路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第13話

「ここが18階層……」

リューと一緒に中層を乗り越えたミクロはようやく18階層へと到達した。

多くのモンスターが襲いかかって来た中層でリューの手助けを受けながら何とか18階層へ到達したミクロは初めて来た18階層に驚いていた。

今までの薄暗いダンジョンとは違い、地上のように明るく輝いていた。

「ここが18階層。また『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』とも呼ばれています」

今までとは違うダンジョンに驚くミクロにリューは説明した。

18階層はダンジョンに数層存在しているモンスターの産まれない階層、安全階層(セーフティポイント)

その階層の天井には無数の水晶が隙間なくびっしりと生え渡り、時の経過により朝、昼、夜を作り出す。

水晶と大自然に満たされた地下世界。

別名、『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』。

「………」

始めて見た18階層の景色にミクロはアグライアに見せられた都市の光景を思い出していた。

都市を見渡したその時と同じ気持ちになった。

その気持ちをどう表せばいいのかはまだわからないがいつかは知りたいとミクロは思った。

「この階層には冒険者が経営している街があります。後で寄りましょう」

一休憩しながらリューは18階層にある『リヴィラの街』についてミクロに説明した。

水晶と岩に囲まれた宿場町、リヴィラの街は冒険者が好き勝手に経営している為、細かい規則(ルール)や領主は存在しない。

宿泊から武器や道具(アイテム)の販売、換金所までやりたい放題。

更には地上の価格より桁が高く何倍もの値段で販売している。

『安く仕入れて高く売る』。

それがリヴィラの街の買い取り所を営む、彼等の合言葉(モットー)

それを聞いたミクロは特に驚きもせず、むしろそうだろうなと納得していた。

基本的冒険者は自分勝手のならず者。

むしろミクロやリューのような冒険者の方が少ない。

「そろそろ行きましょうか」

「わかった」

一休憩が終わるとミクロとリューは森へと入って行く。

リューを先導に森の奥へと入って行くミクロ。

地理を知り尽くしているのか、慣れているのかリューは確かな足取りで前へと進む。

しばらく歩いていると、目的地である墓場へとやってきた。

「ここがアリーゼ達の墓か」

「……そうです」

かつてリューが所属していた【アストレア・ファミリア】の団員達の遺品が埋まっている墓場へとやってきたミクロとリュー。

「彼女達はこの階層が好きだった」

小鞄(ポーチ)から小瓶を取り出したリューはそれを特定の墓に順々に飲ませて行く。

「アリーゼもここに?」

「……はい」

ミクロの言葉を肯定するリュー。

ミクロはリューとアリーゼ以外で【アストレア・ファミリア】の団員とは殆ど話していない。顔を知っている程度。

でも、短い間だけで様々なことを教わったことはミクロは忘れていない。

ミクロはアリーゼ達の墓の前に行くとその場でしゃがむ。

「アリーゼ。お前の約束は果たした」

短く淡々に報告するミクロ。

もうこの世界にはいない死んだ者の墓にこんなことを言っても無駄だろうと思いながらもミクロは取りあえずはそれだけは告げたかった。

コレと言った理由はない。

ただそうした方がいいと思ったからそうしただけ。

フードの内側から小瓶を取り出してリューに見習って酒を墓にかけるミクロはリューに尋ねた。

「リュー。何でお前は墓参りなんかしているんだ?辛いことを思い出すだけだろう」

復讐するほどリューは【アストレア・ファミリア】にアリーゼ達を慕っている。

墓参りする度に辛いことを思い出すだけではないかとミクロは思っていた。

「……確かに。ミクロの言う通りここに来るのは辛い。ですが、今はそれ以上に楽しかった時の記憶も思い出すのです」

リューはミクロに微笑みかける。

「ミクロ。貴方のおかげで私は変われた。ありがとう」

「どういたしまして?」

リューの言葉がよくわからなかったミクロは取りあえずは返事はしておいた。

リューを変えた記憶はミクロにはない。

思ったことをそのまま口にしただけ。

それがどうリューを変えたのかミクロには検討がつかなかった。

「街へ行きましょうか」

「わかった」

墓参りが終えたミクロとリューはリヴィラの街へと足を運んだ。

最初にミクロ達を出迎えたのは木の柱と旗で造られたアーチ門。

上部には共通語(コイネー)で『ようこそ同業者、リヴィラの街へ!』と書かれ、門をくぐると木や天幕で造られた即席の住居や岩に空いた天然の横穴や空洞を利用して作られた洞窟状の商店や宿屋までもあった。

