ミクロとシャルロットの戦いでミクロはシャルロットから氷の
怒涛の攻めに反撃する余地すらも与えてはくれないシャルロットだが、ミクロが防戦に強いられるのはそれだけではない。
純粋にシャルロットが強いということもあるが、それ以上にミクロは今戦っているシャルロットに戦うどころか自身の得物も向けたくなかった。
自分を産んでくれた。
命を与えてくれた。
助けてくれた。
救ってくれた。
愛してくれている。
ミクロにとってシャルロットは母親であり、大切な人である。
そんな人を傷つけることなんて出来ない。
「………辛そうね」
連続攻撃を繰り出しながらシャルロットはそう口にする。
「俺は……母さんと戦いたくない………」
正直に自分の気持ちを打ち明けるミクロだが、シャルロットの攻撃は止まらないどころか更に加速する。
「う……!」
加速するシャルロットの攻撃にミクロの身体に傷が出来る。
「非情になりなさい。貴方のお父さん――へレスは戦いにおいては誰よりも非情よ。相手が誰であろうと敵であるのならそこに容赦の言葉はなかった」
「俺はあいつじゃない!!」
父と比べられて叫ぶミクロ。
だけど、その否定の言葉をシャルロットは否定で返した。
「いいえ、貴方はあの人の子供よ」
「あいつは母さんを見捨てた!母さんより主神を選んだ!」
腹の底のあるものを吐き出すように叫んだ。
ミクロはへレスが自分の父親だと理解はしている。
だから、今度会ったら罪を償って貰おうとギルドにフェルズに頼んで罪を軽くしてもらうように頼み、もう一度家族として過ごせるように自分の願いを述べた。
もし、困っていることがあるのなら力になるつもりでもいた。
58階層で遭遇とした時にその事をへレス本人に告げたがへレスは迷いもなくそれを拒否した。
「あいつは俺の手で倒す!もう……そうするかない!!」
父親を倒す為に強くならなければならない。
もうへレスにミクロの言葉は届かないと心の中で悟っているからだ。
なら自分の手で倒すことが【シヴァ・ファミリア】の子供として、家族として、息子としてできる最後の親孝行だからだ。
例え自分の事を愛してくれてなくても母親であるシャルロットのことを愛してくれているのならそれでいいがへレスは自分の妻よりも主神であるシヴァを選んだことはミクロは許せれなかった。
「………確かにあの人は私達より主神であるシヴァを選んだ。でもね、ミクロ……貴方にあの人の苦しみがわかる?」
沈痛な顔立ちで話すシャルロットは攻撃を止めてミクロに話す。
「私が【シヴァ・ファミリア】に入団したのはあの人を救う為。あの人は産まれた時からずっと苦しんできた。私はそんなあの人を放っておくことができなかったの」
自身の入団理由を語るその言葉は慈愛に満ちていた。
たった一人を救う為にシャルロットは【シヴァ・ファミリア】に入団した。
「あの人だけじゃない。
だからこそシャルロットは告げる。
非情になれ、と。
仲間を守る為に、
我が息子の心を守る為に。
その為にシャルロットはミクロに刃を向ける。
「
再び怒涛の連続攻撃を放つシャルロットにミクロは防戦一方。
「………ッ!」
シャルロットの考えは理解出来た。
だが、それとこれとは別問題だ。
これからの戦いの為に自身の母親を殺す事なんてミクロにはできない。
他の
「どうしてもできないのなら私がここで貴方を殺して――――あの子達も殺してあげる」
視線をリュー達に向けられて告げる。
「これから先、辛い想いをする前に母親である私の手で楽にしてあげる。死後も一人で寂しい思いをしない為にあの子達も貴方の後を追わせてあげる」
淡々と告げられるその言葉にミクロは目を見開く。
「させないッ!!」
「ッ!?」
シャルロットの
「そんなことはさせない!絶対に!!」
自分だけならともかく大切なリュー達までも殺させるわけにはいかない。
シャルロットを倒せなければ自分だけでなくリュー達までも殺されてしまう。
それなら自分は一切の情を捨てた修羅にでもなる。
「【這い上がる為の力と仲間を守る為の力。破壊した者の力を創造しよう。礎となった者の力を我が手に】!!」
風を消して詠唱を歌うミクロ。
「【アブソルシオン】!」
再びミクロは詠唱を歌い始める。
「【我が身は先陣を切り、我が槍は破壊を統べる】!」
それはかつて倒したセツラの魔法
「【ディストロル・ツィーネ】!」
ミクロの手には黒い槍が握られて閃かせる。
