【ロキ・ファミリア】の応援として駆け付けたミクロは
『ギイィ!?』
見たことない新種のモンスターにも槍で穿ちながらミクロは次の
歩みを止めることなく前へ進んでいくと不意にミクロの歩みが止まる。
「……まさかお前までここに来るとはな」
鮮血のごとき紅い髪に緑の双眼を持つ女性。
以前にミクロに18階層で敗れた
「ここはなんだ?」
「『クノッソス』……奴等はそう呼んでいる」
「何の為にこんな迷宮を?」
「知らん。知りたければ自分で探せ」
答える気はないと言外で告げるレヴィスは長剣を構えるとミクロはその長剣に付着している血に気付いた。
「その血は誰のだ?」
「……ああ、
長剣を見下ろしながら告げるその言葉にミクロはフィンの命が危険に迫っている事に気付いた。
レヴィスが持つ長剣は間違いなく
どのような
槍を構えるミクロにレヴィスが冷ややかな声で告げる。
「18階層の借りを、返しておくぞ」
瞬間、レヴィスは瞬時にミクロの眼前へ急迫した。
薙ぎ払う長剣を槍で防御するが、威力、速度が18階層の時とは比べ物にならないほどの戦闘能力が上昇していることに気付いた。
レヴィスは
魔石を喰らうことで強くなる。
強くなっている事を理解したミクロは次の攻撃が来る前に攻撃を仕掛ける。
攻撃を仕掛けるミクロの槍をレヴィスは難なく弾く。
交差する剣と槍。
純粋な力と速度でミクロの槍術に対応して切り結ぶ。
「得物を変えたのか」
「ああ」
鍔迫り合いで短く言葉を投げ合う二人は一瞬たりとも相手から眼を離さない。
「だが、無駄だ」
「っ!?」
鍔迫り合いの状態からレヴィスが力任せにミクロの槍を上空に弾かせた。
純粋な力で圧倒するレヴィスに負けてミクロの手から槍は離れた。
「死ね」
無防備となったミクロに猛烈な弧を描いた黒き剣身がミクロの身体を切り裂いた。
はずだった……。
「悪いが死ぬつもりはない」
瞬時に腰に携えている梅椿とナイフを手に持ってレヴィスの攻撃を防いだミクロは長剣を弾いてレヴィスの懐に潜り込む。
「チッ!」
距離を取ろうと一気に後ろに跳ぶレヴィスにミクロは不意に姿を消した。
視界から消えたミクロに一瞬だけ戸惑うレヴィスの背後からミクロは姿を現してレヴィスの背中を切り刻む。
「ぐっ……こ、のッ!」
自身の背後にいるミクロに剣を薙ぎ払うがそこにミクロの姿はない。
ミクロに切り刻まれた身体は自動で治癒していくなかでレヴィスより少し離れた場所、槍を拾っているミクロが影から姿を現す。
『スキアー』は影移動を可能とする
影が多いこの迷宮では『スキアー』の性能を完全に発揮できる。
「チッ、面倒な……」
舌打してミクロの
「くっ……」
相手の反撃する暇も与えない怒涛の連続突きにレヴィスは剣で弾こうとするが、そうなる前にミクロが槍の矛先を変えて確実にレヴィスの身体を刻んでいく。
「お前は確かに強くはなっているがそれは戦闘能力だけだ」
それに対してミクロは18階層でレヴィスと勝利してからも多くの戦闘をこなして強くなっている。
特に対人戦闘に関する観察力と洞察力はずば抜けて高い。
「お前はフィンより弱い」
ミクロはフィンがレヴィスに負けたとは思っていない。
戦闘能力が上昇していてもそれだけで勝てる程フィンは甘くないことは知っている。
少なくとも一対一でフィンがレヴィスに負けるはずがないと踏んでいる。
それでもフィンに傷を負わせられることが出来たのは何らかの躊躇いがあったのかだ。
「俺達を甘くみるな」
破砕音。
ミクロの槍がレヴィスの長剣を破壊した。
「【駆け翔べ】」
「!?」
そこで追い打ちをかけるようにミクロは風でレヴィスを通路の奥へ吹き飛ばした。
吹き飛ばした先には金髪の剣士アイズがいた。
「ミクロ……」
「アイズ。よかった」
ようやく【ロキ・ファミリア】の団員であるアイズに遭遇することが出来たミクロはこの部屋に入るとドクンと血が騒めいた。
設置された七つの
59階層でアイズ達と共に倒した女体型の精霊と全く同じだった。
「宝玉はどこにある……?」