街の光景は概ねリューの説明通りだなと思いながら街中を探索するミクロと付き添うように歩くリュー。

商店を覗き込むと地上の何倍もの値段で売られている。

緊急時以外は買うのはやめておこうとミクロは思った。

リヴィラの街中を探索していると何人もの冒険者達がミクロに視線を向けていたが話しかけてこない限りは放っておこうと決めた。

「おい、お前が【ドロフォノス】か?」

二つ名で呼ばれたミクロは声がした方へと視線を向けると大柄で眼帯をしている大男がミクロに声をかけた。

「何か用?」

「いや、特にコレといった用はねえ。ただ噂の【ドロフォノス】がどんな野郎か気になってな」

眼帯の大男はミクロを見下すようにミクロを見ていた。

「お前みたいなガキが本当に強化種を倒したのか?」

問いかける眼帯の大男にミクロは頷いて応えた。

「どうも信じられねえな……」

「お前が信じる信じないかは俺には関係ない」

「お前じゃねえ。ボールスだ。それに目上にはさん付けしろや」

「ミクロ・イヤロスです。ボールスさん」

名前を明かしたボールスにミクロも名前を名乗り、さん付けをしてその場を去ろうとしたがボールスに肩を掴まれた。

「まぁ、待てよ。せっかく眼帯をしている者同士仲良くしようじゃねえか」

「そこまでにしなさい」

しつこく言い寄ってくるボールスにリューは小太刀をボールスに向けて止めに入った。

「お、おいおい、俺はただ遊ぼうと思っただけだぜ?」

「なら、態度と言葉遣いに気を付けなさい。私はミクロ程加減はできない」

リューはいつもやりすぎてしまう。

昔も今も変わらずに。

リューのハッタリが効いたボールスはミクロの肩から手を離す。

「わかった、わかった。だからソレをしまってくれ」

降参するように手を上げるボールスにリューも小太刀を納刀する。

「んじゃ、改めて俺と遊ぼうぜ?【ドロフォノス】」

「わかった」

了承するミクロにボールスはほくそ笑み。

それにつられるように周囲の冒険者達もニヤニヤと笑みを浮かべていた。

ミクロは実は知らなかった。

自分が【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの記録を塗り替えた噂だけではなく、エルフと犬人(シアンスロープ)を侍らせているマセガキだという噂を。

