路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three45話

リュコスにとって自派閥の団長であるミクロは文字通り『器』が違う。

才能も、能力も、カリスマ性も、出会った当時は互角だった実力も今では大きな差ができてしまった。

あらゆるものを受け止められる巨大な『器』の持ち主。それがミクロだった。

そんな『器』の持ち主だからこそリュコスも他の団員同様にミクロを団長として認め、従っている。

そうでなければとっくに反発でも何でもして退団しているに違いない。

強くて馬鹿みたいに優しくてお節介で天然で自由奔放な(おとこ)。そんな(おとこ)に比べてリュコスは自虐気味にこう思った。

 

ああ、あたしはなんて器の小さい雌なんだ……。

 

もっと強い(おんな)なのだと思っていた。

足を引っ張らない強さぐらいはあると自覚していた。

守られるだけの存在ではないとそう考えていた。

だけどそれは違った。

ミクロ達、【ファミリア】の仲間達と共に冒険を繰り返し、気が付けばミクロの背を追いかける存在になっていた。

隣にいた筈だった。けれど飛躍的に強くなるミクロにリュコスはどれだけ必死に駆けても追いつけない。それどころかその背はどんどん遠くなっていく。

小さくなるその背。けれど見えなくなることはなかった。

ミクロが後ろにいる存在を気にかけその足を止めているから。

その度にリュコスは己の弱さを自覚する。

だから今よりももっと強くなりたい。

例え、この小さい『器』を破壊するものでもリュコスは強さを求めた。

それが『魔法』となって発現した。

「あああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

咆哮を上げ、地を蹴るリュコスは爆発的な速力を持ってベートに接近し、圧倒的な膂力で攻撃を繰り出す。

「チッ!」

舌打ち一つ。

直撃を避け、応戦するベートは眼前の『敵』を打倒しようと蹴撃をリュコスに叩き込む。

「がぁぁああああああああああああッ!!」

だが止まらない。

紅き猛獣と化したリュコスは己の損傷(ダメージ)を無視しながら猛攻を続ける。

リュコスの二つ目に魔法――【ルゼナス】。

それは強化魔法とはまた違ったどちらかと言えば『呪詛(カース)』に近い。

精神力(マインド)を消費して発動する魔法に対して【ルゼナス】が消費するのは精神力(マインド)だけではない。自身の寿命までも消費している。

精神力(マインド)と寿命。その二つを力に変換し、【ステイタス】を爆発的に跳ね上げる希少魔法(レアマジック)

春姫の妖術『階位昇華(レベル・ブースト)』とは違ってただ階位(うつわ)昇華(ランクアップ)する代物ではなく、己の『器』に際限なく力を注ぎ込む魔法。それが【ルゼナス】。

一度発動すればリュコス本人が解くか気絶するかまで止まらない。

際限なく精神力(マインド)と寿命を力に変えて『器』に注ぎ込む。リュコス本人の『器』が壊れるその瞬間まで力を与え続ける。

言い換えれば強さを引き換えに自壊する。これはそういう魔法だ。

己の『器』の小ささを自覚しながらも身の程を弁えずに強さに手を伸ばすリュコスだからこそ発現した魔法。

しかし、身の程を超える力には当然代償が支払われる。

リュコスの身体は既に悲鳴を上げている。

このままでは戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わる前にリュコスの身体の方が先に壊れてしまう。

「馬鹿がっ」

そんな馬鹿みたいな魔法を行使するリュコスにベートは苛立つ。

こんなことであいつが認めるわけねえだろうが、と内心愚痴を溢すように言うベートだが、リュコスの、リュコス達の気持ちはわからなくもなかった。

必死なのだ。その背に追いつこうとすることに。そして自分達は強くなったとミクロにそう言えるように。

自派閥の団長であるミクロ同様にリュコス達もまた家族(ファミリア)の為に強さに貪欲だ。

ならばベートがすることは変わらない。

真正面から叩き潰す。

二人の狼人(ウェアウルフ)が戦場で駆ける。

「がぁぁあああ!!」

「オラッ!!」

魔法によって自壊も厭わずLv.6相当に【ステイタス】を激上させたリュコスに磨き続ける己の『(つよさ)』を持って応戦するベート。

加速する二人の戦闘に両派閥の団員は割って入ることはできない。

互いに得意とする体術。

リュコスの握拳(フィスト)がベートの腹部に叩き込まれる。

ベートの正打(ストレート)がリュコスの顔に直撃する。

側撃(フック)昇拳(アッパー)肘鉄(エルボー)裏拳(バックフィスト)……。

爆薬を沸騰させる痛打(スマッシュ)音をかき鳴らし、疾駆しながらも超接近戦を繰り広げるも二人は攻撃の手を緩めない。いや、それどころかより激しさを増していく。

痛み知らずだと言わんばかりに回避も防御も捨てて攻撃に集中する二人の戦闘だが……。

「―――っ」

先に限界が来るのがどちらかなのは明白だった。

「うらぁあああッ!!」

「ガハッ」

右拳の腹撃(ボディブロー)

ベートの拳がリュコスに突き刺さり、リュコスは肺にある空気を強制的に外に吐き出されただけでは終わらない。

「がるぁぁああああああああああああああああッッ!!」

連撃(ラッシュ)が敢行される。

拳に脚、容赦のないベートの猛攻によって滅多打ちにされる。

反撃する隙間も与えられず被弾し続けるリュコスは動かなくなった自身の身体が限界を迎えたことにようやく気付いた。

魔法(ルゼナス)によって力を得たリュコス。しかし、魔法を使い続ければ精神疲弊(マインドダウン)を起こすのは必然。元よりリュコスの精神力(マインド)保有量はたかが知れている。

使い続ければ先に限界を迎えるのはリュコスかベートのどちらかなのかは明白。

(クソ……ッ)

拳と蹴りの連撃(ラッシュ)をその身で受けながらリュコスは己の『器』の小ささを呪った。

もっと精神力(マインド)があれば、身体を動かすことができれば、強ければもっと違う結果になっていたかもしれない。だがこれがリュコスの限界(げんじつ)だ。

「くたばれ」

無慈悲な蹴撃(かかとおとし)が振り下ろされる。

「か、は」

陥没した大地に埋もれる血濡れの狼人(ウェアウルフ)

意識が失ったからか、魔法は解かれて沈黙する。

動けなくなった同族(リュコス)を見下し、何も告げないまま背を向けたベートは戦場へ戻る。

勝者が敗者にかける言葉はない。また敗者に言い訳も慰めも必要ない。

そこで立ち上がるかどうか決めるのはいつだって敗者(リュコス)だ。


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