「……この迷宮のどこかに潜んでいる。探してみろ、できるのなら、な」
傷が治癒されて立ち上がるレヴィスにアイズも剣を取る。
「アイズ、二人がかりで確実にあいつを倒すぞ」
「うん」
手を組む二人は詠唱を口にする。
「【駆け翔べ】」
「【
互いに風を纏う二人にレヴィスは腰に佩いているもう一振りの長剣を引き抜いてミクロに視線を向ける。
「言い忘れていたが、ここには
「問題ない」
心境を惑わすレヴィスの言葉をミクロは当然のように答える。
「俺の仲間は強い。もしいるとしてもらやり過ぎないかどうかが問題だ」
俺と違って手加減が下手だからと付け加えて言うミクロの言葉には絶対の信用と信頼がある。
「特にリューと戦っているのなら同情する」
「なっ!?」
確かにリューに自身の蹴撃を炸裂させたはずが、そこにリューはいなかった。
瞬きをするようなことはしない、確かにリューを捉えて蹴撃を与えたはずがそこにリューの姿はいなくなった。
「ここで貴方と戦えることが出来てよかった……」
「テメエ!何しやがった!?」
無傷で悠然と立っているリューにヴォ―ルは怒声を飛ばすがリューは悠然とした態勢で木刀を手に持つ。
「どうやら今の私なら貴方方、
「調子に乗るな!!」
再び加速するヴォ―ルは壁を跳躍して更に速度を増して今度こそリューに攻撃を食らわせるはずが、その身体を通り抜けてようやく気付いた。
「残像か!?」
「その通りです」
「ガッ!?」
横からヴォ―ルの横腹を木刀で一撃与えるリューは以前行ったシャルロットとの訓練を思い出していた。
『駄目ね』
『くっ……』
完敗したリューにシャルロットはダメだしする。
『速度は大したものよ、並行詠唱だってリューちゃんほどできる冒険者はそうはいないでしょう。でも、リューちゃんは正直過ぎるの』
高速戦闘を行い、並行詠唱を用いるリューの戦闘方法は悪くはないがそれはモンスターならではの話で対人ではそこまで脅威ではない。
付け加えるのならリューの動きは正直過ぎて非常に読みやすい。
真っ直ぐ過ぎるリューの性格が自身の速度に枷を付けている。
『それに高速で動いてもそれを対処する方法はいくらでもあるのよ?足を封じられたらもう終わりだし、並行詠唱だって封じられてしまうも同然よ?』
魔法でもスキルでも動きを封じる、殺す方法はある。
『更に言えばリューちゃんより速い冒険者がいたとしたらまず速度では敵わない。それならリューちゃんはどうする?』
『………』
シャルロットの問いに無言になる。
リューは敏捷には自信はある。
だけどその敏捷を封じられて、更には自分より速い冒険者と戦うことになれば自身の長所を活かすことが出来ない。
『自分よりも強い相手と戦う時は頭を使いなさい、技と駆け引きも重要だけど……今のリューちゃんに必要なのは長所を活かす技術と
『……長所を活かす技術と
前者はともかく後者である
苦い顔をするリューを見てシャルロットは苦笑を浮かべた。
『エルフであるリューちゃんに
ミクロは技も駆け引きも
よく動きに騙されて痛感することがある。
『私に認めて貰いたいのでしょう、なら頑張らないといけないよ?それに』
ピシリとリューを指してシャルロットは告げる。
『ミクロの事を守ってくれるのでしょう?』
『――――ッ』
その言葉を聞いたリューは満身創痍の状態で立ち上がり、空色の瞳は真っ直ぐにシャルロットを見据える。
『もう一度……お願いします』
『ええ、来なさい』
「………結局、一度たりとも貴女に勝つことはできませんでした。ですが」
「グゥルアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
突貫するヴォ―ルは自分よりも速いが今のリューにはそれだけだった。
互いに高速戦闘を行う中でリューは足を動かして動きを変化させる。
極東でいう足捌きをリューが身に着けて新たな技術を加えることによって疾風の速度から生み出した自身の残像を作り出す。
それだけなら第一級冒険者なら見破ることは出来るだろう。
