路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three04話

【アグライア・ファミリア】で行われている入団試験。

その試験を乗り越えて【ファミリア】に入団しようと奮闘する入団希望者達。

だが、その試験はあまりにも難関だった。

「はぁ………はぁ…………」

剣と盾を構えながら呼吸を荒げる入団希望者であるファーリス。

その近くで同じように呼吸を乱す入団希望者達の視界に映る人の姿をした水の『守護獣(ガーディアン)』ディーネの終始変わらない微笑みは今にはおぞましく見える。

ミクロが新たな発展アビリティである『創造』により創り出した『守護獣(ガーディアン)』であるディーネは水そのもの。

斬撃、打撃、殴撃も物理攻撃が一切通用しないディーネに悪戦を強いられる。

魔法なら、と考える人もいるだろう。

だが、ファーリスを初めとするこの場にいる入団希望者はまだ『恩恵(ファルナ)』を授かっていない。

魔法もスキルもない。素の己の力でディーネを攻略しなければならない。

「ヤァァァァァッ!!」

「止せ!」

アマゾネスのニーチャが双剣を持ってディーネに接近し、渾身の袈裟斬りを放つ。

だが、それも意味を成さないようにディーネの身体を通り抜ける。

「では、こちらも」

手に少量の水を出してそれをニーチャに放つ。

「やばっ!」

先程から何度も見たその水に焦るニーチャを庇う様にファーリスが盾を構えた状態でニーチャの前に立つ。

だが、水を受けたと同時に二人とも一緒に吹き飛ばされる。

「あっ!」

「うっ!」

少量の水のはずなのにまるで衝撃波でも受けたように二人を軽々と吹き飛ばしてしまう。

ディーネの背後からナイフとメイスを両手持ちしたアイルーと棍棒を振り上げる冬楼が二人で攻撃をするも手ごたえはない。

「くっ!」

遠距離から弓矢を使い、矢を放つティコの矢はディーネの額から通り抜けてしまう。

「いい加減に腹が立つニャ!」

「……同意しますよ」

攻撃が全く通じないことに憤りを覚えるアイルーの言葉に渋い顔で同意する冬楼。

完全に物理攻撃を無効化にするディーネに戦意すら失い始める。

こんな相手にどうすればいいのかと、諦念を滲ませる。

そんな入団希望者達にディーネは容赦はなかった。

両手から水を上空に放出し、その水が鋭利の刃になる。

「アクアレイン」

「避けろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

ファーリスが全員に向けて叫んだ。

降り注ぐ水の刃が雨のように降り注がれる中で、身軽な者は回避し、盾を持つ者は盾で防御を取る。

不運か幸運か、【ファミリア】で用意してくれていた武具のなかには盾もあった。

咄嗟の判断に盾を手に取れたのは運が良かったのだろう。

だが、損傷(ダメージ)は免れなかった。

その身に幾重にも傷を負い、血が流れて地面に垂れる。

絶望的。それがファーリス達入団希望者が抱いている気持ちだ。

それだけディーネという存在が強すぎる。

降参(ギブアップ)をするなら言え。傷を治してやる」

ここでミクロが入団希望者達に降参(ギブアップ)を認めた。

しかし、それは降参(ギブアップ)をしたら失格するようなもの。

覚悟を持って【ファミリア】の門を叩いてあと一歩のところで諦める訳にはいかない。

「私は………ここで屈するわけにはいかないッ!」

立ち上がってその瞳に再び増え上がる戦意を宿すファーリス。

勇ましいとさえ思えるファーリスのその姿に他の入団希望者達も鼓舞される。

ディーネはそのファーリスに手を向けて水を放つ。

向かってくる水の攻撃にファーリスは盾を構えてその攻撃に備える。

「ヌンッ!!」

だが、ファーリスの前に大盾を持った同じ入団希望者のドワーフが防いだ。

「………すまねえ、腑抜けなオラ達を許してくれ」

ミクロから『勇気』を試されてその一歩が踏み出すことが出来なかったドワーフだが、動いたのはドワーフだけではない。

手斧を持って振り払うエルフに震えながらハンマーを持って守らんとばかりにティコの前に立つ小人族(パルゥム)。槍でディーネを突き刺す人間(ヒューマン)

