【アグライア・ファミリア】の
その数は五十を優に超えて今も増え続けている。
「うわぁ………こんなに……」
「流石は大派閥ですね」
「ああ、こうも見せられたら改めてこの【ファミリア】の凄さを思い知らされるぞ」
今日は【アグライア・ファミリア】の入団試験の日。
一定の周期で開かれるこの入団試験に多くの入団希望者が集る。
「流石に前回より多いね………」
「ま、団長がLv.7になって三大派閥って呼ばれてるんだ。仕方ねえよ」
「どれぐらい入団できるのだろうね」
見慣れた入団希望者を観察しながらどれだけ入団できるかと考えるセシル達も見守る様に入団希望者達を眺めていた。
「セシル、入団希望者ってこんなにも集まるものなの!?」
「う~ん、【ファミリア】によるけどうちはこれぐらいは希望者は集まるよ」
セシルが入団した時からもこのように入団試験は何度もあって見てきた。
大体は五十前後だが、今回はそれを超えているのも無理はない。
【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】に続いた新たな最強派閥として頭角を現した【アグライア・ファミリア】。その団長であるミクロがオラリオで二人目のLv.7になったのだからそれは当然だ。
「まぁ、でも、半数以上は失格になるけどね」
「え……?」
集まっている入団希望者の半数が消えることをあっさりと告げるセシルに口を開けるベルにスウラが説明を促した。
「ベル、うちと【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】の違いはなんだかわかるか?」
「え、う~ん…………」
「
「あ…」
「あ~、そういうことか………」
スウラの質問に考え込むベルの代わりにリリがそれを答えた。
「そう、リリルカの言葉通りにうちは団長が作り出した数多くの
「そんな奴は団長やアグライア様が入団を認めはしねえが、しつこい奴はしつこいからな」
毎回のように集まるコソ泥紛いに若干呆れながらそうぼやく。
「世間では【覇者】の寵愛など言っている人もいるけど……むしろ逆だよ、地獄だよ」
「セ、セシル………?」
表情を青ざめて体を震わせるセシルにベル達はたじろぐ。
「あー、気にすんな。セシルは団長の実験によく付き合わされたから」
新しい
その度にセシルは心身を削られ、いつしか
当の本人はそんなことに気付きもしていないが。
「入団できるのはよくて十人だと思うが………おっと、時間か」
入団試験開始の時間となって正門が開かれると団員達の指示に従い、入団希望者達は中庭の方へ向かっていく。
入団希望者達が集まる中庭にミクロが姿を現す。
【アグライア・ファミリア】団長、ミクロ・イヤロス。
神々から授かった二つ名は【覇者】。そのLv.7。
紛れもない都市最強の一人と名高いミクロの登場にざわめく入団希望者達にミクロは口を開く。
「まず、数多くの【ファミリア】の中からこの【ファミリア】を選んでくれたことに感謝の言葉を述べる。知っているとは思うが、改めてこの場を借りて名乗らせてもらう。俺はこの【ファミリア】の団長を務めているミクロ・イヤロスだ」
自分の口から改めて名乗りを上げるミクロに入団希望者達は唾を飲み込む。
都市最強の一人が目の前にいる。それだけで緊張が走るのは当然だ。
「さて、入団試験を始める前にまずは知ってもらいたいことがある。【アグライア・ファミリア】は
自派閥の説明を入団希望者達に促す。
「そこで今回は試験内容は三つに分けることにした。その三つの試験に合格を与えられた者はこの【ファミリア】の入団を認める」
その言葉に意気込みを上げる者、口角を上げる者、後退りする者など多種多様の反応を示す入団希望者達にミクロは早速と最初の試験に移る。
「最初の試験はお前達の冒険者になる為の『覚悟』を試させて貰う。自分の目的、願いの為に命を賭けれるかを」
その瞬間、ミクロは殺気を入団希望者達に向けて放った。
『―――――――――――――――――――――――っ!?』
その殺気にベル達は思わず己の得物に手を伸ばしてしまう。
加減はしていてもミクロの殺気に入団希望者達の殆どは意識を失うか、腰を抜かし、中には失禁している者もいる。
甘い考えを持っている者や、下心を抱えている者はそこで心が折れる。
それでも大地に足をつけて二本足で立っている者達もいる。
ミクロの殺気に当てられて息を荒げて、脚を震わせてもそれでも立っている。
「今、立っている者は合格を言い渡す。それ以外は失格だ。ここから出て行くように」
