路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New54話

【ミアハ・ファミリア】の本拠(ホーム)

その奥の部屋でリューは匿って貰っていた。

今朝のミクロの発言で羞恥心のあまり飛び出して仲が良いナァーザ達に匿って貰っている。

「………」

事情は知らされていないナァーザでもリューの顔を見たら絶対にミクロ絡みだとすぐにわかった為に何も言わず、何も聞かずリューを匿っている。

「ナァーザ」

「……ミクロ」

店番をしているとミクロが本拠(ホーム)に尋ねて来た。

「リュー、いる?」

「………うん、奥にいるよ」

奥の部屋を指すナァーザにミクロはその部屋に行こうと足を運ぶがナァーザがミクロの肩を掴んで止めに入る。

「でも、今はそっとしてあげて」

「わかった」

友達であるナァーザの言葉に素直に頷くミクロはリューの部屋の近くの壁に背を預ける。

リューが部屋から出てくるまでここで待つと言わんばかりに。

「何があったか聞いてもいい……?」

尋ねて来るナァーザにミクロは今朝の出来事を全て話すとナァーザは納得するように息を吐いた。

リューがああなるのも無理はないと内心思いながらミクロらしいとも思い、納得してしまう。

「ミクロは……リューのこと好き?」

その問いにミクロは頷く。

「じゃあ、私は?」

「好きだよ」

「……ん、私もミクロのこと好きだよ」

あっさりと好意を伝えるミクロにナァーザも好意を伝える。

「じゃ、愛してる……?」

「愛?」

聞き返すミクロにナァーザは頷いて肯定する。

「リューがミクロ以外の男の人と話してて胸がもやもやしたりとか、一緒にいるとドキドキするとかそんなことはある?」

「………」

ナァーザの言葉に考えるミクロにナァーザは続ける。

「この人は誰にも取られたくないとか、独り占めしたいとかそういうことはある?」

言葉を続けるナァーザにミクロは真剣に考える。

「………リューと一緒にいると安心する」

だけどそれは親愛故か恋愛かどうかはミクロにはわからない。

それでも十分だと言わんばかりにナァーザはミクロの頭を撫でてリューがいる部屋に視線を送る。

きっと聞こえただろうと思いつつ面倒のかかる(ミクロ)を慰める。

『【ファミリア】同士の抗争だ!』

『【アグライア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の団員が戦っている!』

「「ッ!?」」

店の外から聞こえてくる慌ただしいその言葉に二人は目を見開く。

「リューを頼む」

ミクロはそれだけを告げて現場に駆け付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュアキントスは主神であるアポロンに身も心も捧げている。

