路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three11話

月が上る夜天の時。

ミクロ専用の魔工房(アトリエ)の屋敷付近で複数人の亜人(デミ・ヒューマン)が群がっていた。

「おい、準備はいいか?」

「ああ、下調べは完了だ」

「こっちも不備はねえ」

建物の陰で集まり、話を纏めていく彼等のリーダー格の男性が小さく頷く。

「よし、今から【覇者】の魔道具(マジックアイテム)を盗みに行くぞ」

そう、彼等は盗賊団。

所属する【ファミリア】はばらばらの金儲け目当てで集結した一つの盗賊団(ファミリア)

そんな彼等の今夜のお目当ては、現在、更に名声を上げている【ファミリア】、【アグライア・ファミリア】の団長を務めている【覇者】ミクロ・イヤロスが作製した魔道具(マジックアイテム)

多種多様で一つ一つが強力な力を有している魔道具(マジックアイテム)

それを盗む、一攫千金を狙う盗賊団(ファミリア)は口角を上げた。

「念のためにもう一度訊くぞ? 【覇者】は今はあそこにいないんだよな?」

「何度も言わせんな。ちゃんと自派閥の門を潜るところまで見送ったぜ。【覇者】の追跡なんてメッチャ神経使ったぞ…………」

リーダー格の男性の言葉に疲れたようにどっと息を吐きながら答えた狼人(ウェアウルフ)

狼人(ウェアウルフ)は獣人の五感も最大限に駆使して最大級の警戒の下でミクロの追跡をした。

それだけでも神経を削り取るような緻密で繊細な行動だ。

「なら、いいが……(トラップ)もなかったんだよな?」

「ああ。ここ数日でざっと見てきたが、それらしい罠は見当たらなかった。少なくとも屋外には罠はないと思っていい」

人間(ヒューマン)の男性が自信あり気にそう告げる。

彼等は何も無策無謀でミクロの魔道具(マジックアイテム)を狙っているわけではない。

盗賊としての一流の腕利きを持ち、ありとあらゆる修羅場を潜り抜けて来た盗賊団。

緻密な計画と念入りな作戦を元に彼等はミクロの魔道具(マジックアイテム)を盗めると確信して今日この場にいる。

「よし。なら、行くぞ。万が一に【ファミリア】の誰かが警邏している場合は」

男性は腰にある得物に手を置くと他の盗賊達も静かに頷く。

いくら【アグライア・ファミリア】が【ロキ・ファミリア】【フレイヤ・ファミリア】に続く強者の【ファミリア】だとしても暗闇の中で突然複数人で強襲されたらひとたまりもないはず。

この魔工房(アトリエ)から【アグライア・ファミリア】の本拠(ホーム)までどんなに急いでも数分は有する。

数分あれば散らばって各自で逃走してしまえば流石の【覇者】とて追跡は不可能。

確かな確信をもって盗賊団はミクロの魔工房(アトリエ)に潜入する。

元々はここは【アポロン・ファミリア】の本拠(ホーム)を改築したもの。

だが、外見は変わっても中の構造にさほど変化はないのは元【アポロン・ファミリア】の団員から集めた情報と照らし合わせて確認済み。

敷地内へ侵入するとそのまま屋内へ侵入する。

「なんだこりゃ…………」

侵入した第一声は驚愕だった。

床石の上に這い回る、いくつもの(パイプ)。壁沿いには大型のフラスコが並べられているように壁一面に設置されている。

侵入したその瞬間からもう魔術師(メイジ)魔工房(アトリエ)のような屋敷。

これまで幾多の屋敷などを侵入してきた盗賊団もこれほど異質な屋敷は初めてだった。

「おい、行くぞ」

「お、おう…………」

リーダーの男性の指示に従って奥に進んでいく盗賊団。

「【覇者】は魔術師(メイジ)としてでも有名だ。なら、実験用の部屋はこの屋敷で一番広大な部屋のはずだ」

実験に必要な道具や素材など様々なものを使うにはそれ相応にそれを置ける広大な部屋があると踏んで足を進める。

周囲を警戒しながら(パイプ)だらけの通路を進んでいく盗賊団は奥の方へ足を速める。

そこでリーダーの男性が足を止める。

「おい、どうしたんだよ……」

「……おかしいと思わないか?」

「何が?」

リーダーの男に怪訝する狼人(ウェアウルフ)