動けなかったはずの四人が武器を持ってディーネに立ち向かっていた。

「貴方方は失格になったはず…………」

ディーネと戦う為に一歩を踏み出すことが出来なかったドワーフ達は失格のはず。

これでは試験そのものが滅茶苦茶だ。

「俺はそいつらが失格とは一言も言ってはいない」

ファーリスの言葉を返すようにミクロが口を開いて気付いた。

確かにミクロは一言もドワーフ達を失格とも、出て行くように促してもいない。

「強敵を前に怯まず戦いに挑むのも『勇気』。だけど、無謀に立ち向かずに踏み止まることが出来るのもまた『勇気』」

一番してはいけないのは無謀とわかっていても立ち向かうこと。

ここにいる入団希望者達はその行動を誰一人していない。

だからミクロは誰一人も失格とは告げていない。

「そして、強敵とわかっていても誰かの為に戦いに身を投じることが出来るのもまた『勇気』だ」

『勇気』とは一つではない。

ここにいる全員がそれぞれの『勇気』を示した。

「これで第二の試験である『勇気』は全員合格だ」

ここでミクロは初めて合格を口にする。

「さて、ここで全員に問いかける。もう嫌という程にディーネの強さを知ったはずだ。その上で言わせてもらう。ディーネに勝つ自信はあるか?」

 

『ある!!』

 

全員が異口同音に発した。

その瞳には強い意志の炎を宿し、その手に持つ武器も使い手達の意思と同調するように、鋭い光沢を放つ。

この場にいる誰もが諦めるという選択の意思は感じ取れなかったミクロは一度頷く。

「では、ここにこの場にいる入団希望者達の【ファミリア】の入団を認める」

この場にいる九名全員の入団を認めるミクロに入団希望者達は唖然とする。

「最後の試験内容は『不屈』の精神(こころ)。勝つことを、生きることを諦めずに立ち向かうその精神(こころ)は冒険者にとって必要なことだ」

『覚悟』 『勇気』 『不屈』。

どれもが冒険者として必要なこと。それをミクロは確かめたかった。

「改めて名乗ろう。俺の名はミクロ・イヤロス。この【アグライア・ファミリア】の団長を務めている。今日からお前達の団長でもある。よろしく頼む」

改めて名を名乗って新人達に挨拶するミクロにファーリス達は数秒の戸惑いを見せながらも合格を実感して笑みを浮かばせてミクロに頭を下げた。

『よろしくお願いいたします! 団長!』

「ああ、よろしく」

ここで【アグライア・ファミリア】の入団試験で合格した九名は【アグライア・ファミリア】に入団することができた。

「ディーネもご苦労」

「いえ、また何かご命令があればお呼びくださいませ。ミクロ様」

一礼してミクロの指に嵌めている指輪へと戻るディーネを確認してミクロは窓際からこちらを見ているセシルに声をかける。

「セシル、ファーリス達をアグライアのところへ連れて行ってくれ。ベル達は片づけを手伝うように」

「は、はい!」

「わかりました!」

ドタバタと慌てて動き始めるベル達にミクロは新人達に告げる。

「アグライアから『恩恵(ファルナ)』を刻まれたら食堂へ行くように。ギルドに報告するなどは明日だ」

新人歓迎会の準備は既にアイカ達の手で終わらせている為にそれが無駄にならずにすんだ。

今回は九人という予想よりも多いが、それだけ優秀な新人が増えたということだ。

明日からは新人達の実力を測ると言いたいが、ミクロ自身することが多い。

普段の団長としての仕事もあれば、今はベルの専用武器(オーダーメイド)にも集中したいのが本音だ。

一人一人見ていたらそれどころではない。

そこでミクロは閃いた。

「セシル達にもいい練習になるか………」

思いついたその方法にミクロはどのようにするかを思案している時、セシルは不意に寒気に襲われる。

「………なんだろう、凄く嫌な予感がする」

セシルの敏感な危機感がそれを感じったその翌日にそれは当たったのだが、この時のセシルはまだ何も知らない。

 


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