【ロキ・ファミリア】と【アグライア・ファミリア】の『
対戦派閥の自派閥のエンブレムが描かれた団旗を制限時間内に多く破壊するという
対戦派閥の団旗の破壊に向かう者。
自派閥の団旗を守護する者。
また対戦派閥の団員を倒す為に行動する者。
それぞれ己の役割に適した行動を取り、【ファミリア】に勝利を捧げようとする。
「【天に轟くは正義の天声。禍を齎す者に裁きの一撃を】」
杖を構えて詠唱を口にするは【アグライア・ファミリア】所属、Lv.3――第二級冒険者。神々から授かった二つ名は【
「させるかぁ!」
それを阻止しようとするのは【ロキ・ファミリア】の
「させないっと!」
「くっ! 【
同じく第二級冒険者。【アグライア・ファミリア】所属のフールが相棒であるエルフを守護する騎士のようにその道を阻む。
その由来からついた二つ名【
「【鳴り響く招来の轟き。天より落ちて罪人を裁け】」
詠唱が完了。スィーラは
「【フラーバ・エクエール】!」
杖から放たれた雷の魔法は弧を描き、【ロキ・ファミリア】の団員達がいる場所を基点に広範囲の雷の雨が降り注がれる。
だが――
「……流石は【ロキ・ファミリア】」
戦闘続行の意志を瞳に宿らせる彼等彼女等にはスィーラも畏敬の念を抱かずにはいられない。
「舐めるなぁ! 俺達は【ロキ・ファミリア】だ!!」
【
そんな英雄候補とも呼べる彼等彼女等に比べたら世間から受ける評価は微々たるもの。
【ファミリア】としての評価に相応しいのは【
それが【ロキ・ファミリア】第二軍メンバーが心のどこかで少なからず抱いている
それでも彼等彼女等は言う。
――自分達は【ロキ・ファミリア】なのだと。
特別でなくても、才能なんてなくても、胸を張れるものが何一つなくても、仲間がいる。
仲間と共にどんな強敵にも立ち向かうこと。
それが
この場に主戦力メンバーがいなくても仲間と共に勝利を手にする。
しかし。
「そっちこそ私達を舐めないでよねッ!!」
それはフール達【アグライア・ファミリア】も同じだった。
五年と少し。たったそれだけの年月でオラリオの三大派閥と呼ばれるようになるまで地位も名誉も名声さえも獲得した【アグライア・ファミリア】だが、それはひとえに団長であるミクロのおかげ。
彼がいなければ、彼でなければ【アグライア・ファミリア】は成長しなかった。
【
【ファミリア】の地位も名誉も全てがミクロが手に入れたようなもの。
フール達はただその勢いに乗っただけ。
それでも彼女達はただ団長であるミクロに甘え、寄生するだけの存在ではない。
ミクロという圧倒的才能の持ち主を前に何度も自信も
それでも彼等彼女等が今もここにいるのはミクロの無償の親愛、絶大の信頼を寄せてくれるから。だからこそそれに応えたいと団員達も挫けそうになっても足掻き続ける。
「私達は【アグライア・ファミリア】! 相手が誰であろうとも諦めない!!」
信念、誇り、仲間。
派閥は違えど抱く想いは同じ。自派閥に勝利を貢献する為に戦う。
衝突する二つの派閥。
個々の実力、仲間との連携、多少の差異はあってもほぼ互角に等しい戦闘を繰り広げる。
「流石は【ロキ・ファミリア】! 強い!」
「【アグライア・ファミリア】……ッ! これほどまで強いとはッ!」
長年培ってきた技量と経験は【ロキ・ファミリア】が上。しかしベルやセシルのように直接でなくても【
誰よりも【
己の足りないものを思い知らされ、今以上の強さを誰よりも見せられてきたのだ。
それを見て足を止めるのは簡単だ。だけど団員達にも意地はある。
その背を追いかけ続けるという意地が団員達を突き動かす。
そして後から入団してきた
【
後から入団してきた、してくる後輩に負けない為に。
そこに慢心なんて抱く余裕なんてない。
現状に甘んじる暇なんてない。
限界? ならばそれを壊して前へ進む。
その意志と覚悟は既にある。
「スィーラ! もう一回詠唱を始めて!」
「シンシア! こっちも魔法だ!」
戦う。
剣を、魔剣を、魔法を、技も駆け引きも使ってただ一つ勝利を手にする為だけに戦う。
そこに一人の男が乱入する。
「俺、参上!!」
軽装をその身に纏い、剣を手にし、腕には赤色の
