路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three18話

漆黒に包まれる夜天。星空と共に地上に光を灯す月光の下。

アグライアからの説教が終えたミクロは本拠(ホーム)の屋根上からベルの自室を見ていた。

窓からでもわかる賑わい。ベルの部屋には例の『異端児(ゼノス)』である竜女(ヴィーヴル)とリリだけではなく、ヴェルフやどういうことか春姫までもベルの部屋にいる。

見たところ春姫もヴィーヴルに恐れることなく、むしろ、懐かれているところを見て問題はないと踏んだミクロは月光の下で小さく頷いた。

「ここにいましたか」

「リュー」

屋根の上に訪れたリューは腰に手を当てて小さく息を吐いた。

「先ほど、団員達から聞きました。【ロキ・ファミリア】と戦争遊戯(ウォーゲーム)とは……………まったく、貴方という人はどうしていつも勝手に決めてしまう」

「説教はさっきされた」

「それも先ほど聞きました。ミクロ、一言ぐらい事前に声をかけなさい。皆さんにこれ以上にないぐらいに慌てていましたよ?」

一部の好戦的な団員は喜んではいたが、大体の団員は驚き、慌てふためいていた。

しかし、それは無理もない。

戦争遊戯(ウォーゲーム)の相手があの【ロキ・ファミリア】だ。一筋縄ではいかない相手だということぐらい誰でも想像できる。

もう一度息を吐いて、リューはミクロの隣で腰を落ち着かせる。

「クラネルさん達は大丈夫なのでしょうか?」

「今のところ問題はない」

スウラから竜女(ヴィーヴル)の説明を受けたリューでも僅かな不安は残る。

万が一に暴走されたら本拠(ホーム)だけではなく、この一帯が大変なことになりかねないからだ。

異端児(ゼノス)』は何かを引鉄に肉体に変化を生じるものもいる。

その何かが起きてもすぐに対処できるようにこうして見張っているのだが……………竜女(ヴィーヴル)の無邪気な笑みからそれは不要と思い始めている。

「【ロキ・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)に、異端児(ゼノス)……………やることは多い」

「うん」

するべきことは山のようにあることにリューは少しばかり、憂鬱だ。

【ファミリア】の副団長として当然の責務とはいえ、本当に大変だ。

「それでもやらないといけない。【ファミリア】の為にも、リド達、異端児(ゼノス)達の為にも」

「…………………ええ」

ミクロはその為に頑張っている。

主神であるアグライア、築き上げてきた家族(ファミリア)、友達、異端児(ゼノス)の為にミクロは今までも、そしてこれからもその心身を捧げる。

それを支えるのが、副団長として、恋人の務めだ。

リューはミクロの頭を自分の膝上に誘導して膝枕をする。

これで少しでも愛する人が労われるのなら安いものだ。

「リュー、俺は闇派閥(イヴィルス)や他の全ての問題を解決し、皆が安全に冒険を続けられるようになったら、団長の座を下りようと考えてる」

「……………それがいい。ミクロ、貴方はもう戦わなくてもいいのですから」

団長を下りる。そのことに少なからずの驚きはあってもリューはそれを止めることはしない。

沢山傷つき、倒れ、それでも立ち上がって、勝利を収めてきた。

ミクロはもう十分に戦った。

【ファミリア】も大きくなった今、ミクロは平和に過ごすべきだとリューは思う。

「その後、団長は誰にするのですか?」

「ティヒアか、セシルにしようと思ってる」

「クラネルさんは?」

「ベルはまだ入団して半年も経ってない。実力だけで団長の座を譲るには問題が生じる」

これは中々に厳しい、と思う。

ティヒアは高い指揮統制能力を持ち、正確無比の狙撃の腕を持つ。

【ファミリア】内でもティヒアの信頼は厚く、固い。

主にミクロに惚れているという共通の意思ではあるが、それも立派な信頼関係だ。

セシルはミクロの酷烈(スパルタ)に耐え、日々精進しているその姿勢は団員の誰もが認め、信用し、信頼している。逆にセシル自身も団員達を信用して信頼している。

ミクロの弟子という意味合いも大きいし、ミクロの持つ魔法も使える。

だからミクロはこの二人の内どちらかを団長にしようと考えている。

ベルは駄目というわけではない。

実力も信頼も二人に負け劣らずに持ってはいる。でも、ベルはまだ【ファミリア】に入団して半年も経っていない。そんなベルを急に団長の座に譲ったら団員内で揉め事が生じる可能性も決して少なくはない。

「団長を辞めたら貴方はどうするのです?」

「団員達を鍛えつつ、夢の実現の為に動く」

「夢……………ですか?」

初耳だ、ミクロがそのような夢を持ち、考えていることは。

ふと、リューは昔の事を思い出す。

まだ【アストレア・ファミリア】に所属していた際に、今のように高いところでアリーゼと共に将来のことを語り合ったことを。

ミクロは空にある月光の輝きを放つ月に向かって手を伸ばす。

「俺はいつか、この空の上に都市を築く。空を舞い、空を駆け、世界中を巡る都市をこの手で創ってみせる」

「それは…………」

その子供のような壮大な夢の内容に驚くリューだが、ミクロなら本当にしてしまいそうで怖いと思う自分がいる。

「そこにはアグライアがいて、皆がいて、多くの亜人(デミ・ヒューマン)がいて、リド達、異端児(ゼノス)がいて皆が笑って共に生活ができるその都市を創るのが俺の夢」

己の夢を語るミクロにリューは微笑む。

それはなんとも浪漫に満ちた夢なのだろうか。

「アグライアはこの世界を堪能する為に下界に降りてきた。だから、この夢は俺に光を、生きる希望を与えてくれたアグライアに対する恩返しでもある。だから俺は頑張る」

「ええ、私も微力ながら手を貸しましょう」

「うん。でも、リューはリューでして欲しいことがある」

「なんでしょう? 私にできることなら―――」

「子供を作って欲しい」

何の躊躇いもなく、完全な不意打ちで放たれたミクロの言葉にリューは固まる。

「最低三人。男でも女でもいい。家族を作ってリューと一緒に育てていきたい」

「えっと、その…………」

耳まで赤く染まり、空色の瞳を左右に泳がせながらリューは覚悟を決めて言う。

「こ、心の準備はしておきます……………」

それが今のリューの精一杯な答えだった。

「わかった」

それでも満足してくれたのか、ミクロは素直に頷いた。

気持ちを切り替えてリューも夜空を眺める。

「この空に都市を……………」

それはとても気持ちがいいものだ。ミクロの夢はきっと多くの人を幸せにするだろうとリューは確信する。

世界中を巡る空の都市で愛する人と子供達。そして、大切な仲間達と共に生活する。

その日が来るのをリューは楽しみにしている。

愛しい人の髪を撫で、二人は夜風にもうしばらく当たる。

夢を語る、今の時間を大切に過ごすように。

 


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