路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three13話

「フェルズ。これを受け取って欲しい」

人気のないオラリオの路地でミクロはフェルズと会っていた。

「これは……」

黒衣の魔術師(メイジ)、フェルズとそれを手に取ると驚嘆の声を上げる。

それは杖だ。

漆黒に覆われた魔杖を持つフェルズにはわかる。

かつては『賢者』とまで呼ばれたフェルズはこの魔杖の性能に気付いた。

ミクロはフェルズに渡したのはベルやセシルに渡した物と同じ、ミクロの最高傑作の一つ。

七つあるうちの一つをミクロはフェルズに渡した。

「…………ミクロ、気持ちは嬉しいが、私にはこれを受け取る資格はない」

フェルズはミクロに対して負い目がある。

ミクロの母親であるシャルロットをフェルズは救えなかった。

例え、ミクロ自身が許してもフェルズは自分自身がそれを許せないでいる。

だから、受け取る資格はないと、魔杖を返そうとするもミクロは首を横に振る。

「フェルズだから受け取って欲しい。フェルズは母さんを助けようとしてくれた、最後を見届けてくれた。そして、俺の命を救ってくれたフェルズだから持っていて欲しい」

「しかし……」

「母さんのことを想ってくれるのなら贖罪はもう止めろ。俺は信頼できる友達としてこれを『グリムアル』を託す。自分を許せまでは言わない。だけど、フェルズがいてくれたおかげで俺はここにいる。そのことも忘れないでくれ」

「ミクロ……」

「自分を許せる罰がいるのならそれでリド達を、異端児(ゼノス)の力になってくれ」

「…………わかった。私はこれからも君と彼等の為に尽力しよう」

魔杖『グリムアル』を受け取るフェルズにミクロは『リトス』を渡す。

「この中に入っている武器をリドとアステリオスに」

「必ず渡そう」

頷てフェルズは姿を消す様にその場からいなくなる。

「これで後は本人達次第……」

ベルとアステリオスに専用武器(オーダーメイド)を作製した。

ベルとセシルは今は新しい自身の得物の試し斬りに行っている。

アステリオスもきっと深層で鍛錬を重ねているだろう。

後は二人を会わせるのみ。

ミクロは近いうちに二人を会わせようと考えながら路地を出ようと足を進める。

だが、その足は不意に止まる。

「誰だ…………?」

背後から感じた視線に察知したミクロに物陰から一人の男性が姿を見せる。

外套で姿を隠しているが、体格で男性だと見抜いたミクロに男性は口を開く。

「ミクロ・イヤロス。私はかつて【シヴァ・ファミリア】に所属していたホースというものだ。今は闇派閥(イヴィルス)に加担している」

ホースと名乗る男性にミクロは耳を傾ける。

「単刀直入に言う。ミクロ、今の【ファミリア】を抜け、自身の使命に全うしろ」

「断る」

即答するミクロにホースは歯を噛み締める。

「…………ミクロ、貴様は使徒としてこの世界に君臨しなければならない。それが生まれ持って才を持つ者の宿命であり、使命なのだ。我等に加担し、父の後を継ごうとは思わないのか?」

「…………父さんは最後まで理想を掲げ、仲間の為に戦った。そして、主神であったシヴァは天界に帰った。もう終わったんだ」

「終わりではない!! まだ、まだ我々がいる! 同じ戦場を駆け巡り、共に戦った

我々がいる!! まだ、終わりではない!!」

「いや、終わったんだ。父さんの死でお前達の計画も理想も潰えた。お前ももう過去に縛られず、前を向いて生きろ。闇派閥(イヴィルス)を止めてうちに来い。今の俺ならお前達の罪をなんとかできる」

「ふざけるな!! それなら我々は何の為に戦った!? 何の為に死んだ!?」

慟哭するホース。

「ここで諦めたら死んでいった仲間の裏切りだ!! 例え、私だけになろうとも私がへレスに代わり、理想を追い求め続ける!!」

「…………」

死んでいった仲間達の為に諦念を認めない。

その気持ちはミクロも痛いほどによくわかる。

だけど、いや、だからこそミクロが終わらせなくてはならない。

「…………明日の昼過ぎ、20階層にある南の食糧庫(パントリー)で待つ。そこでお前達の理想を終わらせてやる」

踵を返して歩き出すミクロにホースは哮ける。

「こ、の…………裏切り者がッッ!!」

その言葉にミクロは反論することも振り返ることもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

昼過ぎ、20階層の南の食糧庫(パントリー)

