リュコスにとって自派閥の団長であるミクロは文字通り『器』が違う。
才能も、能力も、カリスマ性も、出会った当時は互角だった実力も今では大きな差ができてしまった。
あらゆるものを受け止められる巨大な『器』の持ち主。それがミクロだった。
そんな『器』の持ち主だからこそリュコスも他の団員同様にミクロを団長として認め、従っている。
そうでなければとっくに反発でも何でもして退団しているに違いない。
強くて馬鹿みたいに優しくてお節介で天然で自由奔放な
ああ、あたしはなんて器の小さい雌なんだ……。
もっと強い
足を引っ張らない強さぐらいはあると自覚していた。
守られるだけの存在ではないとそう考えていた。
だけどそれは違った。
ミクロ達、【ファミリア】の仲間達と共に冒険を繰り返し、気が付けばミクロの背を追いかける存在になっていた。
隣にいた筈だった。けれど飛躍的に強くなるミクロにリュコスはどれだけ必死に駆けても追いつけない。それどころかその背はどんどん遠くなっていく。
小さくなるその背。けれど見えなくなることはなかった。
ミクロが後ろにいる存在を気にかけその足を止めているから。
その度にリュコスは己の弱さを自覚する。
だから今よりももっと強くなりたい。
例え、この小さい『器』を破壊するものでもリュコスは強さを求めた。
それが『魔法』となって発現した。
「あああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
咆哮を上げ、地を蹴るリュコスは爆発的な速力を持ってベートに接近し、圧倒的な膂力で攻撃を繰り出す。
「チッ!」
舌打ち一つ。
直撃を避け、応戦するベートは眼前の『敵』を打倒しようと蹴撃をリュコスに叩き込む。
「がぁぁああああああああああああッ!!」
だが止まらない。
紅き猛獣と化したリュコスは己の
リュコスの二つ目に魔法――【ルゼナス】。
それは強化魔法とはまた違ったどちらかと言えば『
春姫の妖術『
一度発動すればリュコス本人が解くか気絶するかまで止まらない。
際限なく
言い換えれば強さを引き換えに自壊する。これはそういう魔法だ。
己の『器』の小ささを自覚しながらも身の程を弁えずに強さに手を伸ばすリュコスだからこそ発現した魔法。
しかし、身の程を超える力には当然代償が支払われる。
リュコスの身体は既に悲鳴を上げている。
このままでは
「馬鹿がっ」
そんな馬鹿みたいな魔法を行使するリュコスにベートは苛立つ。
こんなことであいつが認めるわけねえだろうが、と内心愚痴を溢すように言うベートだが、リュコスの、リュコス達の気持ちはわからなくもなかった。
必死なのだ。その背に追いつこうとすることに。そして自分達は強くなったとミクロにそう言えるように。
自派閥の団長であるミクロ同様にリュコス達もまた
ならばベートがすることは変わらない。
真正面から叩き潰す。
二人の
「がぁぁあああ!!」
「オラッ!!」
魔法によって自壊も厭わずLv.6相当に【ステイタス】を激上させたリュコスに磨き続ける己の『
加速する二人の戦闘に両派閥の団員は割って入ることはできない。
互いに得意とする体術。
リュコスの
ベートの
爆薬を沸騰させる
痛み知らずだと言わんばかりに回避も防御も捨てて攻撃に集中する二人の戦闘だが……。
「―――っ」
先に限界が来るのがどちらかなのは明白だった。
「うらぁあああッ!!」
「ガハッ」
右拳の
ベートの拳がリュコスに突き刺さり、リュコスは肺にある空気を強制的に外に吐き出されただけでは終わらない。
「がるぁぁああああああああああああああああッッ!!」
拳に脚、容赦のないベートの猛攻によって滅多打ちにされる。
反撃する隙間も与えられず被弾し続けるリュコスは動かなくなった自身の身体が限界を迎えたことにようやく気付いた。
使い続ければ先に限界を迎えるのはリュコスかベートのどちらかなのかは明白。
(クソ……ッ)
拳と蹴りの
もっと
「くたばれ」
無慈悲な
「か、は」
陥没した大地に埋もれる血濡れの
意識が失ったからか、魔法は解かれて沈黙する。
動けなくなった
勝者が敗者にかける言葉はない。また敗者に言い訳も慰めも必要ない。
そこで立ち上がるかどうか決めるのはいつだって