路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第二十三話

朝日が顔を出していない時間からリューはいつものように木刀を振るい、毎日欠かさず鍛錬を行っている。

自己鍛錬を怠らないリューだが、今日はいつもより調子が良くない。

その理由は考えるまでもなくわかっていた。

本来ならミクロも一緒に鍛錬を共同している。

だけど、今日はまだミクロが来ていない。

いつもならリューが来るよりも早く自己鍛錬をしているはずがおらず、もう朝日が顔を出しているのにまだ姿を見せていない。

部屋に呼びかけようと思ったが、たまにはゆっくり休ませようと呼びかけることはしなかった。

日頃からミクロはよく頑張っている。

こういう日があってもおかしくはない。

「………」

そう自分に言い聞かせるが寂しいという気持ちを拭うことは出来なかった。

いつも共に行動していた相手が少しいないだけで鍛錬に身が入らないとは情けないと息を吐く。

これ以上は無駄だと思ったリューは早めに切り上げる。

「リュー」

切り上げようとした時にミクロが歩み寄って来た。

「ミクロ。寝坊ですか?」

「寝てない」

寝坊かと思ったが、寝ていないと答える。

いったい何をしていたのかと問いかけようとした時、ミクロが持っているロングブーツに目が移った。

翼がモチーフされているロングブーツを見て訝しげ視線を向ける。

「ミクロ、これは?」

「今できた魔道具(マジックアイテム)

当然のように答えるミクロに目を見開かせる。

ミクロには『神秘』のアビリティが発現しているのは知っていた。

いつかは作るだろうと思っていたリューだったがもう完成させたことに一驚した。

「あげる」

「え?」

完成した魔道具(マジックアイテム)を思わず受け取ってしまった。

だけど、受け取る理由がない以上返そうとする。

「作品名は『アリーゼ』」

返そうとする前にその言葉にリューの動きが一瞬で硬直した。

親友(アリーゼ)の名が使われている魔道具(マジックアイテム)

「完成した時に思いついたのがアリーゼの名前だった。多分、リューに使ってほしいと考えながら作ったせいだと思う」

「私に?」

頷くミクロ。

「リューはいろんなことを教えてくれた。遅くなったけどこれはそのお礼」

「―――!?」

思わず手で口を塞いだ。

湧き上がる感情を必死に抑え込む。

「感謝している、と思う。だからお礼」

綴る言葉にリューは卑怯だと思った。

リューはミクロに返しきれない程の恩がある。

礼を尽くすことはあっても返されることはない。

なのに、そんなことを言われたら受け取ることしかできなくなる。

「いつもありがとう、リュー」

日頃の感謝を込めて完成させた魔道具(マジックアイテム)

その真意が込められた贈物を無下には出来ない。

「………こちらこそありがとう」

「?」

何故礼を言われたのかわからないミクロは首を傾げる。

そのミクロを見てリューの唇が綻ぶ。

「いえ、気にしないでください。試してもよろしいですか?」

「問題ないはず」

早速魔道具(マジックアイテム)を身に着けると不思議と違和感がなかった。

「名前を呼んだら起動する」

「―――――『アリーゼ』」

名前を呼び、起動させるとモチーフにされていた翼が輝くと足元から風が吹き始める。

「跳んで」

ミクロの言葉通りに軽く跳躍すると足元から旋風が巻き起こる。

「もう一度」

宙に浮いているのにも関わらずもう一度跳べという言葉を信じて宙で足を踏み込むと宙を蹴って再び跳躍することが出来た。

何もないところ空中で更なる跳躍。

そこでミクロが作った魔道具(マジックアイテム)の能力を知ることができた。

ミクロが完成させた魔道具(マジックアイテム)、『アリーゼ』。

魔道具(マジックアイテム)から発せられる旋風を足場に宙を蹴って空を駆ける。

装備した者に空中移動を可能にさせる。

それがミクロが初めて作り上げた魔道具(マジックアイテム)

