路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three15話

ベル達がダンジョンに潜っている時、ミクロはホース達の一件を後回しにして先にするべきことを終わらせることにした。

「ラキア王国の侵攻以来かな? ミクロ・イヤロス」

「うん、久しぶり。フィン」

ミクロは自派閥の本拠(ホーム)の【ロキ・ファミリア】の団長である【勇者(ブレイバー)】、フィン・ディムナを招いていた。

「それにしてもいいのかい? 他派閥である僕を本拠(ホーム)に入れても」

「問題ない。フィンはそんな意味のないことはしないし、しても意味がない」

その言葉にフィンは苦笑する。

豪胆ともいえるが、そうではない。

ミクロはわかっているのだ。フィンがミクロ達の【ファミリア】に対する部外秘の情報を手に入れようとしないことに。

そうすれば一族の再興させるために必要な名声に傷をつけてしまう恐れがある。

自分の評価にも影響が及び、最悪【ファミリア】にまで悪影響が生まれてくる可能性だって否定しきれない。

それ以上にミクロには自信があるのだ。

部外秘の情報をフィンに手に入れさせない自信が。

「…………そうか。なら、まずは賛辞の言葉を送らせてくれ。【ランクアップ】おめでとう。遂にオッタルと並ぶLv.7に辿り着いたんだね」

「うん」

フィンからの賛辞の言葉に素直に頷く。

「経緯はアイズ達から聞いている。君にとっては素直に喜べないことかもしれないが」

「大丈夫。俺には大切な家族がいるから」

「…………なら、これ以上の言葉は不要だね」

基本的にアイズ同様に無表情だが、心なしか晴れた表情をしている。

きっと父親の死を乗り越えたのだろう、とフィンは勝手ながら推測した。

アイズもティオナも随分とミクロの事を心配していたが、この吉報を聞けば安心するだろう。

「さて、それじゃあ要件を聞こう。今回、僕を呼び出したのは闇派閥(イヴィルス)に関わる案件かい?」

その問いにミクロは首を横に振った。

「違う…………とは少し言いづらい。でも、結果的にはそうなるかもしれない」

「どういう意味かな?」

ミクロの言葉に怪訝するフィンにミクロは言った。

 

「フィン。俺は【ロキ・ファミリア】に戦争遊戯(ウォーゲーム)を申し込みたい」

 

「っ!?」

突発的なその言葉には流石のフィンも目を丸くした。

「…………理由を聞いても?」

「この戦争遊戯(ウォーゲーム)の目的は互いの【ファミリア】の戦力強化だ。闇派閥(イヴィルス)、レヴィス、怪人(クリーチャー)…………そして精霊の分身(デミ・スピリット)。まだ俺達に知らない何かを持っているかもしれない。今は大人しいが、またいつ襲ってくるかわからない以上は今のうちに戦力を強化したほうがいいと考えた」

【アグライア・ファミリア】では直接的な被害は出ていないが、【ロキ・ファミリア】では既に死者が出ている。

これ以上の死者を出さない為にも今のうちに戦力を強化した方がいいと考えていた。

「そして、戦争遊戯(ウォーゲーム)では敗北した【ファミリア】に要求することができる。それを利用すればどんなもの命令でも誰も疑問に思ったりはしない例えば魔道具(マジックアイテム)など」

「…………そういうことか」

ここまで聞いてフィンはミクロの考えを理解した。

「つまり、君は自分達の【ファミリア】の敗北を望み、尚且つ僕達の【ファミリア】に魔道具(マジックアイテム)を渡して戦力を強化させたい。ということだね?」

フィンの言葉にミクロは頷いて返す。

無償で魔道具(マジックアイテム)を渡せば周囲から文句などが出てくる。だが、戦争遊戯(ウォーゲーム)を使っての要求なら誰も文句は言わない。

「確かに魅力的な提案だ。君の魔道具(マジックアイテム)が僕達でも使えるとなると間違いなく戦力を強化することができる。だけど、いいのかい? これでは君に利益があるようには思えないが?」

「これでいい」

これでは【ロキ・ファミリア】だけに利益が出てミクロ達の【アグライア・ファミリア】には損しかない。それでもミクロは首を縦に振った。

「【アグライア・ファミリア】は確かに強くなった。だけど、そのせいで慢心が生まれてしまう。それを壊すには一度徹底的に敗北を知る必要がある。いくら強くてもその慢心が原因でダンジョンで命を落とすことは珍しくはない」

