路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第11話

「それじゃあ、近い内に中層に行くの…?」

「魔法も覚えたし、リューとティヒアと一緒に今度、中層に行くことになった」

【ランクアップ】したミクロとティヒアは【ミアハ・ファミリア】の本拠(ホーム)へと来ていた。

「そっちが新しい【ファミリア】の…」

「ティヒア・マルヒリーよ。派閥は違うけど同じ犬人(シアンスロープ)同士仲良くしましょう」

「……ナァーザ・エリスイス。こっちこそよろしく」

挨拶し合うナァーザとティヒア。

だけど、ナァーザはティヒアとミクロの距離を見てすぐにティヒアがミクロに抱いている気持ちが理解出来た。

「応援してる…」

「……ありがとう」

気持ちを察してくれたナァーザにティヒアは小さく礼を言う。

「頑張って……」

同じ犬人(シアンスロープ)としてティヒアを陰ながら応援しようと思ったナァーザ。

ティヒアの恋敵(ライバル)である主神のアグライアは神でその上美の女神でもある。

しかも、もう一人は眉目秀麗で実力も兼ね備えているエルフのリュー。

女神とエルフだけで勝てる可能性が低いのに発現させたミクロの魔法を見て気持ちがそちら側に傾いている可能性が高い。

振り向いて貰えるように頑張ろうとティヒアは心に深く刻み込んだ。

『おい、あのガキ…』

『ああ、間違いねえ。【剣姫】の記録を塗り替えたミクロ・イヤロスだ』

ミクロ達以外のポーションを買いに来た他の冒険者達がミクロを見て騒めく始めた。

『あれが噂の【ドロフォノス】か?ただのガキにしか見えねえぞ?』

『馬鹿。滅多なことを言うんじゃねえよ。強化種を一人で倒したって噂だぞ』

隻眼の暗殺者(ドロフォノス)】。

神会(デナトゥス)』で神々がミクロに名付けたミクロの二つ名。

騒めく冒険者達だがミクロは特に気にはしなかった。

「……もうすっかり有名人だね、ミクロ」

「興味ない。ナァーザ、ポーションをくれ」

騒めく冒険者達を無視してミクロは要件を話す。

相変わらずだな、と思いながらポーションを取り出すナァーザ。

「こっちが高等回復薬(ハイ・ポーション)。それでこっちが精神力回復薬(マインドポーション)。魔法を覚えたのならこの精神力回復薬(マインドポーション)は必須だよ」

「じゃあそっちも」

「お買い上げありがとう……」

高等回復薬(ハイ・ポーション)精神力回復薬(マインドポーション)を購入するミクロとティヒア。

ナァーザはそれとは別に高等回復薬(ハイ・ポーション)精神力回復薬(マインドポーション)を一本ずつミクロにプレゼントした。

「【ランクアップ】のお祝いだよ……。私も近い内に中層に向かうからまた一緒にダンジョンに行こうね?」

「わかった。その時はよろしく」

ナァーザからの祝い品であるポーションを受け取るミクロ。

「また来る」

「ん、またね」

出て行くミクロとティヒアに小さく手を振るうナァーザ。

ポーションを買ったミクロとティヒアは街中を散策しながら中層に備えて準備を入念に行っていた。

リュー曰く、上層と中層は違う。

その為に入念の準備をしなければいけなかった。

「…やっぱり、私は行かない方がいいんじゃないかな?」

ティヒアは冒険者になって約三年。

Lv.1だが【ステイタス】の殆どがBクラスアビリティになっているティヒアも後衛兼サポーターとしてミクロとリューと一緒に中層に行くようになっていた。

だけど、ティヒアには自信がなかった。

リューのようにLv.も実力もなく、ミクロのような器用さも冷静さもない。

唯一まともに使えるのは弓矢ぐらいでそれ以外の武器は素人同然で魔法も大したものではない。

中層で役立てる事と言ったら犬人(シアンスロープ)の嗅覚を使った探知ぐらい。

リューやミクロの足手まといになるぐらいなら行かない方がいい。

「ティヒアなら問題ないと思う」

行かない方がいいと思っていたティヒアにミクロは答えた。

「魔法あるなし関係なしでティヒアの弓の腕は凄いと思うし、俺やリューは遠距離での対応は難しいから」

接近戦が得意とするミクロとリューは遠距離での攻撃は苦手である。

対応できないわけではないが、苦手なのには変わりがない。

だからこそ遠距離が得意とするティヒアが必要だとミクロはティヒアに告げた。

「………」

平然とティヒアが必要と告げるミクロにティヒアの顔を赤くするが尻尾は嬉しそうに何度も左右に揺れた。

ティヒアが必要だと当たり前のように告げられるその言葉がティヒアは嬉しかった。

「……惚れた方が負けってこの事なのね」

ミクロに恋愛感情を抱いているティヒアはその言葉の本質を今身をもって知ることが出来た。

「ねぇ、ミクロ。ちょっと付き合ってくれる?」

「わかった」

即答するミクロを連れて摩天楼(バベル)にある【ヘファイストス・ファミリア】のテナントへと足を運んだ。

前にミクロがアリーゼに連れてこられた場所よりもさらに上にある新米鍛冶師(スミス)の作品が並べられている階へとやってきた。

武具が並べられている中でティヒアはミクロを連れてあちこち動き回る。

「中層に行くなら今よりマシな装備にしておきたいの」

そう言うティヒアにミクロは納得した。

ミクロは今の装備だけでも第三級冒険者ではありえない装備をしている為ここで買おうとは思わなかったが、せっかく来たのだからティヒアと一緒にあちこち見てみようと思った。