今も眉目秀麗であるエルフのリューと一緒に街中を歩いている。

嫉妬に燃えたボールスを始めとする他の男性冒険者は世間の厳しさを教えてやろうとミクロを誘った。

酒場へとミクロを連れて行くボールスと一つのテーブルに座るとトランプを取り出した。

「ポーカーは知ってるか?」

尋ねるボールスにミクロは頷く。

「んじゃ、ポーカーで遊ぼうぜ?もちろん賭けもしてもらうぜ?」

「わかった」

卑しい笑みを浮かべるボールスにミクロの了承の言葉を聞いてボールスは内心でほくそ笑み、まだまだガキだなと思っていた。

カードを配り終えてボールスとミクロでポーカーが行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」

大笑いするボールスはテーブルに手役(ハンド)を晒す。

「どうだ!?ストレート!」

「ストレートフラッシュ」

「ぬがあああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

互いに手役(ハンド)を晒して負けたボールスは頭を抱えて絶叫する。

ポーカーを始めて早くも一時間。

現在、ミクロが連勝中

ミクロが無様に負けるところを見ようと酒場に集まっていた冒険者達も今はミクロの連勝に驚きが隠せれなかった。

驚く冒険者の中でリューだけはミクロが勝つことが当然のように頷いていた。

以前にミクロは【アストレア・ファミリア】の団員であった小人族(パルゥム)の少女に賭博(ギャンブル)の勝ち方について教わったことがあった。

更にミクロには何を言われようがされようがぴくりとも動かないポーカーフェイスに冷静な判断力と観察力でボールスの様子を見て騙欺(ブラフ)を繰り返して勝った。

騙欺(ブラフ)が出来る分、ミクロはリューよりポーカーに強い。

そして、今の勝負でもうボールスに残されているのはパンツ一枚だけだった。

ボールスの金も、魔石も、ドロップアイテムも、武具も今はミクロの物となっていた。

「ちくしょうおおおおおおおおおおおっ!このまま負けてたまるか!?最後の勝負は実力で勝負だあああああああああああああああああああああッッ!だから、服と武器を返してください!!」

「わかった」

吠えると同時に丁寧に頭を下げて服と武器を求めるボールスにミクロはあっさりと了承した。

酒場を出て広場へと出たミクロとボールス。

それにつられるように円を作って盛り上げる冒険者達はどちらが勝つかを賭けていた。

「へへ、さっきの負けを取り返してやるぜ」

大剣を構えるボールスにナイフを持つミクロ。

「じゃ、負けたら倍で貰う」

「おう、構わねえぜ!」

ボールスはミクロと同じLv.2。

Lv.だけで言えばどちらが勝つかはわからないが、ボールスはもう何年もLv.2をしている。

まだLv.2になって半年も経っていないミクロにボールスは負ける気がしなかった。

「んじゃ、始め」

リヴィラの街に住む一人の冒険者が合図を出すとミクロは投げナイフを投擲した。

「そんなもん効くかよ!」

大剣で防ぐボールスだが、投げナイフに括り付けられていた煙玉に気付かずボールスを中心に煙が宙を舞った。

「ゲホゴホ!煙玉か!?」

煙幕の中で煙玉の存在に気付いたボールスは周囲を警戒すると右側から小さな影が浮かび上がった。

「――――そこか!」

影が浮かんだ場所に大剣を振り下ろすボールスだが、そこにいたのはミクロが身に着けていたフードだけだった。

「なっ!?」

驚くボールス。

そして、その背後からミクロはボールスを襲う。

まずはフードを投げて隙を作って、ボールスの背後に回ったミクロはボールスの膝裏を蹴ってバランスを崩す。

次にバランスを崩して倒れるボールスの目を塞いで視覚を奪う。

最後にナイフを首筋に押し当てる。

「あ…が……」

呻く声を出すボールス。

煙幕が晴れると冒険者達が見たのはボールスの喉元にナイフを押し当ててるミクロの姿。

「勝負ありですね」

驚く冒険者の代わりにリューが勝敗宣言をするとミクロはボールスを離してフードを拾う。

「まだするか?」

「……いや、俺の負けだ」

素直に負けを認めるボールスに近づくミクロはボールスに手を差し伸ばす。

「身ぐるみ全部貰うからさっさと脱いで」

「へ……?」

「そういう勝負」

呆けるボールスにミクロは淡々と告げる。

ポーカーの代わりに行った勝負。

それにミクロが勝ったら倍で貰うという言質も獲得している。

つまりボールスは自分が身に着けている全てをミクロに譲渡しなければならなかった。

「た、頼む!男ボールス一生のお願いだ!金は渡すから装備だけは勘弁してくれ!!」

「賭けはそっちから申し込んだ。倍で貰うとボールスさんは了承した」

懇願するボールスにミクロは眉一つ動かさなかった。

「貰う物は貰う」

ボールスの服を掴むミクロに男の尊厳を守るために抵抗するボールス。

その後、リューが止めに入ってボールスの装備だけは見逃して、ミクロ達が宿で一泊する分の代金を支払うで手を打った。

宿で一泊したミクロとリューは18階層を出て地上へと戻って来た。

本拠(ホーム)へと帰ろうと足を動かすミクロとリューにティヒアが慌てて駆け寄って来た。

「ミクロ!リュー!ナァーザがッ!」

 

 

 


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