「ッ!?」
怒涛の連続突きに今度はシャルロットが防戦を強いられるがその表情は薄っすらとだが笑みを浮かばせていた。
ミクロは父親より母親寄りだった。
その戦い方も攻めるようも守りを重視している。
だけどミクロには父親であるへレスの才能も受け継いでいる。
攻撃的で鋭い怒涛の攻め。
防御無視の攻撃を重視した戦い方。
今まではミクロの優しさにより、攻撃よりも防御を優先していたがシャルロットがその枷を外してミクロは父親と同じ戦い方をする。
怒涛の攻撃、鋭すぎる槍捌き。
まさにへレスを連想させるかのような戦い方だった。
その戦い方を見てシャルロットは嬉しかった。
敵に情けをかけず自分が生き残れる為には情を捨てなければいけない。
「倒す!」
二振りの
愛する息子であるミクロには生きて幸せになって欲しい。
どうしても辛い時はミクロを支えてくれる仲間がいる。
もうミクロは自分が守らなくても自分の力で幸せを掴み取って行ける。
それが知れただけでもシャルロットはもうこの世に未練はない。
唯一心残りなのがへレスを救うことが出来なかったことぐらいだが、今更そんなことを言っても仕方がない。
迫りくるミクロの槍にシャルロットは目を閉じて死を受け入れる。
「………………?」
だが、いつになっても痛みが襲って来ないことにシャルロットはゆっくりと目を開けると自分の胸に触れるか触れないかのところで槍は止まっていた。
「………どうして?」
自分を殺さないのかと尋ねる前に頬に痛みが走った。
魔法である黒い槍を消したミクロがシャルロットの頬を叩いたからだ。
「母さんにもう武器はない。だから俺の勝ち」
勝利宣言を告げるミクロ。
「俺はもう誰も殺さない。例えそれが辛い道だろうと俺はその道を進む。俺を尊敬してくれる二人の為にも俺はこれ以上手を汚すわけにはいかない」
純白と純粋の心を持つ二人が手の汚れた自分の事を受け入れてくれた。
真っ直ぐな瞳で。
心強い言葉で。
受け入れて今でも自分の事を尊敬してくれる。
そんな二人を裏切ることは出来ない。
手の汚れた自分はもう戻ることは出来なくても停滞することは出来る。
少しでもあの二人が尊敬できる師として団長でいられるようにミクロはもう人を殺さない。
「………それが
「死なせることを前提にしないで欲しい。俺の
絶対の信頼の言葉をシャルロットに告げる。
その答えにシャルロットは息を吐いた。
「………強く、なったのね」
もう自分があれこれと考える必要がないぐらいにミクロは強くなったことに心から嬉しく思っているとミクロはシャルロットに手を伸ばす。
「少しでもいいから一緒に暮らそう」
「………そうね、もうフレイヤ様との契約は解約しているし残った時間を愛する息子とその仲間達と一緒に余生を過ごすのもいいわね」
微笑みを浮かべてミクロの手を取るシャルロット。
「でも、タダで済ませて貰うのは申し訳がないから団員達を鍛えてあげるわ。私、結構
「問題ない」
そんなものは慣れていると言わんばかりに当然と告げる。
母と子の戦いが無事に終えたことにリュー達は安堵して二人に歩み寄って軽く自己紹介などを行っているとシャルロットはミクロに言う。
「ところでミクロ、貴方の恋人はどの子?せっかくできる義娘を紹介して」
「いない。皆大切な家族」
そのらしい答えに肩を落とすリュー達を見てシャルロットは苦笑を浮かべる。
その辺りはおいおい知って行くとして今はもう一つ重要なことをミクロに伝える。
「ミクロ、実はね――――」
戦闘が無事に終えたミクロとシャルロットは冒険者通りの路地裏奥にある『魔女の隠れ家』に足を運んでいた。
「ひひひっ。相変わらず面妖な姿だね、シャルロット。そっちは有名な【覇者】じゃないかい」
「例の物はある?」
「ああ、しっかり管理しているさ」
立ち上がり、奥の方へ方から一本の黄金色の長槍。
「これを取りに来るときは息子だけと聞いていたけど、ひひひ、お前も来るとはねぇ」
「ええ、少し延命できたのよ。少しの間は息子と生活を共にするわ」
「そうかい、ほれ、持っていきな」
老婆の手から渡される黄金色の長槍をシャルロットはミクロに託す。
「ミクロ。これはいずれ貴方に渡そうと思っていた貴方専用の
託されたその槍を見つめるミクロにシャルロットは銘を告げる。
「『アヴニール』。貴方の幸せな未来を願うわ」
託されたその槍を持ちミクロは感謝の言葉を述べる。
「ありがとう、母さん」