「どうしてここまで進んで罠らしきものがない?」

リーダーの男性はその疑念を口にした。

屋敷に入ってから既に屋敷の中心ぐらいまでは進んだのにも関わらず、罠らしきものは一つも見当たらなかった。

それが不思議でなかった。

「………アレじゃねえか? 慢心ってやつだ。【覇者】は自分が恐れられていると思って誰もそんな自分の工房(アトリエ)には来るわけがねえって思ってからじゃねえ?」

「あー、確かに。普通なら誰も近寄ったりしねえもんな」

狼人(ウェアウルフ)の言葉に人間(ヒューマン)が納得するように頷いた。

その後方にいる他の盗賊達もそれに同意するように頷いてはいたが、リーダーの男性はそれが不思議でなかった。

「しかしだな……」

「なら、ここで引き戻せってか? 俺は御免だぜ? せっかくここまで来たんだ手柄一つも持たねえで帰れるか」

「俺も同意見だ」

手ぶらでは帰れない。盗賊としての意地を見せる盗賊達にリーダーの男性もしぶしぶながらもそれに同意して無理矢理自分を納得させる。

「わかった」

警戒は緩めることはなく、奥へまた奥へと進む盗賊団。

予想通り、この場には【覇者】どころか人一人いる気配すら感じられない。

盗賊の仲間が言うようにここまで来たのだから手柄は手に入れたいという欲求が強いられる。

「………よし、まずはここからだ」

リーダーの男性は一つ目の扉を見つけてそこに手をかける。

背後にいる仲間にも視線で合図を送ってその扉を静かに開ける。

 

『――――――――――――ッッ!!!!』

 

その瞬間、とてつもない異臭が襲いかかって来た。

獣人達は咄嗟に自身の鼻を摘まんでその異臭から逃れようもするも、あまりにも鼻が曲がる臭いで気を失ってしまう。

「キャゥゥゥン…………」

「おい、おい! しっかしろ!!」

犬のような鳴き声を最後に意識を手放した狼人(ウェアウルフ)

リーダーの男性は布で鼻を押さえながらその部屋に入って行く。

「………魔道具(マジックアイテム)の作製に失敗した材料の溜まり場か?」

それらしい素材が転がっているのを見てそう推測したリーダーの男性はこの場には碌な物はないと判断してその部屋から出て行く。

扉を閉めて先ほどまの当たり前の空気がとても新鮮に感じながら仲間を置いて別の部屋に向かう。

「とんでもねえな、ここ……」

「言うな。きっと、俺達がハズレを引いただけだ」

げっそりとしながら他の部屋も見て回る盗賊達。

だが、そのどれもがハズレだった。

電撃、炎、氷など魔法と思われるあらゆる属性が一斉に襲いかかってくる部屋。

剣、槍、斧などが一斉に飛んでくる部屋。

人形が起き上がって奇声と共に襲いかかってくる部屋。

もう部屋そのものが罠のように思えて来た盗賊達は部屋を開けるたびに仲間が減って行った。

それと同時に【覇者】は何を思ってあんな部屋を作ったのかとそんな疑念が生じた。

もはやここは何が起きるかわからない魔窟だ。

地上の魔窟(ダンジョン)だ。

盗賊達は次第にそう思えて来た。

「………………まだ、息がある奴はいるか?」

息を荒げるリーダーの男性の言葉に辛うじて返答する数人の盗賊の仲間達。

一人、また一人が【覇者】が生み出した魔窟の餌にされてしまった。

ここはもはや地上ではないダンジョンだ。

命を賭して戦わなければこちらがやられてしまう。

「な、なぁ……もう引き返さねえか?」

「バカ言うな。ここで引き返したらこれまで犠牲となったあいつらはどうなる」

せめて、せめて一つでも手柄を手に入れなければここまで犠牲となった仲間達が報われない。

決意と覚悟を固めたリーダーの男性は新たな扉を開ける。

そこは黒だ。

一点の隙間もない黒で覆いつくされた部屋だ。

まるでここは別次元のように思わせる闇の世界。

「………」

リーダーの男性はゴクリと生唾を飲み込んで一歩その部屋に入ると不意に扉がしまう。

「お、おい! なんだこれ!! おい! 開けろ! 開けてくれ!!」

闇の世界に閉じ込められた男は扉を何度も開けようと、壊そうともするが決して開くことも壊せることもなく、リーダーの男性はただ闇の世界の住人となった。

 

 

 

 

 

 

「盗賊か…………」

自身の魔工房(アトリエ)に足を運んだミクロは通路に倒れている亜人(デミ・ヒューマン)たちを見てそう呟いた。

気を失っている者、膝を抱えて恐怖に震えている者もいるなかでミクロは閉じ込められている部屋を開けるとそこには盗賊団のリーダーを務めていた男が魂が抜けた人形のようになっていた。

「後で【ステイタス】を暴いてセシシャに送るか…………」

きっと多額な請求をその【ファミリア】に叩きつけるだろうと予測したミクロは盗賊団を一箇所に集めて自身の作業場に向かいながら首を傾げる。

追い返す程度に弱めてあるのにあそこまで怖がるものなのか? と思った。

そもそもこの(フロア)は今回のような盗賊を追い返す程度の罠しかない。

本命は下にある。

ミクロは適当な部屋に入ると襲いかかってくる武器や魔法攻撃を回避しながら奥にある窪みに開閉ようの魔道具(マジックアイテム)を差し込む。

そこに扉は開かれて階段が姿を見せる。

この(フロア)の部屋にはどこにも下に通じる通路が存在している。

専用の魔道具(マジックアイテム)がない限りは目的の部屋には決して辿りつけはしない。

階段を下りて辿り着く大扉を開けてミクロはその中に入る。

「もう少し…………」

大型容器(フラスコ)の中にある七つの武具を見据えながらミクロは作業に取り掛かる。

 

 


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