路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three38話

終盤(エンドゲーム)ということもあって苛烈さを増す戦いを繰り広げる【ロキ・ファミリア】と【アグライア・ファミリア】の眷属達。

そのなかで更に苛烈さを増している二人の冒険者がぶつかり合っている。

「ふッッ!!」

【アグライア・ファミリア】の団員【白雷の兔(レイト・ラビット)】の二つ名を持つベルは己の相棒達に炎を宿らせて疾駆する。

兔のような強靭な脚力を持って敵対派閥(ロキ・ファミリア)であるラウルに攻める。

「まだまだっす!」

ラウルはベルやセシルが持つミクロ・イヤロスの最高傑作の一つである小型盾(バックラー)『アミナ』の能力を駆使して半透明の盾を出現させてその攻めを防ぐ。

「ぐっ!」

攻めあぐねるベルは速攻魔法を使う。

「【ライトニングボルト】!」

ベルの右手から放たれる稲妻がラウルを襲うもラウルはその盾で防ぐ。

攻めるベル。

守るラウル。

足を止めることなく攻撃を続けるベルに対してラウルはベルの動きを一瞬たりとも逃すことなくその攻撃をアミナから生み出された盾で防ぐ。

(だ、段々この盾の能力もわかってきたっす……………)

突然自身の左腕に装着された小型盾(バックラー)だったが、ベルと戦うことでその能力を少しずつ把握していった。

複数出現している半透明の盾は装着者の意思で自在に操れることができる。そして盾の一枚一枚の強度はそこまでないが重ねねばその強度は増す。

防御と仲間を守る支援に特化した能力だとラウルはそう推測した。そして目の前に相手であるベルもまた自身の左腕にある小型盾(バックラー)と同じものだと考える。

形状を自在に変え、その剣身から炎を宿す。

どう考えても魔剣ではない。そしてこんなものを作れるのは一人しかいない。

(【覇王(アルレウス)】、ミクロさんがどうして自分に………………?)

戦争遊戯(ウォーゲーム)中にも関わらず、どうしてこのようなものを送ってきたのかラウルは知る術がない。そもそもラウルは小型盾(バックラー)がラウルを選んだことさえ知らないのだ。

(けど、これなら……………ッ!)

勝機はある。ラウルはベルの攻撃を防ぐことに専念する。

(どうして団長が作ったあの盾がラウルさんに………………ッ!?)

攻めながらもベルは困惑していた。

どうしてミクロは敵対派閥(ロキ・ファミリア)に自身の最高傑作を渡したのかわからなかった。けど、それには何か事情があるとベルはそう考える。

(なら、今の僕にできることは……………)

目も前の相手を倒して【ファミリア】の勝利に貢献すること。それだけだ。

そしてベル本人もあの盾の能力についてわかってきた。

(10秒蓄力(チャージ)すればあの盾を突破することができる!)

―――【英雄願望(アルゴノゥト)】。

スキルによって蓄力(チャージ)した魔法を放てば盾を破壊して肉薄となっているラウルに接近することができる。そこで得意する連続攻撃を叩き込めば勝機はある。

(勝負です!)

ベルは【英雄願望(アルゴノゥト)】を起動。そのまま並行蓄力(チャージ)を実行する。

「!?」

リン、リン、と鳴る(チャイム)の音にラウルの顔に焦りが生じる。

レフィーヤの魔法を相殺したあの魔法が来る。理解するよりも速くラウルは出現している全ての盾を重ね合わせて防御態勢を敷く。

(勝負っす!)

一人の冒険者としてラウルはこれから行われるベルの攻撃を防ごうと勝負にでる。

相手が攻めならこちらは守りで勝負に出る。

問題はその先だ。

(10秒…………蓄力(チャージ)

スキルによって蓄力(チャージ)が完了したベルはラウルに向けて構える。

英雄願望(アルゴノゥト)】は蓄力(チャージ)した分、反動も大きい。放った直後は一瞬身体が動けなくなる。だから防がれるかどうかで勝負が決まる。

「ふー」

息を吐いて呼吸を整えてベルは魔法名を叫ぶ。

「【ライトニングボルト】ッッ!!」

力強い白き稲妻が放たれてラウルが展開している盾に直撃する。

「ぐぅぅぅっっ!!」

足を踏ん張り、歯を噛み締めて耐えるラウル。けど、その盾には亀裂が生じる。

耐え切れない。スキルによって強化されたベルの魔法の方が僅かに上回っている。

なによりラウルはアミナを手にしたばかり、その性能を完全に使いこなせていないのも原因の一つだ。

刻一刻と亀裂は広がっていくなかでラウルは諦観の念を抱いたその時、思い浮かんだのはラウルが憧憬を抱く団長(フィン)達。

「――――っ」

フィン達を思い浮かべたラウルは全身から力を絞り出す。最後の一滴まで力を振り絞ってラウルは叫ぶ。

「今っす! レフィーヤ!!」

「【穿て、必中の矢】!」

ラウルの背後で魔法円(マジックサークル)を展開して詠唱を終わらせたレフィーヤがベルに向けて杖を構えていた。

「!?」

ベルはレフィーヤに警戒していなかったわけではなかった。ただラウルの守りを突破することが出来ず、レフィーヤの詠唱を阻止することができなかった。

「【アルクス・レイ】!」

放たれる大光閃はベルに向かって撃ち出される。

それでもまだベルに焦りはなかった。当たる直前で反動が消えて一瞬早く動くことが出来る。そして先ほど同じように再び蓄力(チャージ)した魔法で相殺すればいい。

―――だが。

「『アミナ』!」

「!?」

ラウルはアミナの能力を発動させて半透明の盾を出現させてベルを逃がさないように取り囲む。魔法が迫りくる正面以外、逃げ場を失ったベルはここでようやく反動が消えて動けるようになるけど、迫りくる大光閃からは逃れられない。

(団長……………ッ! 皆………………ッ!)

