない。必要なら自分達で何とかできる」

「ほ、他にも色々ございましてよ!?」

「興味ない」

「うぅ……」

「ミクロ。せめて話だけでも聞いてあげなさい。流石に可哀想です」

「わかった」

バッサリと話を断られて涙目になるセシシャに同情して話だけでも聞くようと告げるとあっさりと頷いて了承した。

「話だけは聞くから宿の中に入って」

「や、やっとその気になりましたか!いいですわ!入って上げましょう!」

涙目だったセシシャはミクロの言葉にすぐに調子を取り戻して宿の中へ入って行く。

「なぁ、あたし達より先に入ったけどあいつはあたし達の部屋がわかるのかい?」

「さぁ?」

「へ、部屋はどこですの!?」

リュコスの言う通り部屋がわからずにすぐに戻って来た。

戻って来たセシシャを連れて借りている部屋に入るミクロ達は取りあえずは交渉することにした。

「どうぞ」

「ありがとうございますわ」

リューから紅茶を受け取り一口飲み真剣な顔つきで正面に座っているミクロと主神のアグライアと向かい合う。

「初めての方もおられますので挨拶させていただきますわ。私はセシシャ・エドゥアルドですわ。交渉の場を設けて頂き感謝いたします」

「私が主神のアグライアよ。この子はミクロ」

「ミクロ・イヤロス」

簡潔に挨拶を終わらせてセシシャは早速交渉に入った。

「早速で申し訳ありませんけど私はそちらにいるミクロ・イヤロスが作製する『魔道具(マジックアイテム)』について。もう一つは今後の関係についてお話があります」

「そう、それじゃまずは貴女の意見から聞こうかしら?」

「かしこまりました。では」

セシシャは【ディアンケヒト・ファミリア】との『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を観戦して、ミクロの『魔道具(マジックアイテム)』の素晴らしさについて語った。

それと警告も。

それだけの『魔道具(マジックアイテム)』を一つの【ファミリア】で所持していては恨みや妬みなどで襲われる可能性が十分にある。

だからある程度の売買も視野に入れてその恨みや妬みを減らすべきと語った。

「一理あるわね」

顎に手を当てながらセシシャの言葉に同意するところがある。

リューが持っている『魔道具(マジックアイテム)』、『アリーゼ』。

ミクロが持っている『魔道具(マジックアイテム)』、『イスクース』。

どちらも強力な『魔道具(マジックアイテム)』なのはこの場にいる誰もが知っている。

更にはそれを作製しているミクロの発想力のことも考慮すれば一つの【ファミリア】に大量で強力な『魔道具(マジックアイテム)』を所持している【ファミリア】と妬まれて危険が増す可能性はあった。

「そこで私から提案があります。一部の『魔道具(マジックアイテム)』を私に売ってくださればその見返りとして情報でも道具(アイテム)でももちろん金品でもお譲りしますわ」

どちらにとっても悪くはない提案。

既に公になっている以上隠すこともできない。

ならこの話に応じるのも一つの手だと誰もが思った。

「断る」

だが、ミクロは断った。

「な、何故ですの!?何か不都合でもありまして!?」

「ある」

その言葉にミクロ以外目を見開く。

「一つ、『神秘』のアビリティを所持しているもは少ない。ならその使い手が作製する『魔道具(マジックアイテム)』は貴重だ」

オラリオで『神秘』のアビリティを所持している者は五人もいない。

だからこそその価値がどれだけなのかミクロは知っている。

「二つ、『魔道具(マジックアイテム)』をお前に売ってもお前がそれ相応の見返りがある証拠は?」

「も、もちろんありますわ!ただ今は」

「三つ。お前は何を焦ってる?」

「っ!?」

「ミクロ。どういうことかしら?」

ミクロの言葉にアグライアは説明を求めるとミクロはセシシャの靴を指した。

「服で見えにくいけど靴が泥だらけ。それに化粧で隠しているけど隈ができてる」

「こ、これは貴方を探す為に」

「この宿に泊まっていることを調べているのに探す必要がある?」

その言葉にリュー達は思い出した。

宿の前で確かにセシシャは調べていると言っていたことに。

「お前が来る前に俺は多くの商人を見てきた。中には商人がどういう仕事なのかと話す奴もいた」

「それがどうしたんだい?」

「商人は見た目もひどく気に掛ける。見た目が悪いと相手に不快な思いをさせたりなどして話が上手くいかないと言っていた。それに昨日も今日も雨は降っていない」

「そういうことですか」

ミクロの言葉にリューは納得するように頷く。

「え、え?どういうことなの?」

「俺達は『戦争遊戯(ウォーゲーム)』が終わってから休みを取ってさっきダンジョンに潜った。昨日も今日も雨が降っていないのに靴に泥が付くなんておかしい」

「彼女は雨の日もあちこちに交渉に走り、失敗に終えている。その証拠が目の下の隈ということですね」

リューの言葉に同意するように頷く。

「多分、こいつの目的は」

「……いいですわ。そこまでで。全てお話いたします」

観念したかのようにセシシャは話した。

セシシャには借金があった。

正確には同じ商人である父が残した借金が。

一儲けしようとオラリオにやってきた父はあちこちで交渉を行い契約して成功を収めていた。

成功が続いて調子に乗ってしまった父は大企業との大手の取引に応じて失敗した。

それにより課せられてしまった借金。

それを全てセシシャに押し付けて父はオラリオを去った。

「商人は落ちる時は一気に落ちるものですわ」

残された借金を返す為に一人あちこちに父親の真似事のように交渉を行ったが全て失敗に終えた。

返済期間も近づき始めて最悪『歓楽街』に売られてしまうのではないかと想像した。

そんなある日チャンスが訪れた。

それはたった一人で【ディアンケヒト・ファミリア】を蹴散らすミクロの姿。

腕に着けている『魔道具(マジックアイテム)』を見てセシシャは最後のチャンスに賭けることにした。

あれほど強力な『魔道具(マジックアイテム)』なら一気に借金が返せる。

そう思い、何度も頭の中で交渉の練習を行いミクロに会った。

「無様でしょう?醜いでしょう?いいのです、その通りなのですから」

自虐的に言うセシシャにリュー達は何も言えなかった。

「セシシャ・エドゥアルド。俺達の【ファミリア】に入らないか?」

突然の勧誘に目を見開くがすぐに自虐的笑みを浮かべる。

「……同情はいりませんわ」

「俺には同情する感情はわからない。だからこう言う。取引をしよう」

「取引、ですの?」

「俺達の【ファミリア】は名が上がりつつある。だけど、取引や交渉する為の知識が俺達の【ファミリア】にはない」

立ち上がってミクロはセシシャに手を伸ばす。

「お前が背負っている借金の返済は俺達も協力する。だから、お前は俺達にその為の知識を教えて欲しい」

ミクロ達は探索の方に関しては特に問題はなく順調に進んでいる。

だけど、大きくになるに連れて必要な物が増えてくる。

その一つをセシシャが持っている。

「俺達はお前の力になる。だからお前も俺達の力になってくれ」

そうハッキリと告げた。

「……わかりましたわ。私、セシシャ・エドゥアルドはこの取引に応じましょう」

「交渉成立」

手を握り合う二人。

その二人に静かに笑みを浮かべるアグライア達。

セシシャ・エドゥアルドは商人兼冒険者としてミクロ達の仲間になった。

 


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