ダンジョンを運営管理する『ギルド』に申請して【アグライア・ファミリア】は正式に結成された。そして、女神アグライアの眷属となったミクロ・イヤロスはダンジョンの一階層に潜っていた。
『ギィッ!』
『ギャッ!』
一階層にいるゴブリンに向かって駆けるミクロはナイフを持ってゴブリンを斬りつける。
斬りかかったゴブリンは倒れたがもう一体いるゴブリンの頭目がけて投げナイフを投擲。
倒したゴブリンから魔石を取り出して投げナイフを拾って次の獲物を探すべき下へと目指す。
【ファミリア】結成から数日。体格が小さいミクロは剣よりも小回りの利くナイフと投擲用に投げナイフを買ってダンジョンに潜っていた。
自分の主神であるアグライアが神友に借金してまで自分の装備を買ってくれた。
ミクロは少しでも早く借金を返そうとモンスターと出会っては倒して魔石を回収するという作業を繰り返している。
ダンジョンは下に行けば行くほど敵が強くなるが、それに伴って取得できる魔石の純度は高まり、『ドロップアイテム』も希少な品として高価格で換金できる。
ミクロは一階層で試した後さっさと下に降りた方が効率がいいと思っていたが主神であるアグライアが三階層より下に行くことを禁じている為三階層で留まる。
「・・・・・・・帰るか」
三階層に到達していたミクロは魔石を拾い終えて地上を目指す。
モンスターを倒しながら地上に出たミクロはギルドで換金を行った後、担当アドバイザーに報告後、自分の
「お帰りなさい」
「……ただいま」
「大丈夫なの?怪我はしなかったかしら?」
「問題ない・・・・」
心配そうにミクロの体をぺたぺた触るアグライアにミクロは呆れるように息を吐いた。
「怪我には慣れてるから問題はない」
路地裏では散々痛めつけられたミクロにとって怪我なんて大したことはなかった。
それより稼げなかったことの方が問題だった。
アグライアはミクロの頭を軽く叩く。
「怪我に慣れているからといって怪我をしてもいい問題じゃないのよ。ミクロが怪我をしていないか私は心配なのだから。無理せず生きてちゃんと帰って来てちょうだい」
子供を諭すように言うアグライアにミクロは了解とだけ告げて今日の稼ぎを報告した。
一五〇〇ヴァリスの稼ぎをアグライアに手渡すミクロ。
「ありがとう、ミクロ」
アグライアはミクロの頭を撫でる。
ミクロはアグライアの気が済むまで撫でられる。
それにどういう意味があるのかはわからないミクロだが、主神であるアグライアがこれで満足しているのでミクロは大人しく撫でられている。
それから夕飯を食べながらミクロはダンジョンでどのように戦ったのかを詳細に報告。
夕飯の片づけを終えてアグライアはミクロに言う。
「それじゃ、【ステイタス】の更新をするわよ」
上着を脱いでベッドでうつ伏せになるミクロの上を跨るアグライアは指先を斬る。
眷属であるミクロの背中に刻まれている【
ミクロ・イヤロス
Lv.1
力:I12→I16
耐久:I14→I20
器用:I21→I31
敏捷:I19→I28
魔力:I1→I3
基本アビリティである『力』『耐久』『器用』『敏捷』『魔力』。
アグライアは毎日ミクロの【ステイタス】の更新を行っている。
ほんの少しでも生きて帰って来れる可能性を上げる為に自分が出来ることと言ったらこれぐらいしかないと思ったからだ。
順調に伸びている【ステイタス】を更新していくアグライアはちゃんと成長していることに喜ぶ。
やっぱり、これはどうにかしたいわね・・・・。
アビリティの下の項目に視線を向けるアグライア。
《
【マッドプネウマ】
・対象者の精神汚染。
・使用中一時的ステイタス低下。
・詠唱式【壊れ果てるまで狂い続けろ】
・解除式【狂い留まれ】
《スキル》
【
・一定以上の
・
・破壊対象が消えない限り効果持続。
それこそ『呪い』というべき効果を発揮する。
