路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three16話

【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)、『黄昏の館』。

その執務室にフィンは自派閥の主神ロキと幹部を集結させて【アグライア・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)の取り行いが決定したことを告げていた。

「ふむ。私達の【ファミリア】に戦争遊戯(ウォーゲーム)を申し込まれたのは久方ぶりだな…………」

リヴェリアが顎に手を当てながら呟いた。

事実、戦争遊戯(ウォーゲーム)をするのは数年ぶりであった。

最強派閥に名高い【ロキ・ファミリア】。その派閥に戦争遊戯(ウォーゲーム)を申し込もうと思うのはミクロ達ぐらいだ。

「面白いわい。儂も拳を交えてみたかったわ」

顎髭を擦りながら好戦的な言葉を発するガレス。

「上等だ…………ッ」

瞳を獰猛に光らせて凶暴な笑みを見せるベートの脳裏には自分を完膚なきまで敗北を与えたミクロがいる。

「やった! バーチェとまた戦える!」

以前は引き分けで終わったティオナは再戦の機会を得られたことに歓喜する。

「そうね、私も前は消化不良で終わっちゃったし」

ティオネも同様にアルガナとの戦いを待ち望んでいる。

「……………………」

無言だが、その表情はいつにも増してやる気に満ちている。

今度は勝ってみせる。とアイズは意気込みを上げる。

全員が全員、やる気に溢れて今にでもダンジョンに赴きそうだ。

「そんなわけや。どっちも大規模な人数やから場所も限られとるし、準備にも時間が掛かると思うさかい、その辺はわかったらうちから伝えておくわ」

机に腰を据えているロキも愉快そうに笑みを見せていた。

「くふふ、うちの眷属()にゲームを申し込むとはいい度胸や…………。【覇者】の負け顔をしっかりと拝ませてもらうで」

「……………………ロキ。前から気になってはいたのだが、どうしてミクロ・イヤロスをそこまで毛嫌いする?」

「そうだよー。ミクロは何度もあたし達を助けてくれたじゃん」

「それであんたは惚れこんじゃっているけどね? 毎晩毎晩ミクロミクロって聞かされる私の身にもなって欲しいわ」

「いいじゃん! ティオネだっていつもフィンのことばっかなんだし!」

どちらも毎晩惚れた(おとこ)の話で盛り上げている双子の恋話。

「…………………ミクロは凄く優しい」

アイズもミクロの事を悪く言って欲しくはなかった。

だが、ロキはミクロを庇う女性陣に憤慨で返した。

 

「それやぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!! それがうちは気に入らんのや!! なんやねん、あのモテっぷり! うちの子にまで毒牙にかけるとは許さへんで!! しばいたる!! いつか絶対しばいたる!!」

 

「………………んー、つまりロキはミクロ・イヤロスが異性に好かれているから毛嫌いしてると?」

「えー、それならフィンだって一緒じゃん」

「フィンはいいんや!! うちの大事な大事な眷属()なんやから! だが、【覇者】は許さへん!! 【覇者】のせいで…………うちが勧誘(スカウト)しようと声をかけた可愛い子ちゃんは皆揃って『【覇者】様がいる【アグライア・ファミリア】の入団を目指してますので』…………ふざけんなや!! 可愛い子独占するとは………ッ! うちは絶対、絶っっっっっ対【覇者】を許さへん!!」

熱く語るロキに眷属達は冷ややかな視線をロキに向ける。

ようは自分好みの子供をミクロに取られて嫉妬しているだけの話だ。

「というわけや! 皆、絶対に勝つで!! ここでちょーしに乗っ取る【覇者】の鼻をバキバキにしてやってや!!」

その怒りを自分の眷属()に託すも全員は呆れるように息を吐いて、一同の心情は一致した。

 

―――【アグライア・ファミリア】に改宗(コンバージョン)しようかと。

 

面倒が掛かる今の主神(ロキ)よりも慈悲深く慈愛に溢れたミクロの主神(アグライア)がいいように思えた。

「………………まぁ、ロキの事は置いておいて。彼等は全力を持って僕達を倒しに来るだろう。だから僕達も全力でそれに応えなければならない」

ロキを隅に追いやって団長であるフィンが話を進める。

「勝てばミクロ・イヤロスが作製する魔道具(マジックアイテム)を手に入れることが出来る。少なくともここにいる全員分は作ってくれるみたいだ」

「おいフィン。俺はいらねーぞ」

戦争遊戯(ウォーゲーム)に勝利した際に手に入る魔道具(マジックアイテム)をベートは拒否した。

自分の力で強さを求め続けているベートにとって好敵手(ライバル)視しているミクロから受け取ることは自分の誇りが許さなかった。

「彼もそう言っていたよ? だからベートには再戦の機会を作ると言っていた」

「えー!? ベートだけ!? フィン、あたしもそっちがいい!」

「私も…………」

ベート同様に一対一の全力で戦いたいティオナとアイズも魔道具(マジックアイテム)よりもそちらを優先してほしかった。

それを聞いたフィンは困ったように苦笑する。

「そうしてあげたいのも山々なんだけど、出来れば彼の魔道具(マジックアイテム)を手に入れることを優先して欲しい。この機会を僕は手放したくはない」

フィンから見てもミクロが持つ魔道具(マジックアイテム)は貴重だ。正直に言えば金で手に入るのなら手に入れるとも思ってる。

だけど、ミクロは一部を除いての魔道具(マジックアイテム)の販売は行われていない。戦闘用の魔道具(マジックアイテム)が手に入るとするのならこれからの遠征にもきっと役に立つ。

「しかし、フィン。勝機はあるのか?」

「ある」

リヴェリアの問いにフィンは強く肯定する。

「確かにミクロ・イヤロスを筆頭に彼等は強い。だけど、総合的な面でいえばまだ僕達の方が上回ってる」

これまで築き上げてきた経験、知識、練度、連携。どれをとっても【アグライア・ファミリア】より【ロキ・ファミリア】の方が上回っている。

しかし、油断していい相手ではない。

「だけど、油断はできない。正直に言えば彼がどんな奇策も持ち掛けてくるのかわからない。油断すればやられるのはこちらだ」

どのような魔道具(マジックアイテム)を出してくるか、策を用意してくるのかわからない。

「こちらも万全を持って対応する。各自は詳細が決まるまで備えておいてくれ」

団長のフィンの言葉に幹部であるアイズ達は真剣な顔で頷く。

「ティオネー! 組み手しよ!」

「そうね、昂ってる身体を冷ましておかないと」

「………………」

組み手をする為に執務室から出て行く双子と無言で出て行くベートは今からダンジョンに行こうとしているのがフィン達には筒抜けだ。

アイズもまた剣を振るおうと執務室から出て行く。

「…………今度は」

勝ってみせる。とアイズは【アグライア・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)に向けて動き出す。

 


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