路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three40話

終盤(エンドゲーム)を迎えた【ロキ・ファミリア】と【アグライア・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)。それぞれの戦いにも決着がつこうとしている。

そしてここでも一人の雄に惚れた二人のアマゾネスが戦闘を繰り広げていた。

「とりゃー!」

「ぐっ!」

しかし、すぐにでもその戦いが終わろうとしている。今もティオナが放つ拳にバーチェは完全に防ぐことが叶わずに殴り飛ばされる。

―――【恋慕太陽(リエン・サン)

太陽の下でしか発動しないティオナのこのスキルはティオナの全アビリティ能力を超高補正して更にはその身に高熱を宿す。

ミクロとの出会いでティオナは変わった。双子の姉であるティオネとは違って自身には縁遠いものだと思っていた異性への恋心。ティオナはミクロに恋をしている。

しかしミクロとティオナはそれぞれ違う派閥。派閥が違えば色々と問題が発生してしまうも、ティオナは自身の恋心が報われなくてもいいとさえ思っている。

例え自身の恋心が報われなくても、ミクロの隣にいられなくても、ミクロが幸せならそれでいい。ただ一緒に冒険をして、一緒に笑って、また明日って言えるようになれるだけでティオナは満足なのだ。

そんなティオナの恋心が新たなスキルを発現させた。

だからこそティオナは笑う。それこそティオナが好きな英雄譚アルゴノゥトのように。大好きな人(ミクロ)が好きだと言ってくれた笑顔をティオナはし続ける。

「バーチェ!」

「ッ!?」

バーチェは気付いている。ティオナの拳に宿る想いは自分と同じたった一人の(おとこ)を慕う恋する乙女の熱い拳。そしてその笑みは太陽のように眩しく輝いている。

それこそ前に戦った時以上に。

「ティオナ!」

だがしかし、バーチェも押されているわけにはいかない。

バーチェもまたティオナやアルガナと同様にミクロに心を奪われている。いずれはミクロの子供を孕むつもりでいるバーチェは同じ(おとこ)を慕っているティオナに負けるわけにはいかなかった。

故にバーチェは防御を捨てて攻撃を優先する。

「にゃろー!」

しかしつかさずやり返す。

殴っては殴り返して、蹴っては蹴り返す。一人の(おとこ)を奪い合うかのように激しい攻防戦を繰り広げる。一見すればスキルによって強くなっているティオナが有利のように見えるもティオナはバーチェの魔法である猛毒が確実にティオナを蝕んでいる。それでもバーチェの損傷(ダメージ)も無視していいものではない。

「【食い殺せ(ディ・アスラ)】!!」

そこでバーチェは今一度超短文詠唱を口にして精神疲弊(マインドダウン)覚悟で全ての精神力(マインド)を消費させて右拳に禍々しい黒紫の光膜を覆わせて最凶の一撃を放とうとする。

「やばっ!」

それを見たティオナは最大の危機感を抱き、バーチェが勝負に出たことに気づいた。そしてこれから放とうとしている最凶の一撃がバーチェの最後の一撃だと悟った。だけどこれを躱せばティオナの勝ちは揺るがない。

バーチェの右手に焦点を置きながら他の攻撃は全て無視して回避に専念するティオナ。そして遂にバーチェの最凶の一撃が放たれる。

(ここ!!)

これまでのバーチェの戦闘のなかで放たれた最速であり最凶の一撃を紙一重で回避することに成功したティオナは一瞬勝ったと思ってしまった。

「――――あれ?」

右拳に覆われていて黒紫の光膜が消えていたのを見るまでは。

「油断したな、ティオナ」

左脚に覆われている黒紫の光膜がティオナの腹部に直撃する。

「――――――っ」

決まった。バーチェの最凶の一撃がティオナに直撃(クリーンヒット)した。

「私も『戦士』から『冒険者』となり、変わった。そして学んだ。切り札とはこのように使うものだと」

「つぅ~~~~~~~!!」

バーチェの最凶の一撃が直撃したティオナは激痛と酩酊感に似た感覚が体全体を苛んでいた。不自然な発熱、異常なまでの発汗。口から出る血がどす黒く濁っている。

「ティオナさん!?」

同じ団員であるナルヴィが悲痛の叫びをあげて万能薬(エクリサー)を手にティオナに近づこうとするも敵派閥(アグライア・ファミリア)がそれを阻止する。

バーチェが行ったのは簡潔の述べれば騙欺(ブラフ)だ。如何にも最凶の一撃を右手にあると警戒させて攻撃を放った瞬間に右手から身体を通して左脚に集中させた。Lv.6ともなればアイズやミクロのように全身を覆わせた方が攻守一体と化すが、あえて身体の一部に集中させることでこのような騙欺(ブラフ)が成立できる。