「凄い……」

感嘆の声を上げるリューは旋風を足場に何度も宙を蹴って疾走する。

既に本拠(ホーム)よりも高く跳んでオラリオが一望出来た。

しばらくして元の場所に跳び下りる。

ふぅと息を吐きながら視線をミクロに向ける。

「素晴らしい贈物。ありがとうございます」

「よかった」

満足そうにするリューを見てお礼が出来てよかったと安堵した。

「そろそろ朝食にしましょう」

「わかった」

アグライア達が起きる時間帯になったミクロ達は一度自室に戻ってから居室(リビング)で皆と食事を取りながら魔道具(マジックアイテム)のことについて話をしていた。

「リューだけずるい……」

「まぁまぁ」

不満を漏らすティヒアを宥めるパルフェ。

リュコスは特に興味もなく食事を進めている。

「ティヒア達の分も作るから問題ない」

元からティヒア達の分も作ろうと考えていた。

だけど、ティヒアが言うずるいはリューだけに作るという意味ではなかったが、それを口に出すことは出来なかった。

恨めしそうな視線をリューに向けながら食事に手を付けるティヒアにリューは申し訳なさそうにしていた。

「いいじゃない。いい物を作ってあげなさい、ミクロ」

「わかった」

談話しながら食事を済ませてミクロは一休みしてから回復薬(ポーション)の補充をする為、ナァーザに会いに行った。

回復薬(ポーション)二ダースと高等回復薬(ハイ・ポーション)精神力回復薬(マインドポーション)は一ダースずつ」

「うん、用意できてるよ……」

間延びした声で木箱のケースを持ってきたナァーザに金を渡す。

「後、【ランクアップ】おめでとう。少しサービスしといたよ」

「ありがとう」

おまけを頂いたミクロは礼を言いながら(ホルスター)から19階層で採集した物をナァーザに渡す。

「これでいい回復薬(ポーション)を作って」

「ん、頑張ってみるね」

コクリと頷くナァーザは今噂されているミクロにレアアビリティである『神秘』が発現しているのかと尋ねるとミクロは頷いて肯定した。

「レアアビリティだよね…?」

魔道具(マジックアイテム)も今朝作った」

約一年半でLv.3、レアアビリティ獲得、【ファミリア】の団長。

結成してから付き合いがあるからこそどれだけ成長したのかよくわかるが、もう色々含めて凄いとしか思いつかなかった。

「頑張ったね……」

だけど、そう思わせる程努力していることをナァーザは知っている。

頭を撫でるナァーザにそれを大人しく受け入れるミクロ。

「よく怪我してきた日が懐かしい……」

主にリューとの模擬戦でズタボロ状態で【ミアハ・ファミリア】へやってくる度に大慌てで治療していた日を懐かしむように何度も頷く。

そのおかげか今では大抵の怪我を見ても平然としていられるようになった。

「売り上げは良くなった?」

「ミクロ達のおかげで客足が増えたよ」

【アグライア・ファミリア】が懇意している【ファミリア】という理由もあり、少しずつではあったが客足も増えて来ていた。

「ミクロ、回復薬(ポーション)の補充か?」

奥の部屋から顔を出してきたのはナァーザの主神であるミアハ。

その問いにミクロは頷いて答えた。

「そなたの噂は私にも届いておるぞ。随分と立派になったものだ」

ミクロ自身も含めて【ファミリア】が大きくなった噂は零細ファミリアであるミアハ達にも届いている。

「リューや皆のおかげ。後、ナァーザの回復薬(ポーション)

治療、製薬共に世話になっているミクロ。

「うむ。そう言ってくれると私もナァーザも助かる」

嬉しそうに頷くミアハや尻尾を左右に振るうナァーザ。

ミクロ達のおかげで売り上げが上がり、客足も増えて借金も順調に返せている。

ミクロがいなければ今以上のジリ貧生活を送っていたかもしれない。

助かっているのはこちらの方だ。

 

「ふははははははははっ、邪魔するぞおおおおおおおおおぉー!!」

 

突然の大笑とともに、店の扉が蹴破られた。

「ディアン……!」

灰色の髪と髭を蓄える初老の男神、ディアンケヒトとそれに付き添う一人の少女。

「埃臭い店だ!この場にとどまっていれば体調を損なう、さっさと用件を済ませてやろう!」

ニヤニヤと嫌らしい笑みと尊大の目付きでミアハ達を挑発するような発言を述べる。

「何の真似だ、ディアン!今月の支払いは済ませているはずだ!」

「フン、今日は貧乏人共に用はない!」

憤るミアハだが、ディアンケヒトはそんなミアハを一蹴して視線をミクロに向けた。

「儂が用があるのは貴殿だ、【ドロフォノス】!アミッド!」

「はい」

付き添っていた少女、アミッドがミクロの前に立つ。

「貴方はミアハ様の【ファミリア】で回復薬(ポーション)をお買い上げになされているのは事実でしょうか?」

その問いに首を縦に振るう。

「失礼を承知で申し上げます。貴方方の【ファミリア】の今後を考えて私達の【ファミリア】で回復薬(ポーション)などを補充するべきです」

「「っ!?」」

アミッドの言葉にミアハとナァーザは恐れていた事態が起きたことに目を見開く。

「貴方方【ファミリア】は名を上げ、更なるダンジョン探索を行うとするのならより信頼と実績がある【ディアンケヒト・ファミリア】の物を選ぶべきです。【ファミリア】の団長を務める貴方ならその意味が分かると思いますが?」

