戦争遊戯の続きではなく、その前の戦争遊戯の準備期間中にあったことについて書いてみました。戦争遊戯の続きを楽しみにして下さった方は申し訳ありません。
それは【アグライア・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の『
「そういや団長って弱点があるのか……?」
何故、どうして、何があってそう思ったのかは呟いた本人でさえわからない。ただ我等の団長ミクロ・イヤロスに弱点があるのかどうか、その一点だけが他の団員達にも疑問を過らせる。
あまり考えないようにしていた後に【
「というわけで団長の弱点になりそうなもの何か知らねえか? ベル、セシル」
「団長の……」
「お師匠様の……」
弱点? ミクロから直接指導というなの
「あんのかね、団長に」
「でも団長様も一応人間ですし……」
ヴェルフもリリもう~んと頭を悩ませる。
「そもそもあるのか? 俺達の団長に弱点なんて」
「いやでも、もしかしたらあるかもだろ?」
ベル達を除く他の団員達も似たような反応だ。弱点なんてあるのか? とつい考えてしまう。
「いや団長だって人間なんだ。弱点の一つや二つぐれえあってもいい筈だ」
リオグが手を固く握りしめて力強く言った。
「リオグ、また何かあったのか?」
ミクロの弱点が知りたい、と言わんばかりの感情というよりも嫉妬の言葉を投げるリオグに何かを察したスウラがそう尋ねる。
「……前から狙っていた酒場の女店員にフラれた」
「ああ」
そういえばここ最近よく通っていたなぁ、と思い出す。
「えっと、それって……」
「ま、腹いせに団長の弱点が知りたいってことだろ」
「相変わらずみみっちいな、リオグ」
「うるせぇ!! お前等なんかに、お前等なんかに俺の気持ちがわかってたまるか!!」
ハッ、と泣き叫ぶリオグを鼻で笑う団員達。
「団長に好意を持つ女なんて今更だろ」
「非派閥含めてな」
何を今さら、とどこか諦念を抱かせる瞳と共に告げる団員達にベル達は頬を引きつかせるが、それも無理もない。ミクロはこのオラリオでも数少ないLv.7の冒険者
そして【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】に並ぶ三大派閥の団長でもある。
冒険者として成功し、冒険者として高い地位にいる。その冒険者の女になれるということは【ファミリア】の権力を有すると同じ。故に商人もしくは娼婦はそんなミクロまたは【ファミリア】と繋がりを持とうとする人は多い。
そうじゃなくてもミクロはモテる。
強さもモテる理由の一つにもなるが、外見的要素もミクロは含まれている。眼帯をしていてもわかる整った容姿に
感情が豊かではない、表情の変化が乏しいことにどこか人形のように感じる人もいるが、それはそれで可愛いと愛でたい女性は多い。現にミクロは団長という立場でありながら女性団員に頭を撫でられたり、ほっぺをスリスリされたり、抱きしめられたりしている。
主にアイカにだが……。
そして何より性格、中身の良さもある。
日々の団長としての責務を文句一つ言わずに果たし、他の団員の訓練だけでなく個人的なことにも付き合ってくれる。困っている人がいれば当然のように助けるし、手をさし伸ばす優しさを持つ。
それ故にミクロに好意を抱く女性は団員だけでなく非派閥や一般人も多いし、ミクロとお近づきになりたい故に入団しようとする女性もいるほどだ。
(あれ? 団長に弱点なんてあるのかな……?)
ベルはそこまで考えてふとそう思った。
実力も性格も地位もおよそ女性にモテる要素全てを持っているミクロに弱点なんてあるのか?