予めいたモンスターは既に倒し、ミクロは石英(クオーツ)を背に待っているとホース達がやってきた。

二十人強はいる人数で全員が完全武装。ミクロが見た範囲で最低でも全員がLv.3以上の実力者ばかりだ。

その中でも恐らくホースは第一級冒険者の実力を有している。

「来たか…………」

黄金色に輝く長槍を手に持つミクロにホースが集団から一歩前に出る。

「…………ミクロ、最後に訊きたい。何があっても我々に協力する気はないのだな?」

「ああ」

迷いもなく肯定を取るミクロにホース達はそれぞれ黒塗りの武器を取り出す。

「『呪道具(カースウェポン)』か…………」

闇派閥(イヴィルス)に加担しているのなら持っていても不思議ではない。

込められているのは『不治の呪い』。その呪詛(カース)が込められたあらゆる武器がミクロに突きつけられる。

「かかれ!!」

ホースの号令に元【シヴァ・ファミリア】の団員は一斉に動き出した。

「死ね! 裏切り者!!」

「よくも我々の理想を!!」

怒声を上げながら呪いの武器をミクロに振るう。

だが、その攻撃の途中でミクロは槍を横薙に振るって呪いの武器を破壊する。

「遅い」

「がぁ!」

「ぐぅ!」

そして、襲ってきた団員達を瞬く間に戦闘不能にする。

その動きに一切の迷いはない。

こちらの言葉に一切の揺らぎも見せないミクロの動きに怯む【シヴァ・ファミリア】の団員達にミクロは告げる。

「お前達にとって俺は確かに裏切り者だ。好きなだけ恨めばいい、憎めばいい。全部受け止めてやる。それがお前達にできる唯一のことだ」

それが【シヴァ・ファミリア】のへレスとシャルロットの子供としてできることだ。

その言葉を聞いたホースは苦虫を噛み締めた顔で叫ぶ。

「我々の覚悟を甘くみるな!!」

ミクロの足元で倒れている団員達が自身の身体に巻き付かせている火炎石を着火させた。

命を捨てた自爆攻撃にミクロはその爆発に巻き込まれる。

ホース達の顔は醜く歪み、嘲笑を浮かべる。

決死の覚悟を決めた者が負けるはずがない。そう思っていた。

「な……なに…………?」

爆発による土煙が収まり始め、その光景に目を奪われる。

「お前達では俺には勝てない」

爆発の中心には無傷のミクロとミクロの周囲に漂る三枚の大盾。

「う、撃て! 魔法であの盾ごと破壊しろ!!」

ホースの言葉に魔導士が詠唱を終わらせて魔法を発動させる。

あらゆる属性魔法がミクロに一斉に襲いかかってくるにも関わらず、ミクロは悠然と立ち尽くしている。

「『アルギス』」

ミクロは三枚の大盾を操り、全ての魔法攻撃を防いだ。

「お前達じゃこれに傷一つつけることはできない」

そう言ってミクロは槍を構えて驀進する。

振るわれる一振りの槍捌きに数人が吹き飛ばされ、戦闘不能にされていく。

周囲を巻き込んでの火炎石の爆発もミクロの大盾がそれさえも防いでしまう。

そして、数分もしない内に残されたのはホースだけになった。

「お前で終わりだ」

冷静に告げるミクロにホースは呪いの剣を振るう。

「何故だ!? 何故それほどの力を有しておきながら我々に、父に協力しない!? この世界は狂ってる! へレスはそれを正そうとしていたのだぞ!!」

圧倒的強さの理不尽を見せつけられたホースは焦りと怒りで感情を剥き出し、叫ぶように問いかける。

「出会う神が違えば俺はお前達と一緒にいたかもしれない。だけど、俺が出会った神はアグライアだ。だから、俺はアグライアの為に、家族の為に戦う」

金属音が鳴り響く。ミクロの槍がホースの持つ呪いの剣を破壊してその矛をホースに突き刺す。

「ごふ…………」

「致命傷は避けた。だけど、これで当分は動けない」

「おのれ…………」

ミクロは明らかに手加減している。

手加減した状態で自分を含めてこの場にいる者を戦闘不能にした。

「もう終われ」

矛先を向けながら告げるミクロにホースは懐から一つの小瓶を取り出してそれを口に運ぶ。

「ふふ、ふははははははははッ! 終わらない、終わらせてなるものか!? 我々は、私は絶対に理想を―――――」

その瞬間、ホースの右手が落ちた。

「え―――?」

ミクロが何かしたわけではない。気が付けばホースの右手が地面に落ちたのだ。

それを見て狼狽するホース。

「な、何故だ!? 実験は確かに成功―――」

その言葉を最後にホースは真っ赤な液状と姿を変えて絶命した。

何が起きたのかわからないミクロはその直前でホースが口にした小瓶を拾う。

「まだ、終わっていないのか…………?」

食糧庫(パントリー)でミクロの声が静かに響いた。

 


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