アミッドの言葉は正しい。

この場にいる誰もがそう思った。

名を上げた【アグライア・ファミリア】。

その団長を務めているミクロ。

これからも探索を続けて行くというのならアミッドの言葉通りに【ディアンケヒト・ファミリア】の方が信頼も実績も品質も【ミアハ・ファミリア】とは比べ物にならないほど優れている。

【ファミリア】の更なる発展と団員の安全を考えれば誰もが【ディアンケヒト・ファミリア】を選ぶ。

「断る」

だが、ミクロは間髪入れずにそれを断った。

「………理由をお聞きしても?」

予想外な即答に一瞬驚かされたアミッドだがすぐに冷静さを取り戻して問いかける。

「お前、胡散臭い」

「なぬっ!?」

ディアンケヒトに指を指してはっきりと告げる。

「わ、儂のどこがっ!?」

胡散臭いのかと叫ぶディアンケヒトの頭から足先まで一通り見て。

「全部」

「ぬぐっ!」

呻き声を上げるディアンケヒトを無視してミクロはアミッドに言う。

「俺はミアハもナァーザも信用も信頼もしている。お前らのところは俺は知らないから信用も信頼もできない」

なるほど、とアミッドは冷静にミクロの言葉を捉える。

一理ある。

知らない所からこれを買えと言われても誰も買わない。

信用も信頼も全く築けていない相手の商品は買わないのは当然。

「貴方の考えはわかりました。では一度試しに私達の【ファミリア】にいらしてください。まずは私達の実績をお伝えしてその上で信用足るか検討を」

「必要ない」

またも即断するミクロは自身を指す。

「俺がこうしていられるのはナァーザの治療と回復薬(ポーション)のおかげだ。お前等の【ファミリア】程ではなくても十分な実績はある。ここに世話になっている俺自身がその証明だ」

「ミクロ……」

堂々と告げられた言葉にナァーザ達は嬉しかった。

「………」

口を閉ざしながら黙り込むアミッドは突然諦めるかのように息を吐いた。

「わかりました。それではこの話はなかったことにいたしましょう。ディアンケヒト様、どうやら無理のようです」

「お……おのれぇえええええええええええええええええええええええええええ!?」

諦めるように促すアミッドの言葉を聞いて、野太い叫び声が【ミアハ・ファミリア】の本拠(ホーム)に響き渡る。

悔しがりながら【ミアハ・ファミリア】を出て行くディアンケヒト。

一礼してから去って行くアミッドが出て行くのを見てミアハはミクロに声をかける。

「本当によかったのか?」

「あの神の魂胆がわかりやすかった」

「まぁ、そうであろうな……」

有名になってきているミクロとその【ファミリア】を引き寄せて更なる自身の【ファミリア】の発展とミアハの嫌がらせを兼ねていたとミアハ自身も何となくの予想はついていた。

だからミクロはディアンケヒトの事を胡散臭いと言っていたこともよくわかる。

むしろよく言ってくれたと褒めてやりたい。

しかし、アミッドの言葉も正しいかった。

昔ならともかく今の【ミアハ・ファミリア】は落ちぶれて、団員はナァーザ一人だけの零細ファミリア。

信用も信頼も寄せてくれるのは嬉しい。

頼りにしてくれているにも嬉しい。

だが、ミクロや【ファミリア】の枷になってしまっているのではないかと先ほどのアミッドの言葉にそう思わされてしまう。

拳を握り締めて言葉を発しようといた時、その手をナァーザが握った。

「ナァーザ……」

静かに首を横に振るナァーザはいつものようにミクロに声をかける。

「ミクロ。もっといい回復薬(ポーション)作れるように私も頑張るからね……」

「頑張れ。必要な物があれば取ってくる」

「ん、よろしく」

いつもと変わらない会話。

それを見てミアハは力を抜いて微笑を浮かべる。

眷属であるナァーザが前向きに努力しているのを見て気付いた。

また一から築き上げて行けばいいと。

眷属(ナァーザ)が頑張っているのに主神である自分が後ろ向きで考えてどうするのかと自身の喝を入れる。

「ミクロ。いつでも私達を頼ってくれ」

「もう頼ってる」

「そうか」

微笑しながらミクロとナァーザの頭に手を添える。

アグライアは本当に良き子と巡り合えたのだな。と思いながらミアハはどこか満たされた気がした。

その後、ミクロは買った回復薬(ポーション)を担いで本拠(ホーム)に戻ると本拠(ホーム)の前で先ほど会ったディアンケヒトがアグライアに向かって叫ぶように言った。

「アグライア!貴様に『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を申し込むぞ!」

「帰りなさい」

戦争遊戯(ウォーゲーム)』を申し込もうとするディアンケヒトにアグライアは冷たくあしらう。

 


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