混乱、金縛りなど戦闘において致命的な
何より厄介なのは防ぐ手立てと治す術が限られているということ。
その
そして、スキル【
どちらも破壊を目的とした
【ステイタス】に表れる程の辛い思いをミクロはしてきたのだとそう思わされるばかり。
あの路地裏でミクロはどんな生活を送ってきたのかはこの【ステイタス】を見てアグライアは悟った。
そして、決めた。
例え何があろうと
「はい。もういいわよ」
【ステイタス】の更新が終わり、写した紙をミクロに見せるがミクロは特に表情を変えることなくこんなものかと納得した。
ミクロは『
だが、主神であるアグライアの指示で使用するつもりはなかった。
「ミクロ。今日はもう寝ましょう。明日もダンジョンに向かうのでしょう?」
「わかった」
ソファへ寝ころぶとすぐに寝息を立てるミクロ。
アグライアは同じベッドで寝ようと思っていたが、路地裏生活が長かったミクロにとってベッドは逆に寝づらかったらしい。
「明日はミアハのところへと行ってみようかしら」
自分の神友の一人である【ミアハ・ファミリア】主神のミアハに会ってミクロのことを相談でもしようかと考えていると気が付けばアグライアは深い眠りに落ちていた。
「と、いうわけなのよ、ミアハ」
翌日。アグライアはミクロが
「うむ。それは深刻な問題だな」
長身でしなやかな体格で群青色の髪の男神ミアハ。
施薬院の【ファミリア】で都市で中堅の規模と力を持つ【ファミリア】の主神であり、無自覚で女性を誑し込む神でもある。
「そなたに【ファミリア】ができたのは私も嬉しいがまさか数日で子の相談に乗るとは。よほどそなたは子を気に入っているのだな」
「当然よ。なんだって私の初めての眷属よ……って、話をすり替えないでちょうだい、ミアハ」
さりげなく話をすり替えようとしたミアハに頬を膨らませるがミアハは笑みを浮かばせたまま謝罪した。
「すまぬ、そなたの怒った顔が美しくてな、つい」
天界で会って以来碌に顔を合わせなかったミアハとアグライアは互いにこうしてゆっくりと会話するのは久しぶりであった。
「まったく、変わらないわね。ミアハ」
呆れるように息を吐くアグライア。
「さて、それでは話を戻すとしよう。ミクロと申したな?そなたの子は」
「ええ、ミクロ・イヤロスよ」
先ほどまでのアグライアの話を聞いたミアハは目を瞑り、しばらく考えた後でアグライアに言う。
「アグライアよ。私の子とパーティを組むという案はどうだろうか?」
「ええ、それはこちらも助かるけど、理由を聞いてもいいかしら?」
一人ではなく数人でダンジョンに行くことで一人で背負う負担が小さくなる。
人数も多いければ余裕も持てるようになってモンスターの対処も変化する。
冒険者にとってパーティを組むというのは常識だ。
「なに、単純な話だ。ミクロはアグライアと出会うまで一人だったのであろう?なら、人を知り、世界を知ればおのずと答えは見つかると私は思う」
「……外からあの子の心を治そうというわけ?確かにいい案だろうけど上手く行くのかしら?」
「それは実際に試してから考えよう」
ミアハの案に大丈夫なのかと不安を抱くアグライアにミアハは落ち着いた様子でアグライアを落ち着かせる。
すると、ミアハとアグライアがいる部屋のドアをノック音が聞こえた。
「……失礼します、ミアハ様」
部屋に入ってきたのは眠たげな表情をした
「おお、ナァーザ。よいところに来てくれた」
「その
「ああ、名をナァーザと言う。アグライア、先ほどの話だがナァーザとそなたの子でパーティを組ませようではないか」
話が全く見えてこないナァーザは首を傾げるがすぐにミアハとアグライアが説明をする。
「お願いできないかしら?」
「私からも頼む、ナァーザ。神友のアグライアの頼みを無下にはできぬ」
「……私で良ければ」
二人の神に頼まれて了承するナァーザにミアハとアグライアは良かったと安堵する。