「お師匠様の弱点……天然なところ?」
「それは弱点、なのか?」
「それはむしろリリ達を振り回す要因ではないでしょうか?」
ミクロは天然。誰が何と言おうともそれは変わらない。
「酒は?」
「俺、団長が酔ったところなんて見たことねえぞ」
「俺も」
「私も」
「むしろ酔いつぶれた俺達を介抱する側だな」
あれやこれとミクロの弱点について語るも誰も戦闘に関しては口に出さなかった。そんなこと話すまでもなく強いから話すだけ無駄だと誰もが悟っているから。
「朝が弱い、とかは?」
「それはないよ。だってお師匠様、私達よりも早く起きてるし、ねぇ、ベル」
「うん。むしろ僕達より先に鍛錬しているぐらいだし」
う~~ん、と誰もが頭を悩ませるミクロの弱点。
難攻不落のミクロ城。それを崩す為の弱点が不明瞭のままでは突破はできない。
「な~にしているのかな~?」
「あ、アイカお姉ちゃん」
いつもの笑みを浮かばせながらセシルの背後から抱き着くように現れるアイカはニコニコ微笑んだまま。もうベル達が言うまでもなく事情は察しているようだ。
「ミクロくんの弱点~? もちろんあるよ~」
『え?』
アイカの口からあっさりと出たミクロの弱点にこの場にいる誰もが目を見開いた。
あの団長に弱点? アイカのその一言に戦慄を抱かせる団員達はそれを是非とも教えて貰いたかった。
「だ~め。教えてあげな~い」
だけどアイカは微笑んだままそれを拒否。本当の妹のように可愛がっているセシルにでさえ秘密のままだった。
「おい、あんたら。いつまでちんたらお喋りしているつもりだい?」
「ほら、『
【アグライア・ファミリア】の幹部である
「あるに決まってんだろ」
「もちろんあるよ」
二人もまた当然のように答えた。
「あんた等が気にしても仕方ねえことだから意味はないよ」
「そうね。弱点ではあるけど皆には無意味だし」
だけどそれを教えてはくれなかった。
気にはなるもこれ以上準備に支障をきたすわけにはいかない団員達は渋々と諦めながら準備を再開する。それでもミクロに弱点があると判明しただけでも大きな成果かもしれない。
(団長の弱点ってなんだろう?)
ベルも気にしながらも『
「ベル。それが終わったらこれを倉庫まで持って行ってくれ」
「あ、はーい」
荷物を持って倉庫に向かう。
「クラネルさん」
「リューさん」
その道中でベルは自派閥の副団長であるリューと出会う。リューもまた書類らしきものを抱えている。
「いつもミクロがご迷惑をおかけしてすみません」
「あ、いえ、僕ももう慣れましたし……」
自分の子供の失態を謝る親のように謝罪するリューにベルは苦笑しながら首を横に振る。
「リューさんも準備ですか?」
「ええ、ギルドからの書類をミクロに届けに行くところです。途中まで一緒に行きましょう」
「はい」
ミクロがいる部屋まで一緒に歩くベルとリュー。
「本当にミクロは私達を振り回すばかりで……」
しかし、先ほどからリューはミクロに対する愚痴ばかり溢している。愚痴を溢す相手が欲しかったのかもしれないと思いながらベルは内心苦笑しながら聞いているも……。
(リューさん、笑ってるのかな?)
愚痴ばかり言っているもその表情は楽しそうに薄く微笑んでいる。少なくとも怒っているようには見えなかった。
「あの、リューさん。団長って弱点がありますか?」
そんなリューにベルは思わず尋ねてしまった。
「ありますよ。それに沢山」
「沢山!?」
そんなにあるの!? と言わんばかりに驚愕に包まれるベルにリューは面白そうに口角を曲げる。
「クラネルさん。貴方はミクロを特別視し過ぎだ。ミクロも完璧ではない。どこにでもいる一人の人間です」
それはベルを含めた他の団員達とは違う答え。
「確かにミクロは強い。才もある。けれどそれだけだ。だから私はミクロを特別視しないし、傍にいたいとそう思えた。それは私でなくてもティヒア達も同じでしょう」
だけどその瞳はどこまでも慈愛に満ちている。それはベルを含めた他の団員達とも違う尊敬でも畏敬の念でもない。
「一度別の視点からミクロを見てみるといい。そうすればきっとミクロの弱点にも気づくはずでしょう」
(ああ、そっか……リューさんは、ううん、アイカさん達は本当に団長のことが)
好きなんだ。とベルは察した。
それは恋愛という意味だけでなく友愛や親愛の類といった家族に向けるものかもしれない。それでも好きだからこそ特別な存在として見ていないのだとベルは気付いた。
「それでは私はここで」
「はい」
ベルはそこでリューと別れて倉庫に向かう。リューも書類をミクロに渡す為に部屋へ訪れる。
「ミクロ、入りますよ」
返事はない。けれどリューは部屋に入るとミクロが椅子にもたれるように眠っていた。まだ手付かずの書類があるというのに寝ているミクロにリューは呆れる。
「本当に貴方という人は……」
自由なのですから、と愚痴を溢すリューは書類を机に置いてミクロに毛布をかける。
「まったく世話のかかる」
けれどリューの顔は優しかった。愛する人の寝顔を独占している今だけはリューにとっても幸せな時間なのかもしれない。
「……ミクロの弱点」
ふと先ほどベルが言っていたことを思い出して微笑む。
ミクロは強い。それこそそこらの冒険者が何人集まろうともミクロの敵ではなく、警戒心も強いミクロに夜襲も奇襲も通用しない。けれどこうして
「ふふ」
そう思ったリューは思わず笑ってしまった。
それがミクロの弱点だとベル達はいつ気付くのだろうか? 気付いたら気付いたでどんな反応をするのだろうか? しかし是非とも気付いて欲しい。ミクロが