様々な武具を見ている中でミクロはある武具に目が留まった。

「弓……」

ミクロが目に留まったのは一つの弓だった。

コンパクトなサイズでありながらどこか力強くも感じるその弓にはヘファイストスの名が記されていた。

「どうしたの?って、それ複合弓(コンボジットボウ)じゃない。よく見つけたわね」

複合弓(コンボジットボウ)?」

何となく目に留まったその弓の名を聞いたミクロはどういう物かティヒアに尋ねた。

複合弓(コンボジットボウ)は簡単に言うと威力と連射を両立させた弓。ただ扱いが難しいのと、様々な材料を合わせて作るから鍛冶師(スミス)でも作る人なんて滅多にいないのだけどね」

冒険者の多くは剣や槍などの接近戦の武器を選ぶ人が多い。

遠距離では魔法の使う者が多い為、冒険者の間では弓を扱う者は決して多くはない。

その中で扱いが難しく、手間のかかる複合弓(コンボジットボウ)を作るなんてよっぽどの物好きとしか言えなかった。

「ティヒアにいいと思う」

弓の扱いに長けているティヒアになら扱えると思ったミクロはそう提案する。

「そ、そう。まぁ、ミクロが言うなら……」

好意を抱いている人からの提案を受けようと値段を見たティヒア。

そこには50万ヴァリスと記されていた。

「た、高い……」

値段を見たティヒアは落胆する。

ティヒアの手持ちは先ほどの買ったポーションの分を抜いて残りは5万ヴァリスあるかないかでその十倍の値段をする複合弓(コンボジットボウ)に手は届かなかった。

「ごめん、ミクロ……これはちょっと……」

買えない。と言おうとしたティヒアにミクロは複合弓(コンボジットボウ)を持ってカウンターへ行く。

「これ下さい」

ドンとカウンターに代金を袋ごと纏めて置くミクロに店員もティヒアも目を丸くした。

「しょ、少々お待ちを……」

驚きながらも代金を確認する店員だが、袋に入っていた代金は50万ヴァリス以上入っていた為にミクロはその余った分だけの投げナイフも購入すると弓をティヒアに渡した。

「ミ、ミクロ……あの大金は……?」

50万ヴァリスをポンと出したミクロに驚きながら尋ねる。

「コツコツ溜めた」

冒険者を始めて以来、ミクロは生活費を除いて自分の分は必要な分以外は全く使っていなかった。

更には強化種のオークのドロップアイテムを売って、気が付いたら100万ヴァリスに近いほどの金が溜まっていた。

「これはティヒアが使った方がいいから俺はいらない」

50万ヴァリスもした弓を平然とティヒアに渡すミクロ。

「……ありがとう、ミクロ。お金は必ず返すから」

「いらない。また勝手に溜まるから」

自分用に全くと言っていいほど金を使わないミクロは金を返さなくていいとティヒアに伝える。

「駄目。それだと私の気が済まない」

だけど、その申し出をティヒアは拒否した。

意地でも返そうと思った。

それから矢も買ってテナントを出るミクロとティヒア。

ミクロに買ってくれた弓を大事そうに抱えながらミクロの隣を歩くティヒア。

「ねぇ、ミクロ。何か欲しい物はないの?これのお礼に何か奢るよ」

「特にない」

ない。と答えるとミクロの腹からぐうううと聞こえたティヒアはクスリと一笑した。

「何か食べようか」

「うん」

ティヒアの言葉に素直に従ったミクロ。

二人は北のメインストリートで売られているジャガ丸くんを買って軽食を取ることにした。

「美味しい?」

「美味しい」

ジャガ丸くんを手に食べ歩きをするミクロとティヒアは食べながら本拠(ホーム)へと向かう。

「ねぇ、ミクロ。私からのお願いを聞いてくれない?」

「何?」

ティヒアのお願いが何なのかを尋ねるミクロにティヒアはミクロに告げた。

「ミクロの役に立てるようにもっと頑張ってまずは【ランクアップ】を達成したら私からのお願いを一つだけ聞いてくれない?」

「俺で出来る事ならいいよ」

あっさりと承諾するミクロにティヒアは嬉しく何度も尻尾を左右に激しく揺らす。

嬉しさのあまりはしゃぎ出したい気持ちを抑えながら本拠(ホーム)へと帰宅したミクロとティヒア。

その日の夜、中層に向けての入念なミーティングを終えて【ステイタス】の更新を一人ずつ行っているとティヒアの番でアグライアの手が途中で止まった。

「ティヒア。貴女に新しいスキルが発現してるわよ」

「え?」

突然のことに驚くティヒアは更新を終えて写した用紙に記されているスキル欄を見る。

 

《スキル》

英雄支援(サーヴァ)

・対象者の全アビリティを補正。

恋慕(おも)う程効果上昇。

任意発動(アクティブトリガー)

 

「………」

新しいスキルを見てティヒアは恥ずかしさのあまり震えていた。

魔法やスキルは本人の本質や望みも影響する。

つまり、ティヒアがミクロの役に立ちたいという気持ちやミクロに恋心を抱いていることを晒していると同じ。

視線を主神であるアグライアに向けるともの凄い暖かく慈愛に満ちた目をティヒアに向けていた。

「―――――――ッッ!!」

恥ずかしさのあまり毛布に顔をうずめたティヒアは心の底から叫んだ。


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