とはいえ、バーチェももう精神疲弊(マインドダウン)寸前。辛うじて意識が保てる程度には残すことが出来た。

「……待っていろ、ティオナ。すぐに治す」

勝負はついた。ここは闘国(テルスキュラ)でもなければバーチェもティオナももう『戦士』ではない。ティオナを回復させようと『リトス』から解毒と回復用の魔道具(マジックアイテム)を取り出そうとする。

「……………………ま、だ、終わってない」

だが、ティオナは立ち上がった。全身を猛毒で苛まれながらもティオナは足に力を入れて立ち上がる。バーチェの最凶の一撃を受けてもう立つこともできないほどの損傷(ダメージ)を受けているにも関わらず、ティオナは立ち上がり、拳を作る。

「止せ、ティオナ」

バーチェは制止の声を投げる。自身の最凶の一撃が直撃した以上はこれ以上動けば本当に命にかかわる。今でも瀕死なんだ。これ以上動くなとティオナの身を案じるも。

「あたしは、まだ、戦えるよ……」

痛々しくもそれでも笑顔を見せるティオナ。けれど身体はそうではない。今でも猛毒による激痛に苛まれているはずだ。それこそ並の者なら発狂して死んでもおかしくないほどの激痛が襲っている。それでもティオナは笑っている。

「……バーチェはさ、ラキアがオラリオに攻めてきた時のこと覚えてる?」

「……忘れる訳がない」

ラキア王国がオラリオに行軍してきた際に起きた事件。それは【シヴァ・ファミリア】の団長であるへレスの手によってミクロが一度死んだことだ。

その時はフェルズの蘇生魔法によってミクロは生き返ることができたけど、その時の怒りと悲しみは忘れていない。いや、忘れるわけにはいかない。

「あたしさ、思うんだ……。たぶん、ミクロはこれからも危険なことをするんじゃないかって……。だってミクロだもん。あたし達を助けてくれたように、自分から危険なことをするんじゃないかって……」

それこそまた死ぬようなことがあるかもしれない。

「あたしはもう、ミクロに死んでほしくない……。幸せになってほしいし、一緒に楽しく冒険がしたい。その為にもあたしはもっと強くならないといけない……。今度はあたしがミクロを守れるぐらいに……」

「ああ……」

「ミクロがいない未来なんて、あたしはいや……」

「私もだ」

想いは同じ。だからこそこれ以上の言葉は不要だった。

「お互い、最後の一撃だ」

「うん……」

二人は既に限界。だから次の一撃が最後だ。ティオナにバーチェ、二人は最後の力を拳に込める。全ては己が惚れた(おとこ)の為、共に未来を歩みたいが為に二人は己の限界を超えようとしている。

「いっっくよおおおおおおおおおおおおおおおぉ―――――ッ!!」

最後の力を振り絞って動き出すティオナに迎え撃とうと動き出すバーチェ。二人の拳は交叉してクロスカウンターの要領でお互いの顔に直撃して倒れる。

「……また、か」

「まただね……」

前回もそして今回も引き分けに終わった。しかし惚れた男と共に未来を歩みたいという二人の想いは一緒だ。二人はこれまで以上に更なる研鑽を積み上げて強くなっていくことだろう。そこで戦争遊戯(ウォーゲーム)終了の大鐘が鳴り響き、両派閥共に武器を下ろす。

「あ、バーチェ……あたし、そろそろ、死にそう……」

「ティオナ!?」

顔が真っ青を超えて真っ白になり、死が目の前までやってきたティオナを両派閥は慌ててありったけの万能薬(エクリサー)や解毒、回復、治癒の魔道具(マジックアイテム)を使ったおかげでティオナは辛うじて一命を取り留めた。

 


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