主神の命であれば如何なることでも成し遂げられる。

今回も主神の命によってヒュアキントスは団員を使ってベル・クラネルを襲わせた。

入念に【アグライア・ファミリア】の団員を調査させて自分よりLv.が上の者がいない機会(タイミング)を見計らって襲わせた。

計画は予想通り上手く行った。

後は厄介な【覇者】が来る前に二人をある程度痛めつけて終わらせるつもりだった。

そのはずが―――。

「ぐッ」

痛めつけられているのは自分だった。

「ぺッ」

先程の攻撃を頬に受けて口の中を斬ってしまったセシルは口の中に溜まった血を地面に吐き出すが大したことがないように悠然としていた。

地面に膝をついているヒュアキントスをセシルは怒気が含めた瞳で一瞥して告げる。

「……その程度?」

「舐めるなっ!!」

挑発を受けて立ち上がるヒュアキントスはセシルに拳撃を放つがセシルは冷静にそれを受け流してヒュアキントスの腹部に膝蹴りを食らわせる。

「ガハッ」

強烈な一撃を腹部に受けて血反吐を吐き出すヒュアキントスの思考は何故こうなったという疑問だった。

セシル・エルエスト。

ヒュアキントスはもちろんセシルに関する情報もしっかりと集めた。

【覇者】ミクロ・イヤロスの弟子で、かの【剣姫】と同じ一年で【ランクアップ】を果たした大鎌の使い手。

インファント・ドラゴンを単独で討伐、数日前は【ロキ・ファミリア】と共に【アグライア・ファミリア】の遠征メンバーとして同行。

詳細までしっかりと自身の団員に調べさせた。

そして、ヒュアキントスはたいしたことないと判断した。

元より【アグライア・ファミリア】は【覇者】ミクロ・イヤロスで有名な派閥(ファミリア)。それ以外の者の噂は大して聞いたことがない。

【覇者】の実力はヒュアキントスも認めているが、それ以外は【覇者】の寵愛――魔道具(マジックアイテム)によって自身が強者と勘違いしている者ばかりだろうと判断。

その中で一番の【覇者】の寵愛を受けているだろうセシルは自身と同じLv.3だとしても積み重ねてきた実力と才能が違う。

容易に倒せれるはずなのにどうして自分が地面に膝をつくはめになっているのかわからなかった。

「………その程度でよくもお師匠様を貶すことが出来たね」

「ガッ!」

膝をつくヒュアキントスの顔面を蹴り上げるセシルは心は怒りに呑まれても頭は冷静だった。

セシルはずっとミクロの下で過酷な鍛錬をほぼ毎日行ってきた。

自身の得物である大鎌だけでなく、体術だって鍛え上げられている。

才能がない代わりに努力を重ねて自力を上げてきたセシル。

例え相手の方が才能が上回っていたとしても積み重ねてきた努力が違う。

「セ、セシル……」

セシルの後ろで他の【アポロン・ファミリア】を打倒し終えたベルはセシルの様子を見て驚愕に包まれる。

入団してから快く自身の模擬戦に付き合ってくれるセシルの実力はわかっていたつもりだった。

だが、改めて自分とは実力差が違うと思い知らされた。

「………ッ!」

男である自分がまた守られている。

それも自分とほぼ同年代の女の子に守られている事にベルは自分はまだまだ弱いと思わざるをえない。

もっと強くならないと……とセシルを見てベルは覚悟を決め直す。

「クソッ………」

言葉を吐き捨てながら何とか立ち上がるヒュアキントス。

だが、立ち上がったと同時にセシルは接近してヒュアキントスを地面に叩きつける。

「ガ―――」

「立ちなよ、まだ意識はあるでしょう?」

淡々と告げるセシルは再びヒュアキントスが立ち上がるのを待つ。

相手の傲慢という誇り(プライド)を打ち壊すつもりでセシルは身体ではなくヒュアキントスの心を壊しにかかる。

自分が他人より強いと勘違いして、他人を見下す馬鹿(ヒュアキントス)をここで終わらせる為に。

「それともさっきの言葉を撤回して頭を垂らして謝るなら許してあげるよ?」

「ふざけるなっ!私は【アポロン・ファミリア】団長だぞ!!」

知ってる。

だからそう言った。

こういう奴にこう言えば下らない誇り(プライド)を守る為に自身の言葉を否定することぐらい容易に想像できた。

周囲に人だかりが集まる、中には娯楽に飢えた神々が盛り上げようと言葉を投げてくるが今のセシルにそんなことはどうでもいい。

目の前のこいつ(ヒュアキントス)は自身が尊敬する人を貶した。

それだけは決して許せない。

怒りを拳に乗せてヒュアキントスに拳砲を放たんとするセシル。

「止めろ」

そこにミクロが止めに入った。

「お師匠様………」

師であるミクロの登場に一瞬怒りが収まるがセシルは止まらない。

「離してください!こいつは私達を罠に嵌めてお師匠様を貶す発言をしました!」

「それでお前が傷ついていい理由にはならない」

怒るセシルを宥めるように頭に手を置いて撫でる。

「ベルを守って、俺の為に怒ってくれてありがとう。でも、ここで終わりだ」

「………はい」

ミクロの言葉にしぶしぶ従うセシルにミクロは地面に膝をついているヒュアキントスに近づく。

ゴッ!!という音が周囲に響き渡ると拳を振り上げていたミクロとその先に壁に頭から突き刺さっているヒュアキントス。

それを見た野次馬は一斉に静まり返ったなかでミクロは他の【アポロン・ファミリア】の団員に告げる。

「これで勘弁してやる。次はお前達の【ファミリア】を滅ぼす。行くぞ、セシル、ベル」

「は、はい……」

「し、死んでませんよね………?」

壁に突き刺さっているヒュアキントスを見て顔を青ざめるセシルとベルはやり過ぎだと思ってしまうがその容赦のなさでこの場にいる他の派閥(ファミリア)までも顔を青ざめる。

「仮にもLv.3だ。あの程度で死ぬ訳がない」

それぐらいの加減はすると告げるミクロ。

むしろ、【ファミリア】を潰しに行かないだけまだ感謝して貰いたかった。

セシルが自分の為に怒ってくれて嬉しく思ってミクロの気分が良かった為に【アポロン・ファミリア】は滅ぼされなくて済んだ。

しかし次はないとしっかりと忠告までするのはミクロの優しさだと思って貰いたい。

ミクロ達が進む道を野次馬達は道を空ける。


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