そこで
しかし、リューが使える
ただ、視線を別の方向へ動かしているだけ。
普通なら本当に大したことではないだろう。
だけどこれは相手が第一級冒険者だから通用する。
第一級冒険者は技と駆け引きに長け、相手の視線や微々たる動き、反応で相手の先を読んで意識を向けてしまう癖のようなものが戦闘に生じてしまう。
戦い慣れた故に身体が、頭がそう動いてしまう。
ヴォ―ルはリューの視線を見てここへ動くと頭の中で予測し、その方向にも意識を僅かばかり向けている。
故に残像を完全に見破ることが出来ず、攻撃してしまう。
予測した先にもリューはいないことからヴォ―ルは訝しみ、戸惑いが生まれる。
「ガハッ………っ」
それが大きな隙となって生まれてリューの攻撃を受けてしまう。
命懸けのシャルロットとの訓練でリューが身に着けた技術と
相手が強者だから使える、そんな技術をリューはシャルロットから教わった。
「必ずミクロを守り通します」
シャルロットに感謝の念を送り、決意を胸に秘めたリューは歌う。
「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々】」
足元に空色の
「【餓狼よ、飢えろ。その剛牙で嚙み砕け】!」
「【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」
「【リオドゥース】!!」
超短文詠唱から放たれるヴォ―ルの両手に灰色の魔力が帯びる。
ヴォ―ルの魔法、破砕魔法はその魔力に触れたものを破砕させ壊す魔法。
その魔法とヴォ―ルの速度を持ってすれば如何なる敵も
「クソッ!俺の方が速いのにどうして当たらねえ!!」
しかし、それは相手に当たればの話だ。
リューは並行詠唱を行いながらも残像を作り、
ただ速さだけでは駄目だった。
今よりも強くなるには他の可能性も加えなければならない。
愛する人を守る為に。
「【―――――――来たれ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿して敵を討て】」
詠唱を終わらせたリューにヴォ―ルは獰猛に笑った。
「知ってるぜ!?その魔法はよ!」
無数の大光玉を召喚させて一斉砲火するリューの魔法をヴォ―ルは自身の魔法で破壊しようと
魔法を放った瞬間に高速で移動しつつ大光玉を破壊して接近と同時に魔法発動直後の無防備な身体を破砕するつもりでヴォ―ルは笑みを浮かべていた。
「【ルミノス・ウィンド】!!」
放たれたのは無数の緑風を纏った大光玉ではなく、その大光玉を一つに纏めた極大サイズの光玉へと姿を変えた。
これは以前行われた
無数の大光玉を召喚させて一斉砲火させるのではなく、それを一つに纏めることはできるのかと魔力を操作する訓練を行い、完成させた。
星屑を集めて一つの星へと昇華させた魔法の新たな使い方。
笑みを引きつかせるヴォ―ルを無視してリューは『アリーゼ』を使用して上空に駆けて魔法を放った。
「スター・ウィンド」
上空から振り落ちる星にヴォ―ルは哮る。
「クソガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
魔力が帯びた手で受け止めて破砕させようとするが、込められた魔力の質と規模が違う。
「星に呑まれるがいい」
ヴォ―ルは星にその身を呑まれる。
地面に着地するリューは地面に空いた大穴を見てぼやいた。
「私はいつもやりすぎてしまう……」
自身の魔法で開けてしまった大穴から下へ降りるリューは既に意識が絶たれているヴォ―ルの付近に手持ちの
「貴方方に同情はしません。ですが、この敗北を期にどうか自首することを進めます」
だが、ミクロならこうするだろうと思ってそう告げた。
万が一にまた襲いかかることがあってもその時はまた倒せばいい。
「あー!ミクロのとこのエルフ……ええっとリュー!」
「【
「お願い!!」
リューは無事に【ロキ・ファミリア】の団員と接触することが出来た。