「お、お前は……ッ!」
リオグの登場に驚愕の表情を作る【ロキ・ファミリア】にリオグも鼻高々するも。
「『彼氏にしたい冒険者』
「『嫌われ者』
「『女にフラれ続けた男性冒険者』
「おいこらちょっと待てやぁ!!」
名前でも二つ名でもなく、『冒険者
「ちょっと『囮にしても心痛めない冒険者』
「ええ、見ての通り私達は真剣に戦っているところです。邪魔をしないでください。『嫉妬が酷い男性冒険者』
「助けに来たのにお前等まで何言いやがる!?」
「クソ! 好き放題言いやがって! こっからでも名誉を挽回してやるぜ! 【
超短文詠唱を口にし、リオグは脚に炎を纏わせる。
「
脚に炎を纏わせる
「行くぜぇ!!」
脚に纏う炎が爆発。そしてその爆発と共に跳び、駆け回るリオグの動きはあまりにも自由過ぎた。
縦横無尽に駆け回り、攻撃を繰り出すリオグの動きは誰にも止められない。リオグの動きを封じようと魔法を放つも、リオグはそれを易々と避けてしまう。
リオグの魔法――【エクリクシス】は爆炎の
脚に纏った炎を爆発させて文字通り爆発的な加速力を持って高速移動を可能とする。
「その程度ッ!」
それでも流石は【ロキ・ファミリア】の団員達。未知を瞬時に既知へと変えて瞬く間にリオグの動きを捉えて武器を振るう。
「『ディルマ』」
だがそれも届かない。
リオグの腕に装備している
「ぐっ」
「オラオラ! もっと行くぞッ!」
爆炎と共に駆け回るその姿は自由を愛する爆炎の走者。その爆炎の走者にフール達は小さく息を漏らす。
「ムカつくけど、団長がベルのお守りを任せるだけはあるわ。ムカつけけど」
「ええ、腹立たしいですが、実力だけは認めざるを得ません。腹立たしいですが」
二人の言葉に他の団員達もうんうんと同意する。
お調子者でも、女性から嫌われても、ムカついても、実力だけは団長であるミクロも他の団員達も認めている。認めているからこそミクロは色々と危なっかしいベルのお守りをスウラそしてリオグに一任している。
「だけど利用しない手はないわね。皆! 今が
「『魔法をぶちかましたい冒険者』
『賛成!』
「てめえ等!! 聞こえてっからな!!」
「【空を覆う雷雲。鳴り響く天の雷鳴】」
スィーラは足元に黄金色の
「【閃光の如く駆ける迅雷よ、轟雷の雄叫びよ、その権能の恩寵をここに】」
「今度はさせない!」
「スィーラ!!」
フールの守りを突破して今度こそ魔法を阻止しようと【ロキ・ファミリア】の女性団員がスィーラに迫るが。
「【雷霆の恩寵を彼の者に】」
「―ッ! 並行詠唱!?」
詠唱しながら同時に回避行動を取る。
高まっていく魔力という手綱を手放すことなく相手の攻撃を回避しながらも詠唱を途絶えさせない。
(団長、副団長には及びませんが……)
攻撃、移動、回避、詠唱、複数の行動を同時展開しながら戦うことができる強靭な精神と胆気、それに伴う白兵戦と詠唱の技量。全てが高い基準に達しているミクロとリューに比べれば拙いものかもしれないが、それでも詠唱を途絶えることなく回避行動を取れるようになったのはスィーラの努力の成果だ。
「【バルク・アルマ】!」
詠唱が完了。
魔杖から放たれる一条の雷はフールを包み込み、雷の鎧をその身に纏う。
スィーラの魔法【バルク・アルマ】。
自身ではなく他者へ魔法を付与させる
雷の恩寵を授かったフールは雷の如く駆け抜ける。
「がっ!?」
「は、はや―」
地を走る雷は天を翔ける稲妻のように肉眼では捉えること敵わず、迅雷の如く駆け、雷霆の一閃が敵を無力化させる。
雷の斬光が閃き、眩しい雷という流星が大地を巡る。
「へっ! 俺だって負けられねえな!!」
爆炎と雷霆が
その身に爆炎と雷霆の斬閃を受ける【ロキ・ファミリア】の団員達。だがそれでも倒れない。
地に伏せることだけはできないといわんばかりの気迫と執念。負けて堪るかという想いが魂を震わせ、身体を突き動かす。
この場には『
いるのは『冒険者』。
勝利に貪欲で諦めの悪い冒険者達はただ目の前の勝利を手にする為に走る。
その冒険者を迎え討つのもまた冒険者。
‶特別〟を何一つ持たない冒険者達は敗北も敗走もせず、ただ勝利を手にする為に前進するのみ。