走る様に去って行く失格者達、気絶している者は団員達が介抱に回った。
五十以上はいた入団希望者はあっという間に十人を切った。
残された入団希望者は九人。
その九人に向けてミクロは拍手を送る。
「よく耐えた。その覚悟を持って最後まで残ることを期待する」
「では、次の試験に移る。ドワス、カイドラ」
ミクロに呼ばれた二人は予め指示を受けていた通りに数多くの武具を持ってこさせる。
「自分の得物を持って来ているとは思うけど、使いたければこの武器を好きに使えばいい。そして、察していると思うけど次の試験は戦ってもらう」
「――――――失礼。質問をしてもよろしいでしょうか?」
「ああ」
挙手をする頭部を除いて
「戦うと仰っておりましたが、もしかして相手は貴方でしょうか? 『
その通りだと言わんばかりに他の入団希望者も深く頷く。
例え『
そんな相手に勝ち目などない。
「安心してくれ。戦うのは俺じゃない」
「ではどちらの方が?」
ミクロは
蒼い輝きを放つ宝石が埋め込めれているその指輪に入団希望者達だけではなく、行く末を見ていたベル達も怪訝の表情を浮かべていた。
「出でよ、『ディーネ』」
指輪から水が放出して生きているかのように蠢いて形と成す。
その光景に驚愕し、目を見開く入団希望者達とベル達。
それは童話などに出てくる『精霊』のようだった。
水が少女の姿と形と成して、確かな微笑みを入団希望者達に向けた。
「ミクロ様。本日はどのようなご命令を?」
『しゃ、喋ったぁぁぁぁあああああああああああああああああああああっっ!!』
入団希望者、団員問わずにディーネの姿を目撃した者達全員が驚きの声を上げた。
「セシル、あれなに!?」
「お前なら何か知ってるだろう!?」
「し、知らない!? 私だって初めて見るよ!!」
ミクロの弟子であるセシルに説明を要求するベル達だが、セシルは何も知らされてはいない。
それも当然、ミクロが公の場でディーネを出したのは今日が初めて。
アステリオスとの戦闘で【ランクアップ】した心身のズレを調整したミクロは新しい発展アビリティである『創造』がどのような能力かを試した。
だが、それは主神であるアグライアでさえ言葉を失うほどの能力だった。
それは生命の創造。
生命を創り出せるその発展アビリティ『創造』により、創られた最初の作品が『ディーネ』。
魔法とは異なる新たな力を手に入れたミクロはこれを『
ミクロはいまだに驚愕に包まれている入団希望者に言う。
「お前達の相手はこのディーネだ。ディーネ」
「はい」
ミクロは大剣を宙に放り投げるとディーネの手から水の斬撃が放出されて大剣を真っ二つにした。
「ご覧の通りディーネは水を自在に操ることが出来る。更に全身が水で出来ているから物理攻撃は何の意味もなさない。二つ目の試験内容は『勇気』。ディーネを前にして戦う意志のある者は前に出ろ」
鉄の塊である大剣すらを容易に真っ二つする力を持つディーネは微笑みを浮かべたまま。
だが、前へ出るだけならと一歩踏み出そうとする時。
「前へ出た奴は実際にディーネと戦ってもらう。加減はするが、それで死んでも文句を聞くつもりはない」
その言葉に足が止まる。
人間ではない得体のしれない相手。それも物理攻撃が意味を成さない相手にどう戦えばいいのかもわからない。
それも死ぬかもしれない戦いに身を投じていいのか?
ダンジョンに潜る前にこんな試験で命を散らしたくはない。
入団希望者はその一歩が出せない。
だからこそ、試されている。
これからダンジョンに潜る度に訪れる強者との戦闘に必要な『勇気』を。
ザッと一歩を踏み出したのは五人。
先程、ミクロに質問を投げた
その五人は『勇気』を示した。
残りの四人が動けないのを確認してミクロは五人に尋ねる。
「お前達の名前は?」
「私はファーリス・シュヴァリエと申します」
金髪に翡翠色の双眸で剣と盾を構える
「あたしはティコ・ドリヤースです」
薄緑色の長髪を後ろで一つに束ねている髪と同じ瞳をしたエルフのティコは弓矢を持つ。
「二ーチャはニーチャだよ!」
黒髪黒眼のアマゾネスの少女は双剣を持って意気揚々と構える。
「うちはアイルー・マオだニャ。覚えておいて、団長♪」
能天気に笑みを浮かべるアイルーはナイフを持ち、腰にはメイスがある。
「私の名はヤエ・
金の短髪に金色の尻尾を持つ冬楼は棍棒に力を入れる。
ここまで女性だけが残ったことに遠目で見ていたリオグははしゃいでいたが、ファーリスたちは当然それどころではない。
目の前にいる今も微笑みを浮かべているディーネと戦わなければ入団できない。
「では、始め」
ミクロの言葉を合図に五人は一斉にディーネに向かう。