そのなかで更に苛烈さを増している二人の冒険者がぶつかり合っている。
「ふッッ!!」
【アグライア・ファミリア】の団員【
兔のような強靭な脚力を持って
「まだまだっす!」
ラウルはベルやセシルが持つミクロ・イヤロスの最高傑作の一つである
「ぐっ!」
攻めあぐねるベルは速攻魔法を使う。
「【ライトニングボルト】!」
ベルの右手から放たれる稲妻がラウルを襲うもラウルはその盾で防ぐ。
攻めるベル。
守るラウル。
足を止めることなく攻撃を続けるベルに対してラウルはベルの動きを一瞬たりとも逃すことなくその攻撃をアミナから生み出された盾で防ぐ。
(だ、段々この盾の能力もわかってきたっす……………)
突然自身の左腕に装着された
複数出現している半透明の盾は装着者の意思で自在に操れることができる。そして盾の一枚一枚の強度はそこまでないが重ねねばその強度は増す。
防御と仲間を守る支援に特化した能力だとラウルはそう推測した。そして目の前に相手であるベルもまた自身の左腕にある
形状を自在に変え、その剣身から炎を宿す。
どう考えても魔剣ではない。そしてこんなものを作れるのは一人しかいない。
(【
(けど、これなら……………ッ!)
勝機はある。ラウルはベルの攻撃を防ぐことに専念する。
(どうして団長が作ったあの盾がラウルさんに………………ッ!?)
攻めながらもベルは困惑していた。
どうしてミクロは
(なら、今の僕にできることは……………)
目も前の相手を倒して【ファミリア】の勝利に貢献すること。それだけだ。
そしてベル本人もあの盾の能力についてわかってきた。
(10秒
―――【
スキルによって
(勝負です!)
ベルは【
「!?」
リン、リン、と鳴る
レフィーヤの魔法を相殺したあの魔法が来る。理解するよりも速くラウルは出現している全ての盾を重ね合わせて防御態勢を敷く。
(勝負っす!)
一人の冒険者としてラウルはこれから行われるベルの攻撃を防ごうと勝負にでる。
相手が攻めならこちらは守りで勝負に出る。
問題はその先だ。
(10秒…………
スキルによって
【
「ふー」
息を吐いて呼吸を整えてベルは魔法名を叫ぶ。
「【ライトニングボルト】ッッ!!」
力強い白き稲妻が放たれてラウルが展開している盾に直撃する。
「ぐぅぅぅっっ!!」
足を踏ん張り、歯を噛み締めて耐えるラウル。けど、その盾には亀裂が生じる。
耐え切れない。スキルによって強化されたベルの魔法の方が僅かに上回っている。
なによりラウルはアミナを手にしたばかり、その性能を完全に使いこなせていないのも原因の一つだ。
刻一刻と亀裂は広がっていくなかでラウルは諦観の念を抱いたその時、思い浮かんだのはラウルが憧憬を抱く
「――――っ」
フィン達を思い浮かべたラウルは全身から力を絞り出す。最後の一滴まで力を振り絞ってラウルは叫ぶ。
「今っす! レフィーヤ!!」
「【穿て、必中の矢】!」
ラウルの背後で
「!?」
ベルはレフィーヤに警戒していなかったわけではなかった。ただラウルの守りを突破することが出来ず、レフィーヤの詠唱を阻止することができなかった。
「【アルクス・レイ】!」
放たれる大光閃はベルに向かって撃ち出される。
それでもまだベルに焦りはなかった。当たる直前で反動が消えて一瞬早く動くことが出来る。そして先ほど同じように再び
―――だが。
「『アミナ』!」
「!?」
ラウルはアミナの能力を発動させて半透明の盾を出現させてベルを逃がさないように取り囲む。魔法が迫りくる正面以外、逃げ場を失ったベルはここでようやく反動が消えて動けるようになるけど、迫りくる大光閃からは逃れられない。
(団長……………ッ! 皆………………ッ!)
ごめんなさい、と【ファミリア】に貢献できなかったことに謝罪するベルは迫りくる魔法に瞳を強く閉ざして悔しそうに歯を噛み締め、己の敗北を受け入れようとする。
「ベル様!!」
しかし、ベルの前に姿を現したリリルカ・アーデがベルの代わりにその魔法を受けた。
「リリ!!」
魔法が直撃して悲痛の叫びを上げるも。
「行ってください! ベル様!!」
リリは無事だった。
リリも無策無謀でベルの盾代わりになったわけではない。ミクロから渡された
ベルはリリが身を挺してまで作ってくれたこの
(速いっ!)
先程までとは比べものにならない速度に驚愕する。
それもそのはず。ベルは相棒達の炎を自身の後方に噴射して加速している。変則的な動きはできなくても直線的の動きなら今のベルは第一級冒険者に匹敵する。
あっという間に眼前に肉薄するベルにラウルは反射的に
「ふッッ!」
紅と銀の斬閃がラウルの視界に閃く。
その怒涛の連撃に
衝突する【
先程の魔法で地に伏せているリリとゼロ距離でぶつかりあっている為に魔法が撃てないレフィーヤの二人はただそれを見守ることしかできなかった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
咆哮を上げ、火花を散らし合う二人。どちらの瞳からも戦意が燃え上がり、一瞬たりとも引くことはしない。
戦いというよりも意地のぶつかり合い。
攻めるが果てるか。
受けるが果てるか。
勝利の女神はどちらに微笑むのか?
その時、再び
「!?」
再び【
高速戦闘下での
二秒分の
ベルはその拳を
「うぐ!?」
一瞬とはいえ
「―――――――――っ」
撃砕する。
放たれたベルの拳がラウルの頬に叩き込まれ、吹き飛ばされる。
「ラウルさん!?」
地面を大きく跳ねて舞い上がるラウルにレフィーヤは悲痛の声をあげる。
間違いなく決まった【
だが。
「ま、だ……………終わりじゃないっす………………」
ラウルは立ち上がった。
地に足をつけ、瞳に宿る戦意は衰えることもなく燃え続ける。
【ハイ・ノービス】ラウル・ノールド。
尖ったものもなく、特徴もない。長所もなければ短所もない凡夫だが、この場に【
何があっても折れない。それがラウル・ノールドの強さだ。
身の程を知りながらも、フィンやアイズ達のようになれなくても、自分がどれだけ惨めでダメな奴だと思い知らされてもラウルは折れない。
憧憬する人をどこまでも追いかけ続ける。
だからラウルは敗北はしたとしても、諦めることだけは絶対にしない。
何度も何度もドン底から這い上がってきた者しか持てない決して折れない屈しない。鋼を超える精神。それをラウルは持っている。
だからこそラウルは立ち上がる。
憧憬する人達を追いかけ続ける為に。
けど、それはベルも同じ。
立ち上がったというのなら迎え撃つ。それが立ち上がった者へと最低限の礼儀だ。
その時、この一帯に響き渡る大鐘が鳴り響いた。
勝負は引き分けに終わった。それでもこの戦いは彼等にとって忘れられないものとなるだろう。
特にラウルにとってこの戦いは自身に大きな変化があったことを知るのはもう少し後になってからだ。