ごめんなさい、と【ファミリア】に貢献できなかったことに謝罪するベルは迫りくる魔法に瞳を強く閉ざして悔しそうに歯を噛み締め、己の敗北を受け入れようとする。

「ベル様!!」

しかし、ベルの前に姿を現したリリルカ・アーデがベルの代わりにその魔法を受けた。

「リリ!!」

魔法が直撃して悲痛の叫びを上げるも。

「行ってください! ベル様!!」

リリは無事だった。

リリも無策無謀でベルの盾代わりになったわけではない。ミクロから渡された魔道具(マジックアイテム)『アコーディ』には見た目に反して高い防御力と様々な耐性付与が施されている。だから一度だけなら防ぐことができた。

ベルはリリが身を挺してまで作ってくれたこの機会(チャンス)を逃さない為に地を蹴った。

(速いっ!)

先程までとは比べものにならない速度に驚愕する。

それもそのはず。ベルは相棒達の炎を自身の後方に噴射して加速している。変則的な動きはできなくても直線的の動きなら今のベルは第一級冒険者に匹敵する。

あっという間に眼前に肉薄するベルにラウルは反射的に小型盾(バックラー)を構えるも。

「ふッッ!」

紅と銀の斬閃がラウルの視界に閃く。

白兎の猛攻(ラビット・ラッシュ)。超連続攻撃。際限のない怒涛の連撃が火蓋を切った。ラウルの驚愕を物語るように尋常ではない火花と金属音が舞い散る。

その怒涛の連撃に小型盾(バックラー)は悲鳴を上げている。

衝突する【覇王(アルレウス)】の最高傑作に選ばれた二人の冒険者。

先程の魔法で地に伏せているリリとゼロ距離でぶつかりあっている為に魔法が撃てないレフィーヤの二人はただそれを見守ることしかできなかった。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

咆哮を上げ、火花を散らし合う二人。どちらの瞳からも戦意が燃え上がり、一瞬たりとも引くことはしない。

戦いというよりも意地のぶつかり合い。

攻めるが果てるか。

受けるが果てるか。

勝利の女神はどちらに微笑むのか?

その時、再び(チャイム)の音が響く。

「!?」

再び【英雄願望(アルゴノゥト)】を発動させる。

高速戦闘下での並行蓄力(チャージ)でベルは今度は魔法にではなく拳。

二秒分の蓄力(チャージ)

ベルはその拳を小型盾(バックラー)に炸裂させる。

「うぐ!?」

一瞬とはいえ小型盾(バックラー)から伝わる強烈な拳砲にラウルの体勢(バランス)が崩れる。その隙をベルは見逃さない。

白兎の牙(ヴォーパル・ファング)―――迷宮(ダンジョン)奥深くにひそむ殺人兎の牙のように振り上げられたベルの拳が、渾身を持って振り抜かれた。

「―――――――――っ」

撃砕する。

放たれたベルの拳がラウルの頬に叩き込まれ、吹き飛ばされる。

「ラウルさん!?」

地面を大きく跳ねて舞い上がるラウルにレフィーヤは悲痛の声をあげる。

間違いなく決まった【白雷の兔(レイト・ラビット)】の一撃。その戦闘を見ていた神々でさえもベルの勝利を疑わなかった。

だが。

「ま、だ……………終わりじゃないっす………………」

ラウルは立ち上がった。

地に足をつけ、瞳に宿る戦意は衰えることもなく燃え続ける。

【ハイ・ノービス】ラウル・ノールド。

尖ったものもなく、特徴もない。長所もなければ短所もない凡夫だが、この場に【覇王(アルレウス)】ミクロ・イヤロスがいればきっとこう言うだろう。

何があっても折れない。それがラウル・ノールドの強さだ。

身の程を知りながらも、フィンやアイズ達のようになれなくても、自分がどれだけ惨めでダメな奴だと思い知らされてもラウルは折れない。

憧憬する人をどこまでも追いかけ続ける。

だからラウルは敗北はしたとしても、諦めることだけは絶対にしない。

何度も何度もドン底から這い上がってきた者しか持てない決して折れない屈しない。鋼を超える精神。それをラウルは持っている。

だからこそラウルは立ち上がる。

憧憬する人達を追いかけ続ける為に。

けど、それはベルも同じ。

立ち上がったというのなら迎え撃つ。それが立ち上がった者へと最低限の礼儀だ。

その時、この一帯に響き渡る大鐘が鳴り響いた。

戦争遊戯(ウォーゲーム)終了の合図。それを聞いた四人はそこで武器を下ろす。

勝負は引き分けに終わった。それでもこの戦いは彼等にとって忘れられないものとなるだろう。

特にラウルにとってこの戦いは自身に大きな変化があったことを知るのはもう少し後になってからだ。


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