五年と少しという歳月で【アグライア・ファミリア】はオラリオの三大派閥とまで呼ばれるまでに強くなった。

だが、その強さによって心に隙が生じれば命を落としかねない。

そうなる前にミクロは一度団員達に敗北を知らしめる必要がある。

「身内では意味がない。そして、全力を出しても自分達では勝てないと思わせる相手はフィン達【ロキ・ファミリア】が最も最高で最大の強敵手だ」

Lv.7まで到達したミクロだが、【ファミリア】の総合力で言えば【ロキ・ファミリア】の方が上だ。

全力で戦い、それでも勝てない。

その結果が慢心を捨てて、己の力を見直して更なる強さを求めるようになれば上々だ。

「勿論。俺も全力で戦う。だから、フィン達も全力で戦って欲しい」

「……………………」

ミクロの言葉にフィンは無言になる。

確かにこの戦争遊戯(ウォーゲーム)には美味しいぐらいにメリットがあり、ミクロの考えも十分に理解できる。

この事をアイズ達に話せば絶対に参加すると言ってきかないだろうと容易に想像できてしまう。

名を上げている【アグライア・ファミリア】。それに勝てばフィンの一族の再興にもいい宣伝になる可能性も出てくる。

「………………もし、万が一に君達の【ファミリア】が僕達に勝ったら何を要求するつもりなんだい?」

だけど、油断できる相手ではないのは明白だ。

万が一、そのことも考慮しなければいけない。少なくともフィンにとってミクロ・イヤロスとはそういう人物だ。

だから、敗北した時の要求を明確にしておかなければいけない。

フィンの問いにミクロは頬を掻いた。

「……………考えてなかった」

ぽつりと呟いた言葉にフィンは思わず肩を落とす。

そこまで考えて、自分達が勝利した時の要求を考えていなかったとは…………やはり、どこかアイズに通ずる天然を秘めている。

「……………………一応、表向きには納得できる要求をしなければいけない。君が敗北した時に僕達に魔道具(マジックアイテム)を提供するというのなら、それに見合う何かを僕達に要求しなければ疑念を抱く者もきっと出てくるはずだ」

「……………………じゃ、ベートが欲しい」

「…………その理由は?」

「レナが喜ぶ」

この場にレナがいれば団長ぉぉおおおおおお! と歓喜の声を上げていただろう。

「う~ん、勘弁してくれないかな? ベートはうちの貴重な戦力だからね」

「わかった」

素直に諦めて、別の要求を考えるミクロ。

金に関しては問題はない。むしろ、【アグライア・ファミリア】はオラリオの存在するどの【ファミリア】よりも資金を持っていると言える。

素材採取にもミクロが自分から行う。今では『ノーエル』を使えば広大なダンジョンを最速で移動できる。

「…………一年間、期間限定で【ロキ・ファミリア】の人材を一人『改宗(コンバージョン)』して欲しい。出来ればアイズ、ティオナ、ベート、レフィーヤの誰か。遠征の際は【ロキ・ファミリア】に戻すことを約束する」

「それはまた…………どうしてその四人を? ベートは今聞いたからいいとして」

「アイズはベルの成長に興味を示してる、ティオナは一緒にいて楽しい、レフィーヤとセシルを一緒に鍛えてみたい」

そしてベートはレナが喜ぶから、か。

聞いているフィンからしたら子供のように無欲な欲求だと思った。

いや、無欲なのかもしれない。

共にダンジョンに潜った仲としてミクロはどのような人物なのか大体は把握している。

ミクロは基本的に無欲だ。

富、名声、金、女、野望、戦闘。人が持つ欲求をミクロは持っていない。

あるのはただ一つ【ファミリア】。

【アグライア・ファミリア】の主神であるアグライアの為に、家族(ファミリア)の為に身命を捧げて行動している。

自らの欲望を満たすために動いているのではない。

今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)の申し込みにしてもそうだ。

【ファミリア】のことを考えての行動ともいえる。

フィンは思う。

ミクロがその気になればきっとオラリオで最強の派閥を作れるだろう、と。

「…………わかったよ。ミクロ・イヤロス。その申し出を受けよう。ロキからはその内容で僕から説得しておく」

「うん。アグライアにもそう言っておく」

差し伸ばされたフィンの手を握って返す。

「詳細は今度主神も交えて決めよう」

「わかった」

「そして、約束する。僕達【ロキ・ファミリア】は全力を持って君達を倒す」

「俺も全力で戦う。【ファミリア】の団長として、一人の冒険者として」

互いの握る